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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「辰樹と天樹」29

2016年12月23日 | T.B.2017年

 辰樹は、東一族の村中を走る。

 ことが落ち着いたと、村中が動き出そうとしている。

 市場も再開に向けて、動き出す。

 辰樹は走る。
 天樹を探す。

 けれども、天樹はいない。

 息が切れる。

 畦道に入り、辰樹は立ち止まる。

 息を整える。
 地面を見る。
 汗が、流れる。

「……天樹」

 いったい、どこへ行ってしまったのか。

 まさか、
 ……まさか、本当に砂一族にやられてしまったのか。

 辰樹は首を振る。

「いやいや……」

 あの天樹だ。
 そんなことがあるはずがない。

 天樹より強い者がいるとすれば、宗主しかいない。
 辰樹は、自身にそう云い聞かせる。

 辰樹は、よし、と顔を上げる。

 と

 そこに

「……宗主、様?」

 辰樹は驚く。

 畦道の少し先。
 宗主がひとりでいる。

「なぜ、ここに。いや、……えっと」

 宗主は、辰樹を見る。

「あの。」

 肩で息をしたまま、辰樹は訊く。

「天樹が、砂にやられたと云うのは、」

 ……本当なのか。

 そう云おうとするが、言葉にならない。

 その場にいたと云う宗主なら、知っているはず。

 いや

 その場にいて、
 砂一族に手負いを追わせて、
 自身は何ひとつ傷を負っていない宗主、は、

 宗主は、仲間の東一族をどうしたのだろうか。

 辰樹の頭の中を、いろんな考えが浮かぶ。

 けれども、それを問うことが出来ない。

「天樹は、……天樹は、いったいどこに」

 辰樹は言葉を絞り出す。

「水辺」

「……え?」

 宗主が云う。

「水辺の方を探してみろ」
「水辺?」

「そこに、いるかもしれん」

「天樹が水辺に?」

 辰樹は首を傾げる。

「なぜ、……」

 辰樹の問いに、宗主は答えない。
 早く行け、と
 宗主の目が云っている。

 考えている暇はない。
 辰樹は走り出す。

「もしいたら、病院に運んでやってくれ」

 辰樹の後ろで、宗主が云う。

 ――自分はあの子を救えないから、と。



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