家に戻ると、彼は、中を見渡す。
以前まで暮らしていた村長の家ではない。
ここ最近、暮らしはじめた、別の家。
中には、誰もいない。
彼は、持っていた弓と刀を置く。
近くの椅子に、腰掛ける。
部屋の中を見る。
壁には肖像画。
この家には、もともと4人家族が暮らしていたらしい。
けれども、
ひとりは、病院で寝泊まりし、
ふたりは、西を出て、南で暮らしている。
そして、
残されたひとり。
も、今は見当たらない。
もしかしたら、
そのひとりも、ついに、家を出て行ったのかもしれない。
そう。
彼の結婚相手。
部屋の隅の棚には、見慣れないものが並ぶ。
谷一族の鉱石。
南一族の工芸品。
東一族の刺繍布。
どれも、西一族では見られないもの。
と、
彼は、背中を押さえる。
背中が痛む。
腕も痛む。
昔、誰にだったか。背中に刀を差されたのが原因だった。
神経が効かなくなる位置に、その傷は残っている。
彼は、腕に巻かれた包帯を見る。
怪我の治療用ではない。
完治はしているが、傷痕を隠すために、包帯を巻いている。
その包帯を取り、自身の腕を見る。
そこに、規則的な模様が描かれている。
彼の実の父親が、この模様を描いた。
最初の頃より、ずいぶんと模様は広がっている。
痛みが治まると、彼は再度包帯を巻く。
椅子に坐ったまま、目を閉じる。
しばらく、そうしている。
夜が明け、
彼は、立ち上がり、外の様子を見る。
村は静かだ。
家の扉を見る。
誰もやって来ない。
帰って来ない。
彼は、家の中で待つ。
しばらく食べなくても、何てことはない。
そんな日々を送っていたことがあるから。
彼は、ただ待つ。
日が落ち
また、昇る。
たぶん、何日か経ったのだ。
村が騒がしい。
彼は、相変わらず、椅子に坐ったまま。
家の扉を見る。
そろそろ来る頃だ。
涼は、そう思う。
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