ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

台湾に学ぶ(その2):大学の研究機能を高めるための人事戦略

2012年04月26日 | 高等教育

 4月18日のブログでは、国立大学への基盤的な運営費交付金の継続的削減に対する対応の具体例として、ある地方国立大学の今後2年間の教員数と事務職員数の削減計画をお示しましたね。そして、このような状況があと10年も続くと、地方国立大学の研究機能がそうとう大きなダメージ(法人化開始前後に比較して約40%以上低下)を受ける可能性をお示ししました。

 そうしたら、いつもご意見をいただくDさん(民間企業OB)からご意見をいただきました。

 「事務方に何の恨みもありませんが、一般の製造関係の企業で人員削減する場合、事務方の削減の比率の方が高いのではと思います。ある工場では、10名近くいた事務職が10年で、2~3名ということは、よくあることではないでしょうか。大学の教育、研究は企業の製造に当りませんか?相当厳しくやられてきたことと思いますが、どうでしょうか?教職員の減を極力少なくし、研究インフラの弱体化を少しでも抑えることが出来たのでしょうか?やはり、そのような、チェックも必要ではないでしょうか?」

 もっともなご意見だと思います。国立大学が法人化された頃、基盤的な運営費交付金の削減に対して、大学の学長さん方から反対意見が出た時に、対応された文科省のある方が、「教員数を減らさずに、事務職員数を減らしていただければいいのではないですか。」という主旨の発言をされて、話題になったことを思い出します。この文科省のある方は、Dさんと同じ考えをもっておられたということになりますね。

 法人化後の国立大学における教員数の削減と事務職員の削減の比率は、各大学によって異なると思いますが、残念ながら私はデータを持ち合わせていません。ただ、法人化後、教員数の削減を最少に食い止めた大学、あるいは、正規の教員数を削減したが外部資金等で特任教員や寄付講座の教員等を増やしてカバーできた大学は、論文数の減少を最少に食い止められたはずです。それは、何度も引用させていただいた、文科省科学技術政策研究所の神田由美子さんたちによるFTE教員数(教員数×研究時間)のデータでも明らかですね。

 ただ、事務職員の削減は、国立大学であるが故の難しい側面ももっているように感じています。私が三重大学長の時に、民間コンサルに入っていただいて、事務業務の効率化を検討したのですが、なかなか思うようにいかなかった経験があります。当時、某旧帝大でも有名な大手民間コンサルに事務業務の効率化をお願いしましたが、国立大学であるが故に、実行できない提案が多く、実効があがらなかったということも伝え聞いています。

 法人化はされたものの、国立であるが故の制度も引き続き残されており、政府から求められる提出物も多く、法人化に伴ってさらに新しい作業が増え、事務作業は格段に増えたのではないかと感じます。

 また、事務職員を削減するべきといっても、教員への支援が減少し、教員の研究以外の業務が増えて、研究時間が減少するようであれば、これも論文数減少の一因となりえます。

 今、複数の大学が連合・連携するアンブレラ方式が検討されていると聞いていますが、ぜひとも管理運営面の連合・連携で効率化を図っていただき、それを優秀な教員の数や研究時間の確保(つまりDさんのおっしゃる民間製造企業における製造)に結び付けていただきたいと願っています。

 さて、台湾の大学では、事務職員数はどうなっているのでしょうか?前回のブログで紹介した、国立台湾大学の公開データの中に、事務職員数の変化のデータがありましたので、グラフにして、下にお示しします。

 これをみると、一般職員は減少し、契約職員が増えています。台湾の大学が日本と同じような事務職員の削減努力をしていることがわかりますね。しかし、研究補助者が、近年急激に増えているところが大きな違いです。

 このデータの裏に、目的・目標を明確にして、それを実現するための実に合理的な人事戦略があることを感じます。

 台湾では、近年10大学(日本の人口あたりにすると50大学)に重点的に競争的資金が配分されたとされています。政府からの大学への資金が増えたということが、削減され続けている日本との大きな違いですが、それにしても、この国立台湾大学の目的・目標を達成するための合理的な人事戦略について、日本は大いに学ぶべきだと思います。

 そもそも、日本の政府も大学も、研究機能について明確な目的・目標を設定することさえできていないのではないでしょうか?(もちろん、教育についてもできていないと思われますが・・・)

(このブログは豊田の個人的な感想を述べたものであり、豊田が所属する機関の見解ではない。)

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台湾に学ぶ(その1):どのような因子が論文数に影響するのか?

2012年04月23日 | 高等教育

 しばらく前のブログで、人口あたりの論文数では、日本は台湾に追い抜かれていること、そして、政府支出研究費も追い抜かれていることをお話しましたね。

 まず、今までのブログでも紹介したデータを再掲します。

 まず、人口あたりの注目度の高い論文数では、台湾は19番目、日本は21番目であり、他の主要国は、日本が追いつけないレベルにあることをお話しましたね。日本が研究の数値目標をつくるとしたら、台湾の論文数ではないか?それでも、今の1.5倍の論文数を産生しないといけないことになります。

 

 この下のグラフのように、日本の論文数は停滞しており、台湾の論文数は右肩上がりなので、おそらく、日本と台湾の差は、今後さらに大きくなることが予想されますね。そうすると、1.5倍増やしたくらいでは、追いつかないかも。

 なぜ、台湾の論文数が多いのか?その大きな要因が、政府支出研究費の差と考えられることもお示ししましたね。購買力平価換算で計算すると、台湾は日本の政府支出研究費を数年前に追い抜いており、そのカーブは、論文数のカーブと酷似していますね。

 なお、日本の研究費は、国立大学へ交付している運営費交付金を、全額研究費と見なすのか、研究時間と教育時間等との比率から、研究時間に相当する部分を研究費と見なすのかによって、ずいぶんと違ってきます。総務省が発表しているデータは、前者であり、OECDのデータでは後者になっています。OECDの方がより実態に近いと考えられます。

 でも、いずれの場合も、台湾に追い抜かれていますね。つまり、国立大学への運営費交付金を全額研究費に使ったとしても、言い変えると、国立大学をすべて研究所にしたとしても、世界19位の台湾には追いつけないということです。

 私は、台湾の大学に日本が学ぶところは大いにあると感じます。それで、台湾の大学について、もう少し調べてみることにしましょう。

 ウェブ上に、国立台湾大学のデータが公開されています。国立台湾大学統計年報というサイトです。

http://acct2010.cc.ntu.edu.tw/final-e.html

 日本の大学では、これだけ詳しいデータを公開しているところは無いと思います。このようなことも日本の大学が学ぶべきことの一つかも知れません。

 非常に興味のあるデータがたくさんありますが、その中でも興味あるデータをいくつかご紹介しましょう。なお、グラフ化は私が行いました。

 まず、各学部の論文数の変化です。医学部および工学系の学部が、論文を数多く産生し、その数を増やしていますね。

 

 これは、学術ファンドの獲得額です。MOEというのは文部省のことです。文部省からの施設設備費はすこし減少気味。トータルとしての基盤的な文部省からの交付金は、あまり増えてはいません。ただし、日本のように減っていることはありませんね。

 Self-raised fundというのが、急速に増えています。これは、外部資金と考えられ、競争的資金(政府による競争的資金も含まれると考えられる)や民間等からの資金と考えられます。ただし、学部ごとの記載はないので、どの学部が多くファンドを獲得しているのかどうかまでは、わかりません。



 これは、学部学生の数の変化です。工学・農学の学部は増えていますが、他の学部はあまり増えていません。(College of Scienceでは学部の再編が行われたようで、階段状に人数が急変しています。また、データが一部欠損している時期があります。)

 博士課程の学生は増えており、特に工学系と医学で顕著ですね。


 


 次は教員数。これはフルタイムの教員数で、電気・情報工学や医学以外は、あまり増えていません。


 


 これは、パートタイムの教員数。医学部が非常に急激に増えていますね

 そして、全学部の教員数、学生数、授業科目数、研究契約件数(科研費や共同研究数等と考えられる)、論文数をまとめた表がありました。


 

 これをもとに、重回帰分析をしたのが、下の結果です。

  学部の論文数にもっとも大きくプラスに働いている因子としてはフルタイム教員数があげられ、その他に博士課程学生数や研究契約件数があります。マイナスに働いている因子は授業科目数でした。つまり、教育の負担の大きい学部では論文数も少ない。

 当たり前と言えば当たり前の結果かもしれませんね。

 以上のような台湾の分析から、論文数の産生にプラスに働く因子としては、政府支出研究費、フルタイム教員数、博士課程学生数、研究契約件数等が考えられ、マイナスに働く因子としては教育負担があるわけですが、日本はプラス因子が減り、マイナス因子が増えています。

