ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

果たして競争的・重点的資源配分(選択と集中)は生産性を上げるか?(国大協報告書草案28)

2014年12月29日 | 高等教育

 今回は、文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)による「科学研究費助成事業データベース(KAKEN)と論文データベース(Web of Science)の連結によるデータ分析」をご紹介します。このデータは、科学研究費の配分について、競争的資源配分および重点化配分(選択と集中)の問題点について、おそらく初めての科学的根拠を示しています。この意味で、非常に重要なデータであり、科学研究費のみならず、経営学一般においても重要な意味を持っているものと思います。

 実は、2012年に内閣府の総合科学技術会議の下に「基礎研究及び人材育成部会」という会議があり、僕もその委員の一人として参加させていただきました。その12月にまとめられた「中間とりまとめ」は内閣府のHP上で見ることができます。この審議会での論点の一つとして、科学研究費補助事業(科研費)のあり方が取り上げられ、科研費を増やしているにも関わらず、日本の学術論文数がが停滞していることが問題にされました。とくに基盤研究(C)のような、広く浅く研究費を配分している研究種目が批判の対象となり、あり方を見直すべきということが書かれています。僕は、まず、学術論文数は研究費と相関すること、そして、科研費を増やしたとしても、国立大学の運営費交付金は削減されているので、相殺されて学術論文数が増えないことは当然であることを意見として述べました。しかし、僕の発言は、選択と集中主義論者の多い中で、怪訝な顔をして見られたように感じています。

 この他、中間とりまとめには、研究大学の重点化や大学の部局ごとの新たな会計システム(管理会計とのことです)の導入など、僕個人としてはあまり賛成できない論点が含まれており、疑義を申し立てたのですが、申し立てた時期が遅く、時間切れということでほとんど採用されずに、「中間とりまとめ」が作成されています。この中間とりまとめを読まれた方は、僕が委員の一人として入っていますが、必ずしも賛成ではなかったことをご理解いただきたいと思います。

 その、数か月後の2013年の3月6日の科学技術・学術審議会第7期研究費部会の資料として、今回ご紹介するNISTEPの研究結果が提示されています。当時のNISTEPの所長であった桑原輝隆さんが、このデータでもって、現行の科研費のあり方を変える必要のないことを省内に説明して回られたとうかがっています。科研費の在り方が変えられようとしていた矢先に、間一髪のタイミングでこのデータが出て、間違った方向で科研費のあり方が変えられることを防ぐことができたものと思っています。

 それにしても、このような膨大、かつ画期的なデータをおまとめになったNISTEPの研究員の皆さんに敬意を表したいと思います。この分析結果は、ようやく、近々正式の報告書として公表されるということです。

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6.科学研究費(科研費)と論文数の関係性についての分析

1)文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)による「科学研究費助成事業データベース(KAKEN)と論文データベース(Web of Science)の連結によるデータ分析」より

 ここでは、文部科学省科学技術・学術政策研究所によってなされた、「科学研究費助成事業データベース(KAKEN)と論文データベース(Web of Science)の連結によるデータ分析」(桑原輝隆)から、当該研究所の許可を得て、一部のデータを引用し、本報告書なりの表現でもって提示するものである。以下、「NISTEPによるKAKEN-WoS連結分析」と略す。なお、本報告書が分析をしているInCites™もWeb of Science(WoS)のデータベースに基づいている。

 この研究結果の要旨は、科学技術・学術審議会第7期研究費部会第一回(2013年3月6日)の資料4として、ウェブ上で公開されている。ただし、本資料には「取扱注意(途中結果であり、最終的な結果が変わる可能性があります。)」の但し書きがある。本研究は、近々、正式の報告書として公表される予定とのことであるが、基本的な結論は変わらないとのことである(私信による)。

 本研究の主な留意点を以下に示す。

(1)WoS論文でKAKEN成果とマッチングしなかった論文を「WoS-非KAKEN論文」、WoS論文でKAKEN成果とマッチングした論文を「WoS-KAKEN論文」、WoS未収録論文等を「非WoS-KAKEN論文」と呼称。

(2)1996~2008年のWeb of Scienceに収載されている論文(以下WoS論文)について分析。

(3)WoS論文は人文・社会科学系分野を除き、自然科学系分野の論文を分析。

(4)論文数は整数カウント法。


<パート1>日本の論文におけるKAKEN論文の状況分析

 図表III-94には科研費の研究課題数の推移が示されており、III-95には直接経費総額の推移が示されている。研究課題数は増えているが、直接経費は2004~2009年の間はほぼ横ばいとなっている。

 図表III-96から、WoS-KAKEN論文数は2000~2005年にかけて増えていることがわかる。WoS-非KAKEN論文は、やや減少傾向にあることが伺える。

 NISTEPによるKAKEN-WoS連結分析には、主要40大学についてのデータが掲載されているので、それを、本報告書の前節と同様の大学群に分け(図表III-97)、グラフ化した。

 図表III-98は、大学群別のWoS論文数の推移である。つまり、本報告書で検討してきたInCites™による論文数と基本的に同じ性格の論文数であるが、人文学・社会科学論文が除かれている。今までの本報告書の分析結果と同様に、私立大学は増加し続けているが、他の大学群では近年停滞傾向を示している。

 なお、国立医無群、つまり医学部を有さない国立大学群で比較的高い値を示しているのは、東京工業大学という非常に論文数の多い大学と東京農工大学の2大学だけしか含まれていないからである。必ずしも国立医無群全体の動向を示しているとは限らないことに留意する必要がある。また、私立大学についても、一部の有力私立大学に限られたデータであることに留意する必要がある。

 図表III-99は、WoS-KAKEN論文数、つまり、Web of Scienceの論文データベースに収載されている論文の中で、科学研究費助成事業(科研費)と関連付けられる論文数の推移が示されている。WoS-KAKEN論文数については、各大学群とも増加を続けている。

 図表III-100は、WoS-非KAKEN論文数、つまりWeb of Scienceの論文データベースに収載されているが、科学研究費助成事業(科研費)とは無関係の論文数の推移が示されている。私立大学については継続的に増加しているが、他の大学群は減少している。

 図表III-101は、WoS論文数に対するWoS-KAKEN論文数の割合を大学群別に示したグラフである。各大学群ともWoS-KAKEN論文数の比率が上昇している。これは、論文産出において、科学研究費助成事業(科研費)の比重が高まりつつあることを示していると考えられる。

