ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

報道ステーションによる財務・経営センター取材の実際のやり取り

2010年10月29日 | 日記

さて、財務・経営センターの最近の状況については、あまりブログで書いていませんでしたが、昨夜(10月28日)の報道ステーションで報道されたこともあり、久しぶりに皆さんに現況をお話しておきましょう。

4月の事業仕分けでは、ほぼすべての事業の廃止ということになりましたが、その後、文科省の方からは、貸付と交付の2事業の当面の間の存続の要求が行政刷新会議に提出されていると聞いています。ですから、経営相談事業や研究事業は、大切な事業だと私は思っていますが、すでに文部科学省の段階で廃止の方針が決められています。

報道ステーションでは私のインタビューの一部が放映されましたが、ツイッター上で、”完全に「情報不足」で決め付けから入っていた”、“一方的な報道”、”都合で編集しすぎ”などのご意見が寄せられました。

実は、酒井ディレクターからは、現場の理事長の思いを伝えたいという申し入れで、報道ステーションの取材に応じたのですが、実際の映像は「文部科学省の指示に従って頑張っていきたいと思う。」という発言と、天下りについての質問に「私自身が民間から公募で選ばれた理事長であり、そういうことはないと考えている。」との発言だけで、残念ながら私の伝えたい思いの場面は映していただけませんでした。

そんなことで、今日のブログでは、一昨日の取材のやり取りを公開させていただくことにします。以下の取材概要は、インタビューの録音から起こして概要をまとめたもので、言葉使い等は変えたり簡略化してありますが、やり取りはほぼ忠実に再現しています。

テレビ朝日 報道ステーション 取材概要

日 時:平成22年10月27日(水)15:00~15:30

記 者:酒井 千絵(報道ステーションディレクター)

対応者:豊田理事長

概 要:(●:酒井ディレクター、○:豊田理事長)

● 仕分け後の経過と現在の理事長のお考えを伺う。廃止の判定があってから半年経過し、今の国立大学財務・経営センターの状況はどのようになっているのか。

○ 仕分けで廃止の判定を受けたが、仕分けの結果は真摯に受け止め、最大限尊重しなければならないものと思う。ただ、私としては、職員のモチベーションがなくなってしまうのが一番心配で、その点については、仕事は本年度限りかもしれないが大切なことをやっているので、今まで以上にがんばろうと職員を励ましてまいりました。

● 仕分け後、今、変わったところはあるか。

○ 今年度は予算をいただいており、取り組む仕事もあることから、手をゆるめることなく、むしろ、一人ひとりが今まで以上に充実した仕事をするよう、職員を励まし、また、職員も業務に専念してくれている。

● 文部科学省では貸付事業と交付事業については当面存続という方向のようだが、そのことについて何か連絡があったか。

○ 文部科学省からは二つの事業については存続を要望しているという連絡はあったが、その後どうなるかは、不明な状況である。

● 「当面の存続」ということについてどう思うか。

○ 最終的な結論はもちろんまだわからないわけで、これから国の方で決めるのだろうが、現場としては、仮に一部の事業でも残ることになれば、ご期待に添えるよう今まで以上にしっかりと取り組みたい。

● 文部科学省としては、パブリックコメントにおいて、一般から廃止反対の意見が多かったため存続したということであるが、仕分け結果とは異なっており、その違いはどう見ているか。

○ 詳細は、文部科学省に聞いてもらいたい。仕分けの結果を受けて国立大学の現場からは貸付・交付の二つの事業については存続の希望が強かったと伺っている。

● 事業仕分けと文部科学省の判断が違うのはどう受けとめるか。

○ 現場としては国の方針に従うしかない。これからの検討・結果を待っている。

● 今の理事長としての願いは。

○ 事業仕分けの結果は最大限尊重しなければならない。一方で、現場の職員のモチベーション低下ということは絶対に避けなければならない。

仮に一部事業でも存続という結論になれば、国立大学の現場は大変助かる。事業仕分けで廃止とされたものが存続するということになれば大変なことなので、大学の期待に添えるよう、存続させて良かったと国民の皆さまに思っていただけるよう、全力を尽くして業務を遂行させていただきたい。

● 今、仕分けを廃止とされて存続は大変なことと言われたが、それはどういう趣旨か。

○ 仕分けの結論は重いものと考えている。現場の職員は大切な仕事をしているわけだが、一方で今の財政状況を考えれば事業仕分けの結果もやむを得ないものとして受け入れざるを得ない、協力しなければならないと思っている。

