「おい」
彼は、屋敷の外に出ようとした義弟を、呼び止める。
その声に驚いたのか、義弟は固まる。
「ああ。……天院」
少しだけ、義弟が振り返る。
「久しぶり、だね?」
「お前、彼女の装飾品をどうした?」
「え?」
義弟は苦笑いする。
「そんなことより、怪我は治ったのー?」
「……彼女の装飾品をどうしたかと、訊いたんだ」
「あの子の装飾品?」
義弟は少し、考える。
「えーっと。どうしたっけ?」
彼は、義弟を見る。
「うーん。どうしたっけなー」
義弟も、ちらりと彼を見る。
「もう、見つからないところかなぁ」
「…………」
「忘れちゃったよー」
「どこにやった」
「だから、判らないって!」
義弟が云う。
「だって、あの子の装飾品たいしたことないんだもん」
義弟は腕を上げ、自身の装飾品を見せる。
「高位家系のとは、比べられないほどね!」
義弟の手元で、高位家系の装飾品が揺れる。
「……あれ?」
義弟は、彼を見る。
「天院の装飾品が、ひとつしかないじゃないか!」
云う。
「僕より、いいものを持っているくせに!」
彼は、何も云わない。
義弟は、はっとする。
「ひょっとして、あの子にあげたの?」
云う。
「そうなんでしょ!?」
彼は、答えない。
「ねえ、ちょっとは答えて! 天院の装飾品はどうしたの!」
「……彼女に渡した」
「ばかなことを!」
義弟が騒ぐ。
「高位家系の正式な装飾品を、使用人にあげただって!?」
義弟は、彼を見る。
彼と目が合う。
「そんなだから、西に行けとか、云われるんだよ!」
義弟は思い出したように、あざ笑う。
「あーあ。天院にはもう会えないねぇ。西から帰って来ないんでしょ」
彼は、頷く。
「残念だなぁ」
「俺も残念だ」
「そう?」
彼が云う。
「お前の息の根を止めることが出来なくて」
「わっ!」
義弟が、再度笑う。
「怖いねぇ、天院。……でも、そんなこと出来ないよ」
「なぜ?」
「なぜって、自分が一番判ってるくせに」
義弟が云う。
「天院は、一族の中でも強い方だけれど」
「…………」
「天院には呪術があって、僕にはないからね!」
「もし、呪術がなかったら?」
「うーん」
義弟は少し考える。
「そんな、怖い天院を、あの子に教えてあげたいね!」
義弟が云う。
「あの子も、天院とお別れでどうするのかなー」
彼は、義弟に背を向ける。
歩き出す。
「あ、」
彼が向かう方向を見て、義弟が声をかける。
「母さんのとこにも、あいさつ行くの?」
彼は振り返らない。
「天院、元気でね!」
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