TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「ヨーナとソウシ」12

2016年12月13日 | T.B.1998年

裏、と呼ばれる彼らの
正式な名称をヨーナは知らない。

それぞれの一族で
居場所を無くした者達の
集団だと聞いたことはある。

ただ、

要注意とされる砂一族でさえ
他一族との関係を考え、
彼らなりのルールがあると言われている。

裏にはそれがない。

「ヨーナ、ケガは?」

裏の彼らが、
何かを放ったのは見えた。
先に倒れた者達を見る限り
毒を塗った飛び道具だろう。

「ヨーナ??」

四方に放たれたそれから
ヨーナを庇ってくれたのは

「……ソウシ」

「僕は大丈夫だよ」

先にソウシが立ち上がり
ヨーナに手を差し伸べる。

驚いているヨーナに
困った様に笑いながら言う。

「嘘ついていて、ごめん」

いつも、彼の前髪の下、
その額には一族の入れ墨。
その下に

瞼に模様を刻み、
前髪を伸ばすことで隠していた
目が開いている。

三番目の目。

「何度も、謝らないで」

今まで隠し通していた物を
ヨーナを助けるために、
明かしてくれた。

「あら、何人か外しちゃったわ」
「ヘタクソだな」

裏の一人が残念と呟く。

「ま、当たるべき人には当たったみたいだから」

じゃあね、
笑顔で手を振って、
その二人は去っていく。

「……なんなの」

ヨーナ達は助けられたかと言うと
少し違う。

通りすがりに向けられた
彼らの悪意のない殺意から
偶然、的が外れただけ。

「ケン、は」

ソウシが声を掛け、
ヨーナはやっと
辺りを見回すことが出来る。

「あぁ、俺は平気だ。
 だけど、」

ケンが言う。

「マルタ様」

マルタは座り込んでいる。
そこに皆が駆け寄る。

「大丈夫、私は大丈夫」
「でも」
「大丈夫なの、私は」

マルタはヨシヤを呆然と見ている。

ヨシヤは背に飛び道具を受けて倒れている。
毒が塗られていたのか呼吸が浅い。

「人を呼んでくる」

いち早く状況を判断したケンが
立ち上がり、駆け出す。

「ソウシ、頼んだ」
「分かった」

状況は良くない。
先に倒れた2人を見れば、
どれほどの毒かは分かる。

「ヨシヤ、
 私の、せいで、私の」

弱くすがるマルタに
ヨシヤは手を伸ばす。

「マルタのせいじゃない。
 ……僕が、三つ目だったばっかりに」

マルタの望みとは逆の事をヨシヤが言う。

「僕が二つ目ならばよかった。
 普通に生まれていれば、君も、あの子も、
 こんなに苦しまずに済んだ」

マルタは首を横に振る。

「私はそれでも、
 ヨシヤとの子を産めてよかった」

「ヨシヤとの子だから、
 だから、取り返したいほど大事なのよ」
「そう、か」
「きっと、貴方に似た子に育つわ」

ヨシヤが大きな、
少し長い息を吐く。

「そう、その姿を見れないのは、
 ……残念だな」

その息が
最期の呼吸になる。

「ヨシヤ」

「………」
「………」

ヨーナはマルタの背を支える。

「マルタ様、もう、いい。
 横になって」

裏の彼らは言っていた。

当たるべき人には当たった、と。

先に倒れたヨシヤには見えなかった。
マルタの背にも、
同じく毒矢が刺さっている。

マルタの指先が、声が、
細かく震えているのは、
ヨシヤを失った事だけではない。

ソウシが必死に声を掛ける。

「すぐに誰か来る。
 それまで、耐えろ」

それでも、医者でもない二人に
出来る事は限られている。

「自分の事だから分かるわ。
 罰が当たったのだわ」

「罰というのなら、
 生きてからにしろ。
 子どもに会いたいんだろう」

「会えないわ。母親失格だもの」

「それでも親は親だ!!」

マルタはソウシを見る。

「ねぇ、それじゃあ。
 あの子が大きくなったら
 貴方が伝えて、私たちのこと」

「……わかった。必ず」

ソウシはマルタに誓う。

「その子の名前は」

安心したのか、
小さく微笑み、マルタが言う。


「トウノ」


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「辰樹と天樹」27

2016年12月09日 | T.B.2017年

 砂一族は辰樹を見る。

「……さっきのやつか」

 砂一族は、傷を負っている。

 先ほどの補佐の話からするに、宗主にやられたのだろう。
 その傷を負ってでも逃げたとなれば、大したもの。

「おい。もう、投降しろ」
「何でだよ」

 砂一族が云う。

「あの女は置いてきたのか」

 辰樹は答えない。

「もう、死んだだろうな」
「お前、」
「それから、いつも砂漠にいるあいつは?」
「砂漠?」
「お前と一緒に行動しているやつだろ」
「……天樹」

 辰樹は訊く。

「お前、天樹に会ったのか」
「…………」
「天樹と交えたのか」

「大丈夫だったか?」

「大丈夫? 何が?」

「東の宗主の紋章術を受けて、倒れてたからなー」
「…………?」
「俺の特製の毒にも苦しんでたなー」

「お前、まさか天樹を、」

「致命傷は俺じゃない。宗主だろ」

「いったい何があった?」

 砂一族は鼻で笑う。

「ずいぶんと時間が過ぎてる」

 その言葉に、辰樹は空を見る。
 日の位置を確認する。

「そいつも死んだだろうな」

「なぜ、宗主様が東一族を攻撃する」

「知らん」

「なぜ、天樹がやられなければならない」

「避けようと思えば避けられるものを、あいつは避けなかった」

「…………」

「俺が伏線を張っているのにも気付いていた。避ければ宗主に当たると」

「…………」

「俺と宗主の攻撃を受ける形になった」

「天樹、……」

「宗主を守ったんだろ。立派なこった!」

 再度、砂一族は笑う。
 血を吐く。

「なあ、あいつらは親子か?」
「そんなわけないだろう!」
「どう見ても、似てるだろ」

「いいから、そこに坐れ」

 辰樹は、砂一族に武器を向ける。

「無理をするな」
「はっ、東は甘いな」

 砂一族がふらつく。

 おそらく、もう長くは保たない。
 そう、辰樹は思う。

「便宜を図ってやる。医師様が助けてくれる」
「何を云う、東が」
「おいおい。命を大切にしろよ」

「……判ったよ」

 砂一族は、地に手を付く。

「よし、そのまま、」
「…………」
「何だ?」

 辰樹は、砂一族に近付く。

 瞬間

 発光

「……っ!!?」



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「ヨーナとソウシ」11

2016年12月06日 | T.B.1998年


「兄弟」

ヨーナは混乱しながらも
少しずつ状況を理解する。

「ヨシヤ様とソウシが?」

「異母兄弟、だよ。縁は切っている。
 もとより僕は
 正式な跡継ぎじゃない」

それに全然似ていないし、と
ソウシが言う。

「今まで黙っていてごめん」

ヨーナは、ケンがソウシの事に関して
何かと含んだ言い方をしていたのを理解する。

それにソウシはマルタの事を二つ目と言っていた。
三つ目ではない、普通の人の事を二つ目というのは
彼ら独特の言い回しだ。

「こうなれば」

ソウシを取り押さえていた
男の片割れが
ヨーナとケンの方を見る。

「彼らにも、
 犠牲になって貰うしかないな」
「犯人は砂一族だという
 目撃者が居ないのは残念だが」
「そこは、ヨシヤ様が証言してくれるでしょう」

彼らの言葉にヨーナは耳を疑う。

「あなた達
 谷一族の人なの?」

同じ一族同士で、なぜ。

「こいつは
あってはならない三つ目だからな」
「穢れた【一つ目】」

「穢れた、ですって!?」

彼らの口から次々と出てくる言葉に
ヨーナは震える。

ソウシの額は
いつも前髪で隠されている。
それは三つ目も隠していたと言う事だ。

跡継ぎからは退き、
普通の村人に混ざり、
見えない両目で
必死に暮らし、

それでも責められる理由が
ヨーナには分からない。

「ヨーナ」

ソウシが言う。

「簡単だよ、
正式な血筋以外の三つ目を
彼らは認めないんだ」

「三つ目を妄信する村人には
そう言う考えの者もいる」

ごく一部の者だけど、と
ヨシヤが続けて言う。

「彼らを巻き込むのは」

ためらいがちに言うマルタに、
1人が念を押すように言う。

「でも、マルタ様、
 こいつをこの場で殺さなければ
 お子様は帰って来ませんよ」
「他の跡取り候補を消してしまえば
 司祭様は考え直されます」
「取り戻したいのでしょう?」

「養子に出されたお子様を」

「あいつら、」

マルタが揺れる瞳でこちらを見ている。
きっと彼女も分かっている。
彼らにうまいこと乗せられて、
愚かなことだと分かっている。

それでも。

彼女の唇が震える。

「あの子に会いたい」

そんな、瞬間。
ソウシを取り押さえていた
二人組の男が同時に倒れる。

「な……」

彼らの拘束から放たれたソウシは
慌てて彼らから距離を取る。

倒れ込み苦しみだす彼らに
その場にいる誰もが混乱する。

「何が?」

「あぁ、いけないね」

誰のでもない声が遠くから聞こえる。
くすくす、と
可笑しそうに、笑う声。

「怪しい奴らがいたから、
 のぞきに来てみれば」
「ただの内輪揉めか」

どこの一族とも付かない
2人の男女がこちらを覗いている。

「まぁ確かに、三つ目の人間は面白いけど、
 わざわざ村に入り込んで攫う程ではないのよね」
「それに、折角なら若い女の子が良いなぁ」

此所には居ないな、残念、と
一人が言う。

「そういう言い方はいけないわ」

ふふふ、と
この緊迫した状況を作り出している二人は
まるで世間話をするように言う。

「ダメよねぇ、
 人のせいにするなんて。
 濡れ衣を着せられた砂一族がかわいそう」

「悪い人は罰を受けなきゃ」

笑いながら彼らは言う。

「関係ない人は当たったらごめんなさい」

まずい、と
ケンが言う。

「あいつら、裏の奴らか」



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「辰樹と天樹」26

2016年12月02日 | T.B.2017年

 辰樹は走る。

 砂一族の痕跡を追う。

 痕跡は弱まっている。

 隠れたのか。
 逃げられたのか。
 東の誰かに、やられたのか。

 辰樹は走る。

 どれだけ走っただろう。
 砂を見て、
 天樹と別れてから、ずいぶんと時間が経っている。

 水辺近くに出る。
 そこに血の痕。

 それは、水辺の方へと延びている。

「ここでいったい何が」

 辰樹はあたりを見る。

 誰の気配もない。

 けれども、ここで争った痕がある。
 紋章術の発動の、痕。

 辰樹は耳を澄ます。

 誰かが走ってくる音。

「補佐!」

 辰樹は、やってきた補佐を見る。

「辰樹、砂が見つかった!」
「俺も見たんだ」

 辰樹が云う。

「東の者がひとりやられた」
「ああ」

 補佐はすでにその情報を得ている。

「砂も手負いらしい」
「そうか」

 辰樹は足下を見る。

「ここに血の痕と、紋章術発動の痕が」
「これは、宗主様の紋章術だな」
「宗主様が砂を?」
「おそらく」
「なのに、宗主様から逃げ切ったと?」

 辰樹の言葉に、補佐は頷く。

「砂は命をかけてるからな」
「うへえ」
「死ぬ気で最期までやるだろうよ」
「投降すりゃ悪いようにはしないのに」
「あいつらは、それを恥だと思ってる」
「じゃあ、この血の痕は砂のものと云うことか」
「そうかもしれん」

 補佐は指を差す。

「お前は、あちらを探せ」
「判った」
「気を付けろよ」

 補佐が云う。

「砂は何をしてくるか判らん」
「いや、でも。ここまで血が出てるならもう、」

「辰樹」

 きつい口調で云い、補佐は首を振る。

「……判った」

 辰樹は武器を握りなおす。

 補佐は走り去る。

 辰樹は再度、足下を見る。
 血が延びる水辺の方向を、見る。

 けれども、そちらから、砂の気配はない。

 辰樹は首を傾げる。

 補佐に云われた方へと走り出す。

 走りながら、

 東の少女はどうなったのだろう、と考える。

 おそらく

 天樹が病院へと運んだはずだ。
 あとは医師に任せるしかない。

 そしたら、天樹も砂を探しに、また村に出ているはず。
 どこかで合流出来るだろうか。

「っと、」

 辰樹は突然、立ち止まる。

 静かな場所。
 風が吹く。

 地面に、血。

 そこに

「砂一族」



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