● 一方で、理事長は熱い思いで大学の改善に取り組んでおられるが、そこのジレンマのようなものはあるか。

○ 資源の乏しい我が国は、これから科学技術、イノベーションと人材育成に力をいれていかなければならないと思っている。その際、特に大きな役割を担っている国立大学の基盤を支えるというのが我々センターの仕事であり、大切な仕事をやらせていただいている。しかし、今の厳しい財政状況を考えると一部の事業の廃止や予算カットはやむを得ない面もある。仮に、我々ができなくなるとしても、別の形でやっていただけるのではないかと考えている。

● 理事長としてはこれからは文部科学省の指示に従うということか。

○ 私は文部科学大臣から任命されておりますので、文部科学省の指示に従って頑張っていきたいと思う。

● 一部の意見であるが、文部科学省のポスト維持のためにセンターの存続を主張しているという意見もあるが。

○ 私自身が民間から公募で選ばれた理事長であり、そういうことはないと考えている。

● 国立大学財務・経営センター以外のことでもあるが、事業仕分けで廃止判定を受けても今も存続している法人が多くあることはどう受け止めるか。例えばURとか宝くじ・・・など。仕分け結果とその後の実際の検討で民営化が困難となる判断が多いのですが、この点についてどう思われるか。

1回の仕分けで最終決定するのではなく、再度仕分けをして、廃止と判断したものが存続となることもあるし、あるいは不十分であったものが、もっと厳しく、削減する又は廃止するという2段階でやるということは適切なやり方ではないかと思う。

1回目の仕分け結果がすべてではないということか

○ 基本的に仕分け結果は尊重すべきだが、なかには不十分だったり、逆に削りすぎたりといった部分もあると思う。そこの微調整を2回目の再仕分けで行っていただくと、そのように認識している。

● ありがとうございました。

 以上

今までの
私の報道機関に対する姿勢は、信頼して何でも公開するということでやってきたのですが、残念ながら報道機関に対する信頼感が揺らいだ一日でした。でも、報道ステーションから取材申し込みがあれば、また、快く受け入れるつもりですけどね。酒井さん、またお待ちしていますよ。



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「元気な日本復活特別枠」へのパブコメお願い:日本人のノーベル化学賞受賞おめでとう

2010年10月07日 | 日記
2010年のノーベル化学賞に、お二人の日本人研究者、北大名誉教授の鈴木章さんと、米パデュー大学特別教授の根岸英一さんが受賞されたことは、国立大学の基盤的な支援をさせていただいている国立大学財務・経営センターの理事長としても、心からうれしく思います。鈴木先生、根岸先生、ほんとうにおめでとうございます。

本日は各新聞とも今回の受賞を大きく取り上げています。しかし、その一方で、最近の政府の科学技術政策に対する懸念を表明しています。

たとえば
<日本経済新聞>
・社説「日本の素材技術の底力示すノーベル賞」

「・・・。一方で、中国や韓国など新興国が技術力で急追し、日本は安閑としていられない。米調査会社の調べでは、07~09年に世界の主要学術誌に載った「化学」「材料」分野の論文数の国別シェアでは中国が20%を占める。日本は10%以下だ。

  人材の層の厚さが、化学賞の受賞が相次いでいる背景にある。鈴木氏は記者会見で「日本は資源がない国だから努力して知識をつくる理科系の力が大事だ」と語った。若手研究者の育成や、大学で生まれた成果を産業に橋渡しする仕組み作りなどを怠ってはならない。」

・p38「基礎研究 政策で支えよ」

「・・・。 将来の成長が見込めない重い空気が日本を覆っているが、落胆するほど日本能力が欠如しているわけではない。強みをしっかりと見直し、それを伸ばす体制を築くことが重要だ。日本はそこに思い切って投資する責任ある科学技術政策を進めなければならない。」

<朝日新聞>
社説「ノーベル化学賞 「鈴木反応」が花開いた」

「・・・。 もっとも、日本の科学の現状は決して楽観できない。このところ、短期的な成果を求める風潮が強まり、じっくり腰を落ち着けて取り組む研究がしにくくなっているのが気がかりだ。

