何日も雨が降って。
久しぶりの、晴れ。
彼女は、人知れず、屋敷の外へ出る。
墓地へ向かう。
途中で、後ろを振り返る。
誰もいない。
外に出たこと、父親には気付かれていないはずだ。
……たぶん。
彼女は、歩く。
墓地の近くまで来ると、彼女は手を振る。
「ねえ!」
彼女は走る。
「久しぶりね!」
彼女の前に、いつもの彼がいる。
彼が云う。
「長かったね、雨」
彼女は頷く。
「部屋の中で、退屈しちゃった」
ふと、彼はあたりを見る。
彼女が訊く。
「どうかした?」
「…………」
彼の様子に、彼女は首を傾げる。
「ひょっとして」
彼が云う。
「外に出たの、父親にばれたんじゃない?」
彼女は苦笑いする。
「うん。ばれてた」
云う。
「でも、平気。今日は見つからずに屋敷を出てきたから」
彼は、彼女を見る。
再度、あたりを見る。
「まあ。いいか」
「…………?」
彼女が訊く。
「誰か村人が、墓地にいる?」
「いや」
彼が云う。
「誰もいないよ」
彼は、彼女の手を取る。
「行こう」
「何?」
「実は、君のお母さんのお墓を、見つけたんだ」
「え?」
彼女は目を見開く。
「母様のお墓を?」
「そう」
「見つけ、た?」
彼が頷く。
彼女の手を引いて、彼は、墓地の入り口から離れたところへ向かう。
ふたりは、歩く。
やがて、並んでいた墓石がなくなる。
それでも、彼は進む。
「ねえ」
彼女が云う。
「この先に、墓石はないわ」
彼女は不安になる。
と、
彼が、立ち止まる。
指を差す。
「君のお母さんの、お墓だよ」
そこに、
小さな石が、ふたつ。
「……これ?」
彼が頷く。
「でも、これは」
東一族がかたどる墓石、とは違う。
本当に、ただの、石。
「母様の、お墓……?」
彼女は、ひとつの墓石を見る。
数字だけが、刻まれている。
「名まえがない、わ」
「うん」
彼が云う。
「でも、確かに、君のお母さんのお墓なんだ」
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