「加速する大学の2極化と地方大学」というテーマで、1回目は平成25年度予算案から、2回目は評価の視点からお話をしました。今回は、国が行ってきた「基盤的経費削減+重点化」政策が、現時点でどれくらいの効果があったのかを、論文数のデータで確認をしてみたいと思います。
論文数については、今までの僕のブログで何回も書いていますね。以前のブログでお示ししたのと、同じようなグラフが出てきますが、ご了承ください。
いつものように、トムソン・ロイター社から出ている“InCites”というデータベースを使って分析しました。このInCitesは、誰でも比較的簡単に論文数の分析ができるようにセット化されたデータベースです。
まずは、我が国の大学群別の論文数の推移です。国立大学をトップクラスとその他に分け、今回私立大学もトップクラスとその他に分けて分析しました。ただし、このInCitesというデータベースには、86ある国立大学のうち、68の大学しか収載されていません。
実はこのデータベースは、論文数が少ない大学は最初から除いてあるんです。もっとも、この種の論文データベースは理系の論文が主体であり、文系の日本語の論文の多くは収載されないので、あくまで、トムソン・ロイター社の論文データベースの収載の対象となる論文が少ないという意味でしかありません。
また、一言で論文数と言ってもさまざまな研究分野があり、研究分野が違うと論文数の傾向も違ってきます。しかし、今回は分野の違いによる分析は行わず、全分野の論文数で分析しました。
国立大のトップクラスとその他に分ける際には、今までの僕の分析では旧7帝大と、それに続く8大学、そしてその他の国立大と、3つに分ける場合が多かったのですが、今回は2極化という話なので、2つに分けることにしました。今までの分析では旧7帝大と次に続く8大学とは、ほぼ似通った挙動を示しているので、今回はそれを足し合わせて、トップ15大学と、それ以外の国立大に分けました。
また、トップ15大学の選び方は、1999~2001年の3年間の論文数の平均値でもって、上位から15大学とりました。毎年の論文数はけっこう変動するので、以下の分析はすべて3年移動平均値で分析しました。ちなみに15大学とは、東大、京大、阪大、東北大、九大、名大、北大、東工大、筑波大、千葉大、広大、岡大、神大、金沢大、医科歯科大です。
私立大は、約600近くある中で、InCitesには80大学しか収載されていません。ですから、そもそも、私立大の中でも上位校だけが収載されているわけです。その中で、さらに上位校とその他を分けるために、国立大と同じく1999~2001年の3年間の論文数の平均値でもって上位7大学を選びました。最初は、国立大と同じように15大学を選んだのですが、二つのグループの差がほとんどでなかったので、その約半分の7大学に絞りました。ちなみに私立大のトップ7は、慶大、理科大、日大、早大、東海大、北里大、近畿大です。
公立大は82大学中13大学しかこのデータベースに収載されていませんので、それがそのままトップクラスということになります。
また、InCitesの大学別論文数は整数カウント法です。つまり、他の国や他大学との共著論文は、それぞれの大学で「1」とカウントします。(これに対して分数カウント法では、2大学の共著論文はそれぞれ「1/2」とカウントします。)また、今回の大学群の論文数の総和は、それぞれの大学の整数カウント法で計算された論文数を足し合わせました。つまり、その大学群の中で共著論文があれば、それを重複カウントしています。したがって、実際の論文数よりも多くカウントしていることになります。ただし、おおよその傾向をつかむことは十分可能と考えています。
このようにして分析した大学群別の論文数の推移を示したのが下の図です。
やはり、国立のトップ15大学というのはさすがですね。他の国立大53を合わせた論文数の倍くらい論文を書いています。そして、両者を合わせた国立大全体が産生する論文数は、全大学の中で圧倒的に多い数になります。
一方、国立大の中でトップグループでない53大学の論文数のカーブ、そして、公立大の論文数のカーブは、2000年ころから停滞しているように見えますね。この点をもう少し大映しにして見てみましょう。
次のグラフは、1999-2001年の値を基準にして、つまり「1」として、論文数の変化を表したものです。
2000年ころまでは各大学群とも右肩上がりですね。特に国立大トップ15のカーブよりも、他の群の方が急峻に上昇しています。各大学とも、トップ大学に追いつこうと、それなりに努力をしてきたことが感じられるカーブです。
ところが2000年を過ぎると、その他の国立大53および公立大13が、停滞から下降傾向を示しています。一方、国立大のトップ15および私立大は右肩上がりを続けているようです。
2000年ころからの変化をもう少し詳しく見てみましょう。
国立大トップ15も、2004年の法人化後数年間は上昇のカーブが緩くなりました。しかし、ここ数年再び順調に上昇を始めています。一方、その他の国立大は法人化後停滞し、最近では少し下降傾向も見られます。赤の矢印は、ここ数年の傾向を延長して、僕がかってに書いたものですが、もしこの傾向が続けば、国立大の上位15とその他の差は、急速に拡大していくことが考えられます。