 特に、国立大学の基盤的運営費交付金の削減は、フルタイム教員数の減少に直結すると同時に、残された教員の教育負担を増やすことは直近のブログでお示ししましたね。

 こう考えると、日本が台湾にどんどんと差をつけられるのも、当然の結果ですね。政府も大学も、なんとかして、これをくいとめないといけないと思います。

 (このブログは豊田個人の勝手な感想であり、豊田が所属する機関の見解ではない。)

 



 

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ほんとうに心配な地方国立大学の将来(その5)

2012年04月20日 | 高等教育

 今回のシリーズでは、平成24年度の「国立大学改革推進補助金」138億円をめぐって、各大学には、連合・連携を具体化した思い切った魅力ある構造改革提案が必要であることをお話しましたね。でも、現時点では、どうも、各大学からは、補助金の趣旨にかなう構造改革の提案がなされていないようであり、ひょっとして、補助金自体のリセットの可能性もありうるかもしれないと心配しています。

 ただ、私は、前回のブログでお話しましたように、各大学に思い切った構造改革を求める分、政府に対しても、従来の競争的な補助金とは異なる継続的・実質的な支援が可能となる道を考えて頂くようお願いしたいと思います。構造改革をしても、途中で梯子を外されるリスクが高ければ、各大学も思い切った構造改革に踏み切ることが難しいですからね。

 逆に、各大学にも、苦しい国の財政状況の中でも、国民がこれなら継続的・実質的支援をする価値があると感じる改革案を提案していただく必要があります。そのためには、相当な身を斬る覚悟が必要であるように感じます。

 今回の138億円が取れないとどうなるのかということについては、前回、極めて単純化したモデルで、特に地方国立大学の研究機能が急速に低下する見通しをお示ししました。

 残念ながら、基盤的な運営費交付金の削減が止められる可能性は極めて低く、各大学は教員数の削減を計画的に進め続けます。その結果、教育の負担が減らないと仮定すると、研究時間の割合が低い大学ほど、研究機能が大きく低下します。

 今日は、前回と同じような趣旨になり、重複することになりますが、研究時間の割合が低い大学ほど研究機能が低下することを、再度グラフでお示しておきます。

 計算は下の計算式で行いました。

Z=(X-Y)/X×100

X:研究時間の割合

Y:教員数削減の割合

Z:教員数×研究時間の教員数削減前からの割合(%)

 教員数削減が10%の場合と20%の場合の二つのカーブを下のグラフにお示します。

 このまま、基盤的運営費交付金が削減され続けると、10年後には約20%の教員が削減されることとなり、研究ばかりやっている研究所では、(教員数×研究時間)は20%の減にとどまりますが、研究時間の割合が50%であった大学は40%の減となり、単純には論文数が40%減ることになります。研究時間の割合が40%であった大学は50%減り、30%であった大学は、66.7%減となります。これでは、私立大学に比較して、国立大学の研究環境の優位性が失われることになると思います。

 今回の、国家公務員の給与削減に準拠して国立大学教員の給与削減が要請されていることに加えて、このような研究環境の悪化が急速に進むとなると、国立大学の優秀な教員が私立大学に移動する可能性も高まります。しかし、多くの政治家の皆さんは、国立大学から私立大学へ優秀な教員が移動するのであれば、日本全体としてみれば優秀な教員がいずれかの大学に確保されるわけですから、日本全体の学術レベルの低下には必ずしも結びつかないと考えておられるようです。

 このままいくと、地方国立大学のXデーが近づいているようにも感じられます。研究環境の優位性がなくなれば、あとは授業料が安いという優位性しか残らないかも知れませんね。それだけで国立大学の存在意義を主張するのは、ちょっとしんどい感じがします。

 やっぱり、今回、身を斬る覚悟で、複数の大学が連合・連携して、管理運営のアンブレラ方式とともに、思い切った魅力ある研究教育組織の連合・連携案を提案して、138億円を取りにいくしかないのではないでしょうか。例えば、新しい連合研究教育組織のガバナンスについても、ヘッドクオーターが戦略的に全世界から優秀な教員をハンティングし、各支部には戦略的に研究テーマを割り振り、人事体系も給与体系も、大学とは完全に別個に運営する、というような提案をしないと、たぶん取り合っていただけないのではないでしょうか?

 各国立大学の挑戦に期待したいと思います。

(本ブログは豊田個人の勝手な感想を述べたものであり、豊田が所属する機関の見解ではない。) 

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ほんとうに心配な地方国立大学の将来(その4)

2012年04月18日 | 医療

 前回までのブログで、国立大学への基盤的な運営費交付金の削減が続く中で、このままでは、特に地方国立大学の研究や教育の機能がどんどんと低下していくので、平成24年度の「国立大学改革推進補助金」138億円を、各大学とも、思い切った構造改革の提案をして、何とかして取りにいくべきであるというお話をしました。

 それに対して、ツイッター上で、何人かの方々から大学の現場の声をお聞かせいただきました。

「研究の中核を引っ張るべき世代の時間が大学改革、外部資金獲得の対応に追われて枯渇。優秀な人材のもてる時間は有限。でも研究に使われず。」

「一律削減の愚」

「現場の熱意アイデアは重要でも所帯の小さい大学は体力が持たないでしょうね。」

「改革疲れって知らんのか」

「事業の方向性が見えにくく、だんだん疑心暗鬼になってきている。」

などのご意見は、ほんとうにその通りだと思います。これらの意見に対する私の考えは、前回のブログで書きましたね。要するに、今までは運営費交付金の削減によって(教員数×研究時間)が減って、国立大学の研究機能が低下し、国際競争力が失われているのであるから、今回の138億円では、特に若手研究者の数と研究時間の確保が可能となるような思い切った構造改革の提案をするべきであるという主張です。

 ただし、138億円については政府内のタスクフォースで検討されているとのことですが、タスクフォースの皆さんに、このような趣旨を十分にご理解いただいていないと、今までと同じように(教員数×研究時間)がさらに減少して、国立大学の研究機能がいっそう低下し、それが日本全体の競争力をいっそう失わせることになりかねません。

 ブログでも書かせていただきましたが、138億円で各大学に構造改革を求めるのであれば、その数値目標を明確化して、138億円による構造改革の効果を検証するべきであると思います。

質の高い論文数がどれだけ増えたか?

地域企業との共同研究数や特許件数がどれだけ増えたか?

留学生がどれだけ増えたか?

・・・・・・

など、いくつかの指標があると思いますが、

(教員数×研究時間)がどれだけ増えたか?

という指標もぜひ入れて欲しいですね。(教員数×研究時間)を確保しないことには、質の高い論文は産生できません。注目度(質)の高い論文は、より多くの人手とより長い研究時間が必要なことは、文科省の科学技術政策研究所のデータでも示されています。

 一見すばらしい構造改革案に見えても、(教員数×研究時間)の確保がきちんと押さえられていないと、今までと同じように「改革疲れ」になってしまって、論文数が減少し、逆に日本全体の国際競争力が低下する可能性が高いと思います。

 もし、今回の138億円が大学の構造改革のイニシャルコストだけしか補助しないということであるならば、(教員数×研究時間)の確保という観点からは、従来の多くの研究資金と同様に、大きな課題を投げかけることになります。

 今回の補助金でせっかく若手研究者の数を増やしても、補助金が無くなったら、いっせいに解雇する、というようなことになれば、元の木阿弥ですね。今までも、この手の補助金はたくさんありました。というよりも、残念ながらこれが一般的な補助金のやり方ですね。将来お金を稼ぐことのできるような構造改革ができれば話は別ですが、以前の知財本部事業でも、補助金が切られた時に、知財収入だけで組織を維持することができた大学はほとんどなかったのではないかと思います。

 さて、この138億円で教員を雇用することができないとなると、いったいどうなるのでしょうか?

