TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「未央子と陸院と南一族の村」5

2020年05月26日 | T.B.2017年
未央子は南一族の名物
小豆で餅米を包んだおやつ、を
お店の外でお茶と一緒に頂く。

「うーん、甘いの食べると落ち着く」

おいしい。

「初めて来たけど、いいなぁ。
 なごむわ」

北一族の村の市場の様に
華やかでキラキラしていて、
どこを見ても目移りしてしまうような物はない。

けれど、

余生をゆっくりと過ごしたい世代に
人気のスポット。

「なのよねぇ、きっと」

老後とかじゃないから分からないが。

良い所。住めばきっと好きになる。
雰囲気も東一族の村に似ている。

「………」

とは言え、南一族の村は観光の村ではない。

馬車乗り場のある中央広場には
小さな店が揃っているが、
そこを抜けると
一面の畑、畑、時々民家、そして畑。

「え、どうしよう。
 意外と時間あまるな」

すぐに手持ちぶさたになってしまった。
あまり遠くに行くわけにもいかない。

陸もいつ戻ってくるのか不明だ。

「?」

ふと、広場に小さな子どもが現れる。

服装からして、南一族の子ども。

何が珍しいと言うことでもない、
でも。

次の瞬間その子が大声で泣き出す。

「え?」

未央子は驚くが、
既にその場に居る大人達が
どうしたんだい、と駆け寄る。

なにかあったのかな、と
遠巻きにその様子を見るが、

「おとうさんが、農具が、倒れて」

その一言で皆が凍り付く。

慌てて畑の方に駆けていく人達、
大丈夫だよ、とその子を抱えてなだめる人。
村長を、先生を呼べという声。

「あ」

事故があったんだ、と
未央子は悟る。

「………ど」

どうしよう。

「………」

いや、どうしようもない。

助けを求められた訳でも無く、
その畑がどこにあるのかも知らなければ
行って何かが出来るわけでもない。

だから。

ただ、ざわざわするこの空気の中、
先程の子どもの父親が
何事もありませんようにと願うしかない。

「驚いたでしょう」

ごめんなさいね、と
店の店員がお茶を運んでくる。

「いいえ、でも、大丈夫なのかしら」
「男衆が駆けつけたし、
 先生もすぐに駆けつけるらしいわ」

先生、と言うことは医者だろうか。
怪我をしているのだろう。

大丈夫だろうか?

見知らぬ人だけど
無事であって欲しい。

何も出来ないのはもどかしい。

もし、ここに
医師である父親が居たら。

「………」

と、
村の奥から駆けてきた人達が
未央子の横を通り過ぎる。

助けに駆けつけるのだろう、と
未央子もそちらの方を見る。

「え」

一瞬だった、
1人が未央子の方を見る。

多分、東一族だから
思わず目が行ったのだろう。

「「………!!」」

何か言いかけていたが
騒ぎの方へと向き直り
そちらへ駆けていく。

「待って」

未央子は立ち上がり、
荷物もそのままにその人の後を追う。

「………どういう、事?」

間違い無く、南一族の服装だった。
彼らの証である頬の入れ墨も見えた。

けれど、あれは。

未央子は駆け出す。

「あの人は」


NEXT


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。