TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「『成院』と『戒院』」5

2020年02月11日 | T.B.2010年
「最近、多いですよね」

宗主の屋敷からの帰り道
裕樹が呟く。

砂一族の襲撃の事かと
『成院』は頷く。

「そうだな、
 大事には至っていないが」

「………俺は」

裕樹は言う。

「もっとこちらからも
 打って出るべきだと思う」
「東一族から襲撃を仕掛ける、と?」
「はい」

たまりかねたのか
裕樹が言う。

「無駄な犠牲を出すだけだと
 思っていますか?」

「どう動くかは大将が決める。
 すべて考えて進めている事だ」

「でも、やられっぱなしじゃないか」
「そうではないと思うが」
「こちらは犠牲が出てばかりだ。
 俺達の様に砂漠に出ているならともかく」

「裕樹」

「先生は自分の家族に手を出されても
 黙って見ていろと言うんですか」

「裕樹!」

『成院』は裕樹の肩を叩く。

「裕樹、それなら
 戦術師に戻るか?」

あ、と
裕樹は口ごもる。

頭に昇った熱が
少し冷めたのだろう。
彼は、他の東一族よりも強く
砂一族を嫌っている所がある。

「すみません、でした」

「家族の事だからな。
 裕樹の考えはそれで大事だと思う」

「はい」

『成院』と同じで
戦術師から医術師になった裕樹は
彼なりの事情がある。

「でも、先生も気をつけて」
「ああ」

「家族ぐらいは
 自分で守らないとな」

「あ、それもですけど」
「けど?」
「先生自身も気をつけて」
「………俺?」

「先日兄さん言ってたでしょう」

水樹の言葉では無いけれど、と
裕樹は言う。

「今、砂一族が狙ってくるのなら
 次期大師だって」


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「西一族と巧」10

2020年02月07日 | T.B.1996年
「魔法?」
「そう」

 占い師は頷く。

「未来を見る力」
「未来を、見る……魔法?」
「ええ」

 占い師は指を差す。

 壁に、大きな地図が貼ってある。
 水辺の地図。

「私たちの一族から、反対に位置する一族」
「海一族、か」
「そこにも、先視と云う名で未来を見る者たちがいます」

 占い師が云う。

「星の動きや、玉の配置で見る占いとは違う」
「…………」
「未来を見る力を与えられているのです」

 占い師は、巧を見る。

「自身のこの先を、知りたいのですね?」
「…………」
「そうなのでしょう?」
「……ああ」

 占い師は目を閉じる。

「魔法とは云いますが、すべてがはっきりと見えるわけではありません」
「…………」
「もちろん、未来は変わります」
「魔法として、見るのに?」
「術者の能力によるのです」

 占い師は、占いの道具に触れる。

「確定未来を見る能力を持つ者は、稀」
「……そう、なのか」
「未来がはっきりと見える者がいるのなら、それに耐えられないでしょう」

 占い師は改めて云う。

「未来は変わります。どうぞ落ち着いて、結果をお聞きになって」

 巧は、占い師が触れる道具を見る。

「あなたは、そのために来たのですから」

 巧は

 待つ。

 占い師は、何かを

 見ている。

 何かの、匂い。
 お香?
 薬草?
 それとも、……毒?

 やがて

 占い師は口を開く。

「西一族のあなたは、ずいぶんと狩りの腕があるようですね」

 西一族は狩りの一族。
 狩りが上手ければ、それだけで、一族内の立場を得ることが出来る。

「このまま、狩りで、この先もやっていけるかもしれない」

 でも

「他に何か取り柄があるかと云うと、それはない」

 巧は息をのむ。

「他の皆は将来を考え、動き出しているのに」

「…………」

「もし、何かあって、狩りが出来なくなった場合、」

「…………」

「自身は、西一族で生きていけるのだろうか……」

「俺は、」

 巧は口を挟む。

「俺は、……」
「その先が、訊きたいのですよね」
「…………」

 占い師は巧を見る。

 返事を待つ。

「将来の不安? そう云うことなのだろうか?」
「ええ」
「何を……心配して、いるのだろう。このまま、」
「…………」
「おそらく、このまま……、やっていけると思うんだけど」
「その通り」

 占い師は頷く。

「あなたが自身へのことをすべて受け止めるのなら、この先もやっていけます」
「なら、」
「それは、不安や心配ではありませんよ」

 占い師は笑う。

「あなたはこの先を、この先のために考えようとしているだけ」




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「『成院』と『戒院』」4

2020年02月04日 | T.B.2010年

宗主の屋敷に呼ばれて
『成院』は出掛ける。

「こっちは夜勤明けだぞ」

敵対する砂一族と
ちょっとした小競り合いがあった。
戻ってきた者達の手当にあたる。

幸いにも酷い怪我の者は居ない。
連れてきた裕樹と共に
怪我をした者の毒抜きをする。

毒を使う砂一族は
僅かな傷でも
それに気をつけなくてはいけない。

「成院」

声を掛けられて、ああ、と手を上げる。

「俊樹」

今回指揮を取っていたのは彼だ。
一段落していたので
『成院』も手を止める。

「いつもの事だが」

『成院』は言う。

「大きな怪我人が居なくて何よりだ」
「夜勤明けは不機嫌な医師(せんせい)も居るからな」
「冗談を。
 俊樹の指揮が良かったんだろう」
「お前が前線に居たとき程じゃないよ」

歳の近い二人は
屋敷の廊下で立ち話をする。

「………ん?」

庭を挟んだ向こうの廊下を誰かが通っていく。
当代の戦術大師。

「………」
「………」

『成院』と一瞬目が合うが、
そのままどこかへと行ってしまう。

「佳院はまだ前線に出ているのか」
「ああ」

「仕方が無い。
 ここじゃあ、大将が一番の実力者だ」

本来であれば、
一番後ろで指示を出すべきの立ち位置。
彼が倒れては意味がない。

「早く後ろに引っ込めと言っておけ」
「俺が言えるかよ。
 お前が言えよ、親戚だろ」
「いや、俊樹が言えよ。
 部下だろ」

「もしも、があっては遅いぞ」

そうさなぁ、と
俊樹は答える。

「もう少し自分の立場を考えて欲しいんだが」
「まったくだ」

「先生」

裕樹が『成院』の元にやって来る。

「処置は終わりました」
「ああ」

『成院』も辺りを見回し、それを確認する。

「それなら俺達の仕事はおわりだ。
 戻るぞ」

荷物をまとめる『成院』に
俊樹は声を掛ける。

「それじゃあ、またな。
 今度は酒でも飲もうぜ」

ああ、と『成院』も答える。


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