 ある中堅の地方国立大学(5学部、附属病院あり)に、今後2年間の人件費削減計画を教えていただきました。

 それによると、H24、25年の2年間で教員数を26人、事務職員11人を削減するとのことです。平成17年の人件費を基準にして毎年1%を削減していくということで、今回、東日本大震災の財源確保のために民主党政権から国立大学法人にも要請されている国家公務員給与カットとは別に行うとのことです。(国立大学教職員は国家公務員ではありませんが、政府から国家公務員に準拠するように要請されています。)

 教員人件費だけをとってみると、金額ベースでは年約6千万円の削減で、H17年度に比較して、25年度には▲11.2%になるとのことです。仮に10年間で計算すると13%の教員数の削減です。基盤的運営費交付金の削減が継続される可能性は極めて高く、今後もこのペースで教員数が減っていくと考えられます。

 話を簡単にするために10年間で10%教員数が削減されると仮定し、その場合に(教員数×研究時間)はいったいどのくらい減少するか計算してみましょう。

 教員数が減っても、教育の負担は減りません。したがって、10%教員数が減少すれば、その分残された教員の教育の負担が増えることになり、(教員数×研究時間)の減少は、10%よりも大きくなるはずです。

 どのくらい教育の負担が増えるのか、という点については、その大学の教育時間:研究時間の比率によっても左右されます。

 まず、教育時間:研究時間=5:5の大学を考えてみます。これは、一般の地方国立大学がモデルを想定しているつもりですが、実際には教育時間の比率は20~30%、研究時間の比率は30~50%と幅があり、また、運営や社会貢献の時間もあります。ここでは、単純化のために教育時間:研究時間=5:5とさせていただきます。

 教員数100人、一人あたりの教育時間+研究時時間=10時間、教育時間:研究時間=5:5とすると、教育・研究活動の(人・時間)は 

(教員数×教育・研究時間)=100人×10時間=1000人・時間

(教員数×教育時間)=100人×5時間=500人・時間

(教員数×研究時間)=100人×5時間=500人・時間

となります。

 教員数が10%削減されて90人になった場合、教育の負担は変わらずに500人・時間のままなので

(教員数×教育・研究時間)=90人×10時間=900人・時間

(教員数×教育時間)=90人×5.556時間=500人・時間

(教員数×研究時間)=90人×4.444時間=400人・時間

となって、(教員数×研究時間)は実に20%も減少します。

 次に、教育時間:研究時間=1:9の大学を考えてみます。これは、旧帝大の中の附置研究所や大学院大学等の研究中心大学のモデルを想定していますが、実際は、教育時間の比率はこれよりも高いものと思われます。

 教員数100人、一人あたりの教育時間+研究時時間=10時間、教育時間:研究時間=9:1とすると、教育・研究両方およびそれぞれの活動の(人・時間)は

(教員数×教育・研究時間)=100人×10時間=1000人・時間

(教員数×教育時間)=100人×1時間=100人・時間

(教員数×研究時間)=100人×9時間=900人・時間

となります。

 教員数が10%削減されて90人になった場合、教育の負担は変わらずに100人・時間のままなので

(教員数×教育・研究時間)=90人×10時間=900人・時間

(教員数×教育時間)=90人×1.111時間=100人・時間

(教員数×研究時間)=90人×8.889時間=800人・時間

となって、(教員数×研究時間)は11.1%の減少にとどまります。

 つまり、普段から教育負担の大きい地方国立大学では、旧帝大や大学院大学に比べて、教員数の削減は、より大きく研究機能の低下をもたらすことがわかります。

 このような極めて単純化した計算により、地方国立大学では、研究の人的インフラを20%低下させたことが想定されるわけですが、実際にも、文科省科学技術政策研究所の調査(神田由美子他、DISCUSSION PAPER 80、減少する大学教員の研究時間、2011年12月)では、2002年と2008年にかけてのFTE教員数(教員数×研究時間から計算する)の減少は、上位大学の4.5%減少に対して、地方国立大学等では15~20%の減少となっており、今回の計算とよく合う結果となっています。

 ただし、(教員数×研究時間)は、外部資金の獲得も影響し、特に、上位大学においては外部資金の獲得増によるFTE教員数の回復効果が大きいと思われます。

 地方国立大学の研究機能(論文数)は、旧帝大等に比較して大きく低下したわけですが、以上のような計算から、それは彼らががんばらなかったのではなく、運営費交付金削減という政策のもたらした必然的な格差拡大の結果と考えられます。

 このような政策をあと10年も続けたとすると(そうなる可能性が極めて高い)、特に地方国立大学では外部資金の獲得増も限界に達していることから、今後も(教員数×研究時間)が減少し続け、さらに20%以上、つまり、法人化導入時に比較して、40%以上も研究機能が低下すると考えられます。論文数のさらなる減少が目に見えるようです。

 具合の悪いことに、研究時間の比率が低い大学ほど、教員数減少の影響を大きく受けますから、いったん研究時間が減少した大学では、今後は加速度的に研究機能が低下することになります。

 果たして、今回の138億円が、今後想定されるこのような事態を考慮した上で、国立大学の研究機能(つまりわが国全体の研究機能)を回復する政策として考えられているのかどうか?

 文科省のタスクフォースの皆さんには、ぜひとも、(教員数×研究時間)についての数値目標を考慮に入れて、各大学からの魅力ある構造改革の提案の選定にあたっていただきたいと思います。

(本ブログは豊田個人の勝手な感想であり、豊田の所属する機関の見解ではない。)

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ほんとうに心配な地方国立大学の将来(その3)

2012年04月16日 | 高等教育

 さて、前々回の私のブログに対して、ツイッター上で何人かの皆さんから意見をいただきました。どのご意見ももっともなご意見だと思います。今日はそれをもとにして、私の説明不足を補いたいと思います。

@kf……さん:138億円をとりにいく意味。いや、とらねばならぬ意味。「ほんとうに心配な地方国立大学(三重大も含めて)の将来」

 私のブログの主旨をご理解いただいたというふうに受け取らせていただきました。次は@pr……さんと@to……さんのやり取りです。

@pr……さん:研究の中核を引っ張るべき世代の時間が大学改革、外部資金獲得の対応に追われて枯渇。優秀な人材のもてる時間は有限。でも研究に使われず。

@to……さん:研究開発に占める大学の役割は今や大きくない。若年人口は先生方の学生時代の半分。優秀な若手研究者の卵も半分。大学にばかり人材配置してはダメだ。 

@pr……さん:大学外に人材が還流すべし、には同意です。自分の論点は、大学の生き残り方策のために大学の人材と研究(教育も)時間が枯渇するのは本末転倒、という点です

@to……さん:「一律削減の愚」なのですね。

@pr……さん:現場の熱意アイデアは重要でも所帯の小さい大学は体力が持たないでしょうね。大学ごとに法人化した問題点と思います。

 今の国立大学の現状は@pr……さんのおっしゃる通り。大学の生き残りのための大学改革が、逆に人材と研究(教育)時間を枯渇させてしまったのは、本末転倒ですね。法人化の目的は、大学に自律性を与えることにより、教育や研究等の国際競争力を高めることであったはず。しかし、運営費交付金の削減等と組み合わされていたために、せっかくの法人化による自律性付与の効果が相殺され、地方国立大学では、さらにマイナスになってしまったと思われます。

 @to……さん「一律削減の愚」、 @pr……さん「現場の熱意アイデアは重要でも所帯の小さい大学は体力が持たないでしょうね。大学ごとに法人化した問題点と思います。」についても同感。運営費交付金が一律削減されていけば、余力の小さい国立大学は、より大きなダメージを受けて、研究機能の低下が論文数の減少として表面化します。

 ただ、残念ながら、一律削減が中止される可能性は極めて低く、引き続き基盤的な運営費交付金は削減され続けると思います。それに対応するために、各大学は、教員数を削減せざるをえません。その結果、研究者が少なくなるとともに、残された教員の教育負担や雑用が増える訳ですから、さらに研究時間が減少します。

 「国立大学改革推進補助金」138億円は、従来の競争的な運営費交付金とは、かなり性格が違うように感じます。従来の競争的運営費交付金では、原則として予算はすべて、選ばれた大学に配分されます。しかし、今回の補助金は、どうも、そういう形の“ばらまき”はなされず、趣旨にかなう構造改革提案がなければ、138億円がまったく配分されないこともありえるようです。

 @pr……さんがおっしゃっているように、優秀な研究者の研究時間を確実に確保できるような大学改革が必要だと思います。今回の138億円では、それが可能となる構造改革を提案する必要があると思います。

 ただし、@to……さんがおっしゃる「研究開発に占める大学の役割は今や大きくない。若年人口は先生方の学生時代の半分。優秀な若手研究者の卵も半分。大学にばかり人材配置してはダメだ。」というご意見は、もっともな論理ではあるのですが、私は必ずしも賛成ではありません。その理由の一つは、日本の人口当たりの学術論文数は、先進国に比べてかなり少なく、19位の台湾の3分の2しかないからです。現在の日本の人口が1億2千万として、それが将来8千万人に減少したとしても、今の論文数を維持しなければ、台湾と同じになりません。英米欧の先進国やシンガポールなどの国は、日本のはるかかなたを走っています。

 日本は資源が少ない国であり、海外からエネルギーや食糧を購入しようとすれば、イノベーションを売るしかありません。しかも、海外との相対的なイノベーションの力関係で売り買いの能力が決まりますから、イノベーションの絶対数ではなく、イノベーションの国際シェアが問題になります。注目度の高い論文の一定割合からイノベーションが生まれると仮定すると、学術論文数においても、人口あたりの国際シェアを維持する必要があると考えます。

 そのためには、日本の優秀な若手研究者が半分になるということであれば、アメリカやシンガポールのように、海外の優秀な若手研究者を集めることを考える必要があります。また、日本では海外に比べて女性研究者が極めて少ないので、優秀な女性研究者を育てることも、優秀な若手研究者を確保する一つの方策ですね。

@na……さん:138億円を取りに行く/使うために若手が動員され研究時間がなくなるんじゃないか。「改革疲れ」って知らんのか?

 今までの国立大学の状況は@na……さんのおっしゃるとおり「改革疲れ」の状態ですね。(研究者数×研究時間)が減ってしまって、論文数が減ってしまいました。今回の138億円の補助金を取りにいく場合は、優秀な若手教員の研究時間を増やすような構造改革を提案していただく必要がありますね。

@nu……さん:三重大の元学長さん、「研究の数値目標」とか口走っている時点で、研究が何かをよくわかっていない方、と思ってしまいますね。

 「研究の数値目標」は、日本では今までほとんど言われなかったので、違和感を覚えられる方や、誤解される方も多いと思います。小泉元首相が、日本のノーベル賞学者を50人にする、という数値目標を公言されましたが、それに対して、ノーベル賞学者が一斉に反論しました。ノーベル賞は取ろうと思ってもとれるものではありませんからね。私も、ノーベル賞を取ることを数値目標にするのは適切ではないと考えます。

 研究に限らず、数値目標は、それが絶対視されて目的化されると、いろんな副作用が出ることが多いですね。あくまで、数値目標は目的を達成するための手段です。

 また、目的の達成度を測定するための数多くの指標の中で、最も妥当な指標をkey performance indicator (KPI)と言いますね。通常は適切なKPIを選んでモニターしますが、完璧なものはなく、限界を承知の上で使う必要があります。

 そのような限界があるにも関わらず、適切なKPIを用いた数値目標は、適切な使い方をすれば、目的の達成のために有用です。 

 @nu……さんのおっしゃるように、私も研究に数値目標はなじみにくいと思うのですが、最近のように財政が苦しい状況では、研究費をステークホルダー(納税者)から出していただくためには、研究成果を何らかの数値で示す必要性がますます大きくなっています。

 私が、政府に対して研究の数値目標を設定するべきと主張している唯一の理由は、研究費を出していただく最大のステークホルダーである国民(納税者)の理解を得るためです。この財政が厳しい現状では、数値目標を設定していただかないと、どんどんと研究費が削減されてしまいます。

 ただし、数値目標がノルマ的に研究者を鞭打つ手段として使われるようでは、逆効果ですね。質の高い論文を増やすために、優秀な研究者を増やし、十分な研究時間を与え、必要な研究補助者と良き研究環境を与え、論文の量産を求めない、というような主旨で数値目標を使うべきです。

@nm……さん:仕事でかかわっていますが、こちらからすると事業の方向性が見えにくく、だんだん疑心暗鬼になってきているという現状があります。

 @nm……さん、お疲れ様ですね。各大学から提案をもっていっても、政府の担当者に認めてもらえず、大学の現場ではどうしたらよいのか困惑が広がっているようです。

 やはり、本当の意味で抜本的な構造改革案をもっていかないと、認めていただけないように感じます。大学間の連合・連携の案をもっていく場合、おそらく管理運営や事務業務の効率化のためのアンブレラ方式だけではなくて、教育・研究組織の実質的な連合・連携案を持っていかないと、とりあっていただけないのではないでしょうか?

 たとえば、地方国立大学でも、世界で通用する優秀な研究者がおられるはずなので、地域の複数の大学で連合・連携して特色ある世界的研究教育拠点を造って、各大学が戦略的に役割を分担するとか、あるいは世界と戦える地域イノベーション連合拠点を造るとか、あるいは国際的な連合ダブル・ディグリー制度を作るとか・・・。この際、このような連合拠点のガバナンスは、各大学の教授会ではなく、連合体のヘッドクオーターが戦略的に行い、世界中から優秀な教員を集める。こんな案ではだめなんでしょうかね?

 すでにどこかの大学が提案していて、差し戻されているかもしれませんね。その場合はごめんなさい。

 もっと、魅力ある案を考えるために、大学幹部だけではなく、広くアイデアを求めるというのもいいかも。

@Mi……さん:そういうコンペとかを大学が学内や学外に対して聞いて下さると面白いですね。

(本ブログは豊田個人の勝手な想であり、豊田の所属する機関の見解ではない。)

 

 

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ほんとうに心配な地方国立大学の将来(その2)

2012年04月15日 | 医療

 前回のブログで平成24年度の「国立大学改革推進補助金」138億円をめぐって、地方国立大学の将来について書きました。現時点の情報では、どうも各大学からは今回の138億円の趣旨にかなう提案は出されていないようです。

 前回のブログに対しては、ツイッター上で何人かの皆さんから反応がありました。皆さんからのご意見を交えて、前回、言い足りなかったことを補わせていただこうと思うのですが、それは次回にまわして、今日はその前に、138億円の「国立大学改革推進補助金」についての資料をあげておくことにしましょう。そんなことで、今日は資料だけのブログになってしまいました。

 事は平成22年の平成23年度予算の概算要求にさかのぼります。この時は、各省からの概算要求のうち、基本的な要求額については前年度の10%に当たる額を削減し、削減した分を「要望枠」(総額約3兆円)として要求し、政策コンテストで約1兆円強を選ぶということになって、パブコメ募集が行われました。文教・科学技術関係の要望について圧倒的多数のパブコメが集まったことは、皆さんのご記憶にあると思います。その結果、文教・科学予算はかなり復活していただいたのですが、今後、大学改革を進めることが条件とされました。

〇平成23年度文教・科学技術予算のポイント、平成22年12月、神田主計官

http://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2011/seifuan23/yosan009.pdf

「大学改革について

大学改革について文部科学省と以下の合意がされた。

時代の要請に応える人材育成及び限られた資源を効率的に活用し、全体として質の高い教育を実施するため、大学における機能別分化・連携の推進、教育の質保証、組織の見直しを含めた大学改革を強力に進めることとし、そのための方策を1年以内を目途として検討し、打ち出すこと。」

 これに応える形で、国立大学協会が「国立大学の機能強化―国民への約束」を平成23年6月22日に公表しています。

http://www.janu.jp/other/pdf/kyoka_01_web.pdf

 この中で、国大協は国立大学として強化すべき機能として以下をあげています。

「ナショナルセンター機能」と「リージョナルセンター機能」の強化

機能1 卓越した教育の実現と人材育成

機能2 学術研究の強力な推進

機能3 地域振興の中核拠点としての貢献

機能4 積極的な国際交流と国際貢献活動の推進

 また、その方策として、以下の事項をあげています。

機能強化のための方策

方策1 各大学の個性・特色の明確化を図るとともに、不断の改革を推進する。

方策2 教育研究等に関する内部質保証システムの確立と質の向上を図る。

方策3 厳格な自己評価と大学情報の積極的開示、及び 学生、保護者、地域住民、行政担当者、産業界、海外大学・研究機関等、ステークホルダーに対する説明責任を果たす。

方策4 国内外の教育研究機関との連携を推進する。

方策5 大学運営の効率化・高度化を推進するとともに、多様な資金の獲得と有効活用を図る。

 この方策の中に、大学間連合・連携や教育研究組織の再編成に関係するキーワードとしては以下のような文言があります。

「大学統治機能の強化」

「文理融合分野の教育研究体制の整備」

「ビジョンを確実に実現するための教育研究組織の構築」

「学部、大学院研究科の共同設置」

「地域の大学群の連合・連携による取組」

「設置形態を超えた大学間、大学共同利用機関との連携を強化」

「自治体等との連携による地域イノベーション」

「複数学位等、海外大学と連携した教育プログラムの構築」

「大学資源の共同利用」

「大学間の共同による教員力の向上プログラム、職員の資質向上プログラムの実施」

「事務処理等の共同化」

「大学情報の一元管理と適正な活用による運営体制の強化」

「海外はもとより、国籍や出身母体を問わない高度人材の役職員への登用など多様な人材交流の促進」

 また、平成23年11月には提言型政策仕分けが行われ、大学関係については以下のようなとりまとめがなされています。

〇「提言型政策仕分け」提言集、平成23年11月20~23日、行政刷新会議

http://www.cao.go.jp/sasshin/kaigi/honkaigi/d23/pdf/ss1.pdf

提言(とりまとめ)

