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「天院と小夜子」14

2015年04月17日 | T.B.2017年

「おい」

 彼は、屋敷の外に出ようとした義弟を、呼び止める。

 その声に驚いたのか、義弟は固まる。

「ああ。……天院」
 少しだけ、義弟が振り返る。
「久しぶり、だね?」
「お前、彼女の装飾品をどうした?」
「え?」
 義弟は苦笑いする。
「そんなことより、怪我は治ったのー?」

「……彼女の装飾品をどうしたかと、訊いたんだ」

「あの子の装飾品?」

 義弟は少し、考える。
「えーっと。どうしたっけ?」
 彼は、義弟を見る。
「うーん。どうしたっけなー」
 義弟も、ちらりと彼を見る。

「もう、見つからないところかなぁ」

「…………」
「忘れちゃったよー」
「どこにやった」
「だから、判らないって!」

 義弟が云う。
「だって、あの子の装飾品たいしたことないんだもん」
 義弟は腕を上げ、自身の装飾品を見せる。
「高位家系のとは、比べられないほどね!」

 義弟の手元で、高位家系の装飾品が揺れる。

「……あれ?」

 義弟は、彼を見る。

「天院の装飾品が、ひとつしかないじゃないか!」
 云う。
「僕より、いいものを持っているくせに!」

 彼は、何も云わない。

 義弟は、はっとする。
「ひょっとして、あの子にあげたの?」
 云う。
「そうなんでしょ!?」
 彼は、答えない。
「ねえ、ちょっとは答えて! 天院の装飾品はどうしたの!」

「……彼女に渡した」

「ばかなことを!」

 義弟が騒ぐ。

「高位家系の正式な装飾品を、使用人にあげただって!?」

 義弟は、彼を見る。
 彼と目が合う。

「そんなだから、西に行けとか、云われるんだよ!」

 義弟は思い出したように、あざ笑う。

「あーあ。天院にはもう会えないねぇ。西から帰って来ないんでしょ」
 彼は、頷く。
「残念だなぁ」

「俺も残念だ」

「そう?」

 彼が云う。

「お前の息の根を止めることが出来なくて」

「わっ!」

 義弟が、再度笑う。

「怖いねぇ、天院。……でも、そんなこと出来ないよ」
「なぜ?」
「なぜって、自分が一番判ってるくせに」
 義弟が云う。
「天院は、一族の中でも強い方だけれど」
「…………」
「天院には呪術があって、僕にはないからね!」
「もし、呪術がなかったら?」
「うーん」

 義弟は少し考える。

「そんな、怖い天院を、あの子に教えてあげたいね!」
 義弟が云う。
「あの子も、天院とお別れでどうするのかなー」

 彼は、義弟に背を向ける。
 歩き出す。

「あ、」

 彼が向かう方向を見て、義弟が声をかける。

「母さんのとこにも、あいさつ行くの?」

 彼は振り返らない。

「天院、元気でね!」



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