ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

インタビューの準備(その3):融資交付・分析研究・相談提言機能を一体的に機能させる支援組織が必要

2010年05月06日 | 日記
さて、5月7日のマスコミの取材に向けての私の頭の中の整理の3回目です。何度もしつこく断っておきますが、ここに書いたことがらは文部科学省とはまったく関係のない私個人の意見ですし、また、皆さんのご意見によって修正することもありうるということです。

それに、今日はずいぶんと文章が長くなってしまって、ブログというよりも論説になってしまいましたね。でも、明日のインタビューに間に合わないので、今日、書いておくことにします。


仕分けでは、財務・経営センターの融資機能・交付機能は全面的に否定されました。仮に財務・経営センターで行わないとするならば、国立大学附属病院長会議が緊急声明を出したように、国は別の形で、それまでの融資と交付をきっちりと担保していただきたいと思います。

しかし、私は、融資交付事業、分析研究事業、そして相談提言機能は、それを有機的・一体的に機能させて始めて、有効な経営支援機能を発揮できると考えています。

まず、適切な融資や交付を行うためには、大学病院の経営の適切な評価や審査が必要です。民間の金融機関でも、融資の機能と、経営評価・審査は一体化して行っていますね。これをばらばらにしたのでは、適切な融資はできないというのが常識だと思います。したがって、融資機関は大学病院の経営に関する分析・研究機能を一体的に持つべきであると思います。

大学病院は民間金融機関から借りればいいではないかというご意見もあるのですが、私は反対です。その理由は、そもそも低利長期の融資が困難であるという問題が第一点。それから、大学病院の経営に関して、十分なデータを持ち合わせていない民間の金融機関が大学病院の使命の達成機能まで含めて、適切な経営判断ができるとは考えられないからです。

私は、さらにもう一つ逆の視点からの問題点が起こりうると考えています。それは、民間金融機関は償還可能性を第一義的に考えて融資の可否を決定するので、大学病院のような今まで100%の償還実績があり、暗黙の国の信用保証があると考えられる病院には、その経営状態にかかわらず現場の希望どおりの融資をする可能性が高いのではないかという懸念です。これは一種のモラルハザードだと思います。

しかし、それでは、将来、大学病院が立ちゆかなくなる可能性があり、私はそれを危惧しています。病院再開発に過度の投資をしてしまうと、結局、その償還のために現場が疲弊をしてしまって、教育・研究・高度医療・地域医療の支援といった、大学病院の大切な公的使命が損なわれてしまう危険性があるからです。現に、過去の過大な借金を背負って、“我々は借金を返すためだけに診療をしているのか?”というような現場の声も出るような状況で、日本の医学論文数は激減をしてしまいました。

また、承継債務の問題だけではなく、法人化後に再開発をした大学病院においても、今後、過大な借金の償還に苦しむことになるのは、火を見るより明らかです。

そして、”地域医療の最後の砦”という、あまりにも大きな公的使命の故に、結局大学病院をつぶすことはできない、ということになれば、税金を投入せざるを得ないことになります。


各大学病院には、再開発の投資額を適切な金額にコントロールしていただく必要があると考えています。ただし、投資額を抑制しすぎて安かろう悪かろうの大学病院を作ったのでは、逆に、教育・研究・高度医療・地域医療の支援という大切な使命機能が十分に果たせなくなります。

つまり、大学病院の再開発については、使命機能を十分に発揮できる大学病院であり、なおかつ過度の投資を抑える必要があります。この妥当な投資額がいったいいくらかという点については、今後、分析・研究を続ける必要があるのですが、それと同時に、再開発投資の妥当な金額について、指導的な助言機能を持つ機関が必要であると考えています。

このような相談から一歩踏み込んだ指導的な助言まで行うとなると、これは、融資や交付の権限を持っている機関でないと困難です。

実は、財務・経営センターは、当初“研修”機能を有していたのですが、前政権下において、国立大学協会という国立大学の集まりにおいても研修をやっているので重複するという理由で、“研修”機能を外されてしまっていたのです。

