ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

学生による授業評価の点数はどこまで上げられるか?(クリッカーの効果)

2013年04月19日 | 高等教育

 4月から鈴鹿医療科学大学の学長をお引き受けするにあたり、学長が授業をするかどうか聞かれたのですが、僕は即座にさせていただくとお答えしました。少なくとも最初の数年間は。

 その理由としては、組織の幹部は現場を知らなければならないことが一つ。組織の意思決定にリーダーシップを発揮しなければならない学長自らが、大学の最大の顧客である学生さんに直接接して、学生さんたちがどのように感じ、どのように考え、どのように反応して行動するのか、それを肌で感じることは、顧客に対して最適の教育サービスを提供する上でたいへん重要なことであると思います。

 同時に、サービスを提供する側の先生方の負担の程度や、教育のむずかしさもわかりますね。組織の意思決定者は、サービスを受ける現場、提供する現場の両方を肌で感じなければならない。

 さらに、もう一つ。大学の教育改革のリーダーシップを取ろうとする者は、やはり教育評価についても他の教員よりも優れている必要がある。評価の低いリーダーが、他者を動かし、あるいは評価することは、極めて困難ですね。役職や権限によって人を動かすことはある程度可能かもしれませんが、それは本物のリーダーシップではなく、飾り物の管理者になってしまいます。

 学生による授業評価は、ある程度日本の大学でも定着したようです。鈴鹿医療科学大学でも各学期の終わりに、学生がコンピュータ上で先生への評価を入力することになっています。ただし、学生による授業評価をほんとうに教育指導の在り方の改善に生かしているかどうか、あるいは教員の評価に生かしているかどうかについては、大学によって大きな差があるのではないかと思っています。

 僕は、三重大学で教鞭をとっている時から、自分自身で毎回の授業で簡単な無記名のアンケートをとって学生さんに評価していただいています。

 どんなアンケートかって?

 わかりやすさ、眠たさ、熱意、総合点の4つを5段階で評価してもらい、あと、自由記載欄を設けています。

 5点 とてもわかりやすい(全然眠たくない、非常に熱意がある、とても良い講義である)

 4点 わかりやすい(眠たくない、熱意がある、良い講義である)

 3点 ふつう

 2点 わかりにくい(眠たい、熱意がない、良い講義ではない)

 1点 とてもわかりにくい(とても眠たい、全然熱意がない、全然良い講義ではない)

 このうち、「眠たさ」という項目は、評価項目としては、ちょっと珍しいのではないかと思っています。鈴鹿医療科学大学でも、大学としての評価項目には入っていません。

 でも、僕は「眠たさ」は、非常に重要な評価項目と考えています。それは、学生が「眠たさ」を感じるということは、その時に先生が話したことは、まったく記憶に残らないということを意味するからです。

 僕は、学生による授業評価の目的には2つあるのではないかと考えています。学生満足度の向上と修学達成度の向上の2つです。両者は別物であり、修学達成度はテスト等によって把握されていますが、でも同時に、学生満足度とも相関すると考えています。

 そして、「眠たさ」は、修学達成度に最も直結する質問項目ではないかと考えています。

 実は僕の点数は最初は良い点数ではなかったのですが、毎回のアンケートの結果を次の授業の改善に生かす努力を続けていたら、つまりPDCAを回していたら、だんだんと点数が上がってきました。下のグラフは、平成9年に鈴鹿医療科学大学で副学長を務めていた時の学生による授業評価の結果です。

 学期の初めころの総合点は3.60だったのですが、7月14日には4.05という値に上がりました。この学期の大学の行った授業評価の点数は4.19という点数で、この点数は鈴鹿医療科学大学の講義の中ではトップ5というまずますの点数でした。

 皆さんもうお気づきになったと思いますが、僕が独自にやっている評価項目の中で「眠たさ」が最も低い点数になっていますね。いろいろと自分なりに工夫をしたのですが、この「眠たさ」の点数を改善することは非常に困難でした。

 昨年の中教審の答申で、学生による自習時間を増やす必要があることやアクティブラーニングの重要性が指摘されたことは、皆さんもご存知だと思います。もう、20年近くも前に三重大学医学部でアクティブラーニングの代表的な教育手法の一つであるproblem-beased-learnig (PBL)を導入した僕としては、何をいまさらという感じも受けないでもありませんけどね・・・。

 その答申の文章の中に、いくつかの新しい教育手法が例示として挙げられているのですが、その中に「クリッカー」が挙げられています。これは、パワーポイントなどを使って学生さんに講義をするときに、小テスト的な選択問題を出し、あらかじめ配っておいた端末のボタンを学生さんが押すと、瞬時に正解率などを示すことができるというシステムです。

 このクリッカーのシステムを大学に購入してもらい、今年度の授業から試してみることにしたのです。(IC Brains社製)

 

 これは、救急医学概論の2回目の授業なのですが、1週間前の授業で学習したことを確認する問題を出したところ、約4分の3の学生が正解したことが瞬時に示されました。逆に4分の1の学生は正解することができず、前回の授業の修学達成度が不十分であったことがわかります。もっとも、先日のブログでお示しした学長式辞の忘却率に比べると、ずいぶんと良い値ですが・・・

 さて、このようなクリッカーを用いた授業をしたところで、学生による僕の授業評価の点数はどうなったのでしょうか?

 学生の人数も異なっているので、クラスの条件は全く同じではありませんが、総合点は4.55に跳ね上がりました。今まで、いくら改善努力をしても僕の点数は4.5を超えなかったのですが、今回初めて超えました。

 また、最も点数を上げることが困難であった「眠たさ」についても、4.06という点数になり、他の評価項目よりも低い点数であるものの、初めて4を超えることができました。

 クリッカーの最終的な評価については、さらにデータを集積する必要がありますが、今回の結果からは、かなり有望なツールであると感じました。さっそく、FD活動(教員能力開発)で、他の教員ともいっしょに実証的な検討を進めていこうと思っています。次は、大学全体の学生満足度と修学達成度の数値がどこまで上がるかが楽しみですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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大学改革実行プランの地方私立大学への影響と適切な評価への期待

2013年04月15日 | 高等教育

 さて、東京での3年間の単身赴任の後に4月から三重に帰ってきて2週間が経ちました。4月2日の鈴鹿医療科学大の入学式の式辞から始まって、全8学科のオリエンテーションに顔を出し、学長としての最初の授業をすませ、理事長、研究科長、学部長、学科長全員が集まる運営協議会であいさつ、各学科長さんと個別の改善課題をお聞きする懇談、三重県や鈴鹿市の方々との懇談、現在進められている教育改革の担当教員との懇談、以前学長を務めていた三重大学の教員および学士レベルのダブルディグリープログラムを実施している天津師範大学の先生方との会食、東日本大震災の支援活動をしている学生のリーダーとの懇談、三重県知事さんをはじめ県内の主な関係機関へのあいさつ回り、国の審議会への出席のために東京へ出張、僕が会長をやっている三重県立美術館友の会総会でのあいさつと、慌ただしい日々が過ぎました。ブログのネタになることもたくさんあったのですが、あまりに忙しすぎて書く暇がなく、もったいないことをしました。今、一息ついたところなので、この2週間のことを振り返ってブログの更新をしていきたいと思います。

 まずは、大学内での運営協議会での僕のあいさつ。昨年文科省から出された、「大学改革実行プラン」の説明をしました。実は、この1月に私立大学連盟学長会議で「大学改革実行プランをどう読むか」というお話をさせていただいていたので、その内容の一部をお話したのです。 

 今までのブログでは、大学改革実行プランが特にトップの研究大学以外の大学にとっては、かなり厳しいことになると予想されることを何度もお話しましたね。私立大学でも同じことが考えられ、私学助成にもメリハリをつけることが謳われており、大学の2極化が進むであろうことをお話しました。

 

 大学改革実行プランのあるページをコピーした上のスライドの赤い楕円は僕がかってに書き入れたものです。

 このポンチ絵にはいろんなことが書かれているのですが、その中に、たとえば大学のガバナンスについても書かれており、先進的なガバナンス体制をとった大学を支援する旨が書かれています。これは、従来の教授会主導のガバナンスではなく、学長(理事長)のリーダーシップで大学を動かすことが期待されているということです。教授会主導は、国立大学だけかと思っていたら、私立大学でも同じようなガバナンスのところが多いんですね。

