ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

興味深い国立大学論文数の変動パターン(国大協報告書草案21)

2014年09月13日 | 高等教育

 今日は、国立大学の論文分析シリーズの2回目ですね。2004年の国立大学法人化後の国立大学の論文数の変動は、実に興味深いパターンを示しています。先進国で論文数が停滞~減少することは稀有な現象であり、なかなか観察する機会がないのですが、日本はまさに、その社会実験場かもしれません。それが国立大学の法人化と時期を同じくして起こっているので、近隣諸国は日本の大学法人化が成功したのかどうか、疑問の目で見ています。

 日本の論文数を分析するだけで、ひょっとしたら、Natureなどに載せてもらえる可能性があるのではないかとも思います。ただ、先日のブログでも申し上げましたが、日本ではFTE研究従事者数およびそれにもとづく研究開発費の統計が日常的にとられておらず、十分な分析ができないことが致命的ですね。国立大学への運営費交付金約1兆円が、ある時は全額「高等教育費」として計上され、ある時は全額「研究開発費」に計上されるというようなことがなされているので、分析のしようがないのです。

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2)国立大学の類型別全分野論文数の推移 

 図III―8に、日本と学術論文数が近接している海外諸国の論文数の推移を示した。また、図III―9には、2000年を基点とする推移を示した。これらをみると、日本は2004年までは、海外諸国の学術論文数の動向に引けを取らずに増加していたが、2004年以降に論文数が停滞し、海外諸国との差が大きく開いたことが分かる。

 

 また、1999~2003年頃には、各国とも論文数が「停滞」しているが、この要因は定かではなく、各国ともに研究力が停滞していたのか、あるいは、学術文献データベースの収載雑誌の取捨選択が関係しているのか、詳細は不明である。日本の論文数においても、この頃の学術論文数がやや停滞を示しているが、これは日本特有の現象ではなく、海外諸国と連動して生じている可能性がある。

 国立大学の学術論文数を比較する場合には、それぞれの規模や、学部・研究科・附置研究所などの構成、地域性などを考慮する必要があり、いくつかの類型に分けて検討する必要がある。類型にはいくつかの考え方があるが、図III―10に国立大学類型の一つの事例を示す。

 

 この類型において、医学部を有する大規模総合大学と中規模総合大学の区別の根拠については、本研究では2011-2013年平均全分野学術論文数上位13位以上と、それ以下とで分けることとした。ただし、医系単科大学の中で、東京医科歯科大学と他の3大学とでは、その規模や学術論文数に大きな違いがあり、同一の大学群として分析することが必ずしも妥当ではないと考えられる。東京医科歯科大学は、全分野論文数が医学部を有する国立大学の中で第14位であり、論文数分析上は、大規模総合大学に含めて上位 14大学として分析することが妥当と考える。

 図III―11に、医学部を有する国立大学と有さない国立大学の全分野論文数平均値の推移を示した。重複論文を含んだデータであるために、医学部を有する国立大学の論文数が漸増を示していることについては、割り引いて判断する必要がある。医学部を有しない国立大学の論文数については、医学部を有する国立大学とは対象的に、明らかに「減少」を示している。

 

 図表III―12に2000年を基点とする論文数の推移を示した。この図においても重複論文数の影響があるために、割り引いて判断しなければならないが、医学部を有する国立大学と、有さない大学とでは、明らかに異なったパターンを示している。2000年から2004年にかけての論文数増加は、医学部を有さない大学の方が大きく、医学部を有する大学は「停滞」を示していたが、2004年以降、医学部を有さない大学の論文数は明らかに「減少」し、医学部を有する大学はここ数年論文数が回復基調にあって、二つのカーブが交差するに至っている。

 

 次に医学部を有さない国立大学について、類型別の論文数を検討したところ(図表III-13、14)、文系大学を除いては、法人化後の論文数はいったん増加傾向を示したものの、その後軒並み減少している。文系大学においても、法人化後増加したが、2008年以降は「停滞」している。

 

 一方、医学部を有する国立大学の類型別の論文数では(図表III-15、16)、「大規模総合大学+東京医科歯科大学」は、2004年以降「停滞」していたが、ここ数年上昇基調にある。中規模総合大学では、2000~2004年までの増加率が緩徐で、2004年以降は停滞し、大規模大学との差が拡大したが、ここ数年回復基調が見られる。医系単科大学(東京医科歯科大学を除く)では、2005年をボトムとして、いったん下降した論文数が、ここ数年上昇して回復し、特異なカーブを描いている。

 この3つの医系単科大学に見られた「下降⇒上昇」という変動パターンが、小規模の単科大学特有の現象なのか、総合大学でも見られるものかを調べるために、医学部を有する42国立大学について、論文数の変動パターン別に分類することを試みた。

 論文数変動パターンを「上昇型」「停滞⇒上昇型」「下降⇒上昇型」「停滞~下降型」の4つに類型化し、各国立大学を図表III―17のように分類した。各類型に、およそ4分の1程度の大学が分類された。つまり、「下降⇒上昇」のパターンは小規模医系単科大学特有のパターンではなく、総合大学でも観察されることがわかった。

 2000年を基点とする各変動パターン別の論文数の推移(図表III―18)に示したように、持続的に「上昇」を続けている大学、「停滞⇒上昇」を示す大学、「下降⇒上昇」を示す大学、「下降」基調にある大学が存在することがわかる。そして、医学部を有さない大学の各類型の変動パターンを合わせて、国立大学トータルとしては論文数が「停滞」を示しているのである。

 

 図表III―19には各変動パターンを構成する大学の平均論文数を示したが、「上昇型」および「停滞⇒上昇型」と、「下降⇒上昇型」および「下降型」を構成する大学の平均論文数には明らかに違いがある。つまり、例外はあるものの、「上昇型」「停滞⇒上昇型」には大規模大学が多く含まれ、「下降⇒上昇型」「下降型」は中小規模大学が中心であることがわかる。

 

<含意>

 日本と論文数が近接している海外諸国の論文数との比較では、2004年以降に海外諸国が急速に論文数を増やしたのに対して日本は停滞し、差が大きく開いたことがわかる。したがって、国立大学の論文数の分析においても、2004年以降に焦点を絞って行うこととする。

 国立大学の類型別の論文数の推移を検討したところ、まず、医学部を有する国立大学と、有さない国立大学とでは、変動パターンが大きく異なることがわかった。つまり、医学部を有さない国立大学では、文系大学を除いて、法人化当初はやや「上昇」傾向にあったが、2007~2008年頃から「下降」に転じている。なお、文系大学においても、当初は上昇したが、その後「停滞」している。一方医学部を有する国立大学では、当初から低い値で「停滞」し、ここ数年「上昇」傾向が見られる。

 この医学部を有するか有さないかによる論文数変動パターンの違いが、どのような要因によって生じているのかを推定することが、今後の検討の焦点の一つである。

 また、同じ医学部を有する大学であっても、その論文数変動パターンはさまざまであることがわかった。そして、「上昇型」や「停滞⇒上昇型」に大規模大学が多く含まれ、「下降⇒上昇型」や「下降型」は、中小規模大学が中心である。また、図表III―16からも、大規模大学の方が論文数の「停滞」の程度が小さいことがわかる。つまり、法人化を契機とした大学への各種の「負荷」が論文数の「停滞」や「減少」の要因であるとすれば、大規模大学は、その「負荷」に対して耐えやすいが、中小規模大学においては「負荷」が大きく影響することを示唆しているものと思われる。

 なお、医学部を有さない大学群において、教育系大学の論文数減少率が最も大きいようである(図表III-14)。今後「国立大学のミッション再定義」あるいは「国立大学改革プラン」によって教員養成系の大学あるいは学部において、いわゆる「ゼロ免課程」が縮小されるようであるが、それに伴って、論文数カーブもいっそうの下降を示すものと想定される。

 

 

 

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