 図表III-102~III-104は、図表III-98~III-100について1996-1998年値を基準とする比率で表現したグラフである。

 図表III-102のWoS論文の推移では、私立大学および医学部を有する大規模国立大学は継続的に増加しているが、他の群は頭打ちとなっていることがわかる。なお、医学部を有する中規模大学は早期に増加率が鈍化していることもわかる。

 図表III-103 のWoS-KAKEN論文数の推移では、すべての大学群が増加を示している。ただ、私立大学が最も順調な増加率を示しており、医学部を有する中規模国立大学群については、近年の増加率がやや鈍化しつつある。

 図表III-104のWoS-非KAKEN論文数の推移では、私立大学群だけが継続的に増加しているが、他の大学群では2001-2003年以降腰折れを起こして減少に転じている。中でも、医学部を有する中規模国立大学は、早期から減少している。

 

<パート2>WoS-KAKEN論文の特徴と生産性分析

 図表III-105,III-106には、論文生産性の分析上の留意点が説明されている。

 図表III-107には研究課題当りの直接経費、III-108には研究課題数、III-109には直接経費総額が示されている。研究種目は、課題あたりの直接経費の多い順に左から並べた。

 図表III-110 ~III-112には、研究課題あたりのWoS-KAKEN論文数、被引用数トップ10%のWoS-KAKEN論文数、および被引用数トップ1%のWoS-KAKEN論文数が示されている。重点配分がなされる基盤研究(A)、基盤研究(B)、若手研究(A)(S)で高い値となっている。


 図表III-110  

 図表III-113~III-115には、直接経費1000万円あたりのWoS-KAKEN論文数、被引用数トップ10%のWoS-KAKEN論文数、および被引用数トップ1%のWoS-KAKEN論文数が示されている。研究課題あたり論文数とは逆に、少額配分する基盤研究(C)、挑戦的萌芽研究系、若手研究(B)、研究活動スタート支援系統で、高くなっている。

 

 

<含意>

 文部科学省科学技術・学術政策研究所による「科学研究費助成事業データベース(KAKEN)と論文データベース(Web of Science)の連結によるデータ分析」(以下NISTEPによるKAKEN-WoS連結分析)は、最近の日本の学術論文数からみた国際競争力の低下、および、学術論文の生産性(productivity)について貴重なデータを提供し、国の科学技術政策の意思決定に対しても影響を与える重要な研究であると考える。今回は、当該研究所の許可を得て、当該研究の膨大なデータ分析の一部について、本報告書なりの表現方法でもって、提示したものである。

 まず、NISTEPによるKAKEN-WoS連結分析におけるパート1「日本の論文におけるKAKEN論文の状況分析」の意義としては、日本の政策決定者の中に、最近の日本の学術論文数の停滞と国際競争力の低下に対して、科研費を増額しているのにもかかわらず効果がない、との見解があったことに対して、効果があることを明確に示したことである。どの大学群においても、各群で多少の差はあるものの、科研費に関連する学術論文数は増えていた。

 顕著に減少していたのは、国公立大学における科研費に直接関係のない学術論文数である。科研費に関係のない学術論文数(WoS-非KAKEN論文数)減少の原因としてまず考えられるのは、大学に対する基盤的研究資金(基盤的運営費交付金)の減少である。これは、2004年の国立大学法人化以前から始まっており、法人化後も継続的に続けられている。基盤的研究資金(基盤的運営費交付金)が削減されると、まず、それまで各学部・学科を通じて各研究室に配分されていた研究費(講座研究費等)が削減され、さらに、教員数が削減される。企業等との共同研究で研究費が十分確保できなければ、WoS-非KAKEN論文数は減少することになる。

 また、基盤的研究資金(基盤的運営費交付金)が削減されれば、まずは講座研究費等の減額によりWoS-非KAKEN論文数が減少するが、教員数の削減に至れば、科研費等の競争的研究資金の獲得にも影響すると考えられ、WoS-KAKEN論文数にも影響すると考えられる。国公立大学のWoS-KAKEN論文数の伸びが有力私立大学に比較して低いことも、基盤的研究資金(基盤的運営費交付金)の削減の影響であることが推測される。

 基盤的研究資金を削減し、それを競争的研究資金に移行させれば、学術論文数が増える(研究機能が向上する)という単純な競争原理主義にもとづく政策が間違いであることを、このデータは示している。なお、有力私立大学においても今後教員数の削減に至れば、国公立大学と同様の研究力の低下を来たすものと推測される。

 

 次に、NISTEPによるKAKEN-WoS連結分析におけるパート2「WoS-KAKEN論文の特徴と生産性分析」は、安易な重点化(選択と集中)政策に対して警鐘を鳴らすデータである。

 科研費の各研究種目には、重点化(選択と集中)する形で、比較的限られた数の課題に対して多額の研究費を配分する種目(基盤研究S,A,Bなど)と、広く少額の研究費を配分する種目(基盤研究Cなど)がある。NISTEPによるKAKEN-WoS連結分析では、それらの生産性が分析されている。研究課題あたりの論文数、あるいは被引用数の多い高注目度論文(トップ10%あるいはトップ1%論文)の数においては、重点化(選択と集中)をして配分する研究種目の方が多かった。しかし、研究費総額あたりの論文生産性については、少額の研究費を広く配分する研究種目(基盤研究Cなど)の方が高かったのである。

 このデータは、重点化(選択を集中)をすれば、質の高い(高注目度の)論文数が増えるという、単純なロジックが必ずしも正しくないこと、そして、むしろ、浅く広く「ばらまき」に近い配分の方が、総体としては質も含めた生産性が高い結果をもたらしうることを示唆するものである。もっとも、基盤研究Cは、「浅く広く」配分する研究費ではあるが、その競争率は3倍以上もあり、単純な「ばらまき」とは言えないかもしれない。

 いずれにせよ、このデータは、ばらまきはすべて悪であり、重点化(「選択と集中」、「メリハリをつけた配分」、「戦略的な配分」等の数多くの表現がある)をしさえすればよいという安易な重点化(選択と集中)至上主義にもとづく政策決定に警鐘をならすものであると考えられる。

 重点化(選択と集中)政策により資源を特定の部門や分野に集中しすぎれば、収穫逓減の法則により生産性が低下することは経済学が教えるところである。本来「重点化(選択と集中)」は、あるいは管理会計にもとづく資源配分は、基本的には生産性の高い部門に資源を集中するべきであり、その意味では「基盤研究(C)」という「ばらまき」に近い型の配分に対して、もっと資源を"集中"するべきであるという考えも成り立つのである。

