ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

鈴木寛副大臣からの宿題の続き

2010年05月22日 | 日記
さて、鈴木寛副大臣からの宿題で、財務・経営センターの存在意義を可能な部分は数字で示すということの続きです。前回のブログでは、最初から夕張状態を強いられている大学病院の経営健全化を支援するためには、融資・交付・分析・支援・提言などの機能を有機的・一体的に機能させることのできる組織が効果的で効率的であるという主張をさせていただきましたね。このことは以前のブログでも、何回もお話しています。

今日は、この中で病院再開発に係わる融資業務の効率性について考えてみましょう。ただし、融資をする際には、経営の分析・評価をきちんと行って審査を行い、融資を決めることが原則です。ですから、仕分け人のように融資機能だけを切り離して論じることは、そもそも適切ではありませんね。

また、財務・経営センターの融資業務は“廃止”という仕分け結果になりましたが、融資そのものは国立大学にとって必要不可欠のことなので、この業務はどこかが代わりにしないといけないものです。

まず、国立大学が財務・経営センターではなく民間の金融機関から個別に借金をすることは、以前にもお話しましたように、財投を利用するよりも利率が高くなり、また、各大学によって利率が変わる可能性があって、公的使命の極めて大きい国立大学としては、好ましいことではありません。また、大学病院の経営評価を適切に行うことは教育・研究・高度医療・地域医療の支援という公的使命が大きいことから、単に採算が合うということだけでは適切な経営評価にならず、民間金融機関では困難です。大学病院の使命も含めた経営のデータベースを利用できる金融機関は現時点では、財務経営センターしかありません。

もう一つ、民間ではなく個々の大学が直接国から財投で融資をしてもらうという可能性も考えられます。現在は財務・経営センターが一括して国から借金をして、それを個々の大学に融資をして回収し、一括して国に償還するという業務をやっています。この業務自体は、国へ移した場合も減ることはないので、少なくとも同じ経費がかかるはずですね。

むしろ、財務・経営センターが一括して処理をすることでスケールメリットによる効率化が期待され、これはある試算によると国立大学にとって最大1億円くらいの経費節減効果が出る可能性があるとされています。要するに、財務・経営センターの融資機能だけを切り取って他に移しても、経費の節減や効率化には結びつかず、むしろ、非効率となって各国立大学の経費を増やす可能性があると考えます。

それに、単にお金を貸すだけでは不十分で、大学病院の経営分析・研究と有機的・一体的に融資を行う必要がありますね。民間に比べて硬直的になりがちなローテーション人事を行っている国では、このような融資と一体化した分析・研究を行う仕組みをつくることは困難であると考えます。


ここで経営評価や分析と融資を有機的・一体的に行う効果を考えてみましょう。ただし、いくつかの大胆な仮定が入りますので、正確な数字が出せるということではありません。

一例をあげますと、たとえば、一つの大学病院の再開発には数百億円から1千億円を超える投資がなされ、これは基本的に財務・経営センターの融資でまかなわれています。大学病院は、一般病院と異なって、教育・研究・高度医療・地域医療の支援という、極めて大きな公的使命を持っているために、それだけ、病院の建設費や医療機器が高額となります。ちなみに私が学長をしていた三重大学の附属病院は現在再開発中ですが、総額約390億円かかります。これは、三重の地域において大学病院以外の基幹病院の再開発費の約2倍に相当する金額です。

しかし、この一般病院よりも多額にかかった再開発費は診療報酬ではまかなわれないために、交付金が年々削減されている状況では、後年各大学病院は借金の返済に苦しむこととなり、現場が疲弊をして、教育・研究・高度医療・地域医療の支援という地域や国民にとって大切な大学病院の使命が損なわれる危険性があります。現実に、医学論文数が日本だけが減少するというゆゆしき状態に陥りました。

仮に、財務的に行き詰まった場合、地域医療の最後の砦である大学病院はやっぱりつぶせないということになれば、最終的に余分の公費の投入が行われることになると思います。

大学病院の妥当な再開発費がいったいいくらかということは、節減しすぎても使命が果たせず、使いすぎても借金が返せなくなるので、なかなか難しい問題であり、今後の研究課題です。ただし、万が一過度の再開発投資が行われていることがあるとすれば、それについては現時点においても可能な範囲で分析・提言をする必要があります。

大胆な仮定になりますが、仮に各大学病院とも約10億円の過度の投資が行われていたと仮定し、それを分析して節減するような提言ができれば、単純計算で42大学の合計で約420億円の経費の節減になります。これは、この金額分、大学病院の現場の疲弊を防いで公的な機能を守り、最終的に余分の税金の投入や国債の発行を押さえられることに貢献します。

このようなことは、分析・提言機能と融資機能を有機的・一体的に機能させて初めて可能となることであり、現時点では財務・経営センター以外には実施できないと考えます。財務・経営センターの全事業に係わる総費用は高々年約4億5千万円ですので、仮に上記の規模の経費の節減に結びつけば、十分に元が取れることになります。

念のため、この数字には大胆な仮定が入っており、一人歩きするとたいへん困るのですが、読者の皆さんに、分析・提言機能と融資機能を有機的・一体的に機能させることの効果をイメージしていただくために、あえて誤解を恐れず数字を出しました。
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