これは、あまりにも短絡的な発想ですね。“研修”を行うにしても、融資や交付の権限を持っている機関が行う場合と、持っていない機関が行う場合とでは、その効果に雲泥の差があることは明白です。財務・経営センターの現場は、“研修”事業が否定されてしまったのですが、“勉強会”という形で、全国の若手の職員を集めて、経営相談事業を粘り強くやってきたのです。

さらに、病院再開発の投資額に関係することがらとして、公費投入額の妥当性の問題があります。国立大学病院の場合、建物建設費の10%が教育研究相当額として国費が投入されていますが、実は、自治体病院では公的な使命に相当する金額として50%公費が投入されているのです。

大学病院が教育・研究・高度医療・地域医療の支援という大切な使命を果たすためには、どうしても一般病院よりも高額の再開発費がかかります。しかし、その使命に係わって高額となった投資額について、現行の診療報酬がカバーしているわけではありません。診療報酬でカバーできないとなると、公費でカバーしていただかないことには、病院はやっていけません。果たして再開発費の何パーセントが公費投入額として妥当なのか?私はこのようなことについても分析・研究をして政策提言をおこなう第三者機関が必要であると考えます。

次に、大学病院の経営危機(たとえば資金繰りに行き詰まった時など)に対するセーフティーネットの仕組みづくりが必要であると考えていますが、現時点は存在しません。資金繰りに困った病院で行われていることは、総合大学においては他の学部の教育・研究費でもって一時的に凌ぐことです。しかし、安定的に確保されるべき教育・研究費で病院の経営の浮沈を補うということは本来あってはならないことであると私は考えますし、規模の小さな大学では不可能です。

国でセーフティーネットの仕組みがつくれるかというと、これも困難であると想像します。それは “赤字”は各大学病院の経営の怠慢なのであるから、それを国民の血税で補填することはとんでもない、といった議論にすぐになってしまうからです。実際のところは、個々の病院によって差はあるかもしれませんが、基本的には大学病院の怠慢ではなく、患者数や手術件数を増やし、毎年4%もの増収を積み重ねているにもかかわらず、国の交付金削減が激しすぎたために赤字になっていると考えられるのですが・・・。

私は、セーフティーネット機能を、融資や交付機能を活用して財務・経営センターに付与するということが、一つの解決策になった可能性があるのではないかと考えています。

以上、ずいぶん長々とお話してきましたが、このようなことから、大学病院に対する融資交付機能・分析研究機能・相談提言機能を有機的・一体的に機能させて始めて、強力な大学病院経営支援組織を形成できると考えます。そして、それを担う機関としては、私は民間でもなく、国でもなく、いろいろな面において融通性のある第三者機関で行うことがベストであると考えます。

私は、国立大学・財務経営センターは、融資交付機能・分析研究機能・相談提言機能を有機的・一体的に機能させることにより、大学と大学病院の危機的状況を救うことが出来る最善の組織構造を持っていたと思っています。ところが、残念ながら、事業仕分けによって、各事業ごとにバラバラに必要性を検討される手法により、すべの事業の廃止という結論が出てしまいました。仕分けの議論では、各事業を有機的・一体的に機能させることによる効率性や効果性について、いっさい議論されなかったことはほんとうに残念でなりません。

私は、国立大学と附属病院の危機的状況を打開するためには、財務・経営センターのような大学経営支援組織の存在が、少なくとも危機的状況を脱するまでは、必要不可欠であると考えます。仮に財務・経営センターの組織そのものを否定されるのであれば、それに代わる第三者機関の設立が必要と考えます。

事業仕分けで、財務・経営センターのすべての事業が廃止という結論になりましたが、最終的な事業や組織のあり方については、これから検討されるということなので、全国の国立大学や附属病院の皆さん、そしてその恩恵を受ける地域住民や国民の皆さんのために、最後まであきらめずに頑張りたいと思っています。

皆さんからの応援をよろしくお願いいたします。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする