TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「海一族と山一族」46

2018年05月08日 | T.B.1998年

トーマは洞窟の入り口に向かって走る。
確か、木の陰になって居た場所。

「カオリ!?」

「……トーマ?」

同じく目を覚ましたのか
上半身のみ起こした状態で
辺りを不思議そうに見つめている。

「私、誰かに連れてこられて。
 ここは、海一族の村?」
「いや、儀式を行う洞窟の中だ」
「……儀式。そうだわ!!
 私を連れてきた人が、
 時間が無い。儀式を行うって」
「カオリ」
「どうしよう。
 私が早く帰らなかったから、こんな事に。
 皆に迷惑を」

「大丈夫。落ち着いて。
 もう終わったんだ」

「終わった?」

「ああ、」

バチッと静電気の様な物にはじかれて
トーマは驚く。

「!??」
「待って、兄さんの術だわ」

カオリが慌てて
中から術を解除する。

そうだった。

洞窟の奥に入る前に
安全のためにアキラが術をかけていた。

気軽に妹に触るなと言われているようで、
トーマは思わず笑ってしまう。

「ははは」

「トーマ??
 待って、この手のケガどうしたの」

カオリが、トーマの右手に触れる。

「血が出てるわ。
 早く手当てしないと、わっ」

思わず、トーマは
カオリを抱きしめる。

「良かった」
「トーマ」
「もう儀式は必要無い。
 カオリを
 無事に村に帰すことができる」

「私、帰れるの?」

「ああ」
「帰れるのね」

絞り出すように、カオリが呟く。

「ありがとう、トーマ」

うん、とトーマは頷く。

「まずは、ここを出よう。
 それからゆっくり説明するよ」

そうしているうちに
アキラとマユリも奥から出てくる。

「カオリも無事のようだな」
「兄さん、マユリも!?」
「カオリ」

洞窟の外側からも
トーマとアキラを呼ぶ声がする。
皆が駆けつけたのだろう。

「行こう」

トーマはアキラに声をかける。

「まずは、皆に
 事態の説明をしなくては」

裏一族の事、司祭の事、儀式の事。
皆にすべて話し終えるまでには
時間が掛かりそうだ。

「………少し休みたい所だが」
「俺もだ」

2人はカオリとマユリを連れ
洞窟の外へと向かう。


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