 

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国立大学間の格差はいつごろから拡大したのか?(国大協報告草案27)

2014年12月27日 | 高等教育

 今日は大学の仕事おさめでしたが、僕の方は、お正月返上で国立大学協会の報告書作成です。ちなみに今は夜中の3時です。

 今回は、国立大学間の格差拡大がテーマです。僕の前任の三重大学長であった矢谷先生(1998~2004)の口癖は、三重大学が大学院重点化にもれたことが、とてつもなくくやしい、ということでした。大学院重点化は、一部の上位大学だけに予算化されて大学院の学生定員が大幅に増やされるとともに、教員数が増やされましたが、多くの中小規模あるいは地方の国立大学では認められませんでした。

 上位大学に追いつけ追い越せとがんばってきた多くの地方大学は、国の政策によって突き放されることになり、矢谷元学長だけではなく、多くの地方国立大学の学長先生が同じように悔しい思いをしたことであると思います。

 大学院重点化に際して、教員の所属する本籍が学部から大学院に移され(大学院の部局化)、一般の国民には分かりにくい長たらしい名称が冠されました。重点化が認められなかった多くの大学では、上位大学に倣って、大学院の部局化と分かりにくい長たらしい名称への変更という、あまり本質的な意味があるとは思えない空しいいとなみだけをすることになりました。

 ニュースなどで、長たらしく仰々しい名前が冠された大学院教授が紹介されるたびに、矢谷元三重大学長の口惜しさのにじんだ言葉が思い出されます。

 今日は、このような国立大学間の格差拡大がテーマです。ちょっとブログが膨大になりすぎましたので、一部のスライドを最後にもっていきました。

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5.学術論文産生(または国際競争力)についての国立大学間格差拡大について

 先に、大学の類型別および学術分野別の論文数の推移について検討したところであるが、本節では、国立大学における格差拡大の視点から、大学群別および学術分野別に論文数および国際競争力の推移を検討し、統計学的分析を行なった。

1)比較検討する大学群および分析方法

 今回、比較検討した71国立大学の群分けとしては、図表III-10の国立大学の類型別分類において、医学部を有する大規模総合大学および東京医科歯科大学を「医学部を有する大規模大学」(国立医有大、n=14)、医学部を有する中規模総合大学および東京医科歯科大学以外の3単科医科大学を「医学部を有する中規模大学」(国立医有中、n=28)とし、その他を「医学部を有さない大学」(国立医無、n=29)として、3大学群を比較検討した。

 同時に、国立大学、公立大学、私立大学という枠組みでも群間比較を行った。

 なお、医学部を有する国立大学の中での大規模大学と中規模大学の区別は、2000~2012年にかけての全分野論文数(3年平均値)が上位14位か15位以下であるかによって行った。東京医科歯科大学については、全分野論文数が14位に入るのは2008年以降であるが、臨床医学および生命科学分野の論文については、それ以前から旧帝大に次ぐ多さであり、大規模大学に含めることが妥当と判断した。

 医学部を有さない国立大学を、大規模大学とそれ以外に分けることについては、東京工業大学の論文数が突出しており、1大規模大学とその他の大学という群分けになるため、分けずに一括して分析した。ただし、東京工業大学を除外して分析しても、統計学的分析の結果は変わらなかった。

 また、大学院大学の中で総合研究大学院大学(GRAD UNIV ADV STUDIES)は、18の大学共同研究利用機関等をキャンパスとする大学院大学であり、他の大学および大学院大学とシステムが大きく異なるため、今後の各種の分析において除外することとした。

 大学群間格差は、2000年と2012年の論文数の比率(2012年値/2000年値、いずれも3年平均値)で検討することとした。

 また、前節で検討した、成熟主要国家の論文数との比率(国際競争力)をとる方が、カーブが滑らかとなるため(データベースへの収載学術誌の取捨選択等の外部要因の影響が小さくなると考えられる)、G7の6か国(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、イギリス、米国)の人口百万当り論文数の平均値に対する割合を求めて、その推移を比較することとした。2000年と2012年の国際競争力の比率(2012年値/2000年値)について、大学群間で統計学的分析を行なった。

 なお、論文数を用いた場合も、国際競争力を用いた場合も、2012年値/2000年値の比率の大学群間統計学的分析の結果は同様であり、結論は変わらなかった。

 統計学的分析は、比較する集団の正規性および等分散性が得られる場合は、一元配置分散分析およびpooled t 検定、いずれかが得られない場合は、Kruskal-Wallis検定およびjoint Wilcoxon検定を用い、危険率5%以下をもって統計学的に有意とした。

 

 また、図表III-68は、各大学の2004年の論文数(生命科学分野)と2000年~2012年にかけての論文数の増加率(%)の相関を示した図であるが、論文数50未満の大学群では変動が大きくなり、統計学的分析に影響を与えうると判断されたため、2004年~2008年の間に年間論文数(3年平均値)が50に達しない大学は、統計学的分析から除外することとした。この原則を、各学術分野別の大学群間比較においても適用したため、学術分野ごとに比較する大学の構成が異なることとなった。

 

2)各大学群における長期的な学術論文数、2000年を基準とする論文数比率、および論文数シェアの推移

 図表III-69およびIII-70は1982年から2012年の30年間の学術論文数の推移を、それぞれ国公私立大学群、および、3国立大学群(医学部を有する大規模大学、医学部を有する中規模大学、医学部を有しない大学)について、示したグラフである。

 

 まず、国公私立大学の中では、国立大学群が最も多く論文数を産生しており、また、国立大学群の中では、医学部を有する大規模大学群が最も多数の論文を産生していることがわかる。

 

 論文数の推移をみると、図表III-69では、国立大学および公立大学が最近の約10年間停滞傾向を示しているのに対して、私立大学は増加を続けている。また、図表III-70からは、国立大学の各群とも最近の約10年間は停滞しているが、その腰折れの時期や程度が異なっていることがわかる。

 この最近10年間ほどの各大学群の論文数の変動の違いは、2000年を基準とする比率で表現すると、より明確になる。

 国公私立大学の比較(図表III-71)では、国公立大学が腰折れをしているのに対して、私立大学は直線的に論文数を増やしていることがわかる。

 国立大学の3群間では(図表III-72)、医学部を有する中規模大学が、まず2000年頃に腰折れを起こして大規模大学との間に格差が拡大し、医学部を有しない大学は、それに遅れて2004年頃に腰折れを起こし、大規模大学との間に格差が拡大したことが伺える。

