ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

法人化後の国立大学の学術論文数の推移とその要因の分析(その5.人口当り高注目度論文数の国際比較)

2014年03月27日 | 高等教育

 論文数についての国大協への報告書草案の5回目です。今日は、人口あたり高注目度論文数の国際比較についてです。例によって、このブログはあくまで草案ですので、最終的な報告書は修正される可能性があります。

 さて、入学式の式辞の準備や3月中が締め切りの依頼原稿、新年度の講義のシラバス記入などをほったらかしにして、論文数の分析を続けているのですが、いよいよ切羽詰ってきました。3月中に報告書を提出する予定だったのですが、このペースだととても間に合いません。今日にでも、国大協にその旨を連絡することにします。

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3)人口当り高注目度論文数の国際比較

 高注目度論文はイノベーションとリンクする可能性があり3)、高注目度論文数は研究機能の「質×量」を反映しうる指標であることから、各種の研究機能の指標の中でも、重要な指標であると考える。そして、イノベーションの意義が国民一人当たりのGDPを押し上げることであるとするならば、「国民一人当たりの高注目度論文数」が、key performance indicator (KPI)となりうる最も重要な指標であると考える。さらに、資源の乏しい日本においては、イノベーションの国際競争の中で、相手国よりもイノベーションの「質×量」で上回っていないことには、資源の購入が困難になると考えられることから、他国との相対的な順位が重要であると考える。

 このような観点から、科学技術指標2013のデータにもとづき人口当りのTop10%補正論文数を計算し、その国際比較を示した(図16)。日本は科学技術指標2013にあげられている主要国の中では台湾、韓国に次いで21番目となっている。欧米諸国は日本の約2~10倍産生しており、台湾は日本の1.9倍、韓国は日本の1.4倍産生している。現在、日本の論文産生が停滞~減少していることから、この格差は今後さらに拡大すると想定される。

 なお、日本の21番目という順位は、科学技術指標2013で取り上げられた国の中での順位であり、他の国も含めるとさらに低い順位である可能性もある。

 参考までに、InCites™のデータにもとづき、人口当たりの通常論文数について調べたところ、日本の順位は26番目であった(図17)。人口当りの通常論文の生産性では、日本は東欧諸国のグループに属しており、早晩30位以下になるものと想定される。

 また、GDP(購買力平価換算値、単位10億USドル)当りのTop10%補正論文数を計算したところ、科学技術指標2013で取り上げられている主要国の中では、日本はポーランドに次いで22番目であり、中国に近い値となっている(図18)。 

 

 このように、日本は先進国として、人口あるいはGDPに見合った論文数を産生しておらず、新興国と同じレベルになっている。今後、学術論文産生の停滞~減少状況が続けば、日本の順位はさらに低下し、イノベーションの「質×量」で他国を上回らなければ資源を購入できない国家としては、10~20年先の将来が危ぶまれる状況であると思われる。


文献

3)Diana Hicks, Anthony Breitzman SrKimberly Hamilton and Francis Narin:Research excellence and patented innovation. Science and Public Policy, Volume 27, Issue 5, pp310-320

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日本の学術論文数の惨憺たる状況をみなさんどうお考えになりますかね?iPS細胞で喜んでいる場合ではないんじゃないかな?オリンピックの放送と同じで、日本人の成績が良かったところだけを報道し、他の国の成績については報道しないので、国民は日本人はけっこうやるじゃないかと錯覚してしまう。もちろん、日本人に自信を持たせるために、日本人の活躍をどんどん報道することはとても大切。でも、為政者までもが、現在の政策でいいのだと勘違いしては困ります。

夜中の3時近くなり、睡眠不足になるので、続きはまた明日。

 

 

 

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”3つのイエス”・・・組織のミッションを周知させるには?

2014年03月19日 | 高等教育

 今日のブログでは、論文の話を1回休憩して、昨日3月18日の卒業式の話を挟みます。僕にとっては、この大学の学長になって初めての卒業式でした。

 式辞というと、三重大の僕の前任の学長さんの式辞について、新聞に投書が掲載されたことを思い出します。毎年、同じ話を繰り返しているという内容だったと思います。学生は1回きりしか式辞を聞かないわけですから、投書をした方は、たぶん毎年式辞を聞いている教職員なんでしょうね。それで、僕は三重大の学長時代は、まず、毎年話の内容を変えることを心がけました。でも、何回かそれをやってみて、「自分がいちばん学生さんに伝えたいことはそれほど変わるものではなく、逆に毎年ころころと式辞を変えるということは、自分に定見がないということを曝け出しているということではないか?」という思いに至りました。それで、それ以後は、時代や環境の変化などの周辺部分の話は毎回変えますが、根幹部分は毎年同じ趣旨の話をしました。、

 式辞を作るという作業は学長さんにとってけっこうたいへんな仕事なんですよ。学生さんばかりではなく、それを聞いている保護者の方々や来賓の方々、そしてお偉い教授先生方にも、また、マスコミの皆さんにも、なるほどと思っていただける話を10分間ほどでまとめないといけないわけですからね

 そして、もう一つ、せっかく一生懸命作った式辞をお話しても、学生のほとんどがそれを覚えていないという現実があります。どんなりっぱな、高尚な話をしても、それを学生たちが覚えていなければ、式辞の意味はゼロではないでしょうか?今まで、ほとんどの大学では長期間にわたって、この無意味な営みを延々と繰り返してきたのではないでしょうか?

 去年の4月に鈴鹿医療科学大学の学長に就任し、その時の入学式の式辞についてはブログに書きましたね。入学生のオリエンテーションの時に、僕が式辞で話したことを覚えていた学生さんはほとんどおらず、唯一、ご両親の勧めによって僕のブログを読んでいた学生さんだけが答えることができたというお話でした。自分が話をしたことを相手が覚えていてくれているとは限らない、ということはよく認識しておく必要があります。大学の授業でもそうですね。「講義をしたから学生が理解をして覚えているはずだ。」という先生の思い込みを「教授錯覚」と言うのでしたね。「学生にどれだけ教えたか?」ではなく、「学生がどれだけ身につけたか?」というデータにもとづく教育(outcome-based education)が、大切といわれているゆえんですね。

 なかなか覚えていただけないということでは、組織のミッションや理念などについても同じことが当てはまります。ミッションを作っても、棚の上の飾り物になってしまっていて、教職員や学生に聞いても答えが返ってこないという大学はよくあるのではないでしょうか?ミッションや理念はそれを実現するために作られるわけですが、構成員がミッションや理念を覚えていない組織では、ミッションや理念を実現できるはずはありませんね。

 ミッションや理念を作ったら、まず、構成員に徹底的に周知することがマネジメントの第一歩であり、そして次にはミッションや理念に謳われていることを文字通り実現することが最も大切であると僕は思っています。これは言うはやさしくしてなかなか難しいことであり、「理念経営」というジャンルもあるくらいです。三重大の学長時代には、三重大のミッション「地域に根差し世界に誇れる独自性豊かな教育・研究成果を生み出す。~人と自然の調和・共生の中で~」を周知徹底するために、ポスターを全教室に張り出すなど、あの手この手の努力をしました。

 去年の4月に鈴鹿医療科学大学の学長に着任し、定められている建学の精神、教育の理念、教育の目標の周知が今一つという感じを受けたので、学内で話をする機会があれば、必ず触れるようにしてきました。もちろん入学式の式辞でもお話したわけですが、今回、卒業式の式辞でもお話しすることにしようと心に決めました。高尚な難しい話ではなく、建学の精神で始まり、建学の精神で終わる。こういう式辞があってもよいのではないか、と・・・。

 そんなことで、論文数についての報告書を書くのに時間に追われつつ、夜中の2時ころから5時ころにかけて慌ただしくまとめたのが次の式辞です。

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平成25年度鈴鹿医療科学大学学位授与式式辞

本日、鈴鹿医療科学大学の学位を取得された学士420名、修士11名の皆さん、そして、ご家族並びにご関係の皆様、おめでとうございます。皆さんのお世話を一生懸命させていただきました教職員といっしょに、心よりお祝いを申し上げます。

 また、本日はご多用の中、本学学位授与式にご臨席の栄を賜りましたご来賓の皆様に、厚く御礼を申し上げます。

 さて、皆さんは、この度、鈴鹿医療科学大学の所定の課程をみごとに修了され、これから、新たな職場や環境、あるいはさらに高度な教育課程において、一歩を踏み出そうとしておられます。その新たな門出に際しまして、私から皆さんにお願いしたいことが3つあります。

 実は、私が申し上げたい3つのことは、鈴鹿医療科学大学の建学の精神、教育の理念、教育目標のなかにすべて書かれています。

 もう一度、建学の理念を振り返ってみましょう。鈴鹿医療科学大学の建学の精神は「科学技術の進歩を真に 人類の福祉と健康の向上に役立たせる」であります。たいへん崇高な建学の精神です。

 教育の理念は「知性と人間性を兼ね備えた医療・福祉スペシャリストの育成」です。そして、それを具体化する教育目標は「1高度な知識と技能を修得する。2幅広い教養を身につける。3思いやりの心を育む。4高い倫理感を持つ。5チーム医療の貢献する。」の5つです。

 この建学の精神、教育の理念、教育目標は、皆さんが大学に在学している時にだけ目指せばいいというものではありません。これらは、皆さんが卒業した後も目指すべきものであると思います。

 まず、「科学技術の進歩を真に 人類の福祉と健康の向上に役立たせる」ためには、皆さんは生涯にわたって学び続ける必要があります。科学技術の進歩、特に医療・福祉の分野の進歩はたいへん目覚ましいものがあり、常に新しい知識を学び続けないことには、すぐに時代に遅れてしまいます。

 たとえば、本学の白子キャンパスの鈴鹿ロボケアセンターで、歩行に障害のある方々にロボットスーツによる治療が開始されていますが、ロボットスーツは、医療・福祉分野における代表的なイノベーションの一つであり、皆さんはこのような最新の知識や技術についても、常に学び続ける必要があります。常に学び続けて初めて、教育の理念に書かれている「医療・福祉スペシャリスト」と呼ばれる存在になります。

 二つ目のお願いは、本学の教育理念にあるように、人間性にあふれた思いやりの心を持った医療・福祉スペシャリストになっていただきたいということです。医療や福祉は、単にお客様にサービスを提供して、その対価を得るという通常のサービス業とは異なる面をもっています。人間の生死や心の奥底に深くかかわる職業であるがゆえに、患者さん、被介護者、社会的弱者に対して、真に思いやりの心をもって接する必要があります。真の思いやりとは、サービスを提供している時間だけ思いやりの態度を示せばよいということではなく、普段からの心の持ち方や人となりが問われます。そして、そのためには、自分自身の感情を常に厳しくコントロールする努力が求められます。

 三つめは、本学の教育目標にも掲げられている「チーム医療」に貢献することです。現代の医療や福祉は非常に高度化し、さまざまな専門分野のスペシャリストがチームを組んで、患者さんや被介護者に対して最善の医療・福祉サービスを提供することが求められています。そのためには、皆さんがチームや組織やネットワークの一員として、その機能が最大化するように役割を果たさなければなりません。そのためには適切なコミュニケーションをとり、スペシャリストとしての自分の専門性を生かし、周囲と協調して行動するとともに、適切なリーダーシップをとる必要があります。

 お願いをした3つのことは、intelligence(知性)、 emotional intelligence (心の知性)、social intelligence (社会的知性)と言い換えてもいいでしょう。アメリカの心理学者で著述家のダニエル・ゴールマンという人が、この3つの概念の重要性を提唱し、組織を成功に導くリーダーシップに欠かせないと主張しています。intelligence、 emotional intelligence、social intelligenceの頭文字をとるとiESとなり、日本語で読むと「イエス」と読めます。皆さんには、これからの新しい環境において、この「イエス」を常に磨き続けていただきたいと思います。「イエスを磨け」を本日の私から皆さんへの餞の言葉といたします。

 最後に、人間は社会的な存在であり、それがゆえに人と人との出会いが、その人の一生を大きく左右します。皆さんには、ぜひとも大学での良き出会いを一生大切にしていただきたいと思います。そして、大学に対しても、引き続き気軽にコミュニケーションをとっていただきたいと思います。大学が、卒業生、在学生、教職員の温かい交流の場となるように、私ども大学関係者は、今後とも努力を続けてまいります。

 皆さんが今まで大学で学んだことを最大限生かし、それぞれの環境においてりっぱに活躍されることを、大学の教職員、関係者一同とともに心より祈念し、式辞といたします。

平成26年3月18日

鈴鹿医療科学大学長   豊田長康

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さて、話はもう少し続きます。

午前中の大学での卒業式の後は、午後3時半より鈴鹿サーキットのセンターハウスというところで、学生主催の卒業記念祝賀会が開かれました。

 

国際レーシングコースの中にある建物で、すぐそばにレーシングコースが見えます。レースをしている時にはレーシングカーの走行を見ながら宴会ができるという、鈴鹿らしいセッティングですね。

祝賀会で乾杯の挨拶をすることになっていたので、式辞で話をしたことに加えて、いったい何をしゃべろうかな、と大学から鈴鹿サーキットへ向かう車内で考えていました。

学長が式辞をせっかく話しても、学生さんが覚えていない、ということをネタにしてしゃべろうかな。そのためには、会場に到着したら、学生をつかまえて、式辞の内容をどれだけ覚えているか聞いてみることにしよう・・・。

