TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「東一族と巧」3

2020年05月22日 | T.B.2000年

「何の用だ」

 坐ったまま、
 川を見たまま、

 巧は云う。

「早く話せ」
「おいおい」

 その横で、悟は手を上げる。

「俺は、みんなの心配を伝えただけだぞ」

 西一族は、狩りの一族。
 狩りは、一族の誇り。

 狩りに出て、誰もが当たり前。
 出来なければ、一族での立場は下がる。

 狩りで片腕を失った彼は、今まさに、そうなのだ。

 もう、今後
 皆と狩りに行くことは、ない。

 悟は、彼の肩を叩く。

「気が向いたら、広場に来い」

 恥をかきに、なのか。
 そうとしか、受け取れない。

「はあ。じゃあ、本題」
「悟が来るってことは、村長からの話か」
「察しがいいな」

 悟は腕を組む。

 彼は、ちらりと悟を見る。

 悟は、西一族の誇りを固めたような男だ。
 容姿はもちろん。
 狩りの腕も当然のこと。
 村長から、直々に仕事を任されることもある。
 ゆくゆくは村長を継ぐのだろう。

「ほら、知ってるだろ。うちの一族に住みついてる東一族」

 その言葉に、彼は目を細める。

 村長から、東一族の話?

「まだ、この村にいるんだよなぁ」

 東一族。

 西一族の村に隣接する、広大な水辺。
 その反対岸に、その一族は住んでいる。

 姿や生活、考え方。
 驚くほど、西一族とは違う。
 だからこそ、大きな争いがあった。
 休戦している今なお、西一族は、東一族をよくは思わない。

 その東一族、が

 この西一族の村に住んでいる。

 1年ほど前、だったか。

 いきさつは詳しくは知らない。
 誰かが連れてきたのだとか。
 水辺を渡って、やってきたのだ、とか。

 そして、

 帰すことも、殺すことも出来ず
 今に至る。

 女の、東一族。

 西一族の、ある男に嫁がせられた。
 もちろん、誰もが嫌がること。
 あり得ない。

 けれども、

 その西一族は役立たず、だった。

 身体が弱く、狩りに参加出来ない。
 自分と同じ。

 何かと条件を付けて、その男に嫁がせたのだ。

「で、その東一族なんだが」
「…………」
「その男が南一族の村へと渡るそうだ」
「それで?」
「でも、東一族は、この村から出すことが出来ない」
「…………」

 つまり

 それは、

「近いうちに、補佐役が連れてくるだろうよ」
「…………」
「お前に面倒を頼みたい」

「…………」

「な、巧」

「…………」

「どう云うことか、判るだろう?」
 悟が云う。
「外には絶対に出すな」

 彼は目を細める。

「……ずいぶんな面倒だ」

 彼は立ち上がる。
 悟を残し、立ち去る。





NEXT


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする