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「小夜子と天院」15

2015年04月03日 | T.B.2017年

「小夜子、装飾品なくしたの?」

 呼ばれて、小夜子は顔を上げる。

 この声は

「天院、様……?」
「うん?」
「天院様……」
「小夜子?」
「今まで、どこにいらっしゃったんですか!」

 小夜子は声を上げる。

「ああ。うん。久しぶりになったね」
「…………」
「小夜子。また、怒ってる?」
「怒りますよ!」
「なんで?」
「怒っちゃいけないんですか!」
「え? そう?」
「心配するんですよ!」
「心配?」

 天院は、笑う。

 云う。

「それより、小夜子の装飾品、どうしたの?」

 小夜子は、自分の手元を見る。
 もちろん
 そこに、あるはずの東一族の装飾品は、ない。

 天院が訊く。
「なくしたの?」
 小夜子は、答えない。
「探そうか?」

 小夜子は、何も云わない。

 云えない。

 天院は、首を傾げる。
 小夜子をのぞき込む。

「小夜子?」
「いいんです」

 小夜子は、天院を見る。
 けれども、目は合わない。

「小夜子」
 天院が云う。
「それじゃあ、俺の、ひとつあげるよ」
「え?」

 思わぬ言葉に、小夜子は焦る。

「そんな、高位家系の装飾品を私が……」
 小夜子が云い終わる前に、天院は自分の装飾品を、ひとつはずす。
 それを、差し出す。
「ほら」
「だめです。受け取れません」
 小夜子が云う。
「それは、天院様のお父様がお作りになったのでしょう?」

「父親が?」

 天院は首を傾げる。

「違うよ」
 云う。
「詳しくは知らないけれど、これはお祖父様からだって」
「どちらにしても、大切なものです」
「そう?」
 天院は、再度首を傾げる。
 云う。
「じゃあ、小夜子の大切な装飾品はどうしたの?」
「それは……」

 それ以上、小夜子は答えない。

 天院が云う。

「小夜子のが見つかるまで、これをつけてたらいいよ」

 天院は、小夜子の手を取る。

 小夜子に、装飾品をつける。

「本来は、ひとりふたつ、するものだから」
 天院が云う。
「ひとつじゃ、足りないけれど」

 小夜子は、何も云わない。
 天院は、小夜子を見る。

 と、天院が吹き出す。

「小夜子、どうしたの?」

 小夜子は、顔を赤らめる。

 なんでもない。

 と、云おうとしてやめる。

 なんとなく。
 空を見る。

 両親からもらった、大切な装飾品だったけれども

 見つからなくてもいいかな。

   なんて、

     思う。



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