「これ見てくれる?」
杏子(あんず)は見慣れない飾りを取り出す。
「これは?」
「さっき、商人さんにもらったの」
「商人?」
「ええ」
杏子は、その飾りを彼に渡す。
「北一族の商人さんなんですって」
「へえ」
「はじめて東に来たから、記念に配っているって」
彼がそれを空にかざす。
ふたりは、それを見る。
中央の石が、日の光で輝く。
「お天道様によく当てると、輝きが増すらしいわ」
「こんな高級なものを・・・、気前がいい」
「その飾り、何だか判る?」
「判るよ」
「谷一族の鉱石かしら?」
彼は答えない。
杏子は彼を見る。
「しばらく、お天道様に当てておこうと思うの」
「判った、預かるよ」
「頼んでも大丈夫? 光(こう)」
「もちろん」
光院(こういん)は頷く。
「杏子はどこへ?」
「みんなで果物の砂糖漬けを作るのよ」
「みんな?」
「篤子と晴子」
「ああ」
「梨子も来るかしら?」
「さあ? どうかな」
にこにこと、杏子は笑う。
「じゃあ、行ってくるわね」
光院は、杏子を見送る。
その背中が見えなくなり、
「さて」
後ろにいる狼に声をかける。
彼の少し後ろに、狼がいる。
控えるように。
野生とはまた違う、東一族が友とするものたち。
「背名子(せなこ)」
その言葉に合わせて、狼はゆっくりと頷く。
「いったい、「北の商人」は何を考えているんだろうね」
光院は笑う。
「誰かを探しているのか、諜報、か」
彼の手で、石が輝く。
「これを、大将に届けてくれないか」
背名子と呼ばれた狼は、彼の手に近付く。
先ほどの飾りをくわえると、すぐにその場を去っていく。
彼は、空を見る。
まだ、日は高い。
と、
「ねえ光院!」
飾りを持って、誰かが近寄ってくる。
「これ見てくれる?」
それは、杏子が持っていたものと、まったく同じもの。
「これは?」
「さっき、北の商人さんにもらったの」
「へえ」
「きれいでしょう」
嬉しそうな顔で、その者は云う。
「北の商人さんも大変そうだったわ」
「何が?」
「これを配りながら人を探しているんだって」
「東一族の村で?」
「そうみたい」
先ほど、杏子が云っていたことと違う説明。
「知り合いの子を、て」
「知り合い?」
「そう云っていたの」
「北の商人が東に知り合い、ねぇ」
云って、光院は次の言葉を待つ。
その者が云う。
「例えば、東でちょっと髪色が違う、とか」
「東一族で?」
「ちょっと、血が違うような人とか」
云いながら、笑う。
「訳が判らないわ!」
じゃあ、と、その者は飾りを持ったまま、走り出す。
また、誰かに見せに行くのだろう。
光院は歩き出す。
が、
「ねえ、光院!」
再三の、呼び止め。
「やあ」
「ねえ! これ見てくれる?」
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