 また、図表III-72から、2000年頃までは医学部を有する中規模大学および医学部を有さない大学は、医学部を有する大規模大学よりも急速に論文数を増加させていることがわかる。

 これらの変化は、論文数の大学群間シェアの変化にも反映される。図表III-73は、各大学群のシェアの推移を示したものであるが、医学部を有する大規模国立大学は2000年頃までシェアを落として、その後はほぼ一定となっている。医学部を有する中規模国立大学は2000年頃までシェアを徐々に増やしてきたが2000年頃からシェアを減らし、医学部を有さない国立大学も2004年ころからシェアを減らしていることが読み取れる。私立大学は徐々にシェアを増やしている。

 図III-72~III-74は、それを円グラフで示したものである。(本節の最後に移した)

 

3)論文産生能力(国際競争力)についての国立大学群間格差の検討

 まず、全分野論文数について検討したが、その際、先にも述べたように総合研究大学院大学および2004~2008年の間の年間論文数が50に満たない大学を除外した。その結果、医学部を有さない国立大学が3大学減となって26大学、私立大学が1大学減って78大学となった。

 この構成でもって、各群に含まれる大学の平均論文数、および、国際競争力の推移を図表III-77およびIII-78に示した。

 そして、国際競争力の2000年値を基準とする比率の推移を示したグラフが図表III-79である。この2012年値について統計学的検討を行なった。

 

 同様に各学術分野(工学系、生命科学系、臨床医学、農学・理学・社会科学系)においても、国際競争力の2000年値に対する2012年値の比率でもって、各大学群間の有意差検定を行った。それを図表III-80とIII-81にまとめた。

 

 各学術分野において、論文数に基づいて除外する大学数が異なるので、学術分野ごとに各群を構成する大学数が異なることに留意されたい。つまり、例えば、医学部を有する大規模国立大学と中規模国立大学について、臨床医学の比較の場合はn=14とn=28の比較になるが、農学・理学・社会科学系の論文数を比較する場合には、n=13とn=18の比較になるので、必ずしも同じ集団の比較をしていることにはならない。

 学術分野別の分析において、農学・理学・社会科学系を1つに括った理由は、それぞれで分析しようとすると2004~2008年の間に50以上の論文数を産生している大学が少なく、統計学的検討が困難になることによる(例えば社会科学系では全体で6大学程度しかない)。

 また、図表III-77およびIII-78の棒グラフの数値は、集団が正規分布をして等分散性である場合(臨床医学における国立大学群間比較の場合)は平均値を示したが、それ以外は中央値であることに留意されたい。例えば全分野論文数における国際競争力の2000-2012年の比率について、図表III-79のグラフの値(平均値)と、図表III-77およびIII-78の値(中央値)とは一致しない。

 

 まず、国公私立大学間の全分野論文数における国際競争力の2000-2012年比率については(図表III-77)、私立大学が国立大学に比較して有意に高い値であった。なお、私立大学と公立大学の間には有意差は認められなかった。学術分野別では臨床医学において、私立大学は国立大学および公立大学に比較して有意に高かった。私立大学の臨床医学論文産生の国際競争力は2000年-2012年の比率がほぼ「1」であり、この12年間ほぼ同程度の国際競争力を維持していると考えられる。

 なお、農学・理学・社会科学系分野においても、私立大学は国立大学および公立大学に比較して有意に高い値であったが、公立大学が3大学、私立大学が7大学という群間の比較であるので、解釈には注意を有すると思われる。

 国立大学群間の比較においては(図表III-78)、医学部を有する大学規模大学は、国際競争力の2000-2012年比率について、全分野、工学系、生命科学系、および臨床医学の各分野について、中規模大学よりも統計学的に有意に高い値であり、また、全分野および工学系分野において、医学部を有さない大学よりも有意に高い値であった。農学・理学・社会科学分野については、3つの国立大学群間に有意差は認められなかった。

 なお、各学術分野における、各大学群の平均論文数、国際競争力、2000年を基準とする国際競争力の比率の推移について、図表III-82~図表III-93に示した。(この節の最後に移した)

 

<含意>

 今回は、国立大学間の格差の変化という視点から、2000年から2012年にかけての大学群間の論文産生能(国際競争力)の変化について検討した。

 その結果、医学部を有する大規模国立大学と、それ以外の国立大学の間には、論文産生能(国際競争力)について、2000年から2012年にかけて格差が拡大したことを示唆する結果が得られた。

 1982年から30年間の論文数の推移をみると、2000年頃までは、大規模大学以外の大学群の方が早い速度で論文数を増やし、当初から存在した大きな格差を若干縮めている。しかし、2000年頃以降に腰折れを起こし、あるいは、腰折れを起こさせられて、再び大規模大学との格差が開いてしまった。一生懸命、大規模大学に追いつけとばかりに頑張ってきた中・小規模あるいは地方国立大学の悲哀を感じさせるデータである。

 医学部を有する中規模国立大学と医学部を有さない国立大学とでは、格差拡大のパターンにやや異なる傾向が観察され、両群とも2000年頃までは、医学部を有する大規模国立大学よりも早い速度で論文数を増やしてきたが、まず、医学部を有する中規模大学が2000年頃から腰折れを呈し、それにやや遅れて医学部を有さない国立大学が腰折れを起こす形で、大規模大学との格差が拡大した。

 格差拡大は、学術分野の違いによってもやや異なり、医学部を有する中規模国立大学においては、全分野、工学系、生命科学系、臨床医学の各分野において、また、医学部を有さない国立大学においては、全分野および工学系分野において大規模大学との格差が有意に拡大した。ただし、農学・理学・社会科学分野においては、格差拡大は観察されなかった。

 工学系、生命科学系、臨床医学の分野の論文数は、全体の論文数の約80%を占めており、これらの分野における格差拡大が、全分野における格差拡大に反映されたものと考えられる。

 論文数全体の約20%を占める農学・理学・社会科学分野においては、格差拡大は明瞭ではなかった。この理由は定かではないが、一つは、これらの分野では大学間の論文数の偏りが大きく、必ずしも他の分野の場合と同じ群間比較になっていないことが挙げられる。

