TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「西一族と巧」10

2020年02月07日 | T.B.1996年
「魔法?」
「そう」

 占い師は頷く。

「未来を見る力」
「未来を、見る……魔法?」
「ええ」

 占い師は指を差す。

 壁に、大きな地図が貼ってある。
 水辺の地図。

「私たちの一族から、反対に位置する一族」
「海一族、か」
「そこにも、先視と云う名で未来を見る者たちがいます」

 占い師が云う。

「星の動きや、玉の配置で見る占いとは違う」
「…………」
「未来を見る力を与えられているのです」

 占い師は、巧を見る。

「自身のこの先を、知りたいのですね?」
「…………」
「そうなのでしょう?」
「……ああ」

 占い師は目を閉じる。

「魔法とは云いますが、すべてがはっきりと見えるわけではありません」
「…………」
「もちろん、未来は変わります」
「魔法として、見るのに?」
「術者の能力によるのです」

 占い師は、占いの道具に触れる。

「確定未来を見る能力を持つ者は、稀」
「……そう、なのか」
「未来がはっきりと見える者がいるのなら、それに耐えられないでしょう」

 占い師は改めて云う。

「未来は変わります。どうぞ落ち着いて、結果をお聞きになって」

 巧は、占い師が触れる道具を見る。

「あなたは、そのために来たのですから」

 巧は

 待つ。

 占い師は、何かを

 見ている。

 何かの、匂い。
 お香?
 薬草?
 それとも、……毒?

 やがて

 占い師は口を開く。

「西一族のあなたは、ずいぶんと狩りの腕があるようですね」

 西一族は狩りの一族。
 狩りが上手ければ、それだけで、一族内の立場を得ることが出来る。

「このまま、狩りで、この先もやっていけるかもしれない」

 でも

「他に何か取り柄があるかと云うと、それはない」

 巧は息をのむ。

「他の皆は将来を考え、動き出しているのに」

「…………」

「もし、何かあって、狩りが出来なくなった場合、」

「…………」

「自身は、西一族で生きていけるのだろうか……」

「俺は、」

 巧は口を挟む。

「俺は、……」
「その先が、訊きたいのですよね」
「…………」

 占い師は巧を見る。

 返事を待つ。

「将来の不安? そう云うことなのだろうか?」
「ええ」
「何を……心配して、いるのだろう。このまま、」
「…………」
「おそらく、このまま……、やっていけると思うんだけど」
「その通り」

 占い師は頷く。

「あなたが自身へのことをすべて受け止めるのなら、この先もやっていけます」
「なら、」
「それは、不安や心配ではありませんよ」

 占い師は笑う。

「あなたはこの先を、この先のために考えようとしているだけ」




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