「おおきな木」という絵本がある。作者は米国の作家でイラストレーターのシェル・シルヴァスタインさん。日本版は村上春樹さんが訳している▼こんな話だ。おおきなリンゴの木と少年は大の仲良し。ところが大きくなるにしたがって少年は木と遊ばなくなる▼青年になった少年はお金が必要になる。木は少年に自分のリンゴを売れという。少年はありったけのリンゴを持っていく。大人になった少年は今度は自分の家がほしくなる。木は自分の枝を切って家を造ればという。少年はたくさんの枝を切る。次の願いは船。リンゴの木は自分の幹を切って造れという。少年はリンゴの木を切り倒す▼憲法記念日である。絵本が描くのは子どもへの親の無償の愛か。この日は日本国憲法に重ねたくなる。立憲主義、戦争の否定。平和の実のなる憲法という木は少年が戦争に巻き込まれぬようにと長い間、守り続けてきたのだろう▼だが、日本という少年はそのありがたさに気づかない。自分の都合と勝手な解釈によって、その木をたびたび傷つけてきた▼新しいところでいえば、殺傷能力を持つ武器の海外輸出を可能にしようという議論である。家や船を求めた少年と同じ。防衛産業の強化という欲のため、憲法の「平和主義」という幹に鋭利な斧(おの)を打ち込むように見えてならない。取り返しのつかぬ一撃となるまいか。心底、おそれる。
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