TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「東一族と裏一族」13

2018年09月14日 | T.B.1997年

 佳院を病院に送り届けたあと、

 戒院は外へと出る。
 大きく息を吐く。

 日はずいぶんと高くなっている。
 この時期は、気温も高い。

「川に行くんだった」

 戒院は歩き出す。

 一族の市場を抜け
 田畑を通り

 畦道を歩く。

「戒院」

 すれ違いざまの、声。

 戒院は立ち止まる。
 その方向を見る。

「どこへ?」
「俺?」
「お前以外に誰がいる」

 戒院は一応、辺りを見る。

 自身しかいない。

「俺はいつもの、」
「いつもの?」
「あっちの、」

 戒院は川の方を指差す。

 云い辛い。

 どの一族もそうだろうが、
 真面目に生きる者と、ちょっとふざけて楽しむ者がいる。

 戒院は、どちらかと云うと

 後者で、

「満樹のお父さんはどちらへ?」

 安樹は前者。

「務めだ」
「……ですよね」

「満樹も来るのか?」

「え? 満樹?」

 戒院は首を傾げる。

「まあ、俊樹が連れてくるかと」
「そうか」

 安樹は頷く。

 歩き出す。

 その背中を見て、戒院は再度首を傾げる。
 反対の方向へ、進む。

 畦道を抜け、
 背丈より高く伸びる草をかき分け

「いや、そこ通らなくても、あちらに道があるだろう!」
「近道だったからさ」
「相変わらず戒院はおもしろいな!」

 川に、先に集まっていた者たちが笑う。

 もちろん、見知った顔。

「しかし、ずいぶん暑いな」
「そりゃな」
「そう云う時期だろう」
「残暑?」
「残暑??」
「ちょっとずれていないか?」

 たわいもない会話に、互いに笑う。

 そうしているうちに、また、人が集まる。

「よう、満樹!」
「ああ、うん。……お前は絶対いると思った」

 云われて戒院は満樹の肩を叩く。

「疲れてるな」
「そりゃあ……」
「大丈夫か、川遊び?」

 満樹と俊樹は、夜、砂漠の務めに出ていたのだ。
 砂一族が仕掛けた地点を解除するために。

「砂漠の務め、お疲れな」
「どうも」

 満樹は日陰に坐る。

「どうだった地点?」
「まあ、いつも通り」
「そうか、大変だったな!」

 戒院は再度、満樹の肩を叩く。



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「東一族と裏一族」12

2018年09月07日 | T.B.1997年


「さっきも云っただろう」

 裏一族が云う。

「ほかの同一族が羨ましかろう、って」

 佳院はそのまま。
 裏一族を見る。

「俺の子たちもそうだ」
「…………?」
「他一族の血が混じれば、少なからず容姿は変わってくる」

「……子、たち?」

「一族から、外れにされる可能性が高くなると云うことだ」

「先ほどから、何を云っている……?」

「だから、家族を帰せと云ったんだ」

 佳院は肩を押さえる手に、力を込める。
 額から、汗が流れる。

「まさか、」

「東一族は純血だからな」
 裏一族が云う。
「そもそも、混血は不要だろう?」

「お前、水辺の一族たちに……?」

 その言葉に、裏一族はふっと笑う。

 各一族で理由も判らず失踪する者たち。
 もし
 そのすべてが、何かつながっているとしたら。
 ある程度、その一族の情報を持たせた上で、裏へと連れ込むのなら。

「そうか。満樹はお前の、……」
「うんうん。判ってくれたならそれでいい」

 裏一族は空を見る。

「日が昇るか」

 薄明かり。

「そろそろ、助けが来るんだろ」

 裏一族は手を上げる。

「じゃあな」

 その言葉と同時に、

 姿が消える。

 ただの砂漠。

 佳院しかいない。

 佳院は立ったまま。
 肩を押さえたまま。

 動かない。

 ただ、耐える。

 …………。

「…………」

「…………」

「……おーい」

 佳院ははっとする。

 どれぐらい時間が経ったのか。

「大丈夫か?」

 佳院は肩で息をする。
 目を開く。

 戒院が、顔を覗き込む。

 目が合う。

「意識はあるな」

 戒院は、陣を張る。