 学校教育法で教授会が重要事項を審議することが決められている以上、私学でも教授会主導になることが多いとも言われています。でも、今後は、従来の教授会主導で物事を決めている大学は、国からは評価されないということですね。

 いっそうの情報公開も求められています。すべて正直に情報公開しないと、国から評価されず私学助成に影響する。国の税金から補助を受ける以上は、当然といえば当然ですね。鈴鹿医療科学大学は、正直に公開できる私立大学の一つだと思っています。

 特定の役職員や教職員の報酬・給与についても書かれていて、高額の場合は私学助成が減額されるということです。僕の学長としての給与も公開しないといけませんね。

 このポンチ絵に書かれている私立大学に求められていることは、学士課程の質保証、地域再生の核(COC)となること、産学連携および大学間連携の3つです。鈴鹿医療科学大は、ほとんどすべての学科が資格取得とつながっており、その点では学士課程の質保証が、国家資格合格率でもってある程度評価できる、あるいは第三者から評価されるということでしょう。国家資格合格が学士の質のすべてではありませんが、合格していただかないとどうしようもないので、最低限満たさなければならない質保証であると思います。

 幸い、鈴鹿医療科学大の国家資格合格率は、全国平均をかなり上回っていますが、安心はできません。絶え間ない教育指導の改善改革努力が求められています。

 ただし、第一の大学のステークホルダーは学生なのですが、学生を受け入れる社会もステークホルダーなんですね。したがって、国家資格に合格するための医療・福祉の専門的な知識・技能だけではなく、患者さんの気持ちを汲める人間性や高い倫理観、そして各病院や医療福祉施設が進めようとしているチーム医療にスムースに参画できるコミュニケーション力を身につけることも大切です。

 地域再生の核となることや、産学連携および大学間連携については、三重県が10年以上も前から推し進めている医療・福祉産業の振興にテーマを絞った「みえメディカルバレープロジェクト」という産学官連携プロジェクトの中で、三重大学と連携して中心的役割を果たすことが考えられます。三重県はライフイノベーションの特区に認定されたんです。

 実は、鈴鹿医療科学大学のキャンパスには、筑波大学の山海教授がやっておられるサイバーダイン社のロボット・スーツが展示してあるんです。この分野で鈴鹿は東海・近畿地域の拠点となることが考えられます。国が成長戦略の柱としてライフインべーションを掲げているわけですから、鈴鹿医療科学大学は、国の政策にも貢献できる地方私立大学と言えます。

 こんなことで、赴任一番に、鈴鹿医療科学大の幹部の皆さんには、国の厳しい大学行政の方針をお伝えすることになりましたが、そのような厳しい中でも、鈴鹿医療科学大は大学改革実行プランで私学について求められている点については、すべて実現できる可能性が高いと感じられ、医療系大学として国民から選ばれる大学になる可能性が十分にあるので、力を合わせていっしょに頑張りましょうと檄を飛ばしました。

 ただし、地方私立大学にとって懸念されることは、大学改革実行プランでもって、果たして、ほんとうに国がきちんと地方大学としての優れた取り組みを評価してくれるかどうか、ということですね。平成25年度予算に見られるように、一握りの上位大学(大規模大学)に莫大な予算が集中し、地域再生の核となるCOCプロジェクトに対する予算があまりにも少ないということであれば、地方大学がいくら地域や国に貢献しようと努力しても報われない。

 地方私立大学は、市場による厳しい競争の中で自然淘汰される中で、国による「選択と集中」によって、人為的に淘汰が加速されようとしているわけです。助成金を配賦している国が大学の評価をすることは当然のことであると思いますが、地方大学が努力して積み上げてきた、地域や国にとっても大きな意義のあるせっかくの素晴らしい取り組みをつぶしてしまう愚は、避けていただきたいと思います。

 

 

 

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ブログタイトル変更

2013年04月05日 | 高等教育

 ブログタイトル、再度変更してすみませんが、「ある医療系大学長のつぼやき(「ある地方大学元学長のつぼやき」後継版)とさせていただきますね。

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学生たちは学長式辞をどれくらい覚えているか?

