声の方向に振り向く
眉間にしわを寄せたトシユキがゆっくり近づく、手の届くところで立ち止まりニコッと微笑む。
「待たせたなぁ」
「今来たところ」理子は利幸の瞳に合わせるように少し頭を上に向ける。
二人は山下公園の船着き場に向かって行った。
ウイング号のチケットを係に渡し乗船していく。
「なぁ、花田、もし俺が死んだらこの後に残された者たちはどうなるんだろうか?」
ワイングラスを揺らしながら花田は夜闇の海を睨みながら「お前がいなくなっても何も変わらないさ、どうにでもなって皆暮らしていくさ、ただお前がいない寂しさが残っているだけさ」
「幸さんはどうだ」
「ここ2年アメリカに行ったきりだ、週に何回かスカルプで話している」
「なぁ花田いつも心に風がすきこんでいく感じがする、今の自分が本当の自分ではないような気がするんだ。」
「親父に言われた、そろそろ石川に帰って教会を継げって言うんだよ。まだ何かやり残したことがあるような大きな不安が心を占めているんだ。」
と言いながら戻って行く。
2次会に参加する10名以外は帰途についていった。
タクシー3台に分乗して向かった。
「トシ君久しぶりね~」
と言いながら利幸にハグをする幸子
「5年ぶりですね幸子ママ、今日は理子の誕生日なんだ、仲間と今日はお祝いで朝まで騒ぎます。」
「いいわよ、今日はあなたたちだけの貸し切りですもの」
ボーイが先導して7Fの大広間に案内する。
港を一望する絶景に皆が見入っている。
飲み初めて1時間が経っていた、金田が利幸と花田の側に来て「とし、理子はあとどれぐらいなんだ?」
水割りをグイッと飲みほして「医者の林があと3か月だと」
「そうか」
「あいつは湿った顔は喜ばない、ガンガン騒ごうじゃないか」
3か月後金沢の教会で理子のお別れ会が行われた。
理子のお父様が利幸に1通の手紙を渡した。
受け取ってそれを読み始めた。
読み終えて元に折りなおして右ポケットにしまった。
しばらくの間呆然と立ち尽くしていた。