もちろん、その他の53大学の中にも、頑張って論文数を増やしている大学もいくつかあるのです。でも、全体としてみると、研究面での国立大学間の差はどんどん開いていくように感じられます。
言い換えれば、法人化前後から国が進めてきた「基盤的経費削減+重点化」政策(選択と集中政策)は、実に“効果”があったということになります。そして「大学改革実行プラン」および平成25年度予算に見るように、今後さらにこの政策が明確に推し進められるので、国立大の2極化はいっそう加速することが予想されます。
一方、私立大のトップ7とその他73大学との差は、国立大ほど大きくなく、両方とも上昇傾向にあります。国立大のような交付金の削減の影響はあまりありませんからね。そして、国公私大が共通に応募できる競争的資金が増えたことなどから、私立大学間においても、トップ大学とその他の大学とで、差が開き始めているということでしょう。ただ、最近数年間、論文数の停滞傾向がみられるのが少し気になるところです。
公立大は。国立大のその他53大学と同様に停滞から下降傾向を示しています。自治体によっても大きく異なりますが、多くの自治体の財政難が影響していると考えられます。
さて、次は相対インパクト(Impact Relative to World)を見てみましょう。
これは、その大学が産生した論文の被引用数平均値が、全世界の論文の被引用数の平均値に比べて、どれくらいかを示した指標です。この値が「1」だと、被引用数、つまり「注目度」が世界平均ということを意味します。
下の図は、わが国の各大学群別に、相対インパクトの推移を示したものですが、長らく低迷をつづけてきたわが国の大学にも、最近上昇傾向が見られます。特に国立大トップ15については、ずっと「1」前後、つまり世界平均程度で停滞してきたものが、ここ数年急速に上昇していますね。
一方その他の国立大では、値自体が0.8前後という世界平均に及ばない値であり、徐々に上昇基調にありますが、緩やかな上昇にとどまっており、いまだに世界平均の「1」に達していません。
ここ10年の推移を拡大して示したのが次の図ですが、国立大トップ15とその他の国立大の論文の相対インパクト(注目度)の差は、先ほどお示しした論文数の差の拡大と同様に、どんどん拡大しているように思えます。
つまり、論文の数だけではなく「注目度」(ある種の「質」)においても、国立大の2極化の加速が見て取れると思います。注目度の高い論文を産生するためには、それだけ人手も研究時間もお金も必要なことがわかっています。国の「基盤的経費削減+重点化」政策の“効果”と考えていいでしょう。
私立大においても、トップ7とその他の大学との差が、ここ数年で急速に広がっていますね。大学の2極化は、国立大ばかりでなく、私立大においても広がりつつあり、今後、加速する可能性が高いと思います。
今回分析した私立大は80大学にすぎず、トップの私立大と中堅の大学との比較ということになります。それ以外の多くの私立大学、特に地方大学では経営に苦しんでいる大学が多く、すでに研究どころではなくなっていると思います。
公立大13の相対インパクトは、一時期、国立大のトップ15に近づいていますね。はやり、公立大の中でもトップクラスの13大学なので、注目度の高い論文を産生してきたということでしょう。しかし、ここ数年、論文数の低迷と同様に、相対インパクトも低迷しつつあるようです。
以上、今日のブログでは、論文の数および注目度の分析から、わが国の大学の2極化を再度確認してみました。
国立大においては、ここ10年来の「基盤的経費削減+重点化」政策により、研究面での大学の2極化(あるいは格差拡大)は“順調”に、あるいは“効果的”に進んでおり、最近数年間の論文数や注目度の傾向と直近の政策を加味すると、今後2極化がいっそう加速すると予想されます。
また、私立大においても、国立大のような「基盤的経費削減+重点化」政策の直接的影響はまだ小さいものの、18歳人口の減少や過当競争等により、研究の余力の乏しい私立大と、一部のトップレベルの私立大へ、2極化が進むものと予想されます。「大学改革実行プラン」により、万が一私学助成においても、その削減とともに「メリハリ」や「重点化」政策がとられるならば、私立大の2極化は、いっそう加速することになります。
果たしてこのような状況で、地域再生のために、そして日本国の国際競争力向上のために、地方大学というせっかくの貴重な資産の力を最大限生かすことのできる方策は見つかるのか?
また、いったい、終わりなき「基盤的経費削減+重点化」政策の行きつく先はどこにあるのか?
下村文部科学大臣は、大学政策について「質×量」が必要であるとおっしゃっています。僕も、やはり「質×量」で国際競争に勝たないと、日本人は食べてはいけないと思います。「質×量」での相対的な国際的ポジションを確保するための適切な数値目標を掲げて、そのために必要な重点化、つまり「質」とともに、どの程度の「量」を確保するべきなのかを明確にした政策が必要なのではないかと思っています。
(このブログは豊田の個人的な感想を述べたものであり、豊田が所属する機関の見解ではない。)