2013年04月04日 | 高等教育

 今日、4月5日は鈴鹿医療科学大学のオリエンテーションの2日目。大学の各学科ごとにオリエンテーションが行われ、教員の紹介や受講の説明、新入生たちの自己紹介などが行われていました。僕は全8学科のオリエンテーションを順番に回って、どんなふうにオリエンテーションが行われているのか、見せていただくことにしました。どの科の先生もほんとに一生懸命、学生たちに、修学上の、あるいは生活上のいろんな注意やその学科の特色などを、説明しておられました。

 その中でいくつかの学科の学生たちと直接話をする機会があったので、まずは、「僕は誰ですか?」という質問と、「入学式の時に学長が話したことの中で1つでも覚えていることは何ですか?」という質問をしました。だいたい40~50人くらいの学生たちに聞いたかな。

 皆さんいったい何人の学生が答えられたと思いますか?

 実は一人の学生さんをのぞいては、誰も答えられなかったのです。

 これは三重大学の学長をしていた時にも、まったく同じ経験をしました。また、昨日は新入生に対して3学部長の話があったのですが、学生たちに学部長が何をしゃべったか聞いてみても、ほとんど答えられませんでした。これでは、せっかく一生懸命準備をして学生たちのために話したのに、まったく無意味だったということですね。

 でも、これが現実です。

 実は、これは別に式辞に限ったことではなく、どんな講義でも同じことなのです。講義で伝達された知識のうち80%は1週間以内に忘却されると言われていますね。忘却曲線はとっても急峻です。でも、教えた先生は、これだけのことを教えたのだから学生たちは理解をして覚えているはずであると思い込んでいます。これを「教授錯覚」と言いますね。

 毎日、1限目から4眼目(あるいは5限目)まで講義が組まれているのですが、果たして、どれだけの教育効果があるんでしょうかね?話して聞くだけの講義であれば、ほとんど無意味ということになると思います。先生も学生も実に膨大な時間を無駄に費やしていることになりますね。

 薬学部では、担任制をとっており、一人の先生が5~6人の学生さんをつれて、学内を回って説明をしたり、いっしょに食事をとっていました。それで、いくつかのグループの学生さんたちをつかまえて、さっそく次の質問をしました。

 「じゃあ、どうしたら、忘却を少しでも防ぐことができるだろうか?」

 学生たちからはいろいろな答えが返ってきました。

 「聞くだけではなくメモを取る」

 「3日後と1週間後など、一定の時間を空けて複数回復習をする。」

 「予習をする。」

 「自分の集中力を高めてから聞く」

  「学んだことを他人に話す」

 ・・・・・

 「まったくその通りだね。講義を受けるだけではダメで、自学自習をするということがとっても大切なんだよ。僕の式辞を一言も覚えていないということが、それを証明しているね。」

 僕はもう一つ付け加えました・

 「みんな、せっかくグループができたんだから、これを活かそうよ。例えば講義が終わった後で、『あの先生のおっしゃっていた、あそこがよく分からなかったんだけと、みんなはどうだった?』って話し合ってみるんだよ。それで、誰もわからなかったら、まずは、みんなで手分けをして自分たちで調べてみよう。それでもわからなかったら、先生に聞きに行こう。こうやって、グループでディスカッションをして、自分たちで調べて教え合うことで、記憶に残りやすくなるんだよ。」

 さて、僕の顔を認識することができ、式辞の内容も答えることができたたった一人の学生さんは、どんな学生さんだったのでしょう?