さて、会場に着いて、近くのテーブルを囲んでいた学生たちに、「僕が卒業式でどんなことを話したか覚えていますか?」と聞いてみると、「3つのイエスです。」という言葉が即座に返ってきました。そして、この答えに周りにいた数人の学生たちが「イエ~ス」と反応。これは、僕にとっては予想外の反応であり、ちょっとびっくりしました。

これでは、学長の式辞を学生が覚えていない、ということをネタにする挨拶ができないではないか・・・。でも、待てよ、この「イエ~ス」の乗りを逆手にとって挨拶してみようかな・・・。

そして、乾杯の挨拶のために登壇しました。

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「みなさん、ご卒業おめでとう。先ほど、卒業式で式辞を述べさせていただきましたが、覚えていますか?実は、式辞を学生さんが覚えているということはほとんどなく、僕自身も大学時代の学長さんのお話をまったく覚えていません。でも、先ほど学生さんに僕が何をしゃべったか聞いてみると、”3つのイエス”という答えがちゃんと返ってきました。これは、たいへん素晴らしいことです。3つのイエスは、intelligence, emotional intellligence, social inteligenceの頭文字のiESでしたね。今流行りのiPS細胞とは違いますよ。iESです。記憶にとどめるためには、繰り返すことが大切です。それでは皆さん、僕が何かを言ったら、それに続いて「イエ~ス」と言ってくださいね。

鈴鹿医療科学大学の卒業生は、一生勉強を続けるぞ!!(こぶしを突き上げつつ)  ⇒  「イエ~ス」 (会場全体が怒涛のように)

鈴鹿医療科学大学の卒業生は、思いやりの心をもって患者さんに接するぞ!!  ⇒ 「イエ~ス」

鈴鹿医療科学大学の卒業生は、チーム医療に貢献するぞ!! ⇒  「イエ~ス」

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式辞の内容がどのようなものであれ、とにかく学生が記憶にとどめてくれないことには、式辞の価値はゼロ。彼らが僕と同じ年齢になった時に、果たしてこの日の式辞を覚えてくれているかどうか、ちょっと確かめたい気もするんですが・・・。

今回の振り返り

ミッションにしろ、講義にしろ、聞き手に覚えてもらえる確率を高めるためには

1.繰り返すこと(今回は、卒業式だけではなく祝賀会でも繰り返した。)

2.単純化すること(今回は、建学の精神、教育の理念、教育目標という数の多い項目を3つに集約して記憶しやすいようにした。)

3.関連づけること(今回は、「イエス」という誰でも知っている言葉と関連づけて記憶しやすいようにした。)

4.具体的な事例と結びつけること(今回は、ミッションの話をする時にロボットスーツを例にあげるなど、できるだけ具体的に話すことを心がけた。)

5.印象づけること(画像や映像を併用した方が記憶に残るとされているが、今回は、豊田のパフォーマンスで印象づけようとした。)

6.参加・行動してもらうこと(一方的な伝達方式では記憶に残りにくく、聞き手に参加・行動してもらうことが効果的とされ、その中でも他人に教える行為が最も記憶に残りやすいとされている。今回は学生に「イエ~ス」と答えさせた。)

こう考えてみると、式辞という極めて制約された伝達方式の中では、1~6をすべて実行することはなかなか難しいと思われ、学生が式辞を覚えていないことも、当然なのかもしれません。今回は、式辞で2と3と4の工夫をし、祝賀会と合わせて1~6のすべてを実行したことになると思います。

なお、ある教員から、学長の式辞は、ゆっくりと明確に話されたのでよくわかった、というコメントをいただきました。1~6の工夫の前に、「0.聞き手に理解できるように、明確な発音で適切な速度で話す。」ことが前提ですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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法人化後の国立大学の学術論文数の推移とその要因の分析(その4.注目度の国際比較)

2014年03月18日 | 高等教育

2)日本の学術論文の「注目度」の国際比較

 相対インパクト(Impact Relative to World)は、全世界の論文の被引用数(注目度を反映する)の平均を1として、各国の論文の平均被引用数を相対的に示したものである。ある国の相対インパクトが1.5ということは、その国の論文の平均被引用数は、世界平均の1.5倍であることを意味している。図13に示すように、ヨーロッパ諸国の相対インパクトは近年急速に上昇している。一方日本の相対インパクトは近年上昇しているが、その上昇率は他の先進国に比較して緩徐であり、最近ようやく世界平均の1を超えたところである。中国を初めとする新興国の相対インパクトは、日本よりも低いものの、近年急速に上昇しており、日本に肉薄している。

<含意>

 論文の被引用数は、論文の「注目度」を反映する指標と考えられる。論文の「注目度」は論文の「質」という概念とは必ずしも同一ではないが、現時点では論文の「質」を測る適当な客観的指標は存在せず、「注目度」を「質」と見做す場合も多い。

 研究者が学術論文を執筆する場合に、通常はその研究を遂行するにあたって参考にした過去の論文や、考察をする上で必要な過去の論文を引用する。その引用論文の選択には、個々の研究者が判断する「価値」が反映されている。数多く引用される論文には、たとえば、多くの研究者が研究を遂行する上で共通して必要な方法論の論文や要素技術の論文、多くの研究者が重要と判断する事実や概念を最初に発見し提唱した論文などがある。

 また、最近、特許と学術論文とのリンケージが注目されているが、被引用数がトップ1%の論文の米国の特許申請書類における引用数は他の論文の9倍あるという報告3)があり、高注目度論文はイノベーションの潜在力を示す指標にもなりうると考えられる。イノベーションに結びつきやすい研究結果を示した論文は、より多く引用されやすいということを反映するものかもしれない。

 このように被引用数には、研究者の何らかの価値観が反映されていると考えられ、被引用数の多さ(注目度)を論文の「質」を反映する指標と見做すことには、一定の妥当性があると考える。

 ただし、被引用数の問題点としては、以下のようなことがあげられている。研究者数、論文数、あるいは1論文が引用する論文数が多い研究分野ほど被引用数が多くなり、研究者数、論文数、あるいは1論文が引用する論文数が少ない研究分野ほど被引用数は少なくなる。

また、同程度の価値のある論文であっても、著名な学術誌に掲載された論文の方が引用されやすい可能性、真価が認められるのに長期間を要する場合があること、引用する論文は必ずしも価値のある論文とは限らず、間違った論文を批判するために引用することがあることなども、被引用数に影響しうると考えられる。

 