 その陣が光る。

「よく耐えたな」

 佳院の肩に刺さる矢には、

「毒だろう?」

 下手に動けば、身体に毒が回る。
 ただじっとすることで、その被害を最小にとどめる。

「今、毒を抜くからな」
 戒院は矢を見る。
「狩猟の毒だな。砂一族性ではなさそう、か」
「西一族性だ」

 佳院が云う。

「西一族が狩りで使う基本的な矢毒」

「なら、話は早い」

 身体を硬直させ、獲物の動きを止める毒。
 放っておけば、身体の機能がすべて止まり、死に至る。

「こればっかりはなー」

 処置をしながら、戒院が云う。

「鍛錬しても、慣れる、のは難しいからな」

 佳院は痛みに顔をゆがめる。

「しっかりしろ」
 戒院が云う。
「毒は抜いたから」

 佳院は、地面に坐り込む。
 感覚を戻そうと、目を閉じる。

「これ、持って行くだろ?」

 戒院は、刺さっていた矢を持つ。



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「東一族と裏一族」11

2018年08月31日 | T.B.1997年


 日が昇り出すころ。

 東一族の村。

 一族唯一の病院。

「おい」
「何だよー」

 呼ばれて、戒院(かいいん)は眠そうな声を返す。

「熱でも出たか?」
「違う」
「なら、もうすぐ務めが明けるからそれからにしてくれよ」

 云いながら、戒院は、部屋へと向く。

「務めだ」
「だから、今、夜通し務め中なんだって」
「外に、だよ」
「…………」
「外に」
「……ん?」
「外に行け」
「外に!?」

 今から!? と、戒院の頭がさえる。
 もう一度、顔を出す。

 病院の入り口に、大樹(だいき)が立っている。

「何? どう云うこと!?」

「務めに失敗した」
「務め?」
「砂漠だ」

 大樹は持っている杖を鳴らす。
 彼は占術師。
 まだ若いながらも、その力で、外での務めを見守っている。

 対して、戒院は医術師。
 見習いとは云え、多くを学び終わっている。

「砂漠でって、砂一族かよ」
「内容までは判らん」
 大樹が云う。
「でも失敗したようだ」

 占術で、すべての情報が入るわけではない。
 何か、そう云うものを感じ取る、と云う。

「砂一族だったら、行きたくな、」
「戒院」
「……誰だよ、その務め」
「佳院だ」
「いや、佳院なら大丈夫だろうが!」
「戒院!」
「……はい」

 戒院は、渋々云う。

「大医師(おおせんせい)に云ってくる……」
「俺が伝えておくから」

 その目は急げと云っている。

 戒院は息を吐く。

「明けの、転送術か……」
「急げ」
「判ったって!」

「戦術師を連れて行くか?」

「いや、本当に、ふたり飛ばすとか無理です」
「大丈夫か?」
「俺ひとりで行ってくるよ」

 戒院は必要な道具を持つ。
 足下を見る。

「ところで相手は?」
「裏一族だろう」
「裏?」
「ほら」

 大樹は、飾りを取り出す。

 ここ最近、北の商人が、東の女性に配っていると云う、飾り。

「北の商人?」
「おそらく裏一族と云うことだ」

 大樹が云う。

「これと同じ痕跡」
「ふーん」
「つまり、これを配っていた者」
「が、砂漠に、ねぇ」

 戒院は首を傾げる。
 その足下が光る。

 瞬間。

 その姿が消える。

 東一族式転送紋章術。

 砂漠へ



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「東一族と裏一族」10

2018年08月24日 | T.B.1997年

「俺の、」

 舞い上がる砂に、佳院は目を細める。

「……俺の、何だ?」

「俺の、家族のようなもんだ」

「……何?」

「家族に会いに来て、何が悪い!」

「――――っっ!」
「放せ!」

 裏一族は、佳院を弾く。
 走る。

 佳院は、足を踏み張る。
 裏から放れたその手で、陣を張る。

 東一族式紋章術。

「行かせない!」
「魔法は苦手なんだよ!」

 裏一族は声を上げる。

「特に、東一族式はな!」

 裏一族の足下の砂が盛り上がる。
 だんだんと、その高さが高くなる。
 裏一族は、それを見上げる。

「壁?」
「砂でも強力だ」
「捕らえる気なんだろ!?」

