TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「琴葉と紅葉」27

2018年11月30日 | T.B.2019年


 雨が降る中。
 彼女は、病院へとやって来る。

 人目に付かないよう、母親の仕事部屋に入る。

「あら」

 母親は、書類から顔を上げる。

「どうしたの?」
「別に」
「何か用?」
「暇だから」
「身体はどう?」
「平気」

 彼女は長椅子に坐る。

「少しは仕事はしているの?」
「…………」
「ほら、広場に行って手伝うとか」
「雨降ってるし、面倒くさい」

 彼女は首を振る。

 長椅子に寝転がる。

 しばらくそうしている。

 母親は、窓の外を見る。
 雨が降っている。

 長い

 長い、雨。

 けれども、その中を歩く者たち。
 この雨の中でも、狩りへと向かうのだ。

「ねえ」
「…………」
「みんな狩りへと行っているわ」
「…………」
「聞いてる?」
「…………」
「あなたも、少しは勉強したら?」

 母親は彼女を見て云う。

「しないよ」
「した方がいい」
「医者になんか、なりたくない」
「じゃあ、どうするの」
「どうするって」
「役立たずって、云われ続けるの?」

「また、説教?」
 彼女が云う。
「最近、何かと説教ばかり」

 母親は息を吐く。
 彼女は、寝転がったまま。

「あの子が来たわよ」

「あの子って」
「黒髪の子」
「ああ、あいつ……」
 彼女は転がったまま、云う。
「何しに来るの?」

 母親は、目の前の書類を片付けながら、云う。

「あの子、身体が悪いのよ」
「ふーん」
「定期的に病院に来るように云うのだけど、あまり来ないわね」
「へえ」
 彼女が云う。
「でも、狩りには行ってるけど、」
 母親が云う。
「小さい頃から、周りからの扱いがよくなかったみたい」
「……黒髪だからでしょ」
「神経を傷付けられていて、」
「…………」
「本当は、身体を動かすのも、辛いんだと思う」

 彼女は、天井を見る。

「判ってる? あの子、あなたのために狩りに行ってるのよ」
「…………」
「あなたの分まで、狩りに参加してるのよ」
「……別に、そんなこと……」

 頼んでない。

「それに、私たちは狩りの一族だけど」
 母親が云う。
「あの子は、動物を殺すのが好きじゃない」
「…………」

「あなたも、あの子のために何か出来ることがあるわ」

「…………」
「ね?」

「何も、……ない」

 彼女は背もたれの方へと、向きを変える。

「あなたはあの子に、助けられたのよ」
「…………」
「いえ、今も助けられている」

 彼女は何も云わない。

「本当に、私たち家族は、あの子に助けられているの」

 母親は云う。

 ただほんの少し、娘に頑張ってほしくて。

「何か、あなたに出来ることを、もう少しやってみたら?」



NEXT


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。