TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「天院と小夜子」13

2015年04月10日 | T.B.2017年

 天院は、手を伸ばす。
 その背中に、声をかけようとする。

 が、その手を止める。

 坐っている彼女、を、後ろから見る。
 彼女は、まだ、自分に気付いていない。

 天院は首を振り、伸ばした手を、戻す。

 彼女は、いつも通り、仕事をしている。

 もう、あと何回。
 会えるか判らない、彼女。

 これから先

 自分がいなくなっても、

 彼女は、ここで、暮らしてくのだろう。

 ふと、

 天院は、彼女の手元を見る。

「……小夜子」

 天院は、小夜子を呼ぶ。
 小夜子が顔を上げる。

「ねえ。装飾品、……なくしたの?」
「天院、様……?」

 小夜子は、驚いている。

 当然だ。

「天院様……」
「小夜子?」
「今まで、どこにいらっしゃったんですか!」

 小夜子が声を上げる。

 あ

 いつもの、小夜子だ。

「うん。久しぶりになったね」
「…………」
「小夜子。また、怒ってる?」
「怒りますよ!」
「なんで?」
「怒っちゃいけないんですか!」
「え? そう?」
「心配するんですよ!」
「心配だって?」

 天院は、笑う。
 小夜子を見る。

 小夜子も、笑う。

 天院が云う。

「ねえ。小夜子の装飾品、どうしたの?」

 天院は、小夜子の手元を指差す。
 そこに、あるはずの東一族の装飾品が、ない。

 天院が訊く。
「ひょっとして、なくした?」
 小夜子は、答えない。
「探そうか?」

 小夜子は、何も云わない。
 天院は、首を傾げる。

 なぜ、装飾品をなくすのか。

「小夜子?」
「いいんです」
「何かあった?」
「何もありません」

「小夜子」

「なくしたんです!」

「俺の、ひとつあげるよ」
「え?」

 天院は、自分の装飾品をひとつ、はずす。
 小夜子に、差し出す。
「でも、」
「ほら」
「天院様の、高位家系の装飾品を私が……」

 天院は、再度、装飾品を差し出す。

 小夜子は首を振る。
「だめです。受け取れません」
「なぜ?」
「天院様の、……大切なものです」
「そう?」

 天院が云う。

「じゃあ、小夜子の大切な装飾品はどうしたの?」

「それは……」

 それ以上、小夜子は答えない。

「小夜子のが見つかるまで、これをつけてたらいいよ」

 天院は、小夜子の手を取る。
 小夜子に、装飾品をつける。

「本来は、ひとりふたつ、するものだから、」
 天院が云う。
「ひとつじゃ足りないけれど……」

 小夜子は、何も云わない。
 天院は、首を傾げる。

 小夜子をのぞき込む。
 その、小夜子の顔を見て、天院は吹き出す。

「小夜子、どうしたの?」

 小夜子は、顔を赤らめている。

 なんだ。

 小夜子。それ、喜んでくれてるの?