 大学の国際通用力の向上の在り方については、「教育分野」における向上などその具体的な達成目標と達成時期並びにその評価基準について明確化を図る。まずは各大学による自己改革によってその実現を図る。少子化傾向の中での大学経営の在り方については、教育の質の確保と安定的な経営の確保に資するため、大学の教育の内容、例えば、生涯教育の拡充などへの転換を含む自律的な改革を促すとともに、寄付金税制の拡充等自主的な財源の安定に向けた取組を促す仕組みを整備する。法科大学院の需給のミスマッチの問題については、定員の適正化を計画的に進めるとともに、産業界・経済界との連携も取りながら、法科大学院制度の在り方そのものを抜本的に見直すことを検討する。

 大学改革の全体の在り方については、国は大学教育において如何なる人材を育成するかといったビジョン及びその達成の時期を明示した上で、その実現のため第三者による評価などの外部性の強化に加え、運営費交付金などの算定基準の見直しなどの政策的誘導の在り方について検討する。加えて政策評価の仕組みの改善についても併せて検討する。

 今回の138億円の予算についての説明は以下のようになっています。概ね国立大学協会が公表した「国立大学の機能強化―国民への約束」に書かれている改革案、特に、大学間連合・連携や教育研究組織の構造改革について、国民の目に見える形で、具体的かつ迅速に実行するよう求めていると感じられます。

〇「平成24年度文教・科学技術予算のポイント」平成23年12月、神田主計官

<参考資料>

平成24年度国立大学法人運営費交付金等について

  国立大学法人運営費交付金等については、以下の基本的な方針に沿って扱うものとする。

1.国立大学法人運営費交付金については、対前年度△161億円減の1兆1,366億円とする。別途、復興特別会計に57億円を計上する。

2.今後の我が国の再生に向けて、大学改革を推進するため「国立大学改革強化推進事業」(138億円)を新設する。

3.具体的な国立大学改革の方針については、別紙の基本的な考え方に基づき、文部科学省内に設置するタスクフォースにおいて検討を行い、協議の上、速やかに改革に着手する。

今後の国立大学の改革について(基本的考え方)

  今後の我が国の再生のため、大学改革の促進が強く求められており、中央教育審議会のみならず、政府の行政刷新会議の政策提言型事業仕分けや予算編成政府・与党会議における議論などにおいても、大学改革が大きなテーマの一つとなっている。

 大学改革の課題は多様であり、大学における人材育成のビジョンづくり、グローバル人材の育成、入学から卒業までの学力の担保等の学生の質保証など、大競争時代における国際競争力の強化に加えて、少子化時代における持続可能な経営を目指した足腰の強化・合理化、財政危機における効率的な経営の努力など、国公私立大学を通じて検討すべき課題が少なからずある。

 それとともに、文部科学大臣が定める中期目標に基づき、運営費交付金の措置を受けて運営される国立大学の機能を抜本的に強化することも、大学改革の最重要課題の一つである。

  国立大学については、幅広い分野において欧米の主要大学に伍して教育研究活動を展開している大学も存在するが、それ以外にも、国際的に優れた教育研究水準にある専門分野を有する国立大学も少なからず存在しており、知の国際競争を勝ち抜くためには、これらについて重点的な強化策を講じる必要がある。また、国立大学の役割として、特化した分野・地域での卓越した人材育成の視点も必要である。

 このため、大学の枠組みを超えてオール・ジャパンの視点から、有機的な連携協力を展開出来るよう、大学間のネットワークである「大学群」の創出など連携協力システムの構築に取り組むとともに、個々の大学においては、個性や使命の明確化を図り、学部など学内の教育研究組織の大規模な再編成、外国人や実務家等の教員や役員への登用拡大など人材交流の促進などにより、知の競争力の向上に努めることが重要である。

  こうした施策を効果的に推進するためには、必要な財政措置の確保に加え、「大学群」のスケールや求められる機能、大学間の連携協力促進のための支援方策、それらを踏まえた多様な制度的選択肢の考え方(例えば、一法人複数大学方式(アンブレラ方式))、国立大学運営費交付金の配分基準などについての更なる整理が必要である。

  こうした点に関して、文部科学省内に設けられるタスクフォースにおいて、これまでの関係者の議論も参考にしながら所要の整理を行い、すみやかに改革に着手したい。

国立大学改革強化推進事業    13,833,000千円(新規)

1.目的

  国際的な知の競争が激化する中で、世界の大学と対等に伍していくためには、特に国立大学改革を強化推進することで、将来を支える人材の育成や我が国の国際競争力の強化にも寄与。

2.対象

 国立大学改革を強化推進するため、例えば以下のような取組をこれまでにない深度と速度で行う国立大学法人に対し重点的支援を実施。

(取組例)

  教育の質保証と個性・特色の明確化

      ◆教員審査を伴う学部・研究科の改組

      ◆外国人や実務家等の教員や役員への登用拡大

      ◆双方向の留学拡大のための抜本的制度改革

(支援のイメージ)

 新たな教育研究組織の整備に必要となる基盤の整備と海外や産官学との人的連携強化を抜本的に推進する経費を総合的に支援。

大学間連携の推進

      ◆互いの強みを活かした学部・研究科の共同設置

      ◆地域の大学群の連合・連携

      ◆大学の枠を超えた大学間連携による教育研究の活性化

(支援のイメージ)

 新たに大学間連携を行うために必要となる基盤の整備(遠隔教育システムなど)と連携による教育研究の展開に必要な経費(連携により必要となる学生・教職員への支援を含む)を総合的に支援。

大学運営の高度化

      ◆効率的な大学運営のための事務処理等の共同化

      ◆大学情報の一元管理と適性な活用による運営体制の強化

(支援のイメージ)

 事務システムの統合等による改修、インターフェイス化など、連携による高度な大学運営に必要となる経費を総合的に支援。

3.本補助金の効果

・組織改組の構想段階からの支援が可能となることで大学改革のスピード感が加速。

・本事業の実施に当たり、中期目標・中期計画の変更を課すことで、大学改革の達成目標・達成時期が明確化。

4.補助率

    定額

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ほんとうに心配な地方国立大学(三重大も含めて)の将来

2012年04月12日 | 高等教育

 昨日のブログでは、私が学長をしていた三重大の法人化第1期の評価結果をご紹介し、自画自賛的に「けっこうやったじゃない三重大学」と書いてしまったのですが、その翌日に、三重大を含めて地方国立大学の将来を心配するブログを書かせていただくのは、ちょっと心苦しいものがありますね。でも、やっぱり書いておこうと思います。

 今までのブログで日本の学術の国際競争力の低下(論文数の停滞~低下)について、何回も書いてきましたね。それを簡単にまとめると、論文数については、主要な産生機関である国立大学で低下し、特に、2番手、3番手につけている地方国立大グループの低下が全体に大きく影響していること、その原因は(研究者×研究時間)の低下、つまり研究の人的インフラのダメージによる、ということでした。

 (研究者×研究時間)の減少の要因としては、まずは、定員削減や運営費交付金削減による教員数の減少、および社会的要請や制度改革等からの教育活動(病院では診療活動)へのシフトや管理運営業務の増加等による研究時間の減少が考えられ、余力の小さい地方国立大学から論文数の減少として表面化した、と思われます。

 科学技術や大学への予算総額は、現政権では一定のご配慮を頂いているものの、国の財政の逼迫から、今後は、いっそう厳しい状況になると考えられます。

 特に国立大学への基盤的な運営費交付金の削減は、各大学の研究の人的インフラのダメージに直結すると考えられますが、残念ながらこの削減が止まる可能性は極めて低いと感じます。基盤的な運営費交付金の確保については、国立大学協会をはじめとして、今までさんざん要望をし続けてきましたが、前政権、現政権を通じて、止められたことは一度もありません。

 前々回のブログでご紹介した、参議院予算委員会におけるわが国の論文数停滞をめぐる質疑で、平野文部科学大臣が、研究費総額が海外に比較して少ないという認識を示していただいたことは大きな前進と思いますが、一方、大学に対しては「目標と成果を明確にした制度設計」、また、地方大学に対しては、「地域の活力をいただくための大学については、選択と集中という意味でより積極的に支援をしていく。特徴のある大学になっていってもらい、その結果地域が産官学を含めて結束をしていくプロセスで支援していきたい。運営費交付金は減っているが、大学の改革強化事業として138億円をお願いしている。」という主旨を述べておられます。(文言は正確ではありませんので、国会の議事録をご参照ください。)

 文部科学大臣に、地方大学の存在意義を「地域の活力をいただく大学」という表現でお認めいただいたことは、たいへん良かったと思いますが、しかし、「選択と集中」をするとはっきりとおっしゃっていますね。それを具体化した予算の一つが、今年度の「国立大学改革推進補助金」138億円ということです。その趣旨は「国際的な知の競争が激化する中で、大学の枠を超えた連携、教育研究組織の大規模な再編成、個性・特色の明確化などを通じた国立大学の改革強化を推進するため、新たな補助金を創設」と書かれています。

 このようなことから、国立大学への基盤的な運営費交付金の削減は今後も続くと考えられ、現状から変われない大学は、今後も引き続き人的インフラのダメージを受け続けていくものと考えられます。そして、今、痛みを伴うかもしれない構造改革を断行して、魅力ある教育研究組織の再編成を提案できた大学のみが、このような予算を獲得でき、大学としての人的インフラを確保できて、生き残れる可能性が出てくると思われます。

 地方国立大学の将来は、まさにこの138億円を獲得できるかどうかにかかっていると申し上げてよいでしょう。

ブログ:Ami Express、「138億円の行方http://atsutoyoda.exblog.jp/14902624/

  現在、おそらく、多くの地方国立大学では、継続される基盤的な運営費交付金削減に対応するために、定員削減のプランニングを立てているのではないかと推測されます。これは、ある意味では必要なことですが、一方では、これが優秀な研究者の数の減少につながるということであれば、その大学の研究機能がどんどんと低下していくことになります。以前のブログ(2012年1月4日)にも書きました「黒字―縮小サイクル」ですね。

http://blog.goo.ne.jp/toyodang/e/ce4b463bfb9b547deeeb606e22a59bcc

 昨年の7月4日の日経新聞にも書きましたように、私は国に対しても、研究の数値目標を作るべきであると主張しています。同じように、各大学も研究の数値目標を設定するべきです。

 そして、その数値目標を達成するために、各大学は優秀な研究者の確保を最優先事項として、リスクを承知で最大限の努力を払わなければなりません。特に、Nature誌の3月20日号が伝えているように、日本の若手研究者が減少し、論文数が減っている状況では、優秀な若手研究者の確保が喫緊の課題です。

http://www.nature.com/news/numbers-of-young-scientists-declining-in-japan-1.10254

 ブログ:大「脳」航海記、Natureが報じる「減り続ける日本の若手研究者と、低下し続ける日本のサイエンスの生産性」

http://viking-neurosci.sakura.ne.jp/blog-wp/?p=6975

 この際、従来の枠組みのままで教員数を増やすことは極めて困難であることから、新たな魅力ある教育研究組織の再編成を断行する必要があることは上にお話した通りです。地方大学においても実質的な世界研究教育拠点や世界と戦える産学連携拠点を構想する必要があるのではないでしょうか。つまり、優秀な若手研究者の確保のために、思い切った構造改革をして138億円を取りに行かねばなりません。

 複数の大学が連携して、少なくとも管理運営や事務業務の効率化を図る計画も検討されていると聞いていますが、連携や統合をしても、トータルとして優秀な研究者が減って論文数が減っては意味がありません。連携・統合して効率化した分、優秀な若手研究者を増やして、論文数を増やして初めて連携・統合の意味が出てきます。まず連携・統合の目的と数値目標を明確にしておくべきです。

 そして、一方では、138億円を取りにいくことと並行して、手持ちの予算があれば、あるいは、さらなる経費の削減努力によって少しでも予算を浮かして、赤字のリスクを犯してでも、優秀な若手研究者の確保に最大限投資するべきだと思います。

 今回三重大学を含めて、幸いにして法人化第1期の評価結果により「法人運営活性化支援分」が交付された大学がいくつかあるわけですが、せっかくの貴重な予算を、ごくろうさんという意味で各学部に配分するとか、通常の教育研究費や運営費として使ってしまう大学と、138億円を取りにいくための構造改革への先行投資や、優秀な若手研究者の確保に投入した大学とで、今後の成否が大きく分かれることでしょう。

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けっこうやったじゃない三重大学:法人化第1期評価のダイジェスト版を見て

2012年04月11日 | 高等教育

 きょう(2012年4月11日)、三重大企画総務部企画チームの小林泰久さんと加藤大典さんが、法人化第1期中期目標期間(2004~2009)の三重大の評価結果をまとめた冊子「紡ぐ」のダイジェスト版を、わざわざ東京まで届けに来てくれました。

 すでに評価報告書は公表されているのですが、相当分厚く、おそらく誰も読んでいただけないだろうということで、今回、一般の皆さんにも読んでいただきやすいダイジェスト版を作ったとのこと。

 私は、国立大学が法人化された2004年から5年間三重大学長を務めさせていただきましたので、法人化第1期の評価というのは、私に対する評価でもあるわけです。トップというのは、結果責任が問われ、言い訳はできない立場です。ですから、この評価結果には正直少なからぬ心配をしていました。

 評価結果が運営費交付金に反映されるということもあり、もし、低い評価結果が出たら、残された三重大の皆さんに、直接ご迷惑をおかけすることになります。また、後世にわたって、学長の評価が語り継がれることにもなります。

 第1期の評価では、4年目に暫定評価というものがありました。(第2期にはなくなります。)暫定評価では、三重大は86大学中で33位だったんです。その時指摘された点を改善して、最終的な6年間の評価では14位に上がりました。この意味では、三重大は暫定評価で欠点を指摘されたがために、逆に助けられた大学の一つですね。

 そして、今回の評価結果のおかげで、「法人運営活性化支援分」として、約6千万円運営費交付金を増やしていただくことになりました。

 14位という評価結果は、まずまずの結果であり、残された三重大の皆さんにご迷惑をおかけしなかったということで、前学長としては胸を撫で下ろしているところです。

 評価というものはなかなか難しい面をもっており、評価基準の設定次第で上下することもありますし、評価者によっても左右されるので、運も関係してくるかもしれません。しかし、今回の評価においては、いろいろと工夫してがんばれば、それなりに、評価者にはちゃんと評価をしていただけるものなんだなあ、と感じました。(点数が低かった大学は、そう思っていないかもしれませんが・・・)

 きょういただいた「紡ぐ」のダイジェスト版には、グラフや表がたくさん載っています。つまり、三重大の活動のほとんどが“数値”で示されています。いわゆるIR(institutional research)と呼ばれる活動の賜物ですね。

 参考までに最初に出てくるグラフを皆さんにご紹介しましょう。

 これは、三重大の教育目標である、「感じる力」「考える力」「コミュニケーション力」「生きる力」という4つの力の修学達成度の変化を示したものです。概ね右肩上がりの変化ですね。

 2004年の法人化に際して中期目標・計画を策定したのですが(私が策定委員会の委員長でした)、その教育目標として4つの力を掲げたんです。このような目標を掲げるにあたっては、小学校の教育目標なのではないか、などと揶揄されたりもしましたが、しかし、当時経済界を代表する経団連が大学に求めていた教育目標は、「志と心」「行動力」「知力」の3つの力であり、これは、三重大の4つの力とほとんど同じと考えられました。

http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2005/003/sanko.html

 経団連によれば、「志と心」とは「社会の一員としての規範を備え、物事に使命感をもって取り組むことのできる力」、「行動力」とは「情報の収集や、交渉、調整などを通じて困難を克服しながら目標を達成する力」、「知力」とは「深く物事を探求し考え抜く力」となっています。

このことから

「志と心」―「感じる力」

「行動力」―「コミュニケーション力」「生きる力」

「知力」―「考える力」

というふうに対応させることができると考えました。

 私たちが考えた教育目標とまったく同じことを経済界や社会も求めている!!このことから、自分たちが掲げた目標は間違っていなかったんだ、という確信に近いものを感じました。

 でも、このような教育目標を掲げても、すぐさま大きな課題に直面します。その一つは、「感じる力」「考える力」「コミュニケーション力」「生きる力」というような抽象的な目標の達成度を、いったいどのように測定するのかという課題。もう一つは、ではどのような教育方法を採用すれば、このような4つの力が身につくのか、という課題です。

 考えてみれば、これは組織経営の基本中の基本となるあたりまえの話で、この2つが明確化されないことには、せっかくの教育目標が単なる棚の上の飾りになってしまいますし、来るべき評価に耐えることはできません。目標の明確化、目標達成度の測定、適切な方策の存在は、PDCAサイクルを回すための必要最低限の条件ですからね。しかし、これは言うはやさしくして、実行することにはたいへんな困難を伴いました。