 被引用数の多さ(注目度)を論文の「価値」や「質」を示す指標と見做す場合には、これらの問題点を念頭に置きつつ、妥当な判断をすることが求められる。

 

 科学技術・学術政策研究所は、被引用数のTop10%補正論文数およびTop1%補正論文数の国際比較を分析している。これは、論文の数(量)と注目度(質)の両方を反映する指標であると考えられ、現時点で研究力を判断する上で、最も妥当と考えられている指標である。

 科学技術指標2013の資料より、Top10%補正論文数およびTop1%補正論文数の国際比較を図示した(図15、16)。

 日本のTop10%補正論文数およびTop1%補正論文数は増加しているものの、他の主要国に比較してその増加の程度は緩徐であり、1990-02年、2000-02年、2010-02年にかけて、日本の国際順位はTop10%補正論文数については、4位⇒4位⇒8位(整数カウント法)、3位⇒4位⇒6位(分数カウント法)と順位を下げ、Top1%補正論文数についても、4位⇒5位⇒10位(整数カウント法)、4位⇒4位⇒7位(分数カウント法)と順位を下げている。

 以上より、日本は論文の数ばかりではなく、注目度(質)についても国際競争力が低下しており、特にイノベーションの潜在力を反映すると考えられる高注目度論文数(質×量)の国際順位が下がっていることは、今後の日本経済の国際競争力にも暗雲を投げかけるものと考える。

 

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法人化後の国立大学の学術論文数の推移とその要因の分析(その3.方法の追加と国際比較1)

2014年03月14日 | 高等教育

さて、国立大学の学術論文数についての報告書草案の3回目ですね。

今日は、「方法」について追加した後、「結果」の項に入ります。結果の最初はわが国の論文数の国際比較についてです。すでに、今までのブログでも、何度かご紹介したデータも含まれます。

また、通常の論文の場合、「結果」の項には、文字通り結果だけを並べ、自分の考えは「考察」の項でまとめて説明をすることが多いのですが、この報告書では、たくさんのデータがあるので、ある程度のところで、自分の考えも順次書いていく方が読者にとってわかりやすいと思います。そのために、その都度書き入れる「考察」については、総まとめの「考察」と区別する目的で、「含意」という言葉を使おうかなと思います。

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(8)科学技術・学術政策研究所の学術論文数のデータとの照合

 科学技術・学術政策研究所ではTHOMSON REUTERS Web of Science®のデータを元に、わが国および世界の学術論文の分析を行なっており、InCites™も同じデータベースをもとに論文数を抽出している。そこで、科学技術・学術政策研究所が発行している科学技術指標20131)のp127に掲載されている主要国における整数カウント法の論文数のデータと、InCites™で計数した同じ主要国における整数カウント法による論文数を照合し、合致度を確認した。

 InCites™で計数した値の方がやや高い値を示す傾向が見られ、その差異率は6.25±4.02 % (mean ± SD)であった。また、論文数の順位が科学技術指標ではドイツが3位、イギリスが4位、イタリアが7位、カナダが8位であるのに対して、InCites™の計数では、イギリスとドイツ、およびイタリアとカナダの順位が入れ替わった(表4)。両者の数値が異なる理由については定かではなく、データベースを計数した時期の違いや、抽出方法の違いなどによるものと想像される。ただし、両者は良好に相関しており(図7)、基本的な部分ではほぼ等価の分析をしていると判断してよいと思われる。

表4.科学技術指標論文数による主要国順位とInCites™論文数順位の比較(2010-12平均値、整数カウント法)

順位

科学技術指標論文数

InCites論文数

1

米国

米国

2

中国

中国

3

ドイツ

イギリス

4

イギリス

ドイツ

5

日本

日本

6

フランス

フランス

7

イタリア

カナダ

8

カナダ

イタリア

9

スペイン

スペイン

10

インド

インド

11

韓国

韓国

12

オーストラリア

オーストラリア

13

ブラジル

ブラジル

14

オランダ

オランダ

15

ロシア

ロシア

16

台湾

台湾

17

スイス

スイス

18

トルコ

トルコ

19

イラン

スウェーデン

20

ポーランド

イラン

21

スウェーデン

ポーランド

22

ベルギー

ベルギー

23

デンマーク

デンマーク

24

オーストリア

オーストリア

25

イスラエル

イスラエル

 

 

 科学技術・学術政策研究所では、InCites™では分析ができない高度な分析も行っている。たとえば、科学技術指標20131)のp126 には、先にも述べた分数カウント法による世界主要国の論文数のデータが掲載されているが、この分析を行なうことはInCites™では不可能である。また、Top10%(Top1%)補正論文数のデータが掲載されているが、この分析もInCites™では不可能である。なお、Top10%(Top1%)補正論文数とは、被引用回数が各年各分野で上位 10%(1%)に入る論文の抽出後、実数で論文数の 1/10(1/100)となるように補正 を加えた論文数を指し、これは注目度の高い論文数を反映すると考えられる。

 本報告では、InCites™による分析のデータに加えて、科学技術・学術政策研究所の分析結果を適宜引用しつつ、説明をしていくこととする。

2.結果

(1)日本の学術論文数の国際比較

1)日本と世界全体の全分野学術論文数の推移の比較

 日本の全分野学術論文数は2000年頃までは、世界全体の増加率よりも大きい増加率で増加していたが、2000年ころより失速し、現在は停滞から減少傾向にある。一方世界全体の学術論文数は2000年頃から急速に増えている(図8)。

 

 また、主要15か国の比較では(図9)、日本以外の先進国が軒並み増加を示し、また、中国を初めとする新興国が急速に学術論文数を増加させているのとは対照的に、唯一日本だけが停滞~減少を示している。論文数については2001~04年にかけて、日本はアメリカ合衆国に次いで2番目の多さであったが、それ以後、イギリス、ドイツ、中国に追い抜かれ現在5番目となっている。

 2010-12の平均論文数が50以上の国は154か国あるが、2003-05を基点とした増加率で増加率20%未満の国は6か国にとどまっており、そのうち日本は唯一マイナスの国となった(図10)。なお、VENEZUELAについては、ここ数年急激に論文数が減少しており、何らかの政治状況が影響を与えているものと推測する。なお、2010-12の平均論文数が10以上の国185か国に広げた場合、マイナスとなった国として日本以外にERITREAがあるが、政治状況が不透明な国家である。 

 

<含意>

  これらのデータは、日本の学術論文数減少が、政治状況に大きな問題のある国以外には見られない、日本だけに起こった世界的に見て極めて特異な現象であることを示すものと考えられる。

  また、日本の学術論文数が増加から停滞・減少へ転じた時期は2004年頃であり、図4に示した国立大学の学術論文数の推移のカーブでは、ちょうど2004年を境に明確に停滞・減少に転じている。

