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「小夜子と天院」7

2014年07月11日 | T.B.2016年

 上には

 空、……か、木?

 小夜子は、天院を見る。
 けれども、視線を合わせることが出来ない。

「天院様」

 天院は、上を見る。

 小夜子が訊く。
「何があるの?」

「ほら。木の上に、花が」
「花?」

 宗主の屋敷の庭は、きれいに手入れされている。
 花が多い。
 ふたりの目の前に立つ高い木も、花を付けている。

「ごめんなさい」
「何?」
「見えなくて」

 云って、小夜子はふと笑う。

「小夜子、笑ってる?」
 天院は首を傾げる。
「ひょっとして、天院様は、花、好きなの?」

「嫌いじゃないよ」

 天院は、小夜子をのぞき込む。

「おかしい?」
「ううん。不思議だなと思って」

 天院が云う。

「花、とろうか?」

「届かないよ」

 かなりの高木。
 届かないのは、小夜子にだって、判る。

「無理はしない方が」
「無理じゃない」
 天院が云う。
「跳べば」

 そう云って、天院は、地面を蹴る。

 その高さは、高い。

 一番低い枝、と、云っても、高い枝を、掴む。

 天院は、そのまま木を登る。
 花を掴む。
 ふたつ、とると、木を飛び降りる。

「天院様!」

 驚いた小夜子は、目を見開く。

「怪我をしたら大変なのに!」
「しないよ」

 天院は、小夜子に、花をひとつ渡す。

「……ありがとう」

 小夜子は、花を受け取る。
 白い、花。

「いいにおい」
「うん」
「もうひとつは?」
 小夜子がふと訊く。
「お母様に?」

 天院が訊き返す。

「なんでそう思うの?」
「天院様が花を好きなら、天院様のお母様もそうだろな、て」

「さあ?」

「また、……はぐらかすのね」

「怒る?」
「怒らないよ」
「小夜子、怒ってるみたい」

「怒らないけど、」

 小夜子は、受け取った花を見る。

「でも……」

「何?」
「ううん」
 小夜子は首を振る。
 その様子に、天院は小夜子をのぞき込む。
「小夜子、何?」

 小夜子が呟く。

「次は、……私だけ、とか」

 天院が訊く。

「何が?」
「花、を……」
「ああ」
 天院が頷く。
「いいよ?」

 小夜子は、花を握りしめる。

 少しだけ、笑う。



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