 また、前節で提唱した「限界成長余地仮説」でも説明できるかもしれない。この仮説は、国際競争力が比較的高かった工学系、生命科学系、臨床医学分野においては、2001~2002年をピークとして国際競争力が大きく低下したが、比較的低かった農学・理学・社会科学系では国際競争力の低下が軽微であったことを説明するために、これらの分野や組織ではストレスやマイナス環境に対して対応できる何らかの「限界成長余地」が残されていたのではないか、と考える仮説である。農学・理学・社会科学系分野では、大学への研究資金や研究者数削減、あるいは重点化政策などのストレスやマイナスの環境に対して、「限界成長余地」が残されていたために、格差の拡大についても、最少に留めることができたのではないか。

 もちろん、今後も引き続き大学への研究資金や研究者数の削減、および重点化政策が継続されるのであれば、これらの分野においても「限界成長余地」が小さくなり、国際競争力の低下や格差拡大が明確化する可能性がある。

 この国立大学群間の格差拡大は2000~2004年ころに始まっており、また、研究資金の増減が論文数に反映されるまでに4~5年のタイムラグがあると推定されることから、1900年代後半頃から生じた何らかの国の政策の変化によるのではないかと推測される。

 公務員の定員削減は、すでに1980年代の半ばから進められ、1990年代は徐々に国立大学の教員数も削減され始めた時期であったと思われる。そして、1990年代は一部の上位大学の大学院重点化が始まった時期である。限られた上位大学だけが予算化されて教員数が増えるとともに、大学院学生の定員が大幅に増やされた。他の多くの中小規模あるいは地方国立大学では、大規模大学に追いつけとばかりに申請した重点化が認められずに涙を飲むことになり、大学院生の確保も相対的に困難となったことが考えらえる。

 最近の論文数(国際競争力)の変化については2004年の国立大学法人化に伴う政策の影響も反映されていると考えられる。国立大学への基盤的資金の継続的削減とともに、競争的資金への移行や評価制度の導入などの競争的環境の強化、および各種の重点化政策などが、格差拡大に影響している可能性が考えられる。

 なお、国公私立大学間では、全分野論文数で私立大学は国立大学よりも2000-2012年比率が有意に高くなったが、それには臨床医学分野での私立大学の健闘が反映されているものと考えられる。国公立大学が臨床医学分野での国際競争力を急速に低下させたのとは対照的に、私立大学では2000年当時の国際競争力をそのまま維持している。

 ただし、国公立大学においても最近の数年間は、国際競争力の低下に歯止めがかかっている。また、国立大学間の格差についても、当初大規模大学と中規模大学間の格差が急速に拡大したが、最近の数年間は、格差拡大が緩和されているように見受けられ、他の学術分野とは異なる動向を示している。

 

<今回のまとめ>

1.学術論文の産生能(国際競争力)について、医学部を有する大規模国立大学とその他の国立大学の間に当初から存在した大きな格差は、2000年頃までは縮小する傾向にあったものの、2000~2012年にかけて拡大した(統計学的に有意)。

2.国立大学間の格差の拡大は、論文数の80%を占め、国際競争力の面でも比較的高かった工学系、生命科学系、臨床医学の分野で認められるが、農学・理学・社会科学系分野では明瞭ではない。

3.国立大学において、医学部を有する大規模大学に対する格差拡大は、医学部を有する中規模大学では2000年頃から始まっており、医学部を有さない大学では、2004年頃から始まっている。研究資金の増減が論文数に反映されるライムラグが4~5年と推定されることを考慮すると、1900年代後半およびその後に実施された大学政策(予算・定員の削減や重点化政策等)に起因すると考えられる。


(以下は、最後に移した図表の羅列です。)


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断定版:日本の研究力の国際競争力低下の原因とは?(国大協草案26)

2014年12月22日 | 高等教育

 世間はクリスマス気分で盛り上がっていますが、僕の方は1月28日の国立大学協会での発表に向けての準備で睡眠不足。昨夜も午前2時を過ぎましたが、今日も午前2時を過ぎてしまいました。おまけに、時々あることではあるのですが、うとうとしながらコンピュータを打っていて、ほとんど書き終わったブログを消してしまいました。でも、気を取り直して再度入力。今回の分析では、けっこう明快な結論が出ましたからね。このブログでは、日本の研究面での国際競争力の低下の原因を”断定”しますよ。

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4.大学への公的研究資金と学術論文産生の国際競争力との関係性

 この節では、大学への公的研究資金の増減が学術論文に反映されるライムラグ、および、国際競争力との関係性について、主要成熟国と日本のデータを比較することにより検討した。

 なお、大学への公的研究資金はOECD.StatExtractsによる公開データを用いたが、主要6か国のうちイタリアについては1997年から2004年までのデータが欠損しているので、イタリアを除く5か国(カナダ、フランス、ドイツ、イギリス、米国)と日本のデータで検討した。

 研究資金の単位は購買力平価実質値(Million 2005 Dollars - Constant prices and PPPs)を用いた。

 政府から高等教育機関への研究資金と非営利団体から高等教育機関への研究資金の合計を「大学への公的研究資金」とした。

 また、日本の研究費については、図表III-61に示すように1995値と1996年値との間に大きな段差がある。OECDの公表する研究資金については、FTE(full-time equivalent)研究者数に基づく人件費を計算して研究資金を計上することになっているが、先にも述べたように、日本の総務省による研究費は、それがなされていない。なおFTE研究者数とは研究時間を考慮に入れ、例えば50%の時間を研究活動に割り当てている教員の場合は、それを1/2人とカウントする方法である。

 日本の1995年以前の値はFTEに基づく値ではなく、1996年以降の値はFTEに近似させるために、補正がなされた値である。この補正値は、研究者の人件費について1996~2001年は0.53、2002~2007年は0.465、2008年以降は0.362の係数を掛けた値となっている。なお、この係数は文部科学省・科学技術学術政策研究所が実施した「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」に基づくFTE換算係数である。

 今回、日本の1995年以前の大学への公的研究資金のデータについても、概略の傾向をつかむ目的で、以下の補正を行った。

 まず、1996~1999年の値より最小二乗法によって得られた直線を延長して1995年の値を求めた。それを1995年の補正値とし、1995年値との比率を計算すると0.64という係数が得られるので、1994年以前の値にすべて0.64を掛けて、各年の補正値を求めた。

 このようにして得られた1995年以前の補正値を含めてプロットすると図表III-62のようなカーブとなる。1995年以前の値については上記の補正がなされており、また、1996年以降の値についてもFTE換算係数が階段状に掛けられていることを念頭において、分析および解釈をする必要がある。

