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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「『成院』と『戒院』」6

2020年02月18日 | T.B.2010年
夜勤明けの騒動から病院に戻り、
引き継ぎを終わらせて昼を少し回った頃。

やっと『成院』は家に辿り着く。

「おかえりなさい。
 今日は遅かったのね」

晴子が出迎える。

荷物を置いて、まずは座る。

「………ね、眠い」
「ご飯どうする?」
「あー、うん。
 何かスープだけ」

はあい、と晴子は鍋を温め始める。

「おとうさんおかえり」
「ただいま、未央子」

伏せていた顔を上げ、
『成院』は未央子を抱き上げる。

「ご飯は食べたのか」
「ううん。
 もうすぐ帰ってくるかなって
 お母さんと待ってた」

「そうか、
 それじゃあ一緒に食べようか」

それから
少し遅い昼食を三人で囲む。

「明日は?」
「公休だから、休めるはずだ」

今日のような急な呼び出しが無ければ。

「それじゃあ、ゆっくりする?」

「未央子、どこか出掛けるか」
「やった」

軽い昼食を終えて、
『成院』は寝室へと向かう。

夜勤で夜通し起きていて、
それは慣れて居るが、そのまま今の時間。

「もう、昔ほど保たないな」

以前は徹夜が数日続いても平気だったのに。
10代の頃とは違うな、と布団に潜り込む。

昼間なので扉を閉めても明るいこの部屋で
布団を頭まで被り横になっていると
疲れもあってか、次第に眠気が襲ってくる。

晴子が食器を洗う物音、
未央子が家の中をトコトコと駆ける音。

「未央子、
 お父さんが寝ているから
 静かにね」
「はぁい」

そうやって2人が静かに笑う声。

別に気にしなくても
良いのだけどと思いながら
意識は次第にまどろんで行く。

『成院』として晴子と付き合うようになり、
最初の頃は自分に、カイ、と呼びかけて、
成院と言い直す事もあった。

ごめんなさいと、謝る事を
『成院』は止めた。

混乱させているのは自分だ。
それに、
まだ戒院だった自分を忘れないでいてくれるのが少しだけ嬉しかった。

いや、本当はとても。

「俺の事はセイとは呼ばないのか?」

ふと晴子に問いかけた事があった。

戒院を、カイと呼んだ様に。

「うーん、なんだかね、
 それは違う様な気がして」

戒院として
ここに居る事が出来れば、と
思う事もあったけれど

今は、このまま、
この生活がずっと続く様に。

それとも、いつか、
晴子に全て明かす日がくるのだろうか、

その時は。

……………。

………………。

…………………院。

「成院!!」

晴子の声で目を覚ます。

「成院!!ねぇ、しっかり!!」

「え?」

心配そうに自分を覗き込む晴子。

「うなされていたわよ」
「………俺が?」
「ええ、汗もかいて」

拭く物持ってくるわね、と
晴子が席を外す。

「………」

は、と短く息を吐く。

まだ明るい時間。
ほんの僅かしか眠っていないだろう。
変な時間に眠ったからだろうか。

あんなに良い気分で眠りについたのに
今は胸を押しつぶされているような。

「なん、だっけ?」

何か夢を見たような。


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