ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

興味深い国立大学論文数の変動パターン(国大協報告書草案21)

2014年09月13日 | 高等教育

 今日は、国立大学の論文分析シリーズの2回目ですね。2004年の国立大学法人化後の国立大学の論文数の変動は、実に興味深いパターンを示しています。先進国で論文数が停滞~減少することは稀有な現象であり、なかなか観察する機会がないのですが、日本はまさに、その社会実験場かもしれません。それが国立大学の法人化と時期を同じくして起こっているので、近隣諸国は日本の大学法人化が成功したのかどうか、疑問の目で見ています。

 日本の論文数を分析するだけで、ひょっとしたら、Natureなどに載せてもらえる可能性があるのではないかとも思います。ただ、先日のブログでも申し上げましたが、日本ではFTE研究従事者数およびそれにもとづく研究開発費の統計が日常的にとられておらず、十分な分析ができないことが致命的ですね。国立大学への運営費交付金約1兆円が、ある時は全額「高等教育費」として計上され、ある時は全額「研究開発費」に計上されるというようなことがなされているので、分析のしようがないのです。

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2)国立大学の類型別全分野論文数の推移 

 図III―8に、日本と学術論文数が近接している海外諸国の論文数の推移を示した。また、図III―9には、2000年を基点とする推移を示した。これらをみると、日本は2004年までは、海外諸国の学術論文数の動向に引けを取らずに増加していたが、2004年以降に論文数が停滞し、海外諸国との差が大きく開いたことが分かる。

 

 また、1999~2003年頃には、各国とも論文数が「停滞」しているが、この要因は定かではなく、各国ともに研究力が停滞していたのか、あるいは、学術文献データベースの収載雑誌の取捨選択が関係しているのか、詳細は不明である。日本の論文数においても、この頃の学術論文数がやや停滞を示しているが、これは日本特有の現象ではなく、海外諸国と連動して生じている可能性がある。

 国立大学の学術論文数を比較する場合には、それぞれの規模や、学部・研究科・附置研究所などの構成、地域性などを考慮する必要があり、いくつかの類型に分けて検討する必要がある。類型にはいくつかの考え方があるが、図III―10に国立大学類型の一つの事例を示す。

 

 この類型において、医学部を有する大規模総合大学と中規模総合大学の区別の根拠については、本研究では2011-2013年平均全分野学術論文数上位13位以上と、それ以下とで分けることとした。ただし、医系単科大学の中で、東京医科歯科大学と他の3大学とでは、その規模や学術論文数に大きな違いがあり、同一の大学群として分析することが必ずしも妥当ではないと考えられる。東京医科歯科大学は、全分野論文数が医学部を有する国立大学の中で第14位であり、論文数分析上は、大規模総合大学に含めて上位 14大学として分析することが妥当と考える。

 図III―11に、医学部を有する国立大学と有さない国立大学の全分野論文数平均値の推移を示した。重複論文を含んだデータであるために、医学部を有する国立大学の論文数が漸増を示していることについては、割り引いて判断する必要がある。医学部を有しない国立大学の論文数については、医学部を有する国立大学とは対象的に、明らかに「減少」を示している。

 

 図表III―12に2000年を基点とする論文数の推移を示した。この図においても重複論文数の影響があるために、割り引いて判断しなければならないが、医学部を有する国立大学と、有さない大学とでは、明らかに異なったパターンを示している。2000年から2004年にかけての論文数増加は、医学部を有さない大学の方が大きく、医学部を有する大学は「停滞」を示していたが、2004年以降、医学部を有さない大学の論文数は明らかに「減少」し、医学部を有する大学はここ数年論文数が回復基調にあって、二つのカーブが交差するに至っている。

 

 次に医学部を有さない国立大学について、類型別の論文数を検討したところ(図表III-13、14)、文系大学を除いては、法人化後の論文数はいったん増加傾向を示したものの、その後軒並み減少している。文系大学においても、法人化後増加したが、2008年以降は「停滞」している。

 

 一方、医学部を有する国立大学の類型別の論文数では(図表III-15、16)、「大規模総合大学+東京医科歯科大学」は、2004年以降「停滞」していたが、ここ数年上昇基調にある。中規模総合大学では、2000~2004年までの増加率が緩徐で、2004年以降は停滞し、大規模大学との差が拡大したが、ここ数年回復基調が見られる。医系単科大学(東京医科歯科大学を除く)では、2005年をボトムとして、いったん下降した論文数が、ここ数年上昇して回復し、特異なカーブを描いている。

 この3つの医系単科大学に見られた「下降⇒上昇」という変動パターンが、小規模の単科大学特有の現象なのか、総合大学でも見られるものかを調べるために、医学部を有する42国立大学について、論文数の変動パターン別に分類することを試みた。

 論文数変動パターンを「上昇型」「停滞⇒上昇型」「下降⇒上昇型」「停滞~下降型」の4つに類型化し、各国立大学を図表III―17のように分類した。各類型に、およそ4分の1程度の大学が分類された。つまり、「下降⇒上昇」のパターンは小規模医系単科大学特有のパターンではなく、総合大学でも観察されることがわかった。

 2000年を基点とする各変動パターン別の論文数の推移(図表III―18)に示したように、持続的に「上昇」を続けている大学、「停滞⇒上昇」を示す大学、「下降⇒上昇」を示す大学、「下降」基調にある大学が存在することがわかる。そして、医学部を有さない大学の各類型の変動パターンを合わせて、国立大学トータルとしては論文数が「停滞」を示しているのである。

 

 図表III―19には各変動パターンを構成する大学の平均論文数を示したが、「上昇型」および「停滞⇒上昇型」と、「下降⇒上昇型」および「下降型」を構成する大学の平均論文数には明らかに違いがある。つまり、例外はあるものの、「上昇型」「停滞⇒上昇型」には大規模大学が多く含まれ、「下降⇒上昇型」「下降型」は中小規模大学が中心であることがわかる。

 

<含意>

 日本と論文数が近接している海外諸国の論文数との比較では、2004年以降に海外諸国が急速に論文数を増やしたのに対して日本は停滞し、差が大きく開いたことがわかる。したがって、国立大学の論文数の分析においても、2004年以降に焦点を絞って行うこととする。

 国立大学の類型別の論文数の推移を検討したところ、まず、医学部を有する国立大学と、有さない国立大学とでは、変動パターンが大きく異なることがわかった。つまり、医学部を有さない国立大学では、文系大学を除いて、法人化当初はやや「上昇」傾向にあったが、2007~2008年頃から「下降」に転じている。なお、文系大学においても、当初は上昇したが、その後「停滞」している。一方医学部を有する国立大学では、当初から低い値で「停滞」し、ここ数年「上昇」傾向が見られる。

 この医学部を有するか有さないかによる論文数変動パターンの違いが、どのような要因によって生じているのかを推定することが、今後の検討の焦点の一つである。

 また、同じ医学部を有する大学であっても、その論文数変動パターンはさまざまであることがわかった。そして、「上昇型」や「停滞⇒上昇型」に大規模大学が多く含まれ、「下降⇒上昇型」や「下降型」は、中小規模大学が中心である。また、図表III―16からも、大規模大学の方が論文数の「停滞」の程度が小さいことがわかる。つまり、法人化を契機とした大学への各種の「負荷」が論文数の「停滞」や「減少」の要因であるとすれば、大規模大学は、その「負荷」に対して耐えやすいが、中小規模大学においては「負荷」が大きく影響することを示唆しているものと思われる。

 なお、医学部を有さない大学群において、教育系大学の論文数減少率が最も大きいようである(図表III-14)。今後「国立大学のミッション再定義」あるいは「国立大学改革プラン」によって教員養成系の大学あるいは学部において、いわゆる「ゼロ免課程」が縮小されるようであるが、それに伴って、論文数カーブもいっそうの下降を示すものと想定される。

 

 

 

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FTEという概念の重要性(国大協報告書草案20)

