TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「タイラとアヤコ」6

2017年06月20日 | T.B.1961年


狩りの帰り道、
水辺の路をアヤコとタイラは歩く。

「暑いな」

雨の多い季節が過ぎて、
木陰でも動く毎に暑さが伝わってくる。

「早く帰って、
 体を洗いたいわ」

アヤコは鼻をひくつかせながら言う。
ただでさえ、狩りで汗をかいていて我慢ならない。

が。

「俺、ちょっと休憩」

タイラはそう言うと
靴を脱いでズボンをめくり、
水際に走る。

座るとちょうど足が浸かる。
そんな良い場所がある。

「もう、先に帰っとくわよ」
「へいへい」
「………」

「あぁあ、もう!!」

大きな水音をたててアヤコも続く。

「えいやっ!!!」
「こらこら、
 女子が簡単に生足を出すものじゃない」
「お母さんか」
「弟だよ」

ふ~、と
暫く二人は息をつく。

「………今日、言い過ぎたよね」

アヤコがぽつりと言う。

「ん?」
「ほら、サエコと、狩りの時」
「んん?」
「狩りの方法でもめたじゃない」
「そうだっけ?」

狩り。今日の。
タイラは記憶を巡らせる。

「そうよ。
 だって、なんか、さぁ」

ああ、と
やっとアヤコが言うことに思い当たる。

「もめたって言うか、
 アヤコ、ちょっとムキになってたよね」

「それよそれ!!
 取り消したい、やり直したい!!」
「いや、狩りの方法で言い合っただけで、
 別に喧嘩した訳じゃないし」
「それでも。
 もう、私すぐかっとなるの直したい」

あうあう、と
アヤコはもだえる。

「サエコみたいに、落ち着いて
 ちゃんと筋の通った話が出来たらいいのに」

こんな私、もうやだ。

そう嘆く隣でタイラは思う。

狩りも無事に終わったし、
多分サエコは気にも止めてない、
むしろ忘れている。
アヤコ一人が気にしているだけだ。

というか、
そんな気遣いを
少しは自分に回して欲しい、と。

「アヤコは色々考えて大変だね」
「大変なのよ!!」

アヤコはこちらが何を言っても
自分で納得がいくまで
考え込むタイプなので放っておこう、と
長年の経験から結論を出す。

「海ってさぁ」

「話変えようとしてる」

バレバレだがばれたか、と
恨めしそうなアヤコの視線を感じながら
タイラは続ける。

「アヤコ、海、見たことある?」
「無いわよ、知ってるでしょう」
「見渡す限り水平線が続くんだと」
「湖とどう違うのかしら?」

「塩辛い水なんだって」

「……むぅ」

あきらめて、アヤコが言う。

「しょっぱい水かぁ。
 そこは泳げるのかしら」
「泳ぐ前提なのか」
「泳ぎは得意よ!!」

この世界では
海一族のみが海に面した土地で暮らしている。

「湖とは全然違うのだって、
 砂浜っていう所があって、
 泳いでいる魚も、色とりどりの物があって」

「そういう話は聞くわね」

なにせ、海一族の土地は遠い。
実際に訪れた事があるという者も
そう多くはない。

行ってみたいわね、と
話すアヤコを見て
少しは気分を切り替えただろうか、と
タイラは一息つく。

いつか叶えばいいけど、
叶わなくても全然構わない、
そう思いながら呟く。

「一生に一度で良いから
 見てみたいよな、海」


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