作家の藤沢周平さんに故郷山形の海にふれた随筆がある。海沿いのホテルで夜、眠れずに、海鳴りをしばらく聞いた。心に浮かんできたのは単純な懐旧の情ではない。<若さにまかせて、人を傷つけた記憶が、身をよじるような悔恨をともなって甦(よみがえ)る…>▼海の声と形容されることもある波音や海鳴りは、美しい思い出だけでなく、過去への悔いもかきたてようか。今ならば、長い間、海そのものを人類が傷つけてきた悔恨の思いを浮かべる方も増えているだろう▼マリアナ海溝の一万メートルよりさらに深くで、プラスチックのごみが見つかった。鮮やかな色の微細なプラスチックの有害物質が世界の海に漂っているというニュースが届く。微生物よりも「廃プラ」のほうが多い海が、あるという。もう限界だという海の声である▼声に応える一歩だろう、廃プラの輸出などを規制するバーゼル条約の改正が決まった。中国が輸入禁止を決め、世界の海へさらに流出する恐れがあった。大量に発生させてきた日本も国内での処理など対応を迫られることになる▼プラスチックがなければ朝から何も始まらないほど、世の中の依存度は高い。関連産業は経済に大きな地位を占めている。廃棄物を減らし代替品を開発し使う。海を救うのは言うほど簡単でないだろう▼生活や社会を見直す大きな変革が伴うだろうが、その悲鳴を真剣に聞きたい。
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