TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「涼と誠治」16

2017年03月24日 | T.B.2019年

 誰もいない部屋に、彼は寝転ぶ。

 目を閉じる。

 外から、声。

 先ほどの担当医ではない。
 村長でもない。

 誰かが、いる。

 それは、おそらく、彼を見張るため。
 彼が家から出ないように。
 村の外へ出て、逃げてしまわないように。

 西一族は

 実力者には、人質が課せられている。
 人質は、主に家族。

 ただ能力がある者はもちろん。
 西一族の機密を知っている者。
 外で動く諜報員も、それに当たる。

 彼らは、離族しないように
 他一族へ、情報を漏らさないように

 見張られ
 人質をとられることとなる。

 けれども、多くの西一族は、このことを知らない。

 彼には、もともと家族がいなかった。
 人質に値する者がいなかった。

 そこで、村長は彼に家族を与え、人質とした。

 彼は目を閉じたまま、外の声を聞く。

 話し声は、ふたり。
 いや、三人。

「あの黒髪は、見張る必要があるのか」
「判らん。そう云う命令だ」
「厄介者は、離族してもらった方がいいだろう」
「それを村長がさせないと云うことは、理由があるんだ」
「ああ。機密を知っているとか」
「もともと、東相手の諜報員にさせられると云う話だ」
「なら、逃がすわけにはいかないな」
「情報をいろいろ知っているんだろう」
「村長も、厄介者を育てたもんだ」
「でも、東相手の諜報員なら」
「相当力を付けさせられたんじゃないか」
「相手は、魔法を使うんだぞ」
「それで、黒髪の見張りに三人も……」
「狩りの時期が落ち着いたら、諜報員として赴くんだろ」
「何をさせられるんだろうな」
「さあ」
「そしたら、帰ってくるのか」
「失敗して、殺されるんじゃないのか」
「ああ」
「村人はそう望んでる」
「黒髪はやっぱり、」
「気持ち悪い、……よな」

「ところで、」

「この家の娘は、どこに行ったんだ?」
「何と云う娘なんだ?」
「ほら。狩りに出られないやつだよ」
「同じ厄介者か!」
「そんなやつが、いったいどこに行くんだ?」
「山、ではないだろう?」
「行くとしたら、南か北か?」
「まだ、はっきりした情報じゃないんだが」
「目撃情報があるのか?」
「北に向かったとか」
「何だ。そこまで判っているなら話は早いな」
「上のやつらが迎えに行くんだろう」
「西に戻って来たら、当分謹慎か」
「下手したら、牢だぞ」
「人質に当たる者は、そうするしかないよな」

「おい、そう云えば」

「入り口はここだけなのか?」
「さあ?」
「裏口も、見張った方がよくないか」
「そうだな」
「俺が回る」
「任せた」
「じゃあ、俺はあの窓のところを」
「頼む」

 外の話し声は、そこで途切れる。

 移動する音。

 外の話し声の者たちはそれぞれの場所に着く。

 けれども、

 彼らは中を確認しなかった。



NEXT
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする