TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「天院と小夜子」1

2014年07月18日 | T.B.2016年

 それは

 ある日突然。

 昨日まで、人がいなかったところに、人がいる。

 遠目で気付いた彼は、その者を見る。
 あたりを見る。

 東一族の大きな屋敷の庭。

 宗主家系や高位家系の者が住むところ。
 けれども、その者は、見るからに旧ぼけた服を着ている。

 ああ。新しい使用人か。

 彼はそう思って、その者を見る。

 その者は、庭で豆をむいている。
 まだ、彼の存在に気付いていない。

 さあ。
 どうやって表へ出ようか。
 彼は考える。

 人に姿を見られるのが、あまり好きではない。
 出来れば、その者に気付かれないよう、ここを通り抜けたい。

 しばらく、彼はその者を見続ける。

 その者は、ただ、豆をむき続ける。
 横には、大量の豆。
 当分、終わらないだろう。

 彼は、空を見る。
 日は、まだ高い。

 と

 その者の手から、豆がこぼれる。

 作業を急いでいたのか。
 その勢いで豆は、彼の方へと転がってくる。

 彼は、その場に立ったまま、……首を傾げる。

 その者は、転がった豆を探している。
 ――手探りで。
 豆を見つけることが出来ない。

 当たり前だ。

 豆は遠く、
 彼の足下まで、転がってきているのだから。
 けれども、
 その者は、自身の近くで手探りしている。

 ああ。そうか。

 彼は、豆を拾う。
 その者に近寄る。

 足音がしないように。

 その者の近くに、豆を置く。

 そのまま、その場を通り過ぎる。

 少し進んで、彼は振り返る。
 その者はなくした豆を見つけ、微笑んでいる。

 ……彼に、気付くことなく。

 当然だ。
 目が、見えないのだから。

 また次の日も、

 同じ場所にその者がいる。

 豆をむいている。
 彼は、あたりを見て、足音を立てないように、その場を通り過ぎる。

 また次の日も。

 そのまた、次の日も。

 その者はただ、ひとり。
 豆をむいている。

 しばらくして、

 雨が降り

 彼は、いつもの者がいる場所をのぞく。

 そこには、誰もいない。



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