天院は、手を伸ばす。
その背中に、声をかけようとする。
が、その手を止める。
坐っている彼女、を、後ろから見る。
彼女は、まだ、自分に気付いていない。
天院は首を振り、伸ばした手を、戻す。
彼女は、いつも通り、仕事をしている。
もう、あと何回。
会えるか判らない、彼女。
これから先
自分がいなくなっても、
彼女は、ここで、暮らしてくのだろう。
ふと、
天院は、彼女の手元を見る。
「……小夜子」
天院は、小夜子を呼ぶ。
小夜子が顔を上げる。
「ねえ。装飾品、……なくしたの?」
「天院、様……?」
小夜子は、驚いている。
当然だ。
「天院様……」
「小夜子?」
「今まで、どこにいらっしゃったんですか!」
小夜子が声を上げる。
あ
いつもの、小夜子だ。
「うん。久しぶりになったね」
「…………」
「小夜子。また、怒ってる?」
「怒りますよ!」
「なんで?」
「怒っちゃいけないんですか!」
「え? そう?」
「心配するんですよ!」
「心配だって?」
天院は、笑う。
小夜子を見る。
小夜子も、笑う。
天院が云う。
「ねえ。小夜子の装飾品、どうしたの?」
天院は、小夜子の手元を指差す。
そこに、あるはずの東一族の装飾品が、ない。
天院が訊く。
「ひょっとして、なくした?」
小夜子は、答えない。
「探そうか?」
小夜子は、何も云わない。
天院は、首を傾げる。
なぜ、装飾品をなくすのか。
「小夜子?」
「いいんです」
「何かあった?」
「何もありません」
「小夜子」
「なくしたんです!」
「俺の、ひとつあげるよ」
「え?」
天院は、自分の装飾品をひとつ、はずす。
小夜子に、差し出す。
「でも、」
「ほら」
「天院様の、高位家系の装飾品を私が……」
天院は、再度、装飾品を差し出す。
小夜子は首を振る。
「だめです。受け取れません」
「なぜ?」
「天院様の、……大切なものです」
「そう?」
天院が云う。
「じゃあ、小夜子の大切な装飾品はどうしたの?」
「それは……」
それ以上、小夜子は答えない。
「小夜子のが見つかるまで、これをつけてたらいいよ」
天院は、小夜子の手を取る。
小夜子に、装飾品をつける。
「本来は、ひとりふたつ、するものだから、」
天院が云う。
「ひとつじゃ足りないけれど……」
小夜子は、何も云わない。
天院は、首を傾げる。
小夜子をのぞき込む。
その、小夜子の顔を見て、天院は吹き出す。
「小夜子、どうしたの?」
小夜子は、顔を赤らめている。
なんだ。
小夜子。それ、喜んでくれてるの?
とか
思う。
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