TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「彼女と母親の墓」2

2017年06月23日 | T.B.2020年

「屋敷を、……出ちゃいけないんだ」

「うん」
 彼が訊く。
「外に出ることは、ずっと、禁止されている?」
「禁止?」

 彼女は首を傾げる。

「その云い方だと、何かの罰みたい」
 笑う。
「外に出ちゃいけないのは、外は危ないからって、父様が心配するからなの」
「……そう」
 彼が訊く。
「君の住む屋敷と云うと、宗主……、様の屋敷?」

 宗主とは、東一族の長である。
 代々、同じ家系が、宗主を務めている。

 彼女が頷き、云う。
「それも、内緒だよ」
 彼が訊く。
「じゃあ、君は東一族の高位家系なんだね」
 彼女は、彼を見る。
「全部、内緒だよ」

 彼女は、近くの石に腰掛ける。

 彼は立ったまま、云う。

「内緒なのに、俺には話していいの?」
「そうね」
 彼女が云う。
「あなたには話しちゃった。何でだろう」
 そう、首を傾げる。

 彼が訊く。

「俺とは、はじめて?」
「うん。はじめて会うと思うよ」
 彼女は、再度、彼を見る。
「はじめてじゃなかったら、ごめんなさい」
 彼女が云う。
「あまり村に出たことがないから、人の顔を覚えられなくて」
「そうか」
 彼が云う。
「俺も、君とは、はじめて会うと思う」

 彼女は笑う。

「変な会話」
「そう?」
「うん」
 彼女は笑い続ける。
 彼が云う。
「ねえ。もう少し、訊いてもいい?」
「何を?」
「うーん」
「じゃあ、坐ったら?」
「うん」
「どうぞ」
「ありがとう」

 彼は、近くに腰掛ける。
 空を見上げる。
 青空、だ。

 彼が口を開く。
「君の父親って、宗主?」
「そうよ」
 彼女が云う。
「でも、私が宗主の娘ってことを、知らない人が多いの」
「そう、だろうね……」
「え?」
「いや。……、そう。俺も知らなかったから」
 彼が訊く。
「宗主の名まえは?」

 その問いに、彼女は目を見開く。

「東一族なのに、そんなことも知らないの?」
「……うーん」
 彼は、答えをはぐらかす。

「ねえ」

 彼女が訊く。

「あなたはどのあたりに住んでるの?」
「俺?」

 一瞬、彼は困った顔をする。
 考える。
 一応、答える。

「村の外れ、と云うか」
「今度連れてって!」
 彼女は目を輝かせる。
「村のお家をね、見てみたいの!」
「でも」
 彼が云う。
「村に出たら、父親に怒られるんじゃないの?」
「こっそり行くのよ!」
「こっそり?」
「そう!」
 彼は考える。
「それじゃあ、怒られる覚悟が出来たら連れて行くよ」
「怒られるって、誰に?」
「君の父親」
「私が?」
「お互い」
「大丈夫。大丈夫。絶対に見つからないから!」

 彼女は、指を差し出す。

「何?」
「約束の印」
「約束出来るかな」
「出来る出来る!」

 彼女は笑う。

「ほら! 指を出して」

 彼は、指をつなぐ。

「約束だよ!」



NEXT