2014年09月12日 | 高等教育

 国立大学協会へ提出する報告書の完成を急がねばならないのですが、OECDのデータを中心とした学術論文数の国際比較にずいぶんと時間を費やしてしまったので、ちょっと予定が狂ってしまいました。これから、いよいよ、本論である国立大学の論文数のデータの分析に入ります。

 OECDの分析で、大学のFTE研究従事者数と大学への研究開発資金(FET考慮)によって、国家間の学術論文数の差異がほとんど決定されるということがわかりましたが、果たして日本の国立大学の場合にも適用できるかどうか、というところが焦点です。しかし、ここで、大きな問題があります。日本は、今まで政策的にFTEという概念がなく、大学のFTE研究従事者数やFTEを考慮に入れた大学への研究開発資金というものが計上されていないんです。したがって、正確な相関分析が不可能なんですね。

 これでは、日本の研究力の要因についての正確な分析は不可能であり、その結果適切な政策も打てないということになりかねません。国際比較も困難です。日本政府にはFTE研究従事者数のデータを恒常的に収集するシステムを早急に整備していただき、それにもとづいて、日本の研究力を分析・評価し、国際比較をして、政策決定や予算(交付金)の配分に生かしていただきたいと思います。

 僕の国大協へ提出する国立大学関係の論文分析では、FTEのデータが得られないので、やむをえず、間接的なデータの分析から、OECDのデータ分析でわかった2つの要因が、国立大学においても適用できるという推定の妥当性を検証することになります。果たして、うまくいくでしょうか?

 なお、今回の国大協報告書草案からローマ数字で「章」を示しています。これまでの草案で、章分けが複雑になってきたので、ここらで整理し直すことにしました。基本的には、第I章が方法論、第II章が国際比較、そして、今回の国立大学を中心とした論文数の検討を第III章ということいたします。

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第III章 国立大学の学術論文数に影響を与える要因の分析

1.日本の大学(群)論文数の分析方法

1)分析対象大学

 第III章における日本の大学の論文数の分析はトムソン・ロイター社の学術文献データベースであるInCites™に基づいて実施した。

 論文数は整数カウント法であり、国際間あるいは研究機関間共著論文を「1」としてカウントしている。また、学術文献データベースでは、論文数をカウントする学術誌の取捨選択が常に行われており、そのプロセスによっても論文数が変動する可能性がある。論文数には微細な年変動がみられるので、本分析においては、基本的に3年平均値を用いた。

 InCites™では、一定数以上の論文を産生している研究機関の論文数が検索でき、国立大学については、86国立大学のうち71大学の個別論文数のデータが検索できる(図表III―1)。

 

 また、公立大学については13大学、私立大学については80大学の論文数が検索できる。これらの大学の論文数を合計すれば、国立大学、公立大学、私立大学それぞれが産生する論文数の概略の動向が推定できると考えられるが、あくまで、国立大学、公立大学、私立大学の一部の大学の論文数データによる分析であることを念頭に置く必要がある。

2)トムソン・ロイターInCites™の論文数データを用いて研究機関の群(グループ)の論文数をカウントする場合の重複論文数の検討

 トムソン・ロイターInCites™の論文数データに基づいて大学などの研究機関を群(グループ)として分析する場合、群を構成する各大学の論文数を単純に合計して論文数を計算すると、群内研究機関間の共著論文が存在する場合、それを重複してカウントすることになる。

 InCites™には、個別の研究機関の論文数に加えて、いくつかの研究機関群の論文数を検索できる機能がセットされており、この場合、群内共著論文数は重複されずにカウントされる。あらかじめInCites™によってセットされた研究機関群の論文数と、各研究機関の論文数を合計して求めた論文数とを比較することにより、重複カウント数を推定できる。

 InCites™にセットされた研究機関群の中から以下の4つの研究機関群について、各研究機関論文数を合計する場合の重複論文数を検討した。

①JAPAN: NATL UNIVERSITIES TOTALS

②JAPAN: NATL SEVEN UNIVERSITIES TOTALS

③JAPAN: NATL UNIVERSITIES A TOTALS

④JAPAN: NATL UNIVERSITIES B TOTALS

 

①JAPAN: NATL UNIVERSITIES TOTALSは、71国立大学全体の論文数である。

② JAPAN: NATL SEVEN UNIVERSITIES TOTALSは、旧7帝国大学の論文数であり、北海道大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学である。

③JAPAN: NATL UNIVERSITIES A TOTALSは、8以上の学部等を有する18国立大学であり、上記の7大学と、筑波大学、千葉大学、新潟大学、富山大学、金沢大学、信州大学、神戸大学、岡山大学、広島大学、長崎大学、鹿児島大学の各国立大学からなる。

④JAPAN: NATL UNIVERSITIES B TOTALSは、5-7学部等を有する17国立大学であり、弘前大学、山形大学、茨城大学、埼玉大学、静岡大学、岐阜大学、三重大学、島根大学、山口大学、徳島大学、香川大学、愛媛大学、高知大学、佐賀大学、熊本大学、琉球大学、総合研究大学院大学からなる。

 図表III―2に、JAPAN TOTALS、JAPAN: NATL UNIVERSITIES TOTALS、および71国立大学の各論文数の合計の推移を示した。

 まず、JAPAN TOTALSのカーブは、日本全体の学術論文数の推移を示しているが、2000年頃から増加の程度が逓減し、2004-2005年頃から「停滞」していることがわかる。JAPAN TOTALSでは、日本の研究機関間の共著論文は重複カウントされていない。ただし、国際共著論文は「1」としてカウントされており、近年国際共著論文が増え続けている現状からは、分数カウント法(つまり、国際共著論文における寄与度を分数でカウントする方法)でカウントすれば、「停滞」ではなく「減少」している可能性がある。

 JAPAN: NATL UNIVERSITIES TOTALSは、71国立大学全体の論文数であり、71国立大学間の共著論文は重複カウントされていない。JAPAN TOTALSのカーブと同様に、2000年頃から増加率が逓減し始め、2004年頃から「停滞」している。ただし、これも、分数カウント法でカウントした場合には「減少」している可能性がある。

 また、JAPAN TOTALSの論文数に占めるJAPAN: NATL UNIVERSITIES TOTALSの論文数の割合は65%に近い値であるが、これは、必ずしも71国立大学が日本全体の論文の65%を産生し、それ以外の研究機関群が35%産生していることを意味するわけではない。その理由は、71国立大学群とそれ以外の研究機関群との間の共著論文数を、71国立大学にすべて割りあて、それ以外の研究機関群から差し引いていることになるからである(図III―3)。

 

 共著論文を、2つの研究機関群に振り分ける分数カウント法を行えば、より正確な2つの研究機関群の論文産生寄与度が推定できるが、InCites™では不可能である。

 各研究機関群の日本の論文産生における寄与度については、科学技術指標に掲載されているデータを図表III―4に再掲した。このデータによれば、国立大学の日本全体の論文数に占める寄与率は55%であり、上記65%よりも小さい値となっている。

 

 図表III―2の「各国立大学論文数合計(n=71)」においては、71国立大学間の共著論文数が重複してカウントされることになり、実際の論文数よりも多くなる。また、論文数の増加度においても、共著論文割合が増えつつある状況では、実際よりも増加度が大きくなる。図表III―2において、「各国立大学論文数合計(n=71)」のカーブは、2004年以降も「漸増」と判断されかねないが、実際は「停滞」と判断する方が妥当であるし、また、実際の研究力をより適切に反映すると考えられる分数カウント法では「減少」している可能性も否定できないのである。

 図表III―5に、InCites™においてセットされている上記4つの研究機関群の論文数と、それを構成する各研究機関の論文数の合計との差をとることによって求めた重複論文数を示した。2012年の時点において、71国立大学(n=71)、8学部以上を有する国立大学(n=18)(旧7帝大を含む)、旧7帝大間論文重複率(n=7)、5-7学部を有する国立大学間論文重複率(n=17)という研究機関群の重複論文割合は、5.2~21.6%となっており、また、2000年から2012までの12年間における重複論文増加度(差分)は、2.2~6.6%となり、増加率では43.9~70.8%となっている。

