ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

インタビューの準備(その1):なぜ大学病院経営の適切なコンサルテーションは民間では限界があるのか?

2010年05月04日 | 日記
これからのブログで、5月7日のインタビューに向けての私の考えをまとめておくことにしましょう。ただし、私の考えが絶対的に正しいということではないと思うし、思い違いもあるかも知れないので、皆さんからのご意見をもとに、より良い形になるように修正したいと思っています。なお、個々に書かれていることは文部科学省の見解とは何の関係もない私個人の考えであることをお断りしておきます。

まず、最初は、財務・経営センターの大学病院経営相談業務(コンサルテーション)の観点からの議論です。

仕分け人から、大学病院は自立的な経営を目指すべきであり、経営のコンサルテーションは民間に頼めばよいという主旨の発言がありましたが、その意見に対して私は若干の反論をしました。しかし、時間もなく十分に答えられませんでした。

仕分け人に指摘されるまでもなく、大学病院の経営のコンサルテーションを民間会社に頼むことは、すでに多くの国立大学や大学病院で行われてきました。しかし、私の経験からは、個々の案件の問題解決には役だったと思うこともありましたが、高い金額の割には、概して失望を感じるものが多かったと感じています。おそらく、他の大学病院もそう思っている人が多いと思います。

その理由の一つは、大学病院の経営というのは単に採算がとれるということだけでは不十分で、教育・研究・高度医療・地域医療の貢献という、公的使命を果たして始めて、経営がうまくいったと言えることにあります。つまり、採算がとれても、教職員が疲弊し、医学論文数が減っているようでは、経営が良いとは言えないわけです。大学病院の特殊性まで考慮した適切な指導をしていただける民間のコンサル会社は果たして存在するのでしょうか?

もう一つの理由は、民間のコンサル会社は、大学病院の詳細なデータを持っていないことがあげられます。そのためにベンチマークをとることができず、一歩踏み込んだコンサルをするには限界があると思われます。また、適切なコンサルに必要な分析・研究も、詳細なデータを利用できないので、不十分になると考えます。

大学病院のデータについては、国立大学病院の財務および詳細な診療機能を中心に、教育・研究機能まで加えようとしているデータベースを私と私の仲間が中心となって約2年前に作りあげました。そして、今、ようやく大学病院経営の多面的な分析が可能となったところです。このようなデータベースは世界中を探してみても他には存在しません。

さらに、大学病院の健全で自立的な経営と、住民や国にとって大切な使命機能の達成を両立するための政策提言を行う必要があります。現場に対して健全で自立的な経営を促しつつ、同時に、国に対しても政策提言を行う機能を、民間企業が果たすことは困難ではないかと思います。

私は、財務・経営センターのような中立的な第三者機関に、民間も含めて外部から有能な人材を集めてチームを作り、大学病院の貴重なデータベースを活用した分析・研究を行うとともに、その結果を経営相談と政策提言に活かすことが有効な方法であると考えています。仕分けでは、財務・経営センターにプロのコンサル人材がいないことを指摘されましたが、しかし、民間にも大学病院の経営をほんとうの意味で指導できるプロはいないと思っています。大学病院経営を指導できるほんとうのプロ人材の育成はこれからです。

また、これは仕分けの場でも説明をさせていただきましたが、結局は職員の経営意識や知識の底上げをしないと、大学病院経営改善の根本的な解決にならないと思われ、現在、財務・経営センターが行っている、全国から若手職員を集めた勉強会は有効な手段であると考えています。

これは、全国の国立大学と病院間のネットワーク機能を活かした取り組みです。ネットワーク機能は、コンサルテーションにおける強力な武器であると考えています。民間会社ではこのようなネットワーク機能を活用したコンサルテーションは困難です。

また、財務・経営センターに外部から有能な人材を集めた経営支援チームをつくることができた暁には、各大学から出向している職員たちにも勉強になるはずです。つまり、財務・経営センターに各大学からローテーションで職員を出向させること自体が、能力開発になり、そして、彼らが大学にもどれば、それぞれの大学で経営の中核人材として活躍することが期待されます。こんな、全国の大学の職員が、財務・経営センターに僕も私も出向したいと思っていただけるようなセンターに改革することが私の夢でした。

なお、民間でもなく、第三者機関でもなく、国がこのような業務を行うことも考えられますが、民間を含めた有能な経営人材を集めてチームを作るなどの機動的な人事を行うことは困難と考えられ、ローテーション人事が適用されるのであれば、大学病院の経営を指導できるプロを育てることは非常に難しいと思われます。

まとめ

民間では
・大学病院の使命機能の達成まで含めた経営の相談・助言は困難
・大学病院の詳細なデータを持ち合わせていないので、ベンチマーキングができない。
・大学病院の詳細なデータを持ち合わせていないので、適切な経営相談や政策提言に必要な分析・研究ができない。
・大学病院の現場に即した職員の能力開発は困難
・ネットワーク機能を活用したコンサルテーションは困難
・コンサル料が高額で、財務的に困窮している大学病院では困難
・国に対する政策提言機能を持たせることは困難

なお、これは民間のコンサルテーション会社の役割を否定しているのではなく、大学病院の経営相談において、もちろん民間も役に立っていただいているのですが、それだけでは不十分であるということを主張しています。

国では
・有能な外部人材を集めてチームをつくるなどの機動的人事が行いにくく、ローテーション人事が適用されれば、大学病院の経営指導のプロを育てることは困難。

大学病院の経営の危機的な状況を打開するためには、民間ではなく、しかし国からも一歩離れた融通性のある中立的な第三者機関において、有能な外部人材を集めて大学病院の経営支援に特化したチームを作り、現場に即したデータを分析・研究しつつ、ネットワーク機能を活用した、健全かつ自立的な経営と使命機能の達成の両立を促すための相談・助言機能を持たせ、同時に国に対する政策提言機能を持たせることが最善の方法と考えます。

なお、第三者機関に相談・政策提言および分析・研究機能に加えて、融資・交付機能を持たせることによりさらに強力な経営支援組織になることは、次回以降のブログで説明したいと思います。
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