「能登はやさしや土までも」と古くから言う。素朴な人情が言わしめるようだ▼元禄時代、加賀藩の武士浅加久敬(ひさのり)が能登路を巡り、道すがら綱とる馬子の愛らしい笑顔に出会って「能登はやさしや…」とはこのことか、と納得したと伝わる。その十数年後にも能登を訪問。宿の主人から「今日はめでたい節句だから」と草餅と桃酒を振る舞われた。桃の節句だったのだろう。もてなしに「世間で『能登はやさしや』というが、本当にその通りだ」と旅日記に残した。能登の歴史や民俗に詳しい藤平朝雄さんらの著書『能登燦々(さんさん) 百景百話』にある▼端午の節句の昨日、能登が揺れた。珠洲市で震度6強。その後も地震は続いている。亡くなった人がおり、家屋も倒れた。胸が痛む▼冬の寒さの厳しい能登も今は緑まぶしい季節。揺れのためだろう、山の斜面も崩れていた。今後、雨が降る予報といい、さらに崩れないかと憂える▼昔から森が豊かな能登。万葉歌人の大伴家持はこんな歌を残した。「鳥総(とぶさ)立て 船木伐(き)るといふ 能登の島山 今日見れば 木立茂しも 幾代神(かむ)びぞ」。鳥総とは木を切った時にその梢(こずえ)を株に立て、山神を祭ったものという。そう祭っては船木を伐り出すという能登の島山。木立は茂るが、幾代を経ての神々しさなのか−といった意味という▼山に神がいるのならば、やさしき地のために早く鎮めてほしい。
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