人材が重要といわれながら、博士号を取っても就職は厳しい。研究現場は若者たちが夢を持って飛び込んでいける場ではなくなりつつある。

事業仕分けでの研究への厳しい評価が、若い研究者の意欲をそいだことも指摘されている。

改めて、日本の研究を伸ばすことを考えなければならない。科学技術にこそ、日本の未来がかかっている。

これからも、独創的な研究成果を生み出す国でありたい。若い人たちにはぜひ、先輩たちに続いてほしいし、そのための環境作りが大切だ。」

<読売新聞>
社説「受賞の喜びを次につなげたい」

「・・・。日本の大学の国際評価が下がり始めているのも気がかりだ。英国の教育専門誌が先月、教育、研究などの実績をもとに発表した今年の「世界大学ランキング」はその警鐘である。

  日本勢は、最高の東京大が26位で、昨年までのアジア首位の座を21位の香港大に奪われた。上位200位に入る日本の大学の数も昨年の11校から5校に減った。

  厳しい財政状況の下、国の科学技術予算も減っている。対照的に欧米諸国は、科学技術への公的投資を増している。

  政府や日本の研究機関は、改めて危機感を持たねばなるまい。」

”つぼやき本”にも書きましたように、私は三重大学長時代の2007年ころから、我が国の学術(特に医学分野)の国際競争力の低下を論文数や質の低下をお示しして訴え続けてきたのですが、一部のマスコミもようやく気がつき始めたようです。

若手研究者たちのツイートを読んでいても、朝日新聞が書いているように「研究現場は若者たちが夢を持って飛び込んでいける場ではなくなりつつある」ことが、実感として伝わってきます。

自民党政権下での国立大学法人化を含む一連の大学政策は、予算を削減しつつ、短絡的な”選択と集中”を進める政策であったと思いますが、その結果、特に地方大学の研究力(特に医学分野)が著しく低下し、我が国全体の研究の底力が低下したと考えています。地方大学の機能低下は、地域の産学連携や地域再生に大きなマイナスとなります。

また、基礎研究か?、応用研究(橋渡し研究)か?という問いかけはナンセンスで、日本では両方とも強化する必要があると思います。

中国の数の力には対抗できませんが、国民一人当たりのイノベーションの国際シェアを他国以上に保っておかないと、資源のない日本は物が買えなくなります。今後は、どのくらいの国際シェアを保つべきなのか明確な目標を立てて、その目標達成のために、大学の研究や科学技術への投資の総額を効果的に増やすべきであると考えます。

そのためにも、一人でも多くの皆さんに、「元気な日本復活特別枠」への大学および科学技術関係事業へのパブコメをお願いします。締め切りは10月19日です。












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「元気な日本復活特別枠」へのパブコメお願い:大学ホームページを見てみよう。

2010年10月06日 | 日記
「元気な日本復活特別枠」へのブログの読者の皆さんへのパブコメのお願いについては、前回のブログでも書きましたね。もうすでに書いていただいた方には、ありがとうを言わせていただきます。

「強い人材の育成と科学技術」

つまり、イノベーションを起こす人材を育成し、イノベーションを起こす科学技術を育てるしか、資源の少ない日本は生きて行く道はありません。今回の尖閣諸島問題でも、このことを思い知らされた方が多いのではないでしょうか?

そのためには、特に大学や研究機関における教育・研究や科学技術をさらに強くする必要があり、したがって、先進国に比較して貧弱な大学予算をこれ以上減らすべきではなく、むしろ、イノベーションについての明確な到達目標を設定して、大学への投資を戦略的・効果的に増やす必要があると思います。

この意味で今回のパブコメは一人でも多くの国民の皆さんに書いていただきたいと思います。

全国の国立大学は、今回のパブコメの結果如何で大きな影響を受けます。そして、その結果が、地域における人材育成や地域再生に深刻な影響を及ぼす可能性があります。そのために、各国立大学では、今回のパブコメ募集に真剣に取り組んでいます。

各国立大学のホームページのトップページを覗いてみると、86国立大学のうち、ホームページに何らかの形で特別枠パブコメのお願いを載せている大学が61大学ありました。

(ホームページに載せていない大学が熱心でないということではなく、別の形でみなさん一生懸命やっておられます。)

それぞれの大学がホームページ上で学長の緊急声明という形で、たとえば三重大学(http://www.mie-u.ac.jp/のように目立つ色のバナーを掲げるなど、いろいろと工夫をしてアピールをしておられますが、その中でも静岡大学の伊東幸宏学長は「緊急ビデオメッセージ」という形でたいへんわかりやすく説明しておられます。(http://www.shizuoka.ac.jp/

ぜひ一人でも多くの皆さんにごらんいただけたらと思います。






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