「入るよ」
しばらくして、扉が開く。
誰かが入ってくる。
涼の担当医。
涼は、目を閉じている。
「どうだ?」
「何が?」
「いや、体調だよ」
「…………」
「たまには様子を見に来た」
「…………」
「俺は、村長からお前のことを任されてるからな」
涼は答えない。
担当医は、涼の向かいの椅子に坐る。
何も云わない。
涼を見ている。
涼は、目を閉じたまま、云う。
「俺を見張りに?」
「ん?」
「見張りに来たのか」
「見張りって、お前。」
担当医は、笑う。
涼は目を開く。
「どこにも逃げないし、見張りなんか必要ない」
「いやいや」
何を云うんだ、と、担当医は手を上げる。
「俺は担当医だぞ。お前を診に来ただけだって」
担当医は、苦笑いをする。
その額に、汗が流れる。
「……ほら、お前の腕の模様」
担当医が訊く。
「今も痛むのか」
涼は、担当医を見る。
けれども、視線は合わない。
涼が云う。
「この模様が、何か、……知っているのか」
「え?」
「腕の模様」
「いや、……そう。どう云う病なんだろうな」
担当医は首を傾げる。
「見当も付かない」
「本当は、」
「ん?」
「知っている?」
「…………」
「腕の模様。実は、」
「お前、」
「魔法痕、だと」
担当医は、目を細める。
その表情は今までと違い、怖ろしい。
「あんたは内部諜報員なのだから知っているんだろう」
「……だから、俺は反対したんだ」
担当医は、怖ろしい表情のまま。
涼の言葉をさえぎるように、云う。
「黒髪のお前を生かしておくこと」
「なぜ殺さなかった」
「今の村長が考えることは判らん」
「何も」
「おい、動くな」
「俺は何もしない」
「この家から出るな」
「…………」
「お前は狩り以外で、村外に出ることは禁じられている」
「なぜ?」
「村長は、お前が西から離族することを怖れている」
「…………」
「黒髪のお前が、東に付く可能性があるからだ」
「ばかなことを」
担当医が云う。
「あの娘はこちらで迎えに行く」
担当医は立ち上がり、扉へ近付く。
振り返り、再度涼を見る。
そのまま、外へと出る。
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