 まず、4つの力の測定方法についてですが、実はどこにも、このような測定方法は書かれていませんでした。それで、4つの力の測定方法を独自に開発する必要に迫られました。私は、今は亡き教育学部の社会心理学者、廣岡秀一先生に頼んで、それを造ってもらったんです。廣岡先生は50歳の若さで、志半ばでガンに斃れられましたが、その後も、彼の研究室の皆さんが廣岡先生のご遺志を引き継いでご尽力くださいました。

http://www.mie-u.ac.jp/blog/2008/01/post-27.html

 次は、では、どのような教育方法を採用すれば、4つの力が身につくのか、という課題ですね。

 このような力を涵養するためには従来の教育方法だけでは限界があります。それで、私が医学部の教授をしていた時に医学部で始めたPBL (problem-based learning)という教育手法を、全学レベルでも導入して展開することにしました。(PBLはproject-based learningという意味もあります。)

 少人数のグループで、自主的にディスカッションやプレゼンテーションをしながら、さまざまな課題を学生自らが解決し、あるいは、力を合わせてプロジェクトを達成する。従来の座学ではなく、いわゆる構成主義的な授業と言われる教育手法ですね。多くの教育熱心な先生方にご協力いただき、毎年、共通教育を中心にPBL授業の実施率が上がっていきました。また、4つの力の修得をテーマにした、ユニークな初年次の導入教育も開始されました。

 このような努力の結果が、上にお示ししたグラフの右肩上がりのカーブに反映されているわけです。実は、最初は、まさかこのようにきれいに数値に反映されるとは予想しておらず、私にとっては驚きでした。

 努力すれば数値に反映され、数値の裏にはそれなりの努力がある!!

 何気ないほんの一つのグラフですが、その裏には、このように、いったん掲げた教育目標の達成に向かって、ぶれることなくコツコツと積み上げた、実に多くの三重大関係者の並々ならぬ努力が隠されているのです。

 けっこうやったじゃない三重大学。

 自画自賛になるかも知れませんが、多くの三重大関係者の皆さんのご尽力に改めて感謝を申し上げ、さらに、次のステップを目指してがんばっていただくことに、前三重大学長としてエールを送りたいと思います。

 最後になりましたが、すばらしい「紡ぐ」ダイジェスト版をまとめていただいた三重大学企画チームの職員の皆さん、ありがとう。

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国会で日本の高注目度論文数の国際シェア低下が取り上げられました。

2012年04月05日 | 科学

 4月3日の15時ころ、参議院予算委員会でみんなの等の柴田巧議員が日本の科学技術政策に関連して科研費の基金化や留学生30万人計画等について質問をされ、その中で、私のブログ等で何度もご紹介しました高注目度論文の国際シェア低下も取り上げられました。

 ある情報では、柴田議員の質問の元になった資料の一つとして、私の昨年7月4日付けの日経新聞記事「質の高い論文、日本シェア低下。イノベーション力強化急務。研究に数値目標設定、人員・時間の確保を」があるようです。


 国会議員の先生が、このような、どちらかというと地味な記事に注目され、わが国の研究や科学技術の国際競争力が低下していることに懸念を表明されたことは、ほんとうに良かったと思います。そもそもこの種のテーマは選挙の票集めにはあまり結び付かないと感じられますので、注目する政治家の先生も少ないのではないかと思います。

 より正確な質疑の内容は、議事録が公開されてからご覧いただくとして、現在の情報からは、私の日経記事に関連する柴田議員の質問の大筋としては、以下の3つだったようです。(文言は実際の質問とは異なり、正確ではありません。)

 1.高注目度論文(被引用数が多い論文)の国際シェアが低下傾向にあり、これはイノベーションを図る目安とされており、大変危機感をもっているが、この要因をどのように分析しておられるか?

2.国立大学の運営費交付金削減等によって教員数や研究時間という研究インフラが大きく傷ついたことが国際シェアの低下している一つの要因と考えられる。国としてもどの程度日本としての国際シェアを維持していくのかという数値目標を持って、大学や研究機関の教員が研究時間や人員を確保できるような政策的支援が必要と思われるが、いかがか?

3.高注目度論文で苦戦しているのは地方の国立大学で、経費節減や外部資金獲得に努力しているが限界に達しつつある。国立大学の運営費交付金などが減らされることが日本全体のイノベーション力の低下につながると同時に、地域産業にも大きなダメージを与えるので、地方の国立大学の研究活動に支障を来さないような支援を行うことが必要がと思うが、いかがか?

 これは、日経新聞やブログで、まさに私が主張していることそのものです。私に代わって柴田先生に質問をしていただいたという感じがします。ちなみに、柴田議員と私とは全く面識がなく、連絡をさせていただいたことないのですが・・・。

 柴田議員の質問に対して平野博文文部科学大臣が答弁されていますが、その趣旨は以下のような内容だったようです。(文言は実際の答弁とは異なり、正確ではありません)

 1.日本は研究の国際化に十分に対応できていないということが一つであり、被引用数が高い傾向にある国際社会における共著論文の割合が少ない。もう一つは、わが国は約4~5兆円を投入しての研究開発だが、それぞれの国を比較すると、わが国の3倍くらいの資金を投入しており、このことについてもその要因がある。

2.大学への支援は、毎年度運営費交付金を渡すということだけではなく、目標と成果を明確にした制度設計をつくっていかねばならない。第四期科学技術基本計画の中にしっかりとした目標を立てるように具体的に仕掛けていきたい。

3.地域の活力をいただくための大学については、選択と集中という意味でより積極的に支援をしていく。特徴のある大学になっていってもらい、その結果地域が産官学を含めて結束をしていくプロセスで支援していきたい。運営費交付金は減っているが、大学の改革強化事業として138億円をお願いしている。

 今回、”被引用数”や”高注目度論文”などという言葉が国会審議の中で交わされることになったことは、ちょっとびっくりですね。”高注目度論文”という言葉は、昨年、私が日経新聞の記事を書くにあたって、文科省の科学技術政策研究所の阪 彩香さん(主任研究官)と相談して、私が勝手に使い始めた造語なんです。

 でも、私が注目するのは、平野文部科学大臣の答弁の中で、高注目度論文数の国際シェア低下の要因の一つとして、わが国の政府支出研究費の総額が、海外に比べて少ないという認識を示されたことです。しかも、これを財務大臣がお聞きになっている場で答弁されました。

 政府支出研究費総額が低いこと、そして総額を確保しないことには始まらないことは、私がブログでしつこく主張していることですね。

 もちろん、政府支出研究費が少ないことを大臣が認識されても、この財政難の時に研究費が増額されることは困難だとは思いますが、まずは、この現実を認識していただくことが大切であると思います。

 それにしても、新聞記事やブログなどに情報を発信することは、ほんとうに大切なことだと再認識しました。夥しい情報の渦の中で、ほとんどは流されて、忘れ去られていくんでしょうけれども、今回わずかでも政策を決定する場で内容が審議されたことについては、ほんとうにうれしく思います。

 そして、情報発信の時には、きちんと根拠となる数値を示すということが、とっても大切だと改めて感じました。夥しい記事やブログの中で残るものは、結局は根拠データに基いた情報なのではないかと思います。

 私が記事やブログを書くにあたっては、可能な場合はできるだけ根拠となるデータを示すように心がけたつもりです。そのためにブログがけっこう重いものになってしまい、ブログらしくなくなってしまうのですが、それでもその方が良かったと、今となっては感じています。


 

 

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全国初の自治体病院と私立病院の統合プロジェクト:地方独立行政法人「桑名市総合医療センター」への期待

2012年04月02日 | 医療

 昨日の日曜日(平成24年4月1日)に、地方独立行政法人桑名市民病院と私立山本総合病院が統合され、地方独立行政法人「桑名市総合医療センター」として出発する設立式が三重県桑名市でありました。私は、現在の職に就く前の平成21年に、桑名市民病院が独立行政法人化された時から評価委員会の委員長を務めている関係で、この歴史的な設立式に招かれました。

 自治体病院と私立病院の総合は、おそらく全国で初めてのケースと思われ、成功すれば、今後の地域医療の再編統合のモデルケースになるかもしれず、また、全国的に注目されているので、ブログの読者の皆さんにもご報告しておきます。

 桑名市民病院は昭和41年4月23日に開院。平成21年10月1日に地方独立行政法人桑名市民病院となり(病床数234床)、あわせて医療法人和心会平田循環器病院(病床数79床)と再編統合を行い、桑名市民病院分院を開院しています。この時点で自治体病院と私立病院の統合がなされたことにはなりますが、それは、まだ完成形ではありませんでした。