 Sさんという薬学部の女性の学生さんだったんですが、なんと、彼女は、僕の入学式のブログを読んでいたんです。

 「どうして、僕のブログを読んだの?」と聞いてみると、「以前から両親が豊田先生のブログを読んでいて、鈴鹿医療科学大学に入学した時にお母さんからブログを読むように言われたんです。」という返事が返ってきました。

 これは、ブログ冥利に尽きるというものですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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桜満開の鈴鹿医療科学大入学式にてー“改革屋”への大きな期待

2013年04月02日 | 高等教育

 3月31日で(独)国立大学財務・経営センター理事長を任期満了で退職し、昨日の4月1日から、地元の鈴鹿医療科学大学に戻ってきました。今日は、鈴鹿医療科学大学の学長としての初めてのブログです。それまでのブログは「ある地方大学元学長のつぼやき」でしたが、現役の学長に戻りましたので、ブログタイトルを、三重大学長時代の「ある地方大学長のつぼやき」に戻すことにしました。ただし、三重大学長時代と区別するために、(鈴鹿医療科学大)をつけさせていただきました。

 ブログタイトルの変更については、心機一転もっと斬新な名前を期待していた読者の皆さんもおられたようですが、ご期待に添えずにすみません。ブログの内容については、しばらくは、国の審議会の委員などもあり、時々は東京へ出向く予定ですし、財務・経営センター時代のことも書き残しがたくさんあるので、鈴鹿医療科学大学のことと、文部科学行政や財務・経営センターに関連したことも、引き続き”つぼやいて”いきたいと思います。

 今日、亀山の自宅から鈴鹿医療科学大学に車で向かう途中、ニュースを聞いていたら、自民党政権の“事業仕分け”の方針が報道されていました。民主党政権の時と違って、“事業仕分け”という言葉は使わずに、また、最初から廃止ありきで質疑をするのではなく、廃止という結論は無くす。改善の指導を主体とし、政治家は最初の時だけ関与して、改善の指導については有識者に任せる、というような内容でしたね。

 僕は、3年前の4月1日に財務・経営センターの理事長の公募に応募して就任したのですが、就任した時に「実は事業仕分けがあるんですよ。」と事務職員から初めて知らされ、そして、その4月28日が仕分けの本番だったんです。枝野さんや蓮舫さんがセンターを訪問され、僕も理事長として対応させていただきました。仕分け前後のことについては、3年前のブログにけっこう詳しく書いてありますので、ご興味のある方は、過去のブログを見てくださいね。

 仕分けでは、僕は一生懸命センターの事業の重要性をご説明申し上げましたが、残念ながら、(たぶんシナリオ通りに)全事業廃止という宣告を受けました。しかし、その直後に国立大学附属病院長会議や国立大学協会という大学の現場の皆さんから、センターがやっている各種の事業の中で、財投や独自の債権を原資とした大学病院再開発に対する貸付事業と、各大学に建物の修繕費を配分している交付事業の2つだけは存続するよう、要望書が出されました。その結果、最終的にこの2つの事業は当面の間、存続することが閣議決定され、文科省関係のいくつかの独法を統合してできる新法人に、その事業が移管されることになったんです。

 そして、僕は、新法人への事業の移管に向けて、特に、大学病院への貸付事業の新たな経営評価・審査基準の策定に注力しました。民間金融機関や他の財投機関の貸付審査基準を参考にしつつ、償還確実性とともに大学病院の公的使命の達成を考慮した経営評価・審査基準に道筋をつけました。このような経営評価や審査は、単に償還確実性だけを重視する民間金融機関や、大学病院の公的使命や経営状況をよくお知りにならない他の財投機関では、適切に実施できないと考えます。

 現在、自民党政権になって、民主党政権で閣議決定された独法改革は“凍結”となり、財務・経営センターの事業についてもどうなるのか、再び不透明な状況ですが、この事業の必要性については、どなたにどのような質問をされようとも、明確に説明できるはずです。

 さて、鈴鹿医療科学大学に話を戻しましょう。

 さっそく4月2日が入学式で、三重大学長時代から数えると4年ぶりの学長式辞です。3月はぎりぎりまで財務・経営センターの経営評価・審査基準の見直し作業に忙殺され、入学式の式辞の準備もしていなかったのですが、3日くらい前から草稿を書きはじめ、完成したのは昨夕です。

 今日は、心配されていた天気もなんとか持ちこたえ、鈴鹿医療科学大学白子(しろこ)キャンパスの満開の桜の中で、入学式が執り行われました。このキャンパスの桜は本当にすばらしく、市民にも公開されているんですよ。東京では2週間も前から桜が咲いていますが、この辺りは東京よりも南にあるはずなのに、なぜか開花は東京よりも遅れるんですね。でも、そのおかげで、送別会の桜と、入学式の桜と両方楽しませていただきました。