  バブル崩壊後の長期のデフレ経済、国家財政における巨額の債務超過、急速な高齢化と人口減少という世界的に見て特異な経済・社会状況にある日本で、学術研究分野でも世界的に特異な現象が生じても不思議ではないが、これらの要因はある程度緩徐に影響するものであり、2004年を境に明確な学術論文数の転換が生じたことは、この頃になされた急激な大学への政策転換(2004年の国立大学法人化、あるいは法人化と時期を同じくして大学に対してなされた政策等)が、研究機能に何らかの影響を与えた可能性を否定できないと考える。

 なお、論文数やその増減の国際比較をする場合、国際共著論文の割合や、その増加率にも配慮する必要がある。科学技術・学術政策研究所による科学技術指標2013の資料のデータより、主要国の国際共著率をプロットしたものが図11である。ヨーロッパ諸国の国際共著率は高く、最近では50%を超えている。増加の程度は、2002年にドイツ41.7%、米国25.5%、日本19.8%であったものが、2012年には、ドイツ53.2%、米国35.9%、日本28.1%と、先進各国とも最近10年間に約10%前後増加している。

 

 

 このような国際共著論文の伸びは、広い意味での研究機能の向上を反映していると考えられるが、その研究機関の実質的な論文生産能力の伸びを必ずしも忠実に反映しているとは言えないと思われる。国際共著論文を関係する国に分数で割りあてる分数カウント法の方が、より実質的な論文生産能力を反映する指標であると考えられる。

 そこで、科学技術指標2013の資料に基づき、整数カウント法で計数した主要国の論文数の推移と、分数カウント法で計数した論文数の推移をグラフに表示して比較した(図12)。国際共著率の高い欧米諸国の論文数は整数カウントから分数カウントにすることにより、増加の傾きが緩徐となっているが、国際共著率のあまり変化していない中国の論文数は両者ともに急峻である。また、2000-02年の日本の順位は整数カウント法では5位であるが、分数カウント法では3位に上がっている。一方、日本の論文数のカーブを見ると、2000-02年から2010-12年にかけて整数カウント法では論文数の減少は見られないが、分数カウント法では明らかに減少している。このことは、この10年で日本の実質的な研究機能が低下していることを示唆しているものと考える。

 

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さて、そろそろ18日の卒業式の原稿にとりかからなくっちゃ・・・。

 

 

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法人化後の国立大学の学術論文数の推移とその要因の分析(その2.方法)

2014年03月12日 | 高等教育
今日は、国大協報告書草案の2回目で「方法」です。
 
「方法」の記載は、ブログの読者にとってはあまり面白くない部分だと思います。ただし、論文や報告書は、この「方法」がきちんと書かれていないと、まったく信用されません。僕も論文の査読をした経験があるのですが、査読者が最も重点的に査読をする箇所が「方法」です。「結果」については、著者の主張が正しいのか間違っているのか、追試をしない限り確かめようがありませんからね。「考察」も論理の矛盾や飛躍がある場合は指摘をしますが、そうでない場合は、どのようなことをお考えになったとしても、間違っているとは言えません。
 
今回の報告でも、できるだけ「方法」をきちんと記載し、追試をすれば誰でも同じ結果が出る報告書になるように心がけます。そうすると、一般の読者には「方法」の箇所がずいぶん退屈なものになってしまいますけどね。一般の方は、この箇所は読み飛ばしていただいて結構ですよ。
 
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1.方法

(1)分析に用いたデータの入手方法

1)論文数および相対被引用度

 学術論文データベースであるTHOMSON REUTERS InCites™2013年版(国立大学協会が購入)を使用した。

2)国立大学法人の財務データおよび教員数・学生数データ

 各大学が公表しているホームページより入手した。また、(独)国立大学財務・経営センターが各大学のホームページをもとに集計したデータを用いた。

3)科学研究費補助金関係のデータ

 日本学術振興会ホームページで公開されているデータより入手した。

4)科学技術・学術政策研究所の調査研究報告、および、それに基づく科学技術指標のデータ

 科学技術・学術政策研究所のホームページより入手した。なお、科学技術・学術政策研究所の学術論文の分析は、THOMSON REUTERS Web of Science®のデータにもとづくものである。

5)台湾の科学研究費のデータ

 National Statistics Republic of Chinaホームページより入手した。

6)世界主要国の人口

 United Nationsのホームページの World Population Prospects: The 2012 Revisionより入手した。

 

(2)データの分析方法

1)Microsoft Excel 2013を用いてデータの集計・分析を行なった。

2)統計学的分析については、Microsoft Excel 2013とともに、必要に応じてCollege Analysis ver5.1(福山平成大学)、およびIBM SPSS Statistics version 20を併用した。

(3)今回論文数の分析に用いた学術論文データベースの特徴

 今回論文数の分析に用いた学術論文データベースTHOMSON REUTERS InCites™の特徴として以下の諸点が挙げられる。

1)THOMSON REUTERS Web of Science®のデータベースを元に作成された簡易型研究分析ツールである。

2)各国ごと、各研究機関の、1981-2012の学術論文数および被引用数などのデータが得られる。

3)論文数は整数カウント法によるものであり、したがって各大学の論文数を足し合わせて合計の論文数を算出した場合、その大学間の共著論文が重複してカウントされる。なお、InCites™には、たとえばJapan National Universitiesという大学群のカテゴリーが用意されており、この場合は、このカテゴリーに含まれる大学間の重複論文はカウントされない。なお、科学技術・学術政策研究所における学術論文数に関する調査報告では、THOMSON REUTERS Web of Science ®に基づいて独自に分数カウント法で算出した論文数の分析も行われている。分数カウント法は、たとえば米国と日本の2か国の共著の場合、それぞれに1/2という論文数を割り当てるカウント法である。

4)論文数はWeb of Science ®に登録された学術誌に掲載された論文数であり各大学が産生している実論文数とは必ずしも一致するわけではない。

5)Web of Science®に登録される学術誌は毎年見直しが行われる。この場合、登録が中止になった学術誌の過去の論文データはデータベースに残っており、新規登録された学術誌の過去の論文データは収載されず、登録された年以降の論文データが収載される。

6)InCites™の論文数には、登録学術誌の変更等によるデータベースへの論文収載方法に起因すると推測される経年変動がみられる。本報告では、経年変動を均すためにしばしば3年移動平均値を用いた。なお、論文数の経年の増減の傾向を回帰直線の傾き(SLOPE)で分析する場合には、3年移動平均値ではなく、1年単位の論文数を用いた。

8)現時点でInCitesで論文数のデータが利用できるわが国の大学は、71国立大学、80私立大学、8公立大学である。

 

(4)分析の対象とした国立大学

 THMSON REUTERS InCites™で論文数のデータが得られる国立大学は71大学あるが、そのうち、総合研究大学院大学( The Graduate University for Advanced Studies)は、18の大学共同利用機関等をキャンパスとする大学院大学であり、他の国立大学や大学院大学と性格が大きく異なることから、今回の主要な分析には含めないことにした。その結果、今回の主要な論文数分析の対象とした国立大学は70大学となった(表1)。

表1.本論文で論文数分析の対象とした国立大学

  1. 01北海道大学   HOKKAIDO UNIV
  2. 03室蘭工業大学 MURORAN INST TECHNOL
  3. 05帯広畜産大学 OBIHIRO UNIV AGR & VET MED
  4. 06旭川医科大学 ASAHIKAWA MED COLL
  5. 07北見工業大学 KITAMI INST TECHNOL
  6. 08弘前大学     HIROSAKI UNIV
  7. 09岩手大学     IWATE UNIV
  8. 10東北大学     TOHOKU UNIV
  9. 12秋田大学     AKITA UNIV
  10. 13山形大学     YAMAGATA UNIV
  11. 14福島大学     FUKUSHIMA UNIV
  12. 15茨城大学     IBARAKI UNIV
  13. 16筑波大学     UNIV TSUKUBA
  14. 18宇都宮大学   UTSUNOMIYA UNIV
  15. 19群馬大学     GUNMA UNIV
  16. 20埼玉大学     SAITAMA UNIV
  17. 21千葉大学     CHIBA UNIV
  18. 22東京大学     UNIV TOKYO
  19. 23東京医科歯科大学     TOKYO MED & DENT UNIV
  20. 25東京学芸大学 TOKYO GAKUGEI UNIV
  21. 26東京農工大学 TOKYO UNIV AGR & TECHNOL
  22. 28東京工業大学 TOKYO INST TECHNOL
  23. 29東京海洋大学 TOKYO UNIV MARINE SCI & TECHNOL
  24. 30お茶の水女子大学     OCHANOMIZU UNIV
  25. 31電気通信大学 UNIV ELECTROCOMMUN
  26. 32一橋大学     HITOTSUBASHI UNIV
  27. 33横浜国立大学 YOKOHAMA NATL UNIV
  28. 34新潟大学     NIIGATA UNIV
  29. 35長岡技術科学大学     NAGAOKA UNIV TECHNOL
  30. 37富山大学     TOYAMA UNIV
  31. 38金沢大学     KANAZAWA UNIV
  32. 39福井大学     UNIV FUKUI
  33. 40山梨大学     UNIV YAMANASHI
  34. 41信州大学     SHINSHU UNIV
  35. 42岐阜大学     GIFU UNIV
  36. 43静岡大学     SHIZUOKA UNIV
  37. 44浜松医科大学 HAMAMATSU UNIV SCH MED
  38. 45名古屋大学   NAGOYA UNIV
  39. 47名古屋工業大学       NAGOYA INST TECHNOL
  40. 48豊橋技術科学大学     TOYOHASHI UNIV TECHNOL
  41. 49三重大学     MIE UNIV
  42. 50滋賀大学     SHIGA UNIV
  43. 51滋賀医科大学 SHIGA UNIV MED SCI
  44. 52京都大学     KYOTO UNIV
  45. 54京都工芸繊維大学     KYOTO INST TECHNOL
  46. 55大阪大学     OSAKA UNIV
  47. 56大阪教育大学 OSAKA UNIV EDUC
  48. 58神戸大学     KOBE UNIV
  49. 60奈良女子大学 NARA WOMENS UNIV
  50. 61和歌山大学   WAKAYAMA UNIV
  51. 62鳥取大学     TOTTORI UNIV
  52. 63島根大学     SHIMANE UNIV
  53. 64岡山大学     OKAYAMA UNIV
  54. 65広島大学     HIROSHIMA UNIV
  55. 66山口大学     YAMAGUCHI UNIV
  56. 67徳島大学     UNIV TOKUSHIMA
  57. 69香川大学     KAGAWA UNIV
  58. 70愛媛大学     EHIME UNIV
  59. 71高知大学     KOCHI UNIV
  60. 73九州大学     KYUSHU UNIV
  61. 74九州工業大学 KYUSHU INST TECHNOL
  62. 75佐賀大学     SAGA UNIV
  63. 76長崎大学     NAGASAKI UNIV
  64. 77熊本大学     KUMAMOTO UNIV
  65. 78大分大学     OITA UNIV
  66. 79宮崎大学     UNIV MIYAZAKI
  67. 80鹿児島大学   KAGOSHIMA UNIV
  68. 82琉球大学     UNIV RYUKYUS
  69. 85北陸先端科学技術大学院大学   JAPAN ADV INST SCI & TECHNOL
  70. 86奈良先端科学技術大学院大学   NARA INST SCI & TECHNOL

(5)国立大学間の共著による重複論文数の推定

InCites™において、Japan National Universitiesという大学群のカテゴリーが設けられている。そこには71国立大学毎の論文数のデータと、Japan National Universities Totalsという71大学を一つの大学群とみなした場合の論文数のデータが得られる。各大学の論文数のデータの合計には71大学間の共著論文が重複して計数されるが、Japan National Universities Totalsでは71大学間の共著論文は重複されずに計数される。そして両者の計数の差は、各大学の論文数を合計した場合に重複して計数される論文数となる。

図1に示すように、Japan National Universitiesの各大学論文数の合計と、Japan National Universities Totalsの論文数との差は、次第に大きくなっている。

 また、図2に両者の差を各大学論文数の合計で除して求めた論文重複率の推移を示した。重複率は10年前には約15%であったものが最近では20%を超えており、直線回帰では最近10年間に0.495%の割合で増加している。

 このことから、各大学の論文数を合計して大学群の論文数を算出する場合は、最近10年間では重複して計数している論文の割合が10~20%程度ありうることを念頭に置かねばならない。また、大学群の最近10年間の論文数の増減の傾向を検討する場合には、10年間で5%程度の増加は重複論文数の増加が反映されている可能性があることに留意する必要がある。つまり、論文数のカーブが増加傾向を示しても、5%以下の増加であるならば、実際は停滞~減少している可能性がある。

 

(6)InCites™における論文数の経年変動について

 先にも述べたが、InCites™の論文数、つまりWeb of Science®の論文数には経年変動が見られる。図3は、JAPAN: NATL UNIVERSITIES TOTALS、JAPAN TOTALS、およびWORLD TOTALSの全分野論文数を、移動平均値ではなく、1年毎にプロットしたものである。当然のことであるが、図1に示した3年移動平均値のカーブと比較して、1年毎の微細な変動が見られる。

 

その変動を強調するためにJAPAN: NATL UNIVERSITIES TOTALSについて、1999年~2012年までの論文数についてスケールを拡大して図4に示した。

 図4のカーブでは、2001年に“肩”が見られ、2004年に“陥凹”が見られる。これらの変動が、国立大学群に内在する要因による変動なのか、データベースの論文データ収載方法に起因するものなのかを推測するために、JAPAN TOTALS、およびWORLD TOTALSの論文数の変動を、時系列を考慮して比較した。

図5にJAPAN: NATL UNIVERSITIES TOTALS、JAPAN TOTALS、およびWORLD TOTALSの経年と論文数の直線回帰式から得られる残差の変動を示した。図4から経年的な論文数の直線回帰が可能であると判断される2004~2012の論文数のデータを用い、JAPAN: NATL UNIVERSITIES TOTALS、JAPAN TOTALS、およびWORLD TOTALSのそれぞれについて、経年と論文数との直線回帰式から残差を求めた。その残差の予測値に占める割合(%)をプロットしたものが図5である。つまり、この図は、各年の論文数の直線回帰の予測値(平均値に相当)からのずれの程度をプロットしたものである。

 

JAPAN: NATL UNIVERSITIES TOTALSとJAPAN TOTALSの残差の変動は非常によく一致している。また、WORLD TOTALSの変動とも、概ね一致している。唯一2005年~06年にかけて、JAPAN: NATL UNIVERSITIESが増加しているのに対して、WORLD TOTALSは減少しているものの、その減少率は緩徐になっており、すべての年について両者に関連性が認められる。また、2001年の“肩”についても、図3を見ていただければ、JAPAN: NATL UNIVERSITIES TOTALS、JAPAN TOTALS、WORLD TOTALSの3者ともに”肩”が存在することがわかるであろう。

この結果から、国立大学群に見られる1年ごとの比較的小さい急激な論文数の変動は、国立大学群に内在する変動というよりも、全世界の論文数の変動に関連した変動であると考えられる。全世界の論文数の1年毎の微細な変動が一斉に生じる要因については、全世界の大学や研究機関の研究機能が同期されて変動しているとは考え難く、データベースに論文を収載する何らかの方法に起因するものと推測する。THOMSON REUTERS Web of Science®に収載される学術誌は、常に見直しがなされており、そのような収載学術誌の見直し等が影響している可能性は否定できない。

また、WORLD TOTALSの残差の変動の割合は概ね-1~+1%であり、それほど大きい値ではないが、論文数の微細な変動を分析する際には注意が必要と思われる。

 

(7)学術分野

学術分野の分析にはWeb of Science®のEssential Science Indicators: 22 Subject Area(表2)を用いた。

 

表2.Web of Science® のEssential Science Indicators

  • AGRICULTURAL SCIENCES
  • BIOLOGY & BIOCHEMISTRY
  • CHEMISTRY
  • CLINICAL MEDICINE
  • COMPUTER SCIENCE
  • ECONOMICS & BUSINESS
  • ENGINEERING
  • ENVIRONMENT/ECOLOGY
  • GEOSCIENCES
  • IMMUNOLOGY
  • MATERIALS SCIENCE
  • MATHEMATICS
  • MICROBIOLOGY
  • MOLECULAR BIOLOGY & GENETICS
  • MULTIDISCIPLINARY
  • NEUROSCIENCE & BEHAVIOR
  • PHARMACOLOGY & TOXICOLOGY
  • PHYSICS
  • PLANT & ANIMAL SCIENCE
  • PSYCHIATRY/PSYCHOLOGY
  • SOCIAL SCIENCES, GENERAL
  • SPACE SCIENCE

また、日本における各分野の論文数増減の要因分析を単純化するためにEssential Science Indicatorsをさらに括った分類(表3)で、論文数の推移を分析した。ただし、この括り方は本報告書独自のものであり、異論もありうると思われる。

表3.本報告で用いたEssential Science Indicatorsの一部を括った学術分野の分類

 

  • 床医学          CLINICAL MEDICINE
  • 生命科学系         BIOLOGY & BIOCHEMISTRY
  •                        NEUROSCIENCE & BEHAVIOR
  •                     MOLECULAR BIOLOGY & GENETICS
  •                     IMMUNOLOGY
  •                     MICROBIOLOGY
  •                     PHARMACOLOGY & TOXICOLOGY
  • 理工学系           CHEMISTRY
  •                     ENGINEERING
  •                     MATERIALS SCIENCE
  •                     COMPUTER SCIENCE
  •                     PHYSICS
  • 農・環境系         PLANT & ANIMAL SCIENCE
  •                     AGRICULTURAL SCIENCES
  •                     ENVIRONMENT/ECOLOGY
  • 理学系             GEOSCIENCES
  •                     SPACE SCIENCE
  •                     MATHEMATICS
  • 人文社会科学系    PSYCHIATRY/PSYCHOLOGY
  •                     SOCIAL SCIENCES, GENERAL
  •                     ECONOMICS & BUSINESS
  • 複合系              MULTIDISCIPLINARY


InCites™においてEssential Science Indicatorsの22の分類それぞれの論文数を合計した数値と、全分野論文数として一括して読みだした論文数とは、必ずしも一致しない。JAPAN: NATL UNIVERSITIES TOTALSにおいて、各分類の論文数の合計と、全分野論文数の推移を比較したところ(図6)、早期の年代において各分野論文数の合計が、全分野論文数の合計よりも少なく計数されていた。この理由としては、各22分野で計数する場合は、それぞれの分野に現在登録されている学術誌に掲載された論文数を計数するのに対して、全分野論文数を直接計数した場合はWeb of Science®に現在は登録されていないが、過去に登録されていた学術誌の論文数も計数してしまうためではないかと推測する。ただし、2000年頃以降の論文数の分析には、この差異は無視できる程度であると判断する。



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「方法」はだいたいこんな感じかなと思っています。「方法」だけで、けっこうな分量と時間がかかってしまい、異常に長いブログになってしまいましたね。3月17日の卒業式の式辞を書かないといけないし、学内学外の行事や仕事もあるし、IDE大学協会から頼まれている3月中に書かないといけない依頼原稿もあるし・・・。

果たして3月中に報告書がまとまるかどうか・・・。

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法人化後の国立大学の学術論文数の推移とその要因の分析(その1)

2014年03月10日 | 高等教育

昨年、国立大学協会から「運営費交付金削減による国立大学への影響・評価に関する研究」というお題を頂戴して、なかなか時間が取れない中で、一人だけでぼちぼちと分析を続けてきました。その分析結果のプレゼンを2月6日に国大協でさせていただいたのですが、不十分な箇所があり、引き続いて今日まで分析を継続していました。