 山本総合病院(病床数349床)は、昭和20年に前身の山本病院として開院。今回、事実上3つの病院が統合されて「桑名市総合医療センター」が設立されたことになります。平成27年に新病院が建設されて物理的に一か所になるまでは、それぞれ西医療センター、南医療センター、東医療センターと称して、現在の病院で診療を続けます。

 この歴史的な公私病院の統合案は、平成18年に「桑名市民病院あり方検討委員会」の答申に始まります。病院が、全国の多くの自治体病院と同様に、慢性的な赤字であったことや、市民の要望に応えられない機能低下を起こしていたことが、検討委員会が設置された理由です。その案では400床規模の二次医療が可能な自己完結型の急性期病院の早期実現が強く望まれており、それは事実上、桑名市民病院と山本総合病院の統合を念頭においたものであったと思われます。

 両病院へは三重大から医師が供給されていましたが、三重大の方も、平成16年の卒後臨床研修制度導入等もあって研修医の確保に苦しみ、地域病院への医師供給不足が問題化しつつありました。私の専門の産婦人科についても、医師不足から十分な医師を供給できす、両病院とも分娩の取り扱いができなくなっていました。大学からの医師供給の面では、中途半端な規模の二つの病院へそれぞれ医師を供給するよりも、統合した適正規模の病院に医師を供給する方が、はるかに供給しやすいのです。2病院が統合すれば、分娩の取り扱いを再開できる可能性が出てきます。

 しかし、公私病院の統合という歴史的な病院再編の試みは、そんなに事がうまく運びませんでした。ちょっと考えただけでも、いろいろと難しいハードルがあるので、当然と言えば当然のことかも知れません。今までに、少なくとも2回、統合交渉が決裂し、白紙撤回がなされています。

 私が平成21年に桑名市民病院の独立行政法人化に際して評価委員会の委員長をお受けしたのは、2回目の白紙撤回なされた頃だったと思います。当初の評価委員会のメンバーは、桑名市医師会長、桑名市商工会議所会頭、三重大学胸部外科教授、公認会計士と、私でした。

 評価委員会の主な仕事は、独法の中期目標・中期計画の妥当性およびその達成度の評価なので、病院統合の是非を云々する権限はもとよりありません。しかし、いざ評価委員会を開催してみると、委員の皆さんから、この人口約15万人、周辺人口約25万人である桑名地域で、2つの病院が統合せずして、市民が期待する医療は提供できない、という意見がさっそく出されました。特に、前桑名医師会長の伊藤勉氏は強く統合を主張されました。

 医師会は、市民病院建設に対しては反対をしてきた歴史があります。日本の医療供給システムでは、欧米とは異なり、開業医と病院が患者を取り合って競合する仕組みになっていたので、医師会は市民病院の建設に反対するか、または、競合しない医療を要求し、立地場所も市街から離れた不便なところが多かったように思います。桑名市民病院もその例にもれず、立地場所は桑名駅から離れた、やや交通の不便なところにあります。多くの自治体病院が赤字である理由の一部は、そのような歴史の影響を引きずっている面もあるかもしれません。

 桑名医師会長が統合を強く主張されたことは、昔ならば大きなハードルであったものが今では存在しないことを意味します。私は、開業医と病院が競合関係ではなく、実質的な機能分担と連携をする時代にいよいよなってきたなと、時代の変化を感じました。

 さて、評価委員会は公開でなされており、傍聴席にはいつも一般市民や市会議員さんたちが聞いておられます。しかし、私も含めて委員の皆さんは、公開であることはまったく気にも留めず、歯に衣を着せずにどんどんと自分の意見をおっしゃいます。病院側や桑名市側からの、いわゆる形だけの言い訳的に聞こえる答弁については、委員から厳しい反応が出ることもあります。

 中期目標・計画についての議論ももちろんするわけですが、委員の皆さんからは権限を逸脱しているかもしれないと承知しつつも、統合問題についても意見が出てきます。それで、最終的な評価委員会の報告書とは別に、400床規模の2次医療を自己完結できる病院にするべきであるという主旨、つまり統合するべきであるという主旨を書いた付帯意見書を私が取りまとめて、市長に提出することにしました。

 傍聴していたある市会議員さんから、評価委員会が終わった後で、「皆さんの議論を聞いて、やっぱり統合しないといけないことがよくわかりました。議員としてもなんとかがんばります。」というご意見をいただきました。

 評価委員会の進言に対して、当時の水谷元市長は「私も統合した方が良いに決まっていると思うんですが、難しいハードルがあり、なかなかうまくいかないんです。」とこぼしておられました。

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平成21年 8月28日

桑名市長   

水谷 元 様

 

 

地方独立行政法人桑名市民病院評価委員会

委員長 豊田長康

 

付帯意見書

 

 地方独立行政法人桑名市民病院評価委員会は、桑名市民病院の地方独立行政法人化に向けて、中期目標(案)・中期計画(案)について検討してきたが、委員から、桑名市民病院の現体制の下で中期目標・中期計画を策定し、病院の改善を行ったとしても、桑名市民にとって真に必要な病院にはなりえないという、桑名市の医療供給体制そのものに対して深刻に憂慮する意見が出されたので、その要点を付帯意見書として取りまとめた。なお、本評価委員会は桑名市民病院の現体制における中期目標・中期計画の妥当性およびその達成度の可否について判断する立場であり、桑名市民病院のあり方そのものに係る意思決定の是非について判断する立場ではないが、各委員は桑名市民にとって真に必要な医療供給体制がどうあるべきかという高い見地にもとづいて真摯に審議してきたことから、あえて付帯意見を述べるものである。

 

1.桑名市民病院の地方独立行政法人化は、桑名市民病院あり方委員会の答申書(平成18年8月)の趣旨を受けて、400床前後で二次医療が可能な自己完結型の急性期病院の実現を最終的な目標とし、中期目標・中期計画の策定は、その実現に向けての過程であると認識する。本評価委員会は、桑名市民病院あり方委員会の見解と同じく、桑名市民にとって、二次医療が可能な自己完結型の急性期病院の実現が必要不可欠であると考える。

 

2.二次医療が可能な自己完結型の急性期病院の実現は、桑名市民病院と医療法人平田循環器病院との合併だけでは不可能であり、他の医療機関との合併も含めて、実現するための方策を今後も継続的に模索するべきである。桑名市民病院の現体制のもとで中期目標・中期計画を策定し、病院の改善を行ったとしても、桑名市民にとって真に必要な二次医療が可能な自己完結型の急性期病院にはなりえないと考える。

以上

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 この後の動きについては、評価委員会は直接は関知していませんが、桑名市の市会議員の皆さんが、自治体病院の経営改革では有名な長隆(おさ たかし)氏(国の仕分け人のお一人)を呼んで勉強会を開催され、桑名市も、さまざまなハードルを乗り越え再々度統合を検討すべきという大きな流れになっていきます。国会議員の先生方、国の関係省庁、三重県、三重大学、その他多くの関係者を動かし、遂に平成23年12月に正式に桑名市民病院と山本総合病院の統合が調印され、今回の4月1日の設立式を迎えることになりました。

 水谷元市長がご挨拶の中で、「設立式冒頭で行われた除幕式で紐を引っ張ったけれども、なかなか幕を引き下ろすことができず、この統合が一筋縄でいかなかったことを象徴している。NHKのプロジェクトXでも取り上げて欲しいくらいだ。」とおっしゃったことが印象的でした。

 この公私病院統合“プロジェクトX”は、実に多くの方々の熱意、貢献、協力のもとで、数回にわたる挫折を乗り越えて実現しました。おそらく私が知らない苦労や苦渋の決断も多々あったことと思います。その“プロジェクトX”の一端に評価委員会も関わらせていただいたことを、たいへんうれしく思っています。

 公私統合した「桑名市総合医療センター」の本当の試練はこれからであり、今から統合に関わって発生する具体的な問題を一つ一つ解決していく必要があります。

 また、私の最近のブログで、大学病院についてのシリーズを12回にわたってお話しましたが、このような地域医療の問題は大学病院のあり方や機能(教育・研究面も含めて)と深く関わっており、また、私が現在所属する機関の国立大学病院貸付業務の一環として行ってきた病院経営の調査・分析が大いに役に立ちます。

 私は、この大学病院の経営を調査・分析してきた経験を生かしながら、公私統合後の自治体病院の経営がうまくいくように、評価委員会を通じて引き続き歯に衣を着せない意見を述べていきたいと思っています。

 

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