 裏一族は走る。

「逃がさない」

 その言葉に、裏一族は笑う。

 紋章術で壁となった砂は、形を変え、裏を包もうとする。

 裏一族はそのまま、その壁に走り込む。
 手を差し出す。

「何を!」
「別に」

 目の前を塞ぐ、砂の高い壁。

 が

 突然

 力なく、崩れ落ちる。
 舞い上がる砂。

「紋章術が、」

 もはや、ただの、砂。

「無効化、だよ」

 崩れ落ちた砂が、大きく舞い上がっている。
 視界が奪われる。

「じゃあな」
「待て!」
「東の中に入れてもらおう」

 裏一族は、その姿を砂埃の中へ。

「…………!?」

 と、

 裏一族は、足下の違和感に気付く。

「何だ」
 そこに、
「何だ、これは!!」

 足に絡まる。無数の蛇。

「くっ!」

 振り返り、佳院を見る。

「東の飼い慣らしか」
「飼い慣らしじゃない」
「よく云うことを聞かせている」
「それ以上動くな」

「くそが」

 鼻で笑う。
 が、
 裏一族のその目は笑っていない。

「ここで東宗主の次男とは、外れだったな」
「…………」
「東を守るための道具みたいなもんだって」
「…………」
「そう、聞いたことがある」

 裏一族は、佳院の様子を窺っている。

「一族に相手にされずに」
 佳院は目を細める。
「さぞかし、ほかの東一族が羨ましかろう」
「…………」

「いや、……待て」

「何、」

 裏一族は手を広げてみせる。

「……ちょっと思い出した」
「…………?」

「昔、お前みたいに自分の一族に相手にされなかったやつ」

 お互い構えたまま。

 どちらが先に動くか。

「仕方ない、……出直しだ」
「何を云う」
「お前も動くな!」

 風が動く。

 ――――!!

「っっ!!?」

 佳院は驚く。

 その肩に、矢が刺さっている。

「よしよし。宗主直系でも攻略は出来るな」

 佳院は、立ったまま動かない。
 刺さった矢を見る。

「ほら、放れろ」

 裏一族は、蛇を振り払う。



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「東一族と裏一族」9

2018年08月17日 | T.B.1997年


 砂漠地帯。

 あたりは暗闇。
 急激に気温が下がりだす。

 佳院は耳を澄ます。

 風。

 そして

 何かが近付いてくる、音。

 誰か、人。

「んんん?」

 その誰かが声を出す。

「こんなところに人か?」

「……北の商人」

「ああ、そうだ」

 月明かりの中、その姿が現れる。
 云う通り、北の商人、の格好。

「東一族が砂漠に?」
「この先は東一族の村だ」
「判っているよ」
 北の商人は薄く笑う。
「東一族の村に、商品を売りに来たのだから」

「本当は?」

 佳院が云う。

「東に何をしに?」

「おいおい」

 北の商人は手を上げる。

「商品を売りに来たと云っただろう。それが北一族だ」
「売りに来たと云うか」

 佳院は首を傾げる。

「飾りを配っているんだろう」
「…………」
「そして、……探しているな」
「…………はは、」
「誰を、探している?」

「ぜーんぶ、ばれているんだな」

 その言葉に、佳院は目を細める。

「お前は誰だ?」
「北の商人だよ」
「いや、」
「お前こそ誰だ?」

 北の商人は、一歩前に出る。

「あー……、宗主の直系か」

「…………」

「長男、ではなさそうだな」

「…………」

「なら、」
「動くな、裏一族」

 佳院は云う。

「これ以上は駄目だ」
「何が?」
 裏一族と呼ばれた北の商人が笑う。
「何が駄目なんだ?」
「東一族を連れて行くことは許さない」

「ばかなことを」

 裏一族は、さらに佳院に近付く。

「さあ」

 裏一族は手を差し出す。

「渡してもらおうか」

「…………っっ!!」

 発光。

 衝撃。

 大量の砂。

 何も、

 見えない。

「裏一族っ!!」
「面倒くさいな、東一族は!!」

 裏一族が動く。

 が

 佳院は、その腕を掴む。

「何がいけない!」
「動くな、裏!!」

「あいつは俺の、」



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