 

 本研究においては、各大学の論文数を合計して計算をした研究機関群別の論文数の比較検討を行なっているが、その場合には、重複論文数の影響がありうるということを念頭において、データを解釈していただきたい。例えば、「停滞」を示しているグラフであれば、実際は「減少」している可能性があること、増加を示していても10年間で2~5%程度の増加であれば、実際は増加していない可能性があること等である。ただし、「減少」している場合は、確実に研究力が低下していると判断される。

  また、このようなデータを提示する場合には、その都度、解釈に注意が必要である旨の注釈を付記することにする。

 

2.全分野論文数に関する検討

1)国公私立大学における全分野論文数の推移

 図表III―6に、国立大学(n=71)、公立大学(n=13)、私立大学(n=80)の全分野論文数の推移を示した。上に説明したように、これらの大学群の論文数には各大学群内の大学間共著論文が重複カウントされている。参考までに、重複論文が含まれないJAPAN: NATL UNIVERSITIES TOTALS (n=71)のデータも示した。

 重複論文の存在を念頭におきつつも、国立大学と公立大学では、2004年以降論文数が「停滞」しているが、私立大学では「増加」していることが伺える。

 2000年を基点とする国公私立大学の論文数の推移を図表III―7に示した。2004年以降、公立大学の論文数が明らかに「減少」し、国立大学は「停滞」、私立大学は「増加」を示したが、ここ数年、国立大学、公立大学とも回復~増加基調が見られる。ただし、重複論文を含まないJAPAN: NATL UNIVERSITIES TOTALS (n=71)のカーブからもわかるように、各大学論文数の合計で示したデータは低めに判断する必要があり、国立大学においても、2004年以降やや論文数が減少し、最近わずかに回復基調にあると判断するべきであろう。また、国際共著論文の増加を考慮すれば、実際の研究力が果たして回復しつつあるのかどうかは、さらに割り引いて判断する必要があると思われる。

 いずれにせよ、2004年以降、それまで増加していた論文数が、国立大学と公立大学においては「停滞」~「減少」し、私立大学では「増加」を続けていたという特徴的な推移の違いがあり、このことが、わが国における学術論文数の変化を説明するための一つの鍵となると考えられる。

<含意>

 わが国の学術論文の約55%を産生している国立大学、あるいは公立大学と合わせると60%を産生している国公立大学の研究機能の変化は、わが国全体の研究機能に大きな影響を及ぼすと考えられる。第II章で検討したように、わが国の人口当り(あるいはGDP)当りの学術論文数は停滞し、右肩上がりを続けている世界各国に追い抜かれて26位となり、学術の相対的競争力が大きく低下しつつある。

 その大きな要因が、国公立大学における学術論文数の「停滞」~「減少」であると考えられる。

 2000~2004年頃までは国公私立大学とも学術論文数は増加傾向にあったが、この年を境にして、国公立大学の学術論文数が「停滞」~「減少」に転じ、私立大学は「増加」を続けたことは、この頃に、国立大学と公立大学に生じ、私立大学には生じなかった何らかの要因が関係したと想定される。

 この頃に国立大学に生じた変化としては2004年の国立大学法人化がある。ただし、法人化制度が論文数の「停滞」~「減少」の元凶であると考え、法人化制度を元の国立の制度に戻せば、論文数が回復すると考えるのは早計であると思われる。

 第II章における国際的な学術論文数の分析では、論文数の国家間の相違に影響する大きな要因は、大学への公的研究開発資金とFTE研究従事者数の多寡であった。なおFTE研究従事者数とは、研究時間を考慮に入れてフルタイム換算した研究従事者数であり、活動時間の50%を研究時間に投じている研究従事者を1/2人とカウントする方法である。

 「法人化」には、通常「効率化」と称する予算(交付金)の削減を伴うが、必ずしも法人化制度と同一ではないと説明されている。現に、国立大学においても教職員の定員削減は法人化以前から始まっているし、現在でも国立の機関であっても予算や定員の削減は続けられているのである。

  また公立大学も、国立大学の法人化に続いて法人化された大学が多いわけであるが、特に財政状況の苦しい自治体において、公立大学への予算の大幅な削減がなされている。

 わが国における2000年~2004年を境とした国公立大学に特徴的に観察される学術論文数の「停滞」~「減少」の要因は、OECDのデータ分析で示された結果と同様に、国公立大学に対する研究開発資金の削減、および、それに伴うFTE研究従事者数の減少が主因であると推定する。ただし、わが国においては、FTE研究従事者数という概念が無いために、そのデータが乏しく、また、その結果、FTEを考慮した研究開発費も計上されていないので、正確な相関分析を行なうことが不可能である。

 したがって、本研究においては、各種の間接的なデータから、この推定が妥当かどうかの検証を試みる。

 なお、今後のわが国の高等教育機関における研究および教育機能の評価や国際比較、そして予算(交付金)の適切な配分をする上で、FTEはきわめて重要な概念であり、政府には、早急にFTEに関するデータを日常的に収集し、政策決定や予算配分に活用することをお願いしたい。

 

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高等教育のグランドデザイン私案(その5:データの補足)

2014年09月08日 | 高等教育

 前回までは、8月22日に東京で開催された第10回大学政策フォーラムでお話した「高等教育のグランドデザイン」を4回に分けてブログでご紹介しました。提言のところはブレーン・ストーミングの段階ですが、読者のみなさんからも、高等教育のグランドデザインについて、いろんなアイデアをいただけるとうれしいです。

 今日は、この講演で提示したデータの補足をし、その弱点部分を補っておきます。

 まず、GDPの1年毎の成長率は、好況と不況の循環を繰り返し、けっこう激しく変動します。そうすると、論文数の成長率と相関をしやすい年と、しにくい年が生じてもおかしくありません。論文数5年平均成長率と、GDPの1年成長率の相関を1981年~2012年のデータで調べてみました。

 1枚目のスライドが1981~1995年までのデータですが、上半分に毎年のGDP成長率の棒グラフを示してあります。下の表が、論文数の5年平均成長率と、GDPの年成長率の相関表です。この表では1985年の相関が悪いことがわかります。また、1993年もやや相関が低めですね。

 次の表はは1996年~2012年までのデータです。この表では1997~1998年、2001年、2003年、2008~2009、2011~2012年が、相関が低い年となっています。

 好況・不況の時期と論文成長率とGDP成長率の相関が低い時期とは、ある程度関係しているように感じられます。相関が低い年というのは、各国のGDP成長率にばらつきが生じる年です。不況の中でも一部の地域に起こった不況、たとえばアジア通貨危機の時には、1998年にGDPがアジア諸国だけがマイナスとなっていますが、そういう年は相関が非常に低くなります。また、不況でも、各国が一斉に同じ程度にマイナス成長になった時には、必ずしも相関は低くなりませんが、リーマン・ショックの時はさすがに相関が低くなっています。また、不況から経済が立ち直りかける時にも、各国の成長率に差が生じやすく、相関が低くなるように思われます。2004~2007年は安定成長期と考えられ、論文数成長率との相関も高くなっています。

 

  次に、OECDStatExtractsから、Scientifc publications, number(論文数)およびInternational co-authorship, % of total scientific articles(国際共著率)のデータが得られるので、この論文数についても検討しました。このOECDの論文数データは1996年以降のデータが掲載されています。

 下の図はOECD主要19カ国における人口当りOECD論文数の推移を示しています。トムソン・ロイター社とよく似た推移を示していますが、OECD論文数の方が、やや変動が大きいように感じられます。

