TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「山一族と海一族」50

2018年05月11日 | T.B.1998年

「…………」

 マユリは身体を起こす。

「……今、走って行ったのは?」

「海一族だ」
「海一族……」

 マユリはあたりを見る。

「何か、おかしな気配が」
「裏一族がいた」
「裏一族?」
「海一族に紛れ込んだ、な」

「海一族が紋章術を?」

「判るか?」

 その言葉に、マユリは頷く。

「大きな紋章術が発動した形跡を感じます」
「この紋章術は、おそらく山一族のものだ」
「どう云うことです?」
「山一族に裏一族が紛れ込んでいたと云うことだ」

「まさか」

 マユリが云う。

「なら、その山一族と云うのは、」

「すぐに見つかるだろ」

 アキラが云う。

「ところで」

「はい」

「身体はどうだ?」

 マユリは手を広げて、見る。
 自身の身体も見る。

「何とも、なさそう」

 マユリはアキラを見る。

「いったい、何が起きたのですか」
「うーん」

 アキラは、腕を組む。

「生け贄の必要性がなくなった、か?」

「じゃあ、私とカオリは?」

「山に帰れる」

「そう、……ですか」

 その様子に、アキラは首を傾げる。

「うれしくなさそうだな」
「一応、覚悟はしたもので」
「喜べよ」
「じゃあ、喜びます」

 息を吐き、マユリが小さな瓶を取り出す。

「何だ?」

「これは、」

 マユリは瓶の口を開く。

「知り合いが調合した毒です」
「…………?」
「怖くなったら、これで一気に、と」
「毒で?」
「そう」

「どんな知り合いだ」

「村のはずれで、ひっそりと毒畑を、」
「さっさと棄てろ」



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「海一族と山一族」46

2018年05月08日 | T.B.1998年

トーマは洞窟の入り口に向かって走る。
確か、木の陰になって居た場所。

「カオリ!?」

「……トーマ?」

同じく目を覚ましたのか
上半身のみ起こした状態で
辺りを不思議そうに見つめている。

「私、誰かに連れてこられて。
 ここは、海一族の村?」
「いや、儀式を行う洞窟の中だ」
「……儀式。そうだわ!!
 私を連れてきた人が、
 時間が無い。儀式を行うって」
「カオリ」
「どうしよう。
 私が早く帰らなかったから、こんな事に。
 皆に迷惑を」

「大丈夫。落ち着いて。
 もう終わったんだ」

「終わった?」

「ああ、」

バチッと静電気の様な物にはじかれて
トーマは驚く。

「!??」
「待って、兄さんの術だわ」

カオリが慌てて
中から術を解除する。

そうだった。

洞窟の奥に入る前に
安全のためにアキラが術をかけていた。

気軽に妹に触るなと言われているようで、
トーマは思わず笑ってしまう。

「ははは」

「トーマ??
 待って、この手のケガどうしたの」

カオリが、トーマの右手に触れる。

「血が出てるわ。
 早く手当てしないと、わっ」

思わず、トーマは
カオリを抱きしめる。

「良かった」
「トーマ」
「もう儀式は必要無い。
 カオリを
 無事に村に帰すことができる」

「私、帰れるの?」

「ああ」
「帰れるのね」

絞り出すように、カオリが呟く。

「ありがとう、トーマ」

うん、とトーマは頷く。

「まずは、ここを出よう。
 それからゆっくり説明するよ」

そうしているうちに
アキラとマユリも奥から出てくる。

「カオリも無事のようだな」
「兄さん、マユリも!?」
「カオリ」

洞窟の外側からも
トーマとアキラを呼ぶ声がする。
皆が駆けつけたのだろう。

「行こう」

トーマはアキラに声をかける。

「まずは、皆に
 事態の説明をしなくては」

裏一族の事、司祭の事、儀式の事。
皆にすべて話し終えるまでには
時間が掛かりそうだ。

「………少し休みたい所だが」
「俺もだ」

2人はカオリとマユリを連れ
洞窟の外へと向かう。


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「山一族と海一族」49

2018年05月04日 | T.B.1998年

 司祭の身体も光りだす。

「何だ!?」

 トーマは慌てて、後ろへ下がる。

 その光が、上りだす。

 まるで

 溶けるかのように。

 司祭の姿が消えていく。

「チハル、」


 イサシ


「チハル、……」

 ありがとう、イサシ。
 本当にありがとう。

「君を、……助けることが出来なくて」

 いいのよ、
 もう、いいの。

 私、……そんなに苦しむあなたを、もう、見たくない。
 あのときの、

 優しかったイサシでいて、ほしいの。

「チハル……」

 ありがとう、イサシ。

「そう、だったのか……」

 ええ。 
 これからはずっと、一緒にいられるわね。


 アキラとトーマは、息をのむ。


 涙している、海一族の司祭。

 今までのことが嘘のように、その表情は穏やかになっている。

 そして、

 司祭の姿は、瞬く間に、見えなくなっていく。

 わずかに残された光も

 同じように、その輝きを消していく。


 やがて

 静寂。


「何が、」

 アキラとトーマは顔を見合わせる。

「おそらくだが……」

 アキラが云う。

「あの、恋人の身体に何かが起きたとき、」

 自身の力をすべて注ぐようにしていたのか。
 最後まで、あきらめる気はない、と。

「もしくは」
「もしくは?」

「失敗したときのために、口封じの術をかけられていたのか」

「口封じ……」

 つまり、殺すため、に。

 相手は、裏一族だったのだ。
 確かにそう捉えることも出来る。

 が、

 トーマは首を振る。

「何が本当か、判らないまま、か」

 アキラは頷く。

 アキラは、マユリに近付く。

「大丈夫か?」

 マユリが薄く目を開く。

「……ここは?」

 その様子に、トーマは安堵し、

「はっ! カオリは!?」

 突然、走り出す。



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「海一族と山一族」45

2018年05月01日 | T.B.1998年

「チハル」

ふと気がつくと、ここにいた。
何も無い、静かな所。

司祭は辺りを見回す。

何も無いと思っていた所に
彼女が立っている。

最後の時と同じ姿で。

「……チハル」

司祭は彼女に詫びる。

「君を、……助けることが、出来なくて」

十数年前のあの時も。
そして、今も。

彼女は首を横に振る。

はっきりと声は聞こえない、
だが、彼女の口元がこう言っている。

もう、いいのよ。
―――ありがとう、イサシ。

「そう、だったのか」

彼女が差し出した手を取る。

気がつけば司祭も
十数年前の姿になっている。

彼女の声に、司祭―――イサシは頷く。

「これからは、
 ずっと一緒にいられる、な」


トーマとアキラは息を呑む。
司祭の体が光り、
次第にその姿が薄くなっていく。

まるで、泡が溶けていくように。

だが、司祭は今まで事が嘘のように、
とても穏やかな表情を浮かべ涙している。

「……司祭様」

次の瞬間には、司祭の姿は消えてなくなる。

洞窟の中には静寂が訪れる。

「何が」

どうなったのだ、と
トーマ達は顔を見合わせる。

「おそらく、だが……」

アキラが答える。

「あの恋人の体に何かが起きたとき、
 自身の力が注がれるようにしていたのか」

「彼女ひとり蘇ってどうするんだ」

かつての恋人は居ない世界で
1人生きていけというのは酷な話し。
それでも、司祭は彼女を諦めなかった。

「………」

「もしくは」
「もしくは?」

「失敗した時のために、
 口封じの術をかけられていたのか」

「口封じ……」

失敗したのなら命はない。
それが、裏一族。

トーマは首を振る。

「何が本当か、分からないまま、か」

できれば、前者であって欲しいと
願いながら。

そうだな、とアキラが頷き
石座に近づく。

「大丈夫か?」

マユリ、と呼ばれた
山一族の少女が薄く目を開く。

「……ここは?」

彼女にかけられていた術が解けたのだろう。

その様子を見ていたトーマは
安堵すると同時に、
その場をアキラに任せ駆け出す。

ということは、彼女もきっと。

「カオリ!!」


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