TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「琴葉と紅葉」15

2017年03月31日 | T.B.2019年

 馬車に乗って、どれくらい経ったのだろう。

 馬車の窓から、わずかな光。
 夜が明けたのだろうか。

 浅く眠りについていた琴葉は、目を覚ます。

 周りを見ると、ほかの人々はまだ眠っている。

 馬車は、揺れている。
 琴葉は、窓から外を見る。

 朝日。

「景色が……」

 違う。

 琴葉は、呟く。

 早朝で、人はまばらだが
 そこにいる人々の顔つきも服装も、西一族とは違う。

 建物も、植樹も

 何もかもが違って見える。

「これが、外の村……」

 琴葉は、ただ驚く。

 もうしばらく馬車は動く。

 琴葉は、自分の荷物を確認する。

 ほかの人々も目を覚まし、降りる支度をはじめる。

 やがて、馬車が止まる。

 琴葉は馬車を降りる。
 訊く。

「ここは、どこの村?」

「どこって、」

 馬車乗りは、馬をなだめながら云う。
「ここは北一族の村だよ」
「北一族……」
「知らずに乗ったのかい?」

 琴葉は答えない。
 馬車乗りは首を傾げる。

「西一族の村に戻るときも、ごひいきに!」

 ゆっくりと歩き出す。

 はじめての景色。
 知らない場所。

 父親はどこにいるのだろう。
 北に、……いるのだろうか。

 琴葉はあてもなく、歩く。

 日が昇り、北一族の市場が動き出す。

「お嬢ちゃん!」
「…………?」
「お嬢ちゃん!」
「……私?」

 琴葉は目を細める。

「怖い顔しないで! 西一族のお嬢ちゃん!」

 市場の北一族は笑う。

「ほら、買ってってよ!」

 そう云いながら、北一族は果物を取り出す。

「おみやげ、おみやげ! ね!」
「おみやげ、て。……私、帰らないし」

 琴葉は、云う。

「ひとつだけもらう」

 お金なら、十分に持ってきた。

 が

 すぐに、父親を見つけられるかは判らない。
 ここで使い切るわけにはいかない。

 琴葉は、果物をひとつだけ受け取ると、歩き出す。

 市場を眺める。

「……すごいな」

 通りすがる人々は、笑顔で琴葉に会釈をする。
 西一族の村ではなかったこと。

 いるのは、北一族ばかりではない。

 はじめて見る、谷一族、南一族。

 そして、

 東一族。

 その黒髪を、琴葉は見る。

 目が合う。

 東一族は、琴葉を見る。

 すぐに、どこかへと行ってしまう。



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