TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「東一族と裏一族」1

2018年06月22日 | T.B.1997年

「これ見てくれる?」

 杏子(あんず)は見慣れない飾りを取り出す。

「これは?」
「さっき、商人さんにもらったの」
「商人?」
「ええ」

 杏子は、その飾りを彼に渡す。

「北一族の商人さんなんですって」
「へえ」
「はじめて東に来たから、記念に配っているって」

 彼がそれを空にかざす。
 ふたりは、それを見る。
 中央の石が、日の光で輝く。

「お天道様によく当てると、輝きが増すらしいわ」
「こんな高級なものを・・・、気前がいい」
「その飾り、何だか判る?」
「判るよ」
「谷一族の鉱石かしら?」

 彼は答えない。

 杏子は彼を見る。

「しばらく、お天道様に当てておこうと思うの」
「判った、預かるよ」
「頼んでも大丈夫? 光(こう)」
「もちろん」

 光院(こういん)は頷く。

「杏子はどこへ?」
「みんなで果物の砂糖漬けを作るのよ」
「みんな?」
「篤子と晴子」
「ああ」
「梨子も来るかしら?」
「さあ? どうかな」

 にこにこと、杏子は笑う。

「じゃあ、行ってくるわね」

 光院は、杏子を見送る。

 その背中が見えなくなり、

「さて」

 後ろにいる狼に声をかける。

 彼の少し後ろに、狼がいる。
 控えるように。

 野生とはまた違う、東一族が友とするものたち。

「背名子(せなこ)」

 その言葉に合わせて、狼はゆっくりと頷く。

「いったい、「北の商人」は何を考えているんだろうね」
 光院は笑う。
「誰かを探しているのか、諜報、か」

 彼の手で、石が輝く。

「これを、大将に届けてくれないか」

 背名子と呼ばれた狼は、彼の手に近付く。
 先ほどの飾りをくわえると、すぐにその場を去っていく。

 彼は、空を見る。
 まだ、日は高い。

 と、

「ねえ光院!」

 飾りを持って、誰かが近寄ってくる。

「これ見てくれる?」

 それは、杏子が持っていたものと、まったく同じもの。

「これは?」
「さっき、北の商人さんにもらったの」
「へえ」
「きれいでしょう」

 嬉しそうな顔で、その者は云う。

「北の商人さんも大変そうだったわ」
「何が?」
「これを配りながら人を探しているんだって」
「東一族の村で?」
「そうみたい」

 先ほど、杏子が云っていたことと違う説明。

「知り合いの子を、て」
「知り合い?」
「そう云っていたの」
「北の商人が東に知り合い、ねぇ」

 云って、光院は次の言葉を待つ。

 その者が云う。

「例えば、東でちょっと髪色が違う、とか」
「東一族で?」
「ちょっと、血が違うような人とか」

 云いながら、笑う。

「訳が判らないわ!」

 じゃあ、と、その者は飾りを持ったまま、走り出す。
 また、誰かに見せに行くのだろう。

 光院は歩き出す。

 が、

「ねえ、光院!」

 再三の、呼び止め。

「やあ」
「ねえ! これ見てくれる?」



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