TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「『成院』と『戒院』」9

2020年03月10日 | T.B.2010年

この場合。
占術が当たって砂一族と出会ったのか
占術に導かれて出てきたから
砂一族と鉢合わせてしまったのか。

「卵と鶏どっちが先か、みたいな