 図表III-63には、日本を含む主要成熟6か国の人口当り大学への公的研究資金(政府および非営利団体から大学への研究資金)の推移を3年移動平均値で示した。

 図表III-64は、主要成熟6か国の人口百万当り論文数の推移を示したものである。

 このようなデータから、日本以外の主要5か国の大学への公的研究資金および論文数の平均値を求め、日本のデータとともに示したものが図表III-65である。この図では、比較がしやすいように、研究資金を国民1人当たり購買力平価実質値(ドル)で、論文数を国民10万人当り論文数で示してある。

 まず、日本の大学への人口当り公的研究資金は、主要5か国の概ね1/2という低い水準である。そして、論文数も大学への公的研究資金と同様に、概ね1/2という低い水準にある。そして、その差がさらに拡大しつつあることがわかる。

 この図から、主要5か国の大学への公的研究資金のカーブと論文数のカーブの関係性を検討すると、まず、1994年~1997年の研究資金の停滞期に5年遅れた1999年~2002年に論文数の停滞期があり、また、1998年からの研究資金の立ち上がりに5年遅れて2003年から論文数が立ち上がっていることが読み取れる。

 日本については、図表III-65からは研究資金と論文数の増減の関係性を読み取りにくいので、日本のカーブを拡大した図表III-66を示す。

 日本以外の主要5か国のカーブほど明瞭ではないが、日本のカーブにおいても、研究資金が停滞した2000年~2003年の4年後の2004年から論文数が停滞していることが読み取れる。

 以上より、日本においても主要成熟国においても、研究資金の増減が論文数の増減に反映されるタイムラグは4~5年と推定する。

 図表III-66は、主要成熟5か国の平均値と日本の比率、つまり日本の国際競争力の推移を、研究資金と論文数について示したものである。

 大学への公的研究資金については、1997~98年をピークとする山型のカーブ、論文数については、2002年をピークとする山型のカーブが描かれており、大学への公的資金の競争力の低下に4~5年遅れて論文数の競争力が低下し始めたことがわかる。

<含意>

 今回、日本と主要成熟5か国(カナダ、フランス、ドイツ、イギリス、米国)について、大学への公的研究資金の増減が論文数の増減に反映されるタイムラグについて検討したところ、4~5年という期間が推定された。研究資金の増によって研究者数を増やし、研究設備を整え、研究計画を立て、研究を数年かけて実施し、学術論文にまとめ、レフェリーの審査を経て学術誌に掲載されるプロセスを思い浮かべれば、あるいは、大学院学生の年限が、博士前期課程(修士課程)2年+博士後期課程3年、または、学士課程6年制の医歯薬分野では博士課程4年ということを思い浮かべれば、タイムラグが4~5年というのは、妥当な期間であると思われる。

 OECDに公表されている日本の研究資金のデータは、1995年以前はFTEが考慮されておらず、また、1996年以降も、限られたFTEについてのデータによって階段状にFTE係数がかけられた値であり、国際比較等の分析をする上で問題を残している。しかし、概略の傾向をつかむことは可能であると考える。

 今回、1995年以前の値について補正をしたが、これはあくまで参考値として見做されるべきものである。もっとも、日本の研究資金と論文数のタイムラグの算出、あるいは、国際競争力を検討する上で、1995年以前の研究資金の値は必ずしも必要ではなく、仮に用いなくても、今回の結論は変わらない。

 日本の大学への公的研究資金について、2004~2006年にかけて階段状に増加している。しかしながら、少なくとも国立大学の現場においては、2004年の法人化当初に大学への公的研究資金が増額されたという感覚はなく、現場の実態と必ずしも合わないデータのように感じられる。研究費の増減が論文数に反映されるタイムラグが4~5年とすれば、この時期の効果が2008年以降の論文数に反映されてもよさそうに思われるが、論文数の動きは明瞭ではない。2004~2006年の大学への公的研究資金の階段状の増加については、再確認することが必要かもしれない。

 大学への公的研究資金および論文数について、主要5か国の平均値に対する日本の競争力の推移をグラフ化したところ、研究資金の山型カーブのピーク(1997~98年)に遅れること4~5年の2002年に、論文数の山型カーブのピークが観察された。これは、研究資金と論文数のタイムラグが4~5年であることを、いっそう明確に示すカーブである。

 今回の分析により、2002年以降の日本の学術論文産生に関する国際競争力の低下は、1997~98年頃から始まった日本の大学への公的研究資金の相対的減少(研究資金についての国際競争力の低下)によるものと断定してよいと考えられる。

 2004年の法人化以降、国立大学への運営費交付金が継続的に削減されている状況下において、競争的環境の強化(基盤的資金から競争的資金への移行、評価制度の導入など)、重点化または「選択と集中」政策、各種の政策誘導的な事業など、実にさまざまな政策が次から次へと実施されてきたが、大学への公的研究資金の相対的減少によってもたらされた研究力の国際競争力の低下を回復させることについては、現在までのところ、ほとんど無力であったと言わざるを得ない。

<今回のまとめ>

1)学術論文産生における主要成熟5か国(カナダ、フランス、ドイツ、イギリス、米国)に対する日本の国際競争力は2002年がピークであり、60%まで接近したが、2012年には45%に低下した。

2)大学への公的研究資金の増減が論文数の増減に反映されるまでに4~5年のタイムラグがある。

3)学術論文産生における2002年以降の日本の国際競争力の低下の原因は、1997~98年に始まった大学への公的研究資金の相対的減少である。

 

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日本の各学術分野の国際競争力-「限界成長余地仮説」(国大協報告書草案25)

2014年12月20日 | 高等教育

  国立大学協会での発表の日取りが来年の1月28日に決まりました。今年のお正月はちょっと憂鬱なお正月になりそうです。前回の続きを、その次の日にアップしたいと思っていたのですが、なかなか時間がとれず1週間も間が空いてしまいました。このペースではちょっとやばい。前にも書きましたが、論文数はFTE研究者数、つまり(研究者の数×研究時間)に比例するということを、自分で証明しているようなもんですね(笑)。

 前回の主要成熟国家(G7)における各学術分野ごとの論文数の比較を、今日はもっとすっきりとした形でお見せすることができます。

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4)各学術分野の論文数からみた日本の主要成熟国に対する競争力の推移

