前回のブログでは、アメリカの学校の先生からのすばらしい写真をご紹介しましたね。Connie先生には、すばらしい写真を送っていただいたお礼とともに、大津波を受け甚大な被害を受けた釜石市の鵜住居(うのすまい)地区では、学校における防災教育の結果、生徒達が避難の先頭に立ち、ほとんどの生徒が自らの命とともに、町の多くの皆さんの命を救ったエピソードをメールで送りました。この話は2,3週間前にNHKラジオで流れていた番組で知りました。
その詳細な記事がWEDGE誌5月号に掲載されたので、それをさっそく読んでTwitterでつぶやきました。そうしたら、他の皆さんも数多くつぶやいておられ、昨日4月22日には、その記事がWeb上でも公開されました。http://wedge.ismedia.jp/articles/-/1312
それは、群馬大学教授の片田敏孝先生の「小中学生の生存率99.8%は奇跡じゃない」という記事です。片田先生がいろいろと苦労をされて釜石市の鵜住居(うのすまい)地区の小中学校の防災教育に尽力され、その結果、ほとんどの生徒たちが自らの判断で適切な避難をして、自らの命とともに町の多くの皆さんの命も救った詳細な報告が記載されています。
釜石東中学校の生徒達は地震が起きると、「津波がくるぞ」と叫びながら避難所に指定されていた「ございしょの里」まで移動。ところが、避難所の裏手は崖が崩れそうになっていたため、男子生徒がさらに高台へ移ることを提案し、避難。ある者は小学生の手を引き、ある者は幼児が乗るベビーカーを押して走った。間もなく「ございしょの里」は波にさらわれた。
片田先生の取り組みは、学校における教育がいかに大切であるかを私どもに教えてくれます。
片田先生が防災教育の総仕上げとして教えたことは「ハザードマップを信じるな」ということ。ハザードマップはあくまでシナリオ。最後は自分で状況を判断し、行動することが大切。どんな津波が来ても助かる方法がある。それは逃げること。
もう一つは自分の命に責任を持つこと。三陸地方には「津波てんでんこ」という昔話があり、それは、地震があったら、家族のことさえ気にせず、てんでばらばらに、自分の命を守るために一人ですぐに避難し、一家全滅・共倒れを防げという教訓。
片田先生は、子供に対しては「これだけ訓練・準備をしたので、自分は絶対に逃げると親に伝えなさい」と話した。親に対しては「子供を信頼して、まずは逃げて欲しい」と伝えた。
この記事を読んで感じたことは、単に防災教育を学校でやればよいというものではなく、やはり片田先生のようなしっかりとした考え方をもった専門家が防災教育をしないことには意味がないということですね。防災教育の“質”も問われるということだと思います。そのためには、それぞれの地域で、片田先生のような大学の専門家が、地域に出向いて教育に係わることが大切です。三重県では、私が三重大学の学長をしていた頃から、工学部の川口 淳先生たちが、精力的に三重県の地域を走り回って津波防災教育を行っています(@jkawa_mie) 。
今回の地域防災教育の成功例は、地方大学の存在がいかに地域にとって、あるいは日本全体にとって大切であるかということも示していると思います。ただし、このような大学の研究者が地域の教育にかかわるような地道な仕事は、必ずしも学術的な評価に結びつかず、ノーベル賞とは無関係の世界です。財政が逼迫している我が国では、大学や研究機関に対する予算措置についても選択と集中が進められていますが、私はこのような本当に必要な地道な地方大学の取り組みが切られてしまうことのないよう、心から願っています。