 鈴鹿医療科学大学は平成3年に4年制の医療系大学として、日本で初めて創設された大学です。現在では、保健衛生学部(放射線技術科学科、医療栄養学科、理学療法学科、医療福祉学科、鍼灸学科)、医用工学部(臨床工学科、医用情報学科)、薬学部、そして、大学院医療科学研究科があり、来年度には看護学部を開設するべく、現在国に申請中です。日本でも数少ない医療系総合大学の一つですね。

 学部生544名、大学院生17名、ご家族や関係者、ご来賓、教職員の前で久しぶりの式辞。学生たちの評判はまだわかりませんが、先生方の評判は、まずまずだったかな。下に、ちょっと長くなりますが、参考までに式辞の全文を書いておきます。

 理事長の高木純一さんの祝辞では、学生たちに僕の経歴を紹介されました。「産婦人科がご専門で、若くして三重大学長になり、当大学の副学長を1年務められた後、国立大学財務・経営センターの理事長に就任され、今回、皆さんのご入学といっしょに本学の学長に就任されました。アグレッシブに改革を進めてこられ、本学においても、これから教育改革をされると思うので、私としても心強く思いますし、皆さんはほんとうに良い時に入学されたと思います。本学の国家試験合格率は全国平均よりも10~20%上回っていますが、皆さんの合格率はもっと上がると思います・・・。」

 理事長は僕に対する“改革屋”としての大きな期待を直接学生や教職員にお話しされ、僕としても“改革屋”として評価されていることに対してうれしく思うと同時に、大きな責任を感じます。まずは、入学式で学生や関係者、教職員の前で「改革のコミットメント(公約)」をした(させられた?)ということですからね。

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平成25年度鈴鹿医療科学大学入学式式辞

 この度、鈴鹿医療科学大学に入学された学部544名の皆さん、そして大学院に入学された17名の皆さん、ほんとうにおめでとう。ご家族並びにご関係の皆様におかれましても、ご入学に大きなご期待を抱いておられることと拝察し、心からお慶びを申し上げます。また、本日はご多用の中、本学入学式にご臨席の栄を賜り、新入生をお激励いただいております来賓の皆様に、心から御礼申し上げます。

 本学は、平成3年に4年制の医療系の大学として日本で最初に創立され、この分野では最も伝統と実績のある大学です。その建学の精神は「科学技術の進歩を真に 人類の福祉と健康の向上に役立たせる」であります。

 今、日本の経済は、いわゆるアベノミクスと呼ばれる金融政策により、長い間のデフレ状態から脱却できる期待感が高まっている状況です。ただし、日本経済の真の回復のためには、実体経済の成長を伴うことが必要とされ、今後の成長戦略の成功如何にかかっているとされています。そして、その成長戦略の大きな柱の一つが、ライフイノベーション、つまり医学・医療・福祉分野でのイノベーションであります。

 本学大学院に入学された皆さんは、今まで培った専門職としての知識と技能をさらに深化・発展させ、医学・医療・福祉分野におけるイノベーションに貢献するべく、技術やシステムの革新を生み出す創造開発能力を高めていただきたいと思います。本学の白子キャンパス内には、筑波大学の山海教授のリハビリと介護支援用に開発されたロボットスーツが展示してありますが、本学は、このロボットスーツのベンチャー企業であるサイバーダイン社とともに、三重大学とも連携を深めつつ、三重県のメディカルバレープロジェクトの一翼を担おうとしております。本学大学院生の今後の地域での、そして日本におけるイノベーションへの貢献を、大いに期待するところです。

  さて、医学・医療・福祉分野は、日本の急速に進む高齢化の状況の中で、また、近い将来には海外諸国においても高齢化が進むことが想定され、大きな成長が期待されている分野です。したがって、医療系人材の需要は、総体としては、今後も引き続き堅調に推移すると見込まれます。このような背景の中で、近年日本の医療関係の高等教育機関が急増しているところであり、今後はよりいっそう質の高い医療系人材が求められることになります。