   とか

    思う。



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「タロウとマジダ」4

2015年04月07日 | T.B.2001年

「おう、タロウ、居るか?」
「あぁ。ユウジさん。
 ……おつかれさまです」

珍しい来客だ、と
タロウは立ち上がる。

「どうだ仕事の具合は?」
「まぁ、ぼちぼちもいいところです」
「だろうな」

同じ村の、同じ農具整備をしている。
とてもベテランの職人だ。
同業者……と言う程の実力もないタロウには
やはり厳しい。

どうぞ、と椅子を示すが
ユウジは座る気配もない。

「ええっと」
あ、そうだ、お茶だ。
タロウはいつもマジダの為に準備しているお茶のセットを取り出し
「茶はいらん」
―――取り出せなかった。

「お前は、この道を目指していた訳じゃない。
 仕方なくこれをやっている。
 俺はそう思っているわけだ」

「えぇ、そう、ですね」

ユウジの言葉は厳しい。
でも、何も間違っていない。
タロウはもっと違うものになりたかった。

なれなかったというと少し違う。
そんな選択肢の前に、
タロウはそこから退場したからだ。

「俺は、選べなかっただけだ」

自身についての噂話も
どこか、核心を付いてはいるのだろうな、と。

そういう自覚がタロウにはある。

その程度の覚悟で同じ仕事をされたのでは
彼ほどの職人には気に障る事もあるだろう。

「でもまぁ、
 そういう道の入り方もあるのかもしれんな」

「……?」

「なんだ?なんか文句あるか?」
「いや」

あれ、おかしい。
これ絶対、お前みたいな中途半端なやつ許せないとか
そんな流れだったのに。

「自分のためにって作られた品はいい物だな。
 そういう価値がある」
「ええっと」
「マジちゃんの小刀」

なるほど、
タロウは点と点が繋がる。

マジダがあの小刀をユウジに見せたようだ。
つまり、これは
彼なりにタロウを褒めているのかもしれない。

「あの、やっぱりお茶を」
「いらんて」
「……ですよね」

ユウジはそのままタロウの整備小屋を
後にする。

「ひとつ言っとくぜ」

最期にユウジは背中で語る。


「あの小刀最初に作ったの
 おいちゃんなんだからな!!!」


あ、とタロウは気がつく。
これ、ライバル宣言だ。


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「小夜子と天院」15

2015年04月03日 | T.B.2017年

「小夜子、装飾品なくしたの?」

 呼ばれて、小夜子は顔を上げる。

 この声は

「天院、様……?」
「うん?」
「天院様……」
「小夜子?」
「今まで、どこにいらっしゃったんですか!」

 小夜子は声を上げる。

「ああ。うん。久しぶりになったね」
「…………」
「小夜子。また、怒ってる?」
「怒りますよ!」
「なんで?」
「怒っちゃいけないんですか!」
「え? そう?」
「心配するんですよ!」
「心配?」

 天院は、笑う。

 云う。

「それより、小夜子の装飾品、どうしたの?」

 小夜子は、自分の手元を見る。
 もちろん
 そこに、あるはずの東一族の装飾品は、ない。

 天院が訊く。
「なくしたの?」
 小夜子は、答えない。
「探そうか?」

 小夜子は、何も云わない。

 云えない。

 天院は、首を傾げる。
 小夜子をのぞき込む。

「小夜子?」
「いいんです」

 小夜子は、天院を見る。
 けれども、目は合わない。

「小夜子」
 天院が云う。
「それじゃあ、俺の、ひとつあげるよ」
「え?」

 思わぬ言葉に、小夜子は焦る。

「そんな、高位家系の装飾品を私が……」
 小夜子が云い終わる前に、天院は自分の装飾品を、ひとつはずす。
 それを、差し出す。
「ほら」
「だめです。受け取れません」
 小夜子が云う。
「それは、天院様のお父様がお作りになったのでしょう?」

「父親が?」

 天院は首を傾げる。

「違うよ」
 云う。
「詳しくは知らないけれど、これはお祖父様からだって」
「どちらにしても、大切なものです」
「そう?」
 天院は、再度首を傾げる。
 云う。
「じゃあ、小夜子の大切な装飾品はどうしたの?」
「それは……」

 それ以上、小夜子は答えない。

 天院が云う。

「小夜子のが見つかるまで、これをつけてたらいいよ」

 天院は、小夜子の手を取る。

 小夜子に、装飾品をつける。

「本来は、ひとりふたつ、するものだから」
 天院が云う。
「ひとつじゃ、足りないけれど」

 小夜子は、何も云わない。
 天院は、小夜子を見る。

 と、天院が吹き出す。

「小夜子、どうしたの?」

 小夜子は、顔を赤らめる。

 なんでもない。

 と、云おうとしてやめる。

 なんとなく。
 空を見る。

 両親からもらった、大切な装飾品だったけれども

 見つからなくてもいいかな。

   なんて、

     思う。



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