 2012年の人口当りOECD論文数とトムソン・ロイターInCites™論文数とは、次の図のように良く相関します。ただし、OECDの方が論文数が多くカウントされています。これは、トムソン・ロイター社の方が、収載する学術誌のレベルをある程度質の高いと考えられる学術誌に絞っているからであると考えられます。つまりOECDの方がより幅広い学術論文数を反映していると考えられます。

 OECDには国際共著率のデータが掲載されているので、OECD論文数から国際共著論文数の2分の1を差し引いた論文数についても調べてみました。これは、文科省科学技術・学術政策研究所の阪彩香さんたちが分析しておられる「分数カウント法」を近似する目的です。国際共著には2国間共著だけではなく多国間共著も含まれているので、2分の1を差し引いた値は、2国間共著の補正だけしか行っていないことになり、分数カウント法よりもやや多めのカウントになると推測されます。

 以下、OECD論文数、OECD論文数-国際共著論文数/2、トムソンロイターInCites™論文数それぞれと、GDPとの相関を検討してみました。

 

 

 まずは、一人当たりGDP購買力平価実質値との相関です。上の表の(A)がOECD論文数、(B)が国際共著の2分の1を差し引いたOECD論文数、(C)がトムソン・ロイターInCites™論文数を示していますが、OECD論文数の方がGDPとの相関が良好であり、国際共著の2分の1を差し引いた論文数が最も相関が良くなりました。

 

 韓国を除いた18か国で検討すると、全体的に相関係数は低くなり、トムソン・ロイター社の論文数とGDPとの相関は有意ではなくなりました。

 次に、5年平均成長率でもって、論文数とGDPの相関を検討しました。韓国を入れた場合は、下の表のように、3種類の論文数いずれも有意の相関が認められました。

 

 しかし、韓国を除いた18か国で検討すると、論文数成長率とGDP成長率の相関は、すべて有意ではなくなり、比較的経済が安定している時期と考えられる2009年5年平均成長率、つまり、2004~2009年にかけての成長率について、GDP成長率よりも先行する年における相関の最高値は、OECD論文数における0.34という値でした。

 この、アジア諸国を除くと論文数成長率とGDP成長率の間の相関の有意性が認められなくなることは、講演のスライドの中でも紹介した先行研究でも認められていますが、論文数⇒GDPという因果関係を推定する上で、「これは新興国にだけ認められる現象であり、先進国では適用できない」という批判がなされる可能性があります。それで、次に、5年間のSLOPEの相関をとってみました。SLOPEは、最小二乗法で求めた回帰直線の傾きaのことであり、エクセルで計算できます。その5年間において、1年間に平均してどれだけGDPが増えたかという増加度を表しており、差分と同意味になります。

 成長率の場合は、差分を前年のGDPで割るので、特にしばらく前の値においては、もともとGDPの低い韓国や台湾などのアジア新興国は高い値が強調されやすいのですが、SLOPEの場合は、必ずしも高い値をとるとは限りません。ただし、台湾の一人当たりGDPはすでに日本を追い抜いており、また、韓国も日本に接近しているので、最近では、新興国の低いGDPで割ることによる成長率の大きさの強調効果はなくなっており、むしろ、アジア諸国を含めた分析の方が真実を反映している可能性があるとも思われます。

 まず、韓国を含めた19か国で5年SLOPEの相関を検討してみました。2003~2007、2004~2008、2005~2009という、比較的経済的に落ち着いている時期のGDPのSLOPEと、それよりも先行する時期の論文数のSLOPEとの間に、有意の正相関が認められました。そして、OECD論文数の方がトムソン・ロイター社InCites™論文数よりも相関が良好でした。

 

 そして、SLOPEの場合は、韓国を除いた18か国の検討においても、相関の有意性は失われませんでした。

 

 このようなデータから、論文数⇒GDPの因果関係は、新興国だけではなく、先進国においても成立しうるものであると考えられます。

 

 

 

 

 

 

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高等教育のグランドデザイン私案(その4:最終章)

2014年09月05日 | 高等教育

 今回が、大学政策フォーラムで講演をさせていただいた報告の最終章です。いよいよ、仮説とそれにもとづく私的な提言をいたします。ただし、これはブレーンストーミングの段階であり、また、国立大学協会とは、まったく関係がないことをお断りしておきます。今後、僕が国立大学協会へ提出する報告書は、あくまでデータ分析の結果だけにとどめます。それに基づく国大協としての政策提言は、当然のことながら国大協の皆さんにやっていただくことになります。

 まず、前回までは論文数、特許件数、各教育区分修了割合とGDPとの相関について説明しましたが、企業のイノベーション実現割合との各種相関についても説明をしておきます。

 下のグラフはGDP当りの論文数(2002-2004平均値)と企業における新規プロダクト・イノベーション実現割合とが正相関することを示しています。イノベーション実現割合のデータは、主に2003年を中心としたデータですが、国によって多少の違いがあります。

 

 下の表はイノベーション実現割合と各種の指標についての相関です。第一行が人口当り特許登録件数(Triadic patent families)の年を表しており、その下3行が相関係数です。特許登録件数とイノベーション実現割合とは正相関をしていますが、日本を含めた相関ではあまり強い相関ではありませんでした。しかし、この表には示していませんが、日本を除きますと、先にお示しました特許登録件数と論文数やGDPとの相関と同様にプロダクト・イノベーション実現割合との相関係数は高くなり、0.53~0,61と有意の正相関が認められました。

 

 第5行が人口当り論文数の年を表しています。先のグラフはGDP当りの論文数が新規プロダクト・イノベーション実現割合と相関するというデータですが、人口当りの論文数においても、新規プロダクト・イノベーションとは有意の正相関が認められました。プロダクト・イノベーション実現割合とも有意水準0.06のレベルでは相関が認められました。

 また、第9~12行に示した各教育区分修了割合とイノベーション実現割合との相関では、博士修了割合はプロダクト・イノベーションと相関し、また、後期中等教育修了割合はプロセス・イノベーション実現割合と相関しました。大学修了割合はイノベーション実現割合と負の相関をしました。ただし、これらの教育区分修了割合のデータについては、本来はイノベーション実現割合のデータが得られた2003年よりも、かなり以前のデータとの相関を見たいところなのですが、2003年周辺のデータであることに注意する必要があります。つまり、教育効果とイノベーション実現割合の因果関係を類推するには、やや限界のあるデータです。

 2003年以降のGDP3年平均成長率とイノベーション実現割合との相関では、新規プロダクト・イノベーション実現割合と有意の正相関が認められ、プロセス・イノベーション実現割合とも有意水準0.06程度のレベルですが、正相関が認められました。



 ここまで、講演の大部分を論文数と諸因子との相関データの説明に使い果たし、ようやく仮説に入ります。

 今までのブログで何度かパス仮説をお示ししてきましたが、今回は新たに分析した特許登録件数も加えたパス図にしました。

 メインのパスを「GDP増⇒大学への公的研究開発資金増⇒FTE研究従事者数増、博士取得割合増⇒学術論文数増⇒企業イノベーション実現割合増⇒中長期GDP成長率増⇒GDP増⇒・・・・」とする、循環型の仮説です。

 学術論文数とGDP成長率の間に、双方向のGranger因果が認められるという先行研究は、このようなGDPの循環型仮説を支持するものと思われます。

 さてさて、このような仮説にもとづいて、高等教育のグランドデザインの提言をさせていただきますが、政策提言となりますと、多くの利害関係者が関係しているので、賛成・反対いろんなご意見をいただくことになると思います。今回の提言はブレーン・ストーミングの段階であり、皆様からのご意見を伺ってさらに修正・追加していくべきものです。また、国立大学協会の見解とは全く関係のない、あくまで私的なものであることを再度お断りをしておきます。

 


 現在の高等教育政策の大きな流れとして、僕が感じていることを下にまとめてみました。


 国の財政難および18歳人口の減少から、大学(特に国立大学)は全体として機能および組織が縮小され教職員数は削減されています。また、その際に「選択と集中」政策がとられ、一部の研究大学の機能や組織を保持するとともに、地域の大学については特色ある強みのある部分に絞って他の部分を縮小するという政策がとられています。

 18歳人口が減少しているわけですから、教育機関としての大学の機能については、それに応じた縮小がなされるということについては、やむを得ない流れであると思います。しかし、現状のままで大学の組織や機能を縮小していきますと、大学の研究機能やイノベーション機能も急速に低下していきます。これは、日本全体のイノベーション力の低迷を招き、相対的な国際競争力の低下を招いて、さらなる貿易・国際収支の悪化をもたらす可能性があります。

 日本は、これから減少する若年人口で高齢者をささえなければならないわけですが、イノベーション力の低下はそれをますます困難にします。

 

 また、現在政府がとっている「選択と集中」政策についてですが、行き過ぎた「選択と集中」は、競争力を高めるどころか、多様性を欠如させて、むしろ競争力を低下させる可能性があります。

 特に、量を減らしつつ「選択と集中」することで海外諸国に勝ことは現実には不可能であると考えます。それは、イノベーションの「質×量」の相対的な力関係で、海外に物が売れ、資源が買えることになるからです。

 ここでの「量」について誤解のないように説明を加えますと、量的には少なくとも、人口当り、あるいはGDP当りの量で、他の先進国の平均並みにしなければいけない、と考えています。その上で質を高めることが必要です。他国に量的に凌駕されていると、いくら質を高めようとしても、「質×量」において、なかなか海外には勝てません。また、量を増やすことによって、高い質のものがその中から多く生み出されるということもあります。量を少なくして、なおかつ質を高めることは、現実には不可能です。

 ここで、「選択と集中」が必ずしも生産性を高めるわけではないというデータをお示しします。

 まず、代表的な公的研究開発資金である「科研費」について、大学毎の科研費配分額と、科研費当り論文数の相関を調べますと、次のグラフのように、負の相関関係が得られます。つまり、科研費配分額の少ない大学の方が、科研費当りの論文数は多い、つまり生産性が高いというデータです。

 また、次のデータは、まだ正式の報告書として公開されていませんが、文科省科学技術政策研究所の許可を得て、提供されたデータをグラフ化したものです。これは、科研費の各種目と、その科研費をもとに産生された論文数についての関係を調べたデータです。Web of Science論文数は、トムソン・ロイター社の学術論文データベースに基づく論文数を意味します。

 科研費にはいろいろな種目があるのですが、若手研究Bや基盤研究Cなどの種目は、比較的少額の研究費を広く配分する方式です。一方、基盤研究B、Aや、新学術領域研究系統などは、比較的高額の研究費を、選ばれた研究者に選択と集中的に配分する方式です。

 「WoS-KAKEN論文数」というのが通常の論文数を意味し、トップ10%論文数およびトップ1%論文数は被引用数の多さがそれぞれ上位10%、上位1%という高注目度論文数を意味しています。

 黄色で示した基盤研究Cとピンク色で示した新学術領域研究を比較していただくと、基盤研究Cでは、新学術領域研究に比べて、研究課題数が多いですが、直接研究費総額は少なくなっています。その結果産生された通常の論文数(WoS-KAKEN論文数)を見ていただくと、基盤研究Cの方が新学術領域研究に比べて多くなっています。研究課題当りの論文数では、新学術領域研究の方が多いですが、研究費総額当りの論文数では、基盤研究Cの方が多い、つまり生産性が高いことがわかります。

 この現象は、通常論文数だけではなく、高注目度論文数についてもあてはまります。つまり、投入した研究費総額あたりの高注目度論文数は、選択と集中的に配分した新学術領域研究よりも、少額で広く配分した基盤研究Cの方が多いのです。

 「バラマキ」は悪、「選択と集中」は善という単純な切り分け方で予算配分することが、いかに危険かということを、このようなデータは示しています。常に「バラマキ」と「選択と集中」の最適のバランスを追及する姿勢が必要です。

 

 では、どうすればいいのか?

 これからが、極めて私的なブレーンストーミングです。

 まず、この日本国の財政難のおり、税金を無駄にはできないわけですが、少ない若手人口で超高齢化社会を支えるために、日本のイノベーション力を高めようと思えば、まず、大学への研究開発資金を”出費”ではなく”投資”と考えるパラダイムシフトが、どうしても不可欠だと考えます。

 では、どのくらいの金額の投資が必要かということですが、日本のイノベーション基盤力の規模を、人口やGDPに見合った量にすることが必要と考えます。そのためには、主要な海外諸国のデータからは、日本の人口当りの学術論文数を約2倍に増やすことになり、そのためには、大学への研究開発費を約2倍にし、その結果FTE研究従事者数を2倍に増やすことになります。FTE研究従事者の中には、研究支援者も含んだ数値です。日本のFTE研究従事者数は約10万人なので、これを20万人に増やすという計算になります。

 極めて単純な計算をすれば、一人年500万円の人件費として5000億円が必要ということになります。今、国立大学への運営費交付金が約1兆円で、そのうちの約半分の5000億円が研究開発費に係る人件費であると仮定すると、それと同額の5000億円を大学への研究開発人件費として増やすということになります。

 狭義の研究費としては、代表的な科研費が約2500億円なので、この金額である2500億円を増やして、トータルで7500億円の投資額ということにしてはどうかと思います。

 今、大学の教員からは、教育の負担やその他の業務が増えて、なかなか研究ができないという訴えが多く寄せられています。つまり、研究現場が疲弊をしているのです。FTEの考え方は研究者数×研究時間でしたね。余分に増やす10万人については、90%の時間を研究やイノベーション活動に専念させる仕組みを作る必要があります。つまり、研究やイノベーションの能力のある人財に、他のことをさせずに研究やイノベーション活動に専念させるのです。これが最もイノベーションの生産性が高まる方法であると考えます。

 研究やイノベーションの能力のある人財が、あと10万人も確保できるかどうか、ということについては、日本の大学にはせっかく能力があるにもかかわらず、おかれた環境によって、研究やイノベーション活動に専念できない優秀な方々がたくさんおられます。

 また、日本は海外に比べて女性研究者が極めて少ないという現状があるので、女性研究者の開拓という方法が残されていますね。もちろん優秀な海外の研究者を集めることも大切です。

 研究テーマとしては、税金による研究開発資金への投資を回収するという考えに立てば、まずはGDP増や、あるいは日本人の生存に直結する研究テーマ、あるいは地域を活性化するテーマを優先するべきだと思います。そうでないと、国民の理解は得られません。GDPに結びつかない研究テーマについては、日本の財政が改善してからということになります。


 具体例としては、「イノベーション大学院」が挙げられます。これは、いくつかの大学ですでに行なわれていることです。三重大学で僕が学長の時に創設した「地域イノベーション学研究科」という独立大学院もその一つです。これらを、全国津々浦々の大学に徹底させるのです。

 いま日本の大学院の博士課程は、学生からも敬遠されつつあり、また、企業も博士修了者の採用には積極的ではありませんね。これを、根本的に変えて、企業が渇望する博士の育成をする必要があります。

 そのために、イノベーション大学院での学生に与えられる研究テーマは、原則として企業(特に地域の中小企業)との共同研究とします。そして、研究開発能力と同時に、起業に必要なマネジメント能力や国際通用性を系統的に修得させます。そのためには、文理融合型の大学院ということになります。

 地域の中小企業との共同研究を学生が行う意図は、大企業志向の学生たちが、地域の中小企業のすばらしさやおもしろさを理解するきっかけになることを期待するからです。今、日本の人口減少問題がクローズアップされ、出生率が低い東京への若者の一極集中を防ごうという動きがありますが、そのためにも、地域企業への優秀な若者の就職を増やす努力が欠かせません。

 教員は原則として学部教育は免除して、90%研究とイノベーション活動に専念します。したがって、イノベーション大学院は、学部の積み上げの大学院ではなく、学部とは独立した独立大学院、または大学院大学とします。

 大学のキャンパスには、地域企業がオフィスや研究室も構え、大学院生の研究は大学の研究施設でやってもいいし、企業の研究施設でやってもいいことにします。

 国立大学改革実行プランにおいては研究大学を20大学程度にするとされていますが、海外のデータの分析からは20大学では量的にとても戦えません。国立大学全部を研究大学あるいはイノベーション大学にするべきです。国立大学は、優秀なイノベータの育成と地域イノベーションの創出に専念し、多くの学部教育は私学に任せてもいいのではないかと考えます。

 さらに、この「イノベーション大学院」の運営は、各大学の教授会に任せるというよりも、各大学の教授会から独立した全国的な組織が運営することが望ましいのではないかと考えます。現在、国民や政策決定者の大学教授会自治への不信感が強く、予算の確保という面からは、大学の自治から一線を画した、一般市民の参画する透明性のある全国組織の方が、国民の理解が得られやすいのではないかと感じています。また、優秀な教員やイノベータの選抜・確保および流動性を高める人事システム、あるいは優秀な学生の確保等についても、中央組織による運営の方が、やりやすいのではないかと感じます。

 そして、優秀な教員や学生を集めるためには、中央組織には「ブランド」が必要であり、たとえば「東京大学イノベーション大学院」という呼称でもいいのかなと思います。もちろん、それに代わるブランド名でもかまいません。イメージとしては全国津々浦々の地方大学に「東京大学イノベーション大学院」が張り巡らされるという感じですかね。ただし、これは、東大の教授会が全国の地方大学を支配するということではなく、たまたま、名前をお借りしたということであり、東大の教授会とも独立した組織にします。


 10万人の優秀な研究従事者が地域企業のイノベーション実現のために本気になって専念すれば、そして、優秀な博士が、地域企業においても活躍するようになれば、日本の企業のイノベーション実現率は、かなり上がるのではないでしょうか?

 世界と勝負ができる地域企業が増えて地域が元気になれば、若者たちの東京への一極集中を抑えて日本の人口減少問題解決にも貢献できることになります。

 今までは、東京というブラック・ホールが地方の優秀な若者を吸寄せて、地方の衰退が進みました。そして、日本の人口減少に歯止めがかからなくなりました。今後は、東京が優秀な人財を地方に戻して地方を元気にし、日本の人口減少に歯止めをかける番です。いわば、ビッグ・バンを起こす必要があるということです。「東京大学イノベーション大学院」を全国の地方津々浦々に張り巡らせるというのは、そのビッグ・バンの象徴でもあります。

 そして、果たして7500億円の投資が、税収増で回収できるかどうか、ということですが、因果関係はあくまで仮説ですが、仮にそれが正しいと仮定すると、論文数とGDP成長率の回帰直線の傾きaが0.2なので、論文数を10年間で2倍に増やせば、つまり10年間で100%増やせば、GDPは20%増えることになります。現在のGDPを約500兆円とすれば10年間で100兆円増えて600兆円になる計算です。GDPが100兆円増えれば、7500億円の投資は、税収増で軽く回収できる計算になります。

 現実はこんなにうまくいくはずはないと思いますが、工夫をすれば、税収による回収はなんとか可能なのではないでしょうか?

 今、金融・財政政策で日本の経済が持ち直しかけていますが、第三の矢を早く確立することが急がれています。その政策の一つとして、大学の機能を縮小させるのではなく、むしろ、第三の矢の主要な担い手として、大学のイノベーション機能については、縮小どころか、いっそう増強する方向で投資を増やすことが必要なのではないでしょうか?

 今回の提案を絵空事と考えずに、日本のイノベーション力の回復のために、真剣で建設的な議論が巻き起こることを期待します。

 

 




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高等教育のグランドデザイン私案(その3、博士課程および(大学+後期中等教育)修了割合の重要性)

2014年09月04日 | 高等教育

 東京で開かれた大学政策フォーラムでの講演報告の3回目です。前回は、論文数や特許件数とGDPとの相関分析のデータをプレゼンしましたが、今回はその他の指標との相関です。今までブログでお示ししたデータですが、今まで使ってきたGDPとは異なるGDPを用いて分析をしたので、数値が異なる部分があります。

 まずは、教育に関係するOECDのデータの説明をざっとしました。グラフの部分は、前にも紹介したものの繰り返しなので、以前からのブログの読者の皆さんは飛ばしていただいてけっこうですよ。

 

 

 要するに、日本は大学や高校修了生は多いが、博士修了生が少ないというデータですね。

 次に、各教育区分修了割合と論文数との相関を検討しました。第1行は人口当り論文数の年です。第1列のDR,DPというのが人口コホート当り博士修了割合、人口当り博士修了割合を表しています。Tは高等教育修了割合、USは後期中等教育修了割合、BUSは後期中等教育に至らない割合を示しています。当然の結果と思われますが、博士修了割合と論文数は有意の正相関を示しました。しかし、他の教育区分の割合とは相関しませんでした。

 

 次に各教育区分の修了割合と特許登録件数との相関を検討しました。博士修了割合が最も低く、しかし特許登録件数が最も多いという例外的な日本を除いた場合には、論文数と同様に、特許登録件数は博士修了割合と正相関しました。また、大学+後期中等教育修了割合についても、特許登録件数と相関する傾向がありました。


 一人当たりGDPとの相関では、博士修了割合との相関は弱くなりましたが、大学+後期中等教育修了割合は相関するようです。


 GDP3年平均成長率との相関を検討したところ、大学+後期中等教育修了割合と最も強い相関を示しました。博士修了割合とは、リーマンショックまでの時期には正相関が認められました。大学修了割合については、他の教育区分修了割合とは異なる挙動をするようであり、後年のGDPやGDP成長率との相関は不明瞭です。



 

 

 

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高等教育のグランドデザイン私案(その2.論文数と特許件数は経済成長率と相関するか?)

2014年09月03日 | 高等教育

 8月22日に東京で開かれた大学政策フォーラムでの講演報告の2回目です。今回のブログでは、今までのOECDによる一人当たりGDP購買力平価名目値と異なるGDP、つまりIMFによるGDP購買力平価名目値をUS$デフレータで割って求めた実質値でもって論文数との相関を検討しました。なお、OECDに掲載されている一人当たりGDP購買力平価実質値を用いても、相関係数に強弱の違いが生じるものの、概ね同様の傾向が得られます。

 

 

 まずは、GDPの推移です。各国とも波を打ちつつ次第に上がっていっていますね。2009年頃の落ち込みはリーマンショック、1998年の韓国の特徴的な落ち込みはアジ化通貨危機によるものと考えられます。

 下のGDP成長率(年率)の推移をみると、オイルショック、日本のバブル崩壊、アジア通貨危機、ITバブル崩壊、リーマンショックなど、不況と好況を繰り返して激しく変動していることがわかります。論文数とGDPとの相関を検討する場合には、このような景気の変動にも配慮する必要があります。大きな不況等で各国のGDPが激しく上下する時期には、各国のGDPの成長にばらつきが生じ、比較的安定的に推移する論文数とGDPの相関関係は低くなるものと想像されます。論文数がGDPと相関するとしても、このような短期のGDPの変化と相関するとは考え難く、より長期のGDP成長率を検討する必要があると思われます

 

 下の表は、人口当り論文数と一人当たりGDPとの相関を検討したものです。論文数とGDPとの相関関係は、GDPの急激な変動によっても左右されますが、論文数のカウント方法によっても左右される可能性があります。論文数は概ね各国の研究機能を反映していると考えられますが、あくまで論文データベースに掲載されている論文数であということを念頭に置く必要があります。例えばこの分析ではトムソン・ロイターの学術論文のデータベースの数値を用いていますが、データベースに収載する学術雑誌の取捨選択が毎年なされており、その変動等で論文数が左右される可能性があります。また、整数カウント法か分数カウント法という違い、あるいは、通常の論文数か高注目度論文数という違いも影響する可能性があります。

