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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「辰樹と天樹」26

2016年12月02日 | T.B.2017年

 辰樹は走る。

 砂一族の痕跡を追う。

 痕跡は弱まっている。

 隠れたのか。
 逃げられたのか。
 東の誰かに、やられたのか。

 辰樹は走る。

 どれだけ走っただろう。
 砂を見て、
 天樹と別れてから、ずいぶんと時間が経っている。

 水辺近くに出る。
 そこに血の痕。

 それは、水辺の方へと延びている。

「ここでいったい何が」

 辰樹はあたりを見る。

 誰の気配もない。

 けれども、ここで争った痕がある。
 紋章術の発動の、痕。

 辰樹は耳を澄ます。

 誰かが走ってくる音。

「補佐!」

 辰樹は、やってきた補佐を見る。

「辰樹、砂が見つかった!」
「俺も見たんだ」

 辰樹が云う。

「東の者がひとりやられた」
「ああ」

 補佐はすでにその情報を得ている。

「砂も手負いらしい」
「そうか」

 辰樹は足下を見る。

「ここに血の痕と、紋章術発動の痕が」
「これは、宗主様の紋章術だな」
「宗主様が砂を?」
「おそらく」
「なのに、宗主様から逃げ切ったと?」

 辰樹の言葉に、補佐は頷く。

「砂は命をかけてるからな」
「うへえ」
「死ぬ気で最期までやるだろうよ」
「投降すりゃ悪いようにはしないのに」
「あいつらは、それを恥だと思ってる」
「じゃあ、この血の痕は砂のものと云うことか」
「そうかもしれん」

 補佐は指を差す。

「お前は、あちらを探せ」
「判った」
「気を付けろよ」

 補佐が云う。

「砂は何をしてくるか判らん」
「いや、でも。ここまで血が出てるならもう、」

「辰樹」

 きつい口調で云い、補佐は首を振る。

「……判った」

 辰樹は武器を握りなおす。

 補佐は走り去る。

 辰樹は再度、足下を見る。
 血が延びる水辺の方向を、見る。

 けれども、そちらから、砂の気配はない。

 辰樹は首を傾げる。

 補佐に云われた方へと走り出す。

 走りながら、

 東の少女はどうなったのだろう、と考える。

 おそらく

 天樹が病院へと運んだはずだ。
 あとは医師に任せるしかない。

 そしたら、天樹も砂を探しに、また村に出ているはず。
 どこかで合流出来るだろうか。

「っと、」

 辰樹は突然、立ち止まる。

 静かな場所。
 風が吹く。

 地面に、血。

 そこに

「砂一族」



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