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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「山一族と海一族」55

2018年06月15日 | T.B.1998年

 山一族の使者としての役目が終わり
 アキラは外へと出る。

 海一族の村。

 まだ、自由に歩ける身ではない。
 それでも少しの間だけ、と、時間をもらうことが出来た。

 そこで、

 待ち構えるように、トーマがいる。

「久しぶりだな」
「山はどうだった?」
「人の被害はなかった」

 トーマの問いにアキラは答える。

「それだけで何よりだ」

「そうか」

「だが」

 アキラは続ける。

「山火事の後始末に追われている」
「ひどかったのだろう?」
「ああ。族長同士が話し合うのは、それが落ち着いてからだな」

 トーマも頷く。

 アキラは訊く。

「海はどうだ?」

「港がひとつ焼けたが、村への被害は少ない」
「それは、よかった」
「ただひとつ問題があるとすれば」

 トーマが云う。

「海一族の司祭が裏一族だったんだ」
「そうだな」
「これまで気付かなかった海一族の落ち度もある」

 今回の件は解決した。
 生け贄のことに関しても、今後なくなるのだろう。

 けれども、

 山一族と海一族の関係が、急に友好へと変わるわけでもない。

 少しずつ、変えていくのだろう。

 お互いに。

 歩み寄りながら。

「それに海一族の司祭後任もまだ若い」
 トーマが云う。
「これからどうしていくのか、決まっていないことも多くて」
「海の族長の横にいたやつか」
「緊張していただろ」

 そう云えば、そんな気もする。

 ふたりは笑う。

「あと」

 ふと、改まってトーマが云う。

「俺がカオリを匿っていたのが問題になっていて」

 それはそうだ。
 山一族が、海一族の村に立ち入ったのだから。

「……すまない」
「なぜ、すぐに長に報告をしなかったのか、と」
「そう、か」
「それで、罰を受けることになったんだが」
「罰を?」

 アキラは首を傾げる。

「お前は、裏一族の儀式を阻止したのに?」
「それはそれ、これはこれというわけだ」
「なら、山一族から、一族の者を助けてくれたとの、」

 落ち着け、と
 トーマがアキラの言葉を制止する。

「その、罰なんだが」
「ああ」

「海一族の代表として、そちらへ使いに行くことになった」

「使い?」

「これから、互いに何度もやりとりが出てくるだろう」
 トーマが云う。
「その都度、俺が便りを届けることになった」

 それと、と、トーマは続ける。

「社会勉強として、恋人のひとりでも作ってこい、と」
「ええ?」

 山一族で?
 何だか、よく判らないのだが。

「そのときは、村の案内を頼む」
「ああ。歓迎はする」

 アキラが云う。

「肉は食べられるか?」
「う……、いけると、思う。鳥は食べられるんだけど」
「山一族は鳥は食べない」

 鳥は友としているのだから。

「猪や、そうだな、熊とか」
「熊!」

 トーマが驚きの表情。

「いったいどんな味なんだ」
「山に来てからの楽しみにしておけ」

 と

 アキラは空を見る。

 一羽の鳥。
 アキラの肩にとまる。

「時間か」
「……そうか。帰るのか」

 今回の滞在はあいさつ程度のもの。
 長時間、海一族の村にいることは出来ない。

「山に来るときは、事前に文でもよこせ」

 アキラは、トーマを見る。

「カオリも会いたがっている」

「ああ!」

 待っているぞ、と、アキラは手を上げ歩き出す。

 その後ろで、トーマも手を振る。


 ―― 次は、山一族の村で。





T.B.1998年 「山一族と海一族」の少年の話
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