 僕の利用できるトムソン・ロイターのInCites™というデータベースでは、整数カウント法の通常論文数しかデータが得られないので、論文数カウント法の違いの影響を調べるために、文科省科学技術学術政策研究所の阪彩香さんたちのデータを使わせていただきました。

 阪彩香さんたちによる「科学研究のベンチマーキング2012ー論文分析でみる世界の研究活動の変化と日本の状況ー」文科省科学技術学術政策研究所調査資料ー218、(2013年3月)に掲載されている、10年毎3期に分けた通常論文数、Top10%補正論文数、Top1%補正論文数(整数カウント法および分数カウント法)と、各年のGDPとの相関を、上記GDPのグラフに記載した20か国から、データの欠損の関係でオーストリア、韓国、台湾の3か国を除いた17か国で調べた結果が下の表です。1行目の80~11というのがGDPの西暦を表しています。

 

 

 

  この表から読み取れる傾向を下の小括にまとめました。

 次に、同じく阪彩香さんたちの報告書の論文数から、その10年平均成長率を求め、一人当たりGDPの10年平均成長率との相関を、前記20か国のうちオーストリアを除く19か国で調べました。先ほどの論文数とGDPの相関と異なり、長期成長率においては、通常論文数の方が、高注目度論文数よりも相関係数が高くなる傾向にありました。また、分数カウント法の方が整数カウント法よりも相関が高い傾向になることは、先ほどの論文数とGDPとの相関分析の結果と同様です。

 

 次に、トムソン・ロイターInCites™による整数カウント通常論文数の3年平均成長率と、一人当たりGDP3年平均成長率の相関を、1984年から2012年まで検討しました。表の第1行が、GDPの年を表しています。第1列は論文数の年です。

 1998-2000年の間は相関が認められませんでしたが、他の年代においては、統計学的に有意の相関が認められる場合が多く、また、当該年よりも先行した年の論文数成長率とGDP成長率とが良く相関する傾向が認められます。

 なお、1998~2000年において相関が認められない理由としては、アジア通貨危機によって韓国などのアジア諸国のGDPが急激なマイナス成長となった影響が考えらます。不況であっても、すべての国のGDPが一斉に同じように低下するのであれば、相関関係は保たれる可能性がありますが、局地的な不況で、一部の国のGDPだけが低下すると、相関関係は弱くなることが考えられます。

 なお、韓国および台湾を除くと有意の相関が認められなくなります。この理由としては、GDPという多くの因子に左右される指標において、新興国を除けば、成長率という全体のGDPから見れば1%レベルのわずかの変動について相関をとっているので、そもそも、有意差が得られにくい、ということがあると考えています。

 

 

 先行研究においても、論文数およびGDPの成長率の相関を分析した論文があり、上記論文ではGranger因果の関係が、双方向に観察されるとしています。つまり、GDP⇒論文数の因果関係と、論文数⇒GDPの因果関係の両方が推定されるということです。ただし、この論文でもアジアの新興国を除くと、因果関係ははっきりしなくなるとしています。

 

 次に論文数と特許登録件数(Triadic patent families)の相関関係を、台湾を除く19か国で検討してみました。

 上の表は欧州、日本、米国の特許登録件数を反映するTriadic Patent Familiesの登録件数の推移を示したものですが、日本2000年頃まで順調に増加し、現在でもトップを維持しています。しかし、他の多くの諸国では2000年前後に、軒並み急激な減少を示しており、日本とは異なる挙動をとっています。これがどのような理由によるものなのかについては、今後調べる必要があると思います。

 下の表は、人口当り特許登録件数と人口当り論文数の相関分析の結果です。第1行が特許の権利が発生した年を示しています。第1列は論文数の年を示しています。2000年以前では、論文数と特許登録件数は相関していますが、それ以後は有意の相関が認められなくなります。


 

 日本は、有数の特許登録件数の多い国であり、しかし、また一方では人口当り論文数が最も少ない国の一つであるので、論文数と特許件数の関係性においては、日本は外れ値的な位置づけになります。日本を除いた18か国で相関を検討したところ、特許件数と論文数は各年代において有意に相関しました。

 

 

 下の表は、人口当り特許登録件数の3年平均成長率と一人当たりGDP3年平均成長率の相関を台湾を除く19か国で検討したものです。論数成長率とGDP成長率との相関よりもやや弱くなる傾向も感じられますが、1998-2000年を除いては、先行する年の特許登録件数成長率とGDP成長率が有意の相関が認められました。なお、韓国を除くと、論文数成長率とGDP成長率の相関の場合と同様に、相関関係は不明瞭となります。

 

 

  

 

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高等教育のグランドデザイン私案(その1:いったいどのGDPを選べばいいの?)

2014年09月02日 | 高等教育

 8月22日東京丸の内の「さんさんらぼ」というところで、大学マネジメント研究会と政策分析ネットワーク(伊藤元重先生たちが中心)の共催で、第10回大学政策フォーラムが開催され、そこで、講演をさせていただきました。僕に与えられた演題は

「高等教育のグランドデザインの構築~これからの高等教育の在り方を提言する~」

基調講演2 ~研究を巡るグローバル競争の視点から~

というものでした。 国大協報告はいったん中断して、今日から数回に分けで、その講演の報告をさせていただこうと思います。今までは、データの分析ばかりしていたのですが、この講演では、そのデータにもとづいて、かなり、思い切った高等教育のグランドデザインの私案を描いてみました。政策となると必ず利害関係者が生じるので、物議をかもすかもしれないのですが、あくまでブレーンストーミングというご理解でお願いをいたします。

 前回のブログから、ずいぶんと空いてしまいましたが、実は、今までのデータを経済学の先生に相談をしたところ、まずは、GDPは名目値ではなく実質値で分析するべきとのアドバイスを受け、今までの分析をすべてやり直していたのです。それに、arisawaさんからは、GDPについてはかなり以前からのデータの分析が必要とのコメントをいただいていましたしね。

 また、前回のブログへのコメントで、arisawaさんからは、たいへん的確な2つのご指摘をいただき感謝いたします。 

 一つは、経済学の先生のご指摘と同じく、名目値ではなく実質値で分析するべきというコメントですね。僕は経済学はしろうとなので、論文数分析の拠り所にしていた科学技術指標において、共通通貨による研究費の国際比較がOECD購買力平価名目値でなされていたので、そういうものかなと思って、わざわざ名目値を使っていました。また、購買力平価名目値は、各国の物価指数の違いが購買力平価で調整されてUS$の価格で示されていると考えられたので、もし、その値をUS$のデフレータで割って実質値が求まるものであれば、経済成長率の相関関係については、名目値を使おうが実質値を使おうが、同様の結果が出るのではないかと思っていたからです。

 もう一つのarisawaさんからのご指摘は、前回のブログでご紹介したOECDのデータで、「Youth neither employed nor in education or training, 15-19 year-olds (%):15-19歳年齢層において、就職もしておらず、教育や訓練を受けていない若者(未就職無教育訓練者)」のデータについてです。OECDの表には各国の20-24歳のデータも挙げられているのですが、日本だけ15-19歳とまったく同じ数値が載っているというものです。

 実はこのことについては、ブログを書いたあとで、僕自身も気が付いたのですが、ブログ上で訂正をする前にarisawaさんからもご指摘をいただきました。そこまでお調べになって、OECDデータの不備にお気づきになるとは、arisawaさんはすごいお方だと思います。

 今後、時間を見つけて、前回のブログのこの部分は訂正をさせていただこうと思います。arisawaさんのご指摘のように、国際的なデータを分析する時には、細心の注意する必要がありますね。特に日本のデータは、高等教育と後期中等教育の合計が100%であるというデータや、研究費や研究者数のデータにしろ、どうも信用できない部分が多いような気がしています。それが、日本政府に責任があるのか、OECD側にあるのか、よくわかりませんけどね。

 そんなことで、過去のブログの論文数とGDPに関する相関分析の結果について、一部異なった結果が出る可能性があり、今後修正をさせていただく可能性があることをお断りしておきます。ただし、基本的な論旨は変わりません。

 草案段階でブログ上で公開をさせていただくと、このようなご指摘をいただけることは、あらためてありがたいことだと思います。正式の報告書に書いてしまうと、もう修正ができませんからね。

 

 なお、GDPについてOECDStatExracts、IMFのWorld Economic Outlook(WEO)、World Bank(世界銀行) Open Data の3つの公開データを調べていくうちに、僕のしろうと経済学の知識では説明ができない点が出てきたので、下に書いておきます。どなたかアドバイスをいただけると幸いです。

 まず、OECDStatExractsと世界銀行には、一人当りGDP購買力平価名目値と、一人当たりGDP購買力平価実質値が両方ともUS$表示で載っています。IMFのWEOには、一人当たりGDP購買力平価名目値は載っていますが、実質値は載っていません。購買力平価ではない一人当たりGDPについては、OECDと世界銀行には名目値、実質値両方がUS$表示で載っていますが、IMFには名目値はUS$表示で載っていますが、実質値は各国通貨で載っています。

 OECD主要19か国においてIMFの一人当たりGDP名目値(購買力平価ではない)をデフレータで実質値に直すと、arisawaさんのご指摘の通り、2005年~2011年にかけての6年平均成長率については、日本の順位は11位から3位に跳ね上がって上昇しました。これは、OECDのデータを使っても、また、世界銀行のデータを使っても同様の傾向が認められ、日本の順位はすべて3位に上昇しました。

 ただ、OECDと世界銀行では、もともと一人当たりGDP実質値が掲載されているので、念のためにそれを用いて2005年~2011年のGDP成長率を計算してみたのです。すると、日本の順位は13位となり、順位が上がる現象は見られませんでした。そこで、2005年~2011のGDP成長率について、名目値をデフレータによって求めた実質値で計算した場合と、もともと掲載されている実質値で成長率を計算した場合の相関を調べてみました。

 

 ご覧のように、両者の相関は良くありません。世界銀行のGDPを用いても同様の結果でした。

 教科書には、「GDP実質値=GDP名目値/デフレータ×100」と書かれており、このような実質値の求め方は間違っていないと思われるのですが、両者でこれだけ成長率に差が出ると、論文数とGDPの相関分析をする時に、ずいぶんと結果が変わってくる可能性があります。いったい、どちらの実質値を選択すればいいのでしょうか?


 次に、物価の変動および為替の変動の両方の影響を少なくしようと思えば、購買力平価によるGDPを分析に用いるのがより適切であると考えられます。それで僕の分析でも購買力平価を用いてきました。ただし、購買力平価にも名目値と実質値があります。

 GDP購買力平価名目値(US$)の実質値への直し方は、各国通貨とUS$の間の物価変動と為替による差については、すでに購買力平価ということで調整がなされているので、US$のデフレータだけを用いて割ればよいと考えられます。

 OECDと世界銀行の一人当たりGDP購買力平価名目値をデフレータで割って求めた実質値と、もともと掲載されている実質値とで、2005~2011年にかけての6年平均成長率を求めて相関を検討すると、先にお話をした購買力平価ではないGDPの場合と同様に、あまり良い相関ではありませんでした。デフレータ処理をしない名目値との相関も同様に良くありません。

 ところが不思議なことに気が付きました。IMFの一人当たりGDP購買力平価名目値と、OECDおよび世界銀行の一人当たりGDP購買力平価実質値とで、2005~2011にかけての6年平均成長率を計算し、両者の相関をとってみると、良好な相関が得られたのです。また、IMF名目値をUS$デフレータで割って求めた実質値による値とも良く相関をします。(US$のデフレータだけで名目値から実質値へ換算した場合、名目値と実質値のGDP成長率の相関係数はr=1となり、相関分析上は等価となります。)

 IMFは一人当たりGDP購買力平価実質値を掲載していないので、それと比べるわけにはいきませんが、IMFの一人当たりGDP購買力平価名目値は、OECDおよび世界銀行の一人当たりGDP購買力平価実質値と、多少の誤差はあるにしても、GDP成長率の相関分析上はほぼ同等に扱えるデータであると考えられます。

 今後の論文数との相関分析においては、OECDに掲載されている一人当たりGDP購買力平価実質値、および、台湾を分析に含める場合には、IMF一人当たり購買力平価名目値をデフレータで換算した実質値を用いることにします。(OECDおよび世界銀行には残念ながら台湾のGDPは掲載されていないのです。)

 このようなことで、論文数とGDPとの相関分析をすべてやり直し、やっとのことで8月22日の講演間に合わせました。そんなことで、ブログの更新も延び延びになってしまいました。

 前置きがずいぶんと長くなりましたが、これから高等教育のグランドデザイン」の講演のご報告を始めさせていただくことにします。僕の悪い癖なのですが、20分の講演時間でしたが、60枚もスライドを作ってしまいました。お許しを得て10分間講演を延長させていただきました。


 

 

 

 

 

 

 

 

 まずは、日本の学術研究国際競争力を示す今までの僕のブログでご紹介したデータのオンパレードです。講演時間が短いので最初の部分は、ざっと流していく感じです。

 

 相対インパクトは各分野論文の被引用数の平均値で、世界平均が1となっています。米国はずっと1位だったのですが、最近は徐々に低下し、オランダ、ドイツ、イギリスに追い抜かれました。他のヨーロッパ諸国も急速に被引用数を伸ばしていますね。日本は最近、世界平均の1を超えたところですが、アジアの新興国に猛追されていますね。

 

 

 

 

 多少時間をとってしまうのですが、はやり、整数カウント法と分数カウント法の違い、そして、高注目度論文について説明しておかないといけないと思い、少しばかり時間をとりました。。この後のデータで、その分析が出てくるからです。

 この小括の「右肩上がりの国際競争力が低下している」という部分は意味が通じませんね。「右肩上がりの海外諸国に比べて、国際競争力が低下している。」とすべきところを、間違ったままにしてしまいました。なにせ、ほとんど徹夜状態の状況で、講演当日のぎりぎりの時間までスライド作りをしていたので。

 

 

 

 ここで、やはり時間はとってしまうのですが、FTE研究者数について説明。たいへん重要な概念ですからね。このような基本的なことを説明していくと、どんどんと講演時間が経過していきます。

 

 

 

 研究者の定義は国によりまちまち。特に日本の定義には「医局員」という非公式のポスト(?)を研究者に入れるなど、違和感を感じざるをえません。

 研究者の国際比較は困難であるものの、下のグラフのように大学研究従事者数(FTE)と論文数は統計学的に有意に正の相関をします。

 

 FTE教員数の増加率はと論文数増加率とは1対1で非常に強い相関を示します。これも、今までのブログでお示ししたデータですね。

 

 研究費の国際比較も困難なのですが、日本のGDP当りの公的研究開発資金は主要国で最低であり、かつ、この10年間増加していません。そして、下のグラフにお示しするように、大学への研究開発資金と論文数は正の相関をします。

 

 また、大学への公的開発資金の増加率についても、論文数、および大学研究従事者数の増加率と1対1で正の相関をします。

 

 

 

 日本においては、大学が80%の論文を産生していますが、研究開発費は、公的研究機関が半分を占めています。下の図に示すように、政府機関への研究開発費と大学への研究開発費の比率が大きい国ほど、GDP当り論文数は少なくなる傾向にあります。

 

第10回大学政策フォーラム

 今日は、このくらいで置いておいておきます。それほど間をおかずに、次のブログを書いていきます。次は、今までと異なるGDPのデータでもって、論文数などとの相関を検討し直したデータの説明ですね。

 

 

 

 

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