データの分析というのは、実際自分でやってみるとほんとにたいへんな仕事だということを実感します。今、”ビッグデータ”と言葉がマスコミ等でもさかんに取り上げられていますが、その課題として、分析の専門家が不足しているということが言われていますね。僕の分析しているデータはビッグデータには当たりませんが、データの適切な分析は、それなりの能力をもった人しかできないと感じました。僕に、その能力があるのかどうかは、自分ではよくわからないのですが、分析結果を見ていただいて、皆さんにご判断をいただくということでしょうね。

データの最後の詰めの分析にけっこう難渋していたのですが、いよいよ、報告の締切日の3月末が近づき、お尻に火がついてきたので、報告書の作成に着手しないといけません。でも、ずいぶんとほったらかしにしてあるブログも書かないといけませんね。

そこで、二兎を追うために、報告書の草稿を書きつつ、それを同時にブログに載せていくということを試みてみます。ただし、このようなことをすることに少しばかり不安もあります。

報告書の文体は固い文体になるので、ブログとして適切なのかどうか?

ブログはあくまで報告書の「草案」であり、完成した「報告書」とは違ってくるが、そのような段階のものを公表してもいいのかどうか?

でも、報告書や論文と違う形で、その前段階の草案を、修正すべき個所があることを承知の上で公表できるというのは、「ブログ」という媒体のメリットかもしれないとも思います。行政においても、草案段階でウェブ上で公開してパブコメを求めるということは、今では当たり前のように行われていますしね。

また、けっこう大部の報告書になりそうなので、適宜、論文数以外のブログも織り交ぜていくことにりましょう。

さて、まずは報告書のタイトルですが、国大協から拝命した「運営費交付金削減による国立大学への影響・評価に関する研究」のサブタイトルとして

「学術論文データベースに基づいた法人化後の国立大学の学術論文数の推移とその要因の分析」

を付け加えようと思います。僕が分析したのは、運営費交付金削減によるさまざまな影響のうち、論文数(研究力の一つの指標)についてだけですからね。ただ、論文数に対する影響がもっとも顕著に表れたと考えています。

報告書や論文の最初には「要約」が掲げられるのが普通ですが、一応、全文を書き上げてから、「要約」の執筆にもどることにしましょう。

報告書本文の最初には、まず、「はじめに」を書かないといけませんね。「緒言」というタイトルでもいいし、何も書かなくてもいいのですが、一応「はじめに」としておきます。「はじめに」には、今回の分析をした背景や目的を書かないといけません。背景として国立大学法人化についても簡単に説明しないといけないので、やや長めになってしまうことはやむを得ないところだと思います。

***********************************************************

はじめに

2004年から実施された国立大学法人化は、わが国における第二次世界大戦後の大学改革以来の大きな制度改革であるとされている。各大学には文部科学大臣が定めた中期目標を達成するための中期計画・年度計画の策定が求められ、その達成度が評価されることになった。予算面については中期目標期間(6年間)内については年度を超えた繰り越しが認められ、運営費交付金の学内配分が各大学の裁量で可能となった。また、ガバナンスの面では、学長と役員会の権限が強化されるとともに、経営協議会が設けられて外部委員が参画することとなり、監事制度も導入された。会計面では、民間の会計制度を参考にした国立大学法人会計制度が導入された。

ただし、運営費交付金については効率化係数がかけられ、総体としては年約1%程度の率で削減されることとなった。なお、法人化と交付金の削減は、制度上は必ずしも連動するものではないと説明されているが、現在までのところ国立大学法人の運営費交付金は削減され続けている。また、附属病院建設に伴う債務償還の補てんという意味合いを持つ“附属病院運営費交付金”については、法人化第1期において経営改善係数により急速に削減された。なお、法人化第2期には“附属病院運営費交付金”という区分は無くなった。

また、運営費交付金の種別については、主として職員の人件費や経常的な運営費等に使われる基盤的な運営費交付金が削減される一方で、国の定めるプロジェクトを競争的に獲得する運営費交付金が確保され、また、高等教育予算の中に国公私立大学が競争的に獲得する教育研究資金が確保された。

法人化によって、目標設定と評価によるマネジメント、競争原理の導入、ある程度の現場への裁量権の付与と民間的経営手法の導入、学長の権限強化と監視機構の導入等といった制度改革がなされ、それに伴い、各大学において様々な教学および経営面での改善・改革がなされ、今日に至っている。

法人化の大きな目的の一つは、国立大学の機能強化を図ることであると考えられるが、一方、経営の効率化も同時に求められている。基盤的な運営費交付金の削減は、この効率化に対応する政策であると考えられる。

しかし、運営費交付金の削減が、各大学の経営効率化の努力によってカバーできる範囲であれば大学の機能は低下しないが、その範囲を超えると機能が低下する。現在、少なくとも国立大学の研究機能については、運営費交付金の削減が、法人化によって期待される効率化を超えて“機能低下”を招いている状況であると推測される。

国立大学は、わが国の学術論文数の生産において大きな割合を占めているセグメントであり、その機能低下がわが国全体の学術論文数の停滞~低下を招き、その結果、世界の主要国が学術論文数を増やしている中で、わが国の研究面での国際競争力の急速な低下を招いているものと推測される。

この報告書は、研究力を反映すると考えられる指標の一つである学術論文数の国立大学における推移とその変動の要因を分析することにより、運営費交付金削減の大学機能に及ぼす影響、特に研究機能およびその国際競争力への影響を評価しようとするものである。

*********************************************************

どうでしょうか。だいたい、こんなふうに書こうかなと思っています。

「はじめに」にいろいろなことを書きましたが、この分析で証明したい仮説としては

 運営費交付金の削減 ⇒ 教員人件費の削減 ⇒ 教員数の減少 ⇒ 論文数の減少

という、すこぶる単純なことです。でも、実際にデータ的に証明しようとすると、なかなか難しいものなんです。


次は、報告書の目次、というか構成ですね。

1.要約

2.はじめに

3.方法

(1)分析に使用したデータ

(2)分析方法

4.結果

(1)日本の学術論文数の国際比較

(2)日本の学術論文数の大学群間比較

(3)国立大学の学術論文数の大学間比較とその差異を生じる要因

(4)法人化後の国立大学の学術論文数の推移とその要因

5.考察

6.提言

 
とりあえず、このような目次にして報告書の草案を書いていくことにします。書いていく途中で変わることもあるかもしれませんが・・・。
 
この目次で、もっとも重要な箇所は「法人化後の国立大学の学術論文数の推移とその要因」ですね。これは、サブタイトルと同じです。ここで、はたして仮説が検証できるかどうかが決まります。

次のブログは「方法」です。
 
 
 
 
 
 
 

 

 

 

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