本学は、そのような、社会の要請にこたえるべく、「知性と人間性を兼ね備えた医療・福祉スペシャリストの育成」を教育理念に掲げ、どこに出しても恥ずかしくない、地域社会の皆さんから真に信頼される医療系人材を育成しようとしています。

 本学は教育の目標として、5つのことを掲げています。
・高度な知識と技能を修得する
・幅広い教養を身につける
・おもいやりの心を育む
・高い倫理感を持つ
・チーム医療に貢献する
の5つであります。

  まず、皆さんに目指していただきたいことは「高度な知識と技能を修得する」ことです。医学・医療・福祉分野の進歩は目覚ましく、新しい診断・治療・ケアの方法が絶え間なく開発されています。そして、高度に専門化した知識や技術に一人の人間ではとても対応できず、スペシャリストとジェネラリストの役割分担と連携、そして、チーム医療が強く求められているところです。

 皆さんはこれから、「医療・福祉のスペシャリスト」を目指すことになるわけですが、この意味は、その専門分野については誰にも負けない知識と技能を身につけるということであります。少しでも学習の歩みを止めると、すぐに後れをとって取り残されてしまいます。

 誰にも負けない専門的知識と技能を身につけるためには、まずは必死に勉強することが必要です。日本の大学の学生の自学自習時間は、世界で最も短いという調査結果であり、最近、中央教育審議会が、日本の大学に対して抜本的改革を求めたところです。大学に対して、社会に送り出す学生に対する教育の質保証が強く求められ、教育指導方法の改善とともに、学生に対する評価を厳格にすることが求められています。以前は、日本の大学はレジャーランドと揶揄されてきましたが、もう、大学は遊ぶところではありません。学生の皆さんも、このことについては覚悟を決めていただきたいと思います。
 
  そして、医療・福祉のスペシャリストには、専門的な知識と技能の修得だけではなく、いろいろな分野の専門職と連携して、患者さんにとって最善のケアを提供できるチーム医療にあたることが求められています。そのためには、幅広い教養を身につけ、思やりの心と高い倫理観を涵養することが大切です。

 例えば、患者さんを一人の人間として治療やケアするためには、故障した自動車を修理するという捉え方ではいけません。人間には、機械にはない思いや感情があり、心と体は密接に関連しており、そして人間としての尊厳があるからであります。

 皆さんは「人間」が生きるということの本質について、つきつめて考える必要があります。たとえば、「人が死ぬ」ということはどういうことなのだろうか?死期を告げられ、ショックを感じている人に、私どもはどう接すればいいのだろうか?あるいは、大切な人を失った家族が、深い悲しみから立ち直るために、どのような支援をすればいいのだろうか?また、「思いやりの心」が大切だと言っても、どうすれば、患者さんに私どもの思いが伝わるのだろうか?

 そして、そのような人間としての患者さんをケアする上でのさまざまな課題を、いろいろな専門職が寄り集まって、みんなで相談をして、チームとして解決にあたらなければなりません。そのためには、チーム医療を効果的に、円滑に進められるように、コミュニケーション能力や対人関係のスキルを身につけることも必要です。先ずは、キャンパス内で明るく「あいさつ」を交わし合いましょう。小さなことからでも、実践・実行をすることが大切であり、その主旨から、本学では「あいさつ運動」を継続して行っています。

 皆さんには、自分がどのような医療・福祉のスペシャリストになるのか、明確な目標を設定していただきたい。そして、その目標を達成するために、毎年の、一か月の、毎週の、そして毎日の学習計画をたて、実践をし、振り返り、そして、自分自身を高める努力を継続していただきたい。

 鈴鹿医療科学大学は、そのような、日々自分自身を高めようと努力をする学生さんに、教員・職員が一丸となって、一生懸命支援をさせていただきます。

  皆さんの本学における生活が、少々タフではあるけれども、やりがいのある素晴らしいものとなり、そして、皆さん一人一人が社会が求める医療・福祉のスペシャリストとして、空高く羽ばたいていただくことを心から祈念して、式辞といたします。

平成25年4月2日

鈴鹿医療科学大学  学長 豊田長康

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