すでに報道されている通り、平成23年度予算案は12月24日に閣議決定されました。(http://www.mof.go.jp/seifuan23/yosan.htm)
私がもっとも心配していた文教・科学技術予算(http://www.mof.go.jp/seifuan23/yosan009.pdf)についても、すでにマスコミでも報道され、ブログ上でも意見が述べられ(http://d.hatena.ne.jp/scicom/20101224/p1)、(http://d.hatena.ne.jp/kenjiito/20091227/p1)またツイッター上でもいろいろとつぶやかれています。
予算の細部にわたって熟知しているわけではないので、不正確な面もあるかもしれませんが、今まで、国立大学長として、また、財務経営センター理事長として国立大学を支援する仕事をしてきた立場から、個人的な感想を述べておきたいと思います。(あくまで、組織としての見解ではなく、個人の感想です。)
今回、「文教及び科学技術振興費」全体としては1.4%減(772億円減)、うち、文教関係費は1.9%減ですが、科学技術振興費は0.1%増と、ほぼ横ばいになっています。(文科省関係の科学技術振興費は4.2%増ですが、他省庁の科学技術振興費が減らされて、全体としてはほぼ横ばいになっています。)
今年の夏の段階では、財務省から社会福祉関係予算の自然増(約1兆円)のために各省庁予算要求額は10%減、その減額分(約3兆円)は「元気な日本復活特別枠」へ要望し、政策コンテストで決めるとの方針が出され、各大学や科学技術関係者は大きな危機感を抱きました。政策コンテストで参考にされるパブリックコメントに大学および科学技術関係には圧倒的多数のコメントが集まりました。また、各大学とも地域や国民に高等教育と科学技術の重要性を訴え、街頭で道行く市民に日本の高等教育の危機を訴える学長の姿もありました。
このような大学の努力を、一部のマスコミは「組織票」と表現し、利権団体と同一視するかのような批判的な報道をしました。
特別枠の政策コンテストでは、財務省は文科省の要望のやり方が行き過ぎであると批判し、特に厳しく査定するとの発言もなされ、圧倒的多数のパブコメも完全無視と思える評価結果でした。(A評価はなくBやC評価のみ)
ところが、すでに報道されているように、菅首相の土壇場の判断で、科学技術振興費の減が回復したとのことです。
例えば、12月23日の東京新聞は『科学技術振興予算増額を 首相「わがまま言う」』と伝えています。
「菅直人首相は二十二日夕、二〇一一年度政府予算案の科学技術振興費について、記者団に対し「科学技術を重視しており、この面ではわがままを言わせてもらいたい。そういう姿勢で臨んでいる」と述べ、財務省に増額を指示したことを明らかにした。これを受け予算案の閣議決定は二十四日夕にずれ込むことになった。
政府は二十二日までに関係閣僚による折衝を終え、一一年度予算案を二十四日午前に閣議決定する方向だった。首相指示を受けて一段の調整が必要となったため、閣議決定を延期することにした。
科学技術振興費は文部科学省をはじめ、各省にまたがる科学関係予算の合計で、一〇年度は前年度比3・3%減の一兆三千三百二十一億円。政府は一一年度もさらに減額する方向で調整していた。」
菅首相の突然の発言にはいろいろな憶測もなされていますが、いずれにせよ科学技術振興費が前年度並みに措置されたことは、イノベーションの国際競争で一定の高いレベルのシェアを維持しなければ生きていけない日本にとっては、10年後の我が国の状況を思えば正しい判断であったと私は思っています。(ただし、決して増額ではなく科学技術振興費は前年度並み、大学関係予算は減額速度は緩くなったようですが、減額であることに変わりはないことは認識しておく必要があります。)
最終的な政治判断がどのようなプロセスでなされたか私は存知申し上げませんが、このことに係わった政府関係者、大学関係者、パブコメをお寄せいただいた市民の皆様を含め、関係者のみなさんのご尽力に、まずは素直に感謝したいと思います。