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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「タイラとアヤコ」11

2017年07月25日 | T.B.1962年
矢が降り注ぐ。
アヤコも矢をつがえる。

「  」

うめき声が聞こえる。

見てはいけないと思いながら
視線がそちらを向いてしまう。

矢を受けた者がうずくまっている。

助けないと、
いや、でも
まずは身を守らないと。

矢を持つ腕が震える。

狩りと同じだ、と
そう自分に言い聞かせる。
狩りも命の奪い合い。

そういう場面には慣れているはずだ。

「……ダメ」

全然違う。

思わず腰が引ける。

「アヤコ!!!」

突然視界が暗くなる。
誰かが、自分の前に立っている。

次の瞬間、衝撃を受けて
アヤコは船底に倒れ込む。

「な……に」

重い。何かが乗っている。

身を捩って這い上がる。

「………」

アヤコは目を疑う。
自分を庇って矢を受けた。誰か。

「嘘」

怖い。
あまりのことに手が震えて、
彼に触れることすら出来ない。

「……タイラ」

アヤコの声にタイラの反応は無い。
矢は一瞬でタイラを打ち抜いた。
相当な名手が相手には居る。

「タイラ!!
 タイラ!!!!ねぇ!!!」

アヤコは大丈夫だよ。と
言っていたタイラの言葉を思い出す。

変に今日は俺が兄だと言って、
自分だって戦場は怖いくせに。

「行かないで。嫌だよ。タイラ」

アヤコ逃げて、と誰かの声が聞こえる。
キコだろうか。
飛んでくる矢が見える。

それは、一瞬のこと。
ただ、とてもゆっくりとした時間に思える。

関係の無いことばかり色々と思い出す。
折角庇ってくれたのに
逃げられなくて、ごめんなさい。

アヤコは、そっと目を閉じる。

あぁ、そう言えば。

体を矢が貫く痛みを覚えながら
アヤコは呟く


「海、二人とも行けなかったね」



T.B.1961
「タイラとアヤコ」
コメント
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