TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「タイラとアヤコ」10

2017年07月18日 | T.B.1962年

「あのさぁ」

タイラが言う。

「今日は、俺が兄って事でいい?」
「何よ急に」
「双子なんだから、
 どっちが先か分からないだろう」
「私が先に産まれたって
 母さんは言ってたけど」
「………」

「分かったわよ」
「ん!!」
「なに??」
「ん!!!!!」

ふぅっとため息をつきながらアヤコが答える。

「兄さん」

「何度でも呼んでくれ!!」

「一回だけよ」

湖の畔、舟の淵に腰掛けながら二人は話す。

「戦い、始まっちゃったね」

東一族との戦い。
きっかけは、東一族の死。

もう舟は出る。

続く戦いの中
すでに命を落とした者もいる。

逃げる事は出来る。
非難されることも、立場が悪くなることも
そんな事は平気だ。

でも、
その代わりに誰かが戦いに向かうことになる。
それは自分より幼い者かもしれないし、
とうに現役を退いた老いた者かもしれない。

だから、引き下がれない。
降りることも出来ない。

けれど

「怖いね」
「だな」
「行きたくないね」
「ああ」

「もっと」

「もっと、行ってくる。
 皆のために敵を倒してくるよ、って、
 張り切って言えたら良かったのに」

タイラがアヤコの背を叩く。

「いつか、こんな事止めようって
 誰かが言い出す」

「それまで、
 耐え忍ぶしかないさ」

「タイラ、今日は、
 お兄さんみたいね」
「だから、そう言ってるだろう。
 お兄ちゃんに任せなさい」

そうね、と
アヤコは少し笑う。

舟が少し騒がしくなる。
数人が岸に繋いでいるロープを外したり
せわしなく動き始める。

「そろそろ、出るわよ」

同い年のキコが
二人に声をかける。

多分、話が終わるのを待っていてくれた。

時々同じ班を組む
とても狩りが上手い子だ。

「大丈夫よ」

キコもアヤコに声をかける。

「皆で一緒に帰ってきましょう」

舟は動き出す。

「アヤコ」

タイラが言う。

「アヤコは大丈夫だよ」


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