 前節の主要7か国の学術分野別論文数の推移の比較において、学術分野によっては、各主要成熟国の論文数のカーブに“肩”が観察された。この要因として各国の特定の学術分野の論文数に影響する何らかの共通因子、例えば、学術文献データベースへの学術誌の収載の取捨選択などの存在が推測され、これは論文数の分析をより複雑にする面がある。

 そこで、日本の各学術分野論文数を、主要6か国の平均論文数で除すことにより、このような共通因子の影響を小さくすることを試みた。これは、主要成熟国に対する日本の研究機能(学術論文生産能)についての“競争力”の推移を見ていることにほかならない。

 まず、図表III-59には、全分野論文数について、主要6か国平均人口当り論文数に対する日本の人口当り論文数の割合の推移を示した。日本は、1996年には主要6カ国平均の59%であり、2002年までは徐々にその割合を増加させていたが、2002年の65%をピークとして低下に転じ、2012年には48%となってしまった。

 図表III-60は、各学術分野における人口当り論文数について、主要6か国に対する割合の推移を示したものである。なお、各学術分野の名称を短縮化するために、「物理・化学・物質科学・エンジニアリング」を「工学系」、「基礎医学・バイオ・薬学」を「生命科学系」、「農・動植物・環境」を「農学系」、「宇宙・地球・数学」を「理学系」と表記した。ただし、例えば「工学系」と称しても、その中には理学部による物理学の論文が含まれているなど、必ずしも学部や研究科の研究機能と一致しない面があること等をご了承いただきたい。

 まず、この図で気づかれることは、社会科学系を除くすべての学術分野は2001~2003年をピークとして、主要国に対する割合が低下していることである。

 各学術分野の競争力の推移については、主要国に対する競争力が最も高かった工学系の低下が大きく、次いで、生命科学系、臨床医学、農学系、理学系と、主要国に対する競争力の順に、低下の程度が小さくなっている。社会科学系は国際競争力が最も低い分野であるが、ピークも明瞭ではなく、低下も認められない。

 また、臨床医学については、2001年をピークとして、他の分野よりも急速に競争力が低下したが、その後、競争力の低下が緩和されており、他の学術分野とは異なる動きをしていることがわかる。

<含意>

 学術文献データベースに収載されている論文数の推移は、概ね、各国や各研究機関の研究力を反映すると考えられるが、データベースの管理者による学術誌収載の取捨選択等によっても修飾を受ける可能性がある。今回、主要成熟国家6か国(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、イギリス、米国)の平均論文数(人口当り)に対する日本の割合(つまり対主要成熟国家競争力)の推移を検討することにより、このような修飾の影響を小さくすることを試みたものである。その結果、前節において、例えば工学系の論文数の推移は、図表III-49に示したように複雑なカーブであったものが、主要6か国に対する割合をとることにより、非常に単純なカーブとなった。工学系の論文数の他の分野とは異なる複雑な挙動は、日本独自の因子の影響というよりも、このような各国共通の因子によるものと考えられる。

 前節までに、例えば図表III-34に示したように、臨床医学論文数の推移は他の分野とは異なる挙動をするので、その要因を別に検討するべきであることを述べてきたが、今回の成熟6か国に対する競争力の推移についても、急速な競争力の低下とその後の低下の緩和という他の分野とは異なる挙動が観察された。したがって、臨床医学分野の他の分野との異なる挙動は、学術文献データベースの取捨選択等の各国共通の要因にもとづくものではなく、日本独自の要因が影響しているものと考えられる。

 主要成熟6か国と日本との割合をとることにより、日本の競争力のピークが、各分野とも2001~2003年という限られた範囲に収まり、かつ、その後の低下のカーブも単純化され、論文数の変動に与える各種要因を分析する上で、非常にわかりやすくなったと思われる。

 今回の分析では、以前から国際競争力の高かった学術分野(工学系など)ほど、競争力の低下の程度が激しく、国際競争力の低かった分野ほど低下の程度が小さいことが、改めて確認された。社会科学系では、ピークも明瞭ではなく、低下も観察されなかった。

 この現象を説明できるメカニズムは定かではないが、例えば以下のような仮説も、可能性の一つとして考えられるのではないだろうか?

 限界成長余地の小さい分野や組織、つまり、すでにぎりぎりまで成長し、いくらがんばってもそれ以上成長率が高まる余地の小さい分野や組織ほど、何らかのストレスやマイナスの影響を受けた時に、低下が顕著に表れる。限界成長余地の残されている分野や組織では、ストレスを受けても、努力や工夫によって成長率を高められる余地があってストレスの影響をカバーできるために、低下が顕著に表れない。

 例えば、思考実験ではあるが、社会科学系においては従来和文の論文が多かったという状況があるので、その英文化を進めることにより、国際的な学術文献データベースに採用される余地が残されている。つまり、「国際的学術文献データベースの論文数」という指標においては、社会科学系は「限界成長余地」が残されている分野であるとも考えられる。研究費や研究者の削減というストレスを受けた時に、従来和文で書いていた論文を英文化するだけで、国際学術文献データベースに収載される論文数の減少をカバーできるはずである。

 また、例えば平均して1年間1編しか論文を産生していなかった研究者が、それを2編に分けて1年間2編の論文を書くことができた場合も、同様にカバーができるはずである。

 ただし、このような事例は、“見かけ上の研究力”のカバーや向上であって、本来の研究力の向上とは異なるものである。

 この仮説を「限界成長余地仮説」と呼ぶことにする。

 「限界成長余地仮説」は、ストレスやマイナスの影響だけではなく、たとえば競争的環境の効果、という面でも適用できるかもしれない。つまり、為政者は、基盤的研究資金から競争的研究資金への移行や評価制度の導入などの競争的環境の強化によって、研究力の向上を期待するわけであるが、すでにぎりぎりまでがんばっている「限界成長余地」の小さい分野や組織では、その効果は小さく、「限界成長余地」の残されている分野や組織においてのみ、ある程度の効果が得られる可能性があると考えられる。ただし、効果が得られる場合であっても、上にあげた事例のように、本来の研究力の向上とは限らず、“見かけ上の研究力の向上”を招く可能性もある。

 

 

 

 

 

 

 

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主要7か国(G7)の学術論文数の推移(国大協報告書草案24)

2014年12月14日 | 高等教育

 国立大学協会の調査企画会議が1~2月開催される予定で、そこで報告をしなければならなくなりました。ぐずぐずしている場合ではなく、とにかく最終的なまとめを急がないといけません。いよいよお尻に火がつきました。でも、学長としてのいろんな仕事を片づけてから、この論文数分析の仕事にかかろうと思うと、いつまでたっても捗りません。論文数の分析を第一義の仕事にして、他の仕事はしばらくの間、手を抜かせてもらうことにしないとね。周囲の方には、ご迷惑をおかけしますが、しばらくご容赦ください。年賀状もできるだけ手を抜かせてもらいますね。

 今日の国大協の報告は、主要7か国間の各分野の論文数の比較です。海外諸国との比較はすでに何回か書いているのですが、今回は、国立大学の論文数の分析をする上で、他の成熟国家の論文数の推移と連動して考える必要があるので、ここで改めてデータをずらっと示しておくことにします。

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3)主要7か国における学術分野別論文数の推移の比較

 ここで、日本(国立大学)の論文数の推移を分析する上で、海外諸国、特に成熟国家の論文数の推移と連動して考える必要があるので、主要7か国の学術分野別の論文数の推移を整理しておく。なお、学術分野は、すでに図表Ⅲ―20に示したように、トムソン・ロイターEssential science indicators22分野のいくつかを括った分野で分析した。

 

 まず、全分野の論文数の推移であるが、図表III-38に示したように、日本の論文数は4位につけているものの、他の国がすべて増加しているのに対して、日本は2000年を過ぎた頃から停滞しはじめ、5位のフランスとの差が縮まっている。

 図表III-39は人口百万当りの論文数で示したものであるが、日本は最下位であり、他の6か国との差が大きく広がっていることがわかる。

 図表III-40は全分野論文数の2000年を基点とする推移であるが、2004年頃から他の国の動きと離れ始めていることがわかる。

 

 次に、各学術分野別の論文数の推移をみる。

 臨床医学分野では、図表III-41に示すように、日本は4位につけているが、増加傾向が鈍り、5位の国との差が縮まっている。

 人口当り論文数では、最下位である(図表III-42)。日本の臨床医学論文数は2000年頃から停滞しはじめているが、他の多くの国も、2000年頃から数年間停滞を示している。

 図表III-43の2000年を基点とする推移を示した図からは、日本は2000年頃から臨床医学論文数が停滞しているが、他の国の動きの差が明瞭になるのは2004年以降である。つまり、多くの成熟国では、2000年以降数年間臨床医学論文数が停滞し、2004年頃には増加に転じているが、日本は増加に転じるのが遅れたと考えることができる。




 基礎医学・バイオ・薬学分野の論文数でも、図表III-44に示すように全分野および臨床医学と同様に4位につけているが、5位の国との差が縮まりつつある。人口当りの論文数は最下位であり、2000年頃から停滞が始まり、やや減少傾向を示している(図表III-45)。

 2000年を基点とする推移(図表III-46)で、他国の動きとの差が明瞭になるのは2004年頃からである。




 

 物理・化学・物質科学・エンジニアリング・情報という工学系の論文数は、日本は2004年頃から明らかな減少を示している。それまでは2位につけていたが、現在はG7諸国の中では3位となっている(図表III-47)。人口当り論文数では、5位であったものが最下位になっている。

 2000年を基点とする推移(図表III-49)において、他の海外諸国の動きとの差が明白になるのは2004年頃からである。他のいくつかの国では、2000年頃から数年間停滞を示し、2009年頃から増加に転じており、論文数のカーブに”肩”が認められる。他の諸国がこの”肩”を示している時期に、日本では論文数が明らかに減少している。そして、他の諸国が増加に転じた2009年以降、日本の論文数減少の程度が緩くなりつつある。

 

 理学系(宇宙・地球・数学)分野および社会科学では(図表III-53~58)、日本はそもそも論文数自体が最下位であり、人口当り論文数では他国との差が大きく開いている。しかし、論文数の増加率は各国とも順調であり、日本も論文数は少ないながら、2000年を基点とする推移では他諸国の動きと同様の増加傾向を示している。

 

<含意>

 主要7か国の学術分野別の論文数の推移を改めて示したが、これは、日本が学術論文産生において、海外諸国との競争力を大きく低下させていることを示すとともに、日本(国立大学)の学術論文数の推移を分析する上で、留意するべき情報を与えてくれる。

 今回の主要成熟国家7か国の学術分野別の論文数の分析からは以下のような特徴が読み取れる。

1)臨床医学および基礎医学・バイオ・薬学分野においては、いくつかの海外諸国において2000年頃から数年間の”停滞”が認められる。

2)工学系(物理・化学・物質科学・エンジニアリング・情報)分野の論文数においては、いくつかの海外諸国において、2004年頃から数年間の”停滞”が認められる。

3)上記の学術分野については、日本は従来からある程度健闘してきたが、論文数が停滞~減少し始め、その順位が下がりつつある。そして、他の諸国の動きから日本が明らかに離れ始めるのは2004年頃からである。

4)理学系(宇宙・地球・数学)分野および社会科学系の論文数の推移においては、海外諸国において上記の学術分野のような”停滞”は認められない。

5)日本は、理学系(宇宙・地球・数学)および社会科学系の論文数においては、従来から海外諸国に大きく引き離されているが、論文数が”停滞”を示すことはなく、増加率は他の諸国並であり、直線的に増加している。

 日本の臨床医学や基礎医学・バイオ・薬学分野の論文数の、2000年から数年間の”停滞”部分は、日本特有の原因に起因するものではなく、他の成熟国家の論文数の”停滞”と共通する原因によって連動した動きを示している可能性もあると考えられる。

 その共通の原因については定かではないが、例えば、本報告書で分析している論文数は、あくまでも、学術論文データベースに登録されている論文数であり、データベース管理者による学術誌の取捨選択行為によって左右されるものであるから、成熟国の特定の学術分野に共通して影響を与える学術誌の取捨選択がなされた場合に、このような”停滞”(あるいは”増加”)が生じる可能性を否定できないと思われる。

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 今、夜中の1時45分。この1週間はかなり”かんかん”になって論文の分析したので、開封していない手紙や読んでいない電子メールが溜まっています。今日は、鈴鹿医療科学大学で編入学と推薦II期の面接があり、朝から夕方まで入試本部につめていました。手紙の返事もかかないといけないし、月曜日の講義の準備もしないといけないし・・・。実はこの論文数分析の続きがあって、なんとか今日中にアップしたいし・・・。

 

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