ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、前国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

臨床医学論文数に見る国立大学間の格差拡大(国大協報告書草案23)

2014年11月11日 | 高等教育

一昨日は、鈴鹿医療科学大学のFD講演会で、授業評価の分析結果を先生方にお話しました。非常に興味あるデータが得られましたが、またの機会に皆さんにお話することにして、早く国大協報告書を完成しないと、年度内に完成させられなくなってしまいます。どんどん仕事が入ってきますが、何とかがんばらなくっちゃ。

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2)臨床医学分野の論文数の推移

 前項の国立大学における分野別論文数の推移において、臨床医学分野の論文数は最も早く停滞を示したものの、最近では他分野に比較して増加に転じており、特徴的な推移を示しているので、その推移を少しく検討した。

  まず、世界全体および日本全体の臨床医学および臨床医学以外の論文数の推移を比較した。図表III-31では推移が比較しやすいように日本の論文数を10倍してプロットした。図表III-32は2000年を基点とする比率で表したが、前項でも示したように、臨床医学以外の論文数が2004年頃から停滞を示しているのに対し、臨床医学論文数は2000年以降早期に停滞し、最近上昇傾向にあることがわかる。

 

 また、国立大学について、臨床医学論文数と臨床医学以外の論文数の推移を図表III-33に、2000年を基点とする推移を図表Ⅲ―34に示した。日本全体の論文数の推移と同様に、国立大学においても臨床医学以外の論文数は2004年以降減少から停滞を示しているのに対して、臨床医学は、より早期に停滞を示し、最近は上昇傾向を示している。

 このパターンは、図表III-12に示した医学部を有する国立大学と有さない国立大学における全分野論文数の推移と類似している。

 

 図表III-35は、医学部を有する42国立大学において、臨床医学以外論文数と臨床医学論文数の2000年を基点とする推移を示したものである。ただし、各群内での共著論文が重複カウントされており、最近の共著論文数増加傾向により、実際よりも増加傾向が大きく表現されている。国立大学全体の臨床医学論文は、その大部分は医学部を有する42国立大学が産生しており、実際のカーブは図表III-34の臨床医学論文数のカーブにほぼ一致するはずであり、2000年以降の数年間は停滞を示すはずであるが、III-35の臨床医学論文数のカーブでは2000年以降も増加しているように描かれている。同様に、臨床医学以外論文数も、最近数年間増加傾向があるように表現されているが、これは割り引いて考えなければならない。

 

 図III-12の、医学部を有する国立大学と有さない国立大学の全分野論文数の推移の違い、図III-34の国立大学における臨床医学論文数と臨床医学以外論文数の推移の違い、図III-35の医学部を有する国立大学と有さない国立大学の臨床医学論文数の推移の違いは類似していることから、医学部を有する国立大学と有さない国立大学の全分野論文数の推移の違いは、医学部における臨床医学論文数の影響が反映されていると推定する。

 図表Ⅲ―36は医学部を有する大学の国立大学規模別、公私立大学別に臨床医学の推移を示したグラフであり、図表III-37には2000年を基点とした推移を示した。これらの図においても、それぞれの大学群内の共著論文が重複カウントされている。

 

 まず、最も良好な増加傾向を示したのは私立大学である。次いで国立大学の上位14大学では、2000年以降やや傾斜が緩くなったとはいえ増加を続けつつ最近さらに増加傾向にある。なお、上位14大学とは2011-13年の平均臨床医学論文数上位14大学であり、図表III-10 大規模総合大学の13大学及び東京医科歯科大学である。

 公立大学においては、2004年以降減少し、最近増加傾向が認められる。国立大学の論文数15-42位の大学においては、2000年以降停滞が続き、ごく最近増加傾向が伺える。ただし、これらの図は共著論文を重複カウントしているために、増加傾向を割り引いて判断しなければならない。

 

<含意>

 国立大学における各学術分野別の論文数の推移のデータから、全体としては2004年以降停滞しているが、学術分野によって、論文数の変動に差異があることがわかった。

 地球・宇宙・数学分野、および社会科学分野については2004年以降も持続的に上昇傾向を示している。しかし、全体論文数の90%を占めるそれ以外の学術分野が概ね停滞~減少を示しているため、全分野論文数としては「停滞」という結果となっている。

 この中で、臨床医学論文数の変動パターンは、他の学術分野に先駆けて2004年よりも早い時期から停滞を示していたが、ここ数年上昇に転じており、特異なカーブを描いている。これは、前節で検討した医学部を有する国立大学の全分野論文数の変動パターンと類似するパターンである。

 そして、医学部を有する国立大学において、臨床医学論文数と臨床医学以外の論文数の変動パターンを調べたところ、医学部を有する大学と有しない大学の全分野論文数のパターンの違いに類似していた。つまり、医学部を有する国立大学で見られた全分野論文数の変動パターンは、臨床医学論文数の変動パターンの影響を受けた変動パターンであると考えられる。

 医学部を有する国公私立大学における臨床医学論文数を比較したところ、まず、私立大学については、国立大学が法人化された2004年以降も臨床医学論文数が増加し続けていることがわかった。公立大学については、2004年以降いったん減少したが、最近上昇傾向に転じている可能性がある。また、国立大学においては、上位14大学については、私立大学の上昇速度ほどではないが、2004年以降も臨床医学論文数が増加をし続けている。一方、15-42位の国立大学においては、2000年頃から臨床医学論文数が停滞し、2004年からは減少傾向を示し、国立大学の上位校との格差が拡大した。しかし、ここ数年は、増加傾向が見られ始めたようである。ただし、図表III-36、37のデータは、大学群内の共著論文数を重複カウントしているため、増加傾向を差し引いて考える必要がある。

 2004年以降、私立大学が論文数の増加を示したのに対して、国立大学および公立大学が停滞~減少を示したのは、国および地方自治体の財政難による交付金の削減が影響していると考えられる。私学助成も削減の対象となったが、国公立大学の交付金依存度に比較して、私立大学の私学助成への依存度は小さいために、国公立大学ほど研究機能に大きな影響を受けなかったのではないかと考えられる。(もちろん私学助成削減がさらに続けば、私立大学の研究機能に影響が出る可能性がある。)

 国立大学おいて上位大学とそれ以外の大学の格差が拡大したのは、大規模大学に比較して、中小規模大学では交付金削減やその他の負荷に対する対応力が小さいこと、あるいは、政府による選択と集中政策(重点化政策)の結果である可能性がある。

 臨床医学論文数の変動には臨床医学講座の研究力の変動が影響し、そして臨床医学講座の研究力には、附属病院の様々な状況の変化が影響すると考えられる。臨床医学講座の教員は、教育・研究活動に携わると同時に、附属病院における診療活動にも従事しており、例えば、病院の経営上の理由で教員の診療活動が増えれば、研究時間が減少して論文数が減少する可能性がある。他の分野の論文数とは異なる変動を示す臨床医学分野の論文数の変動を理解するためには、他の部局とは大きく異なる教育・研究・経営環境を有する附属病院の機能の変化を考慮する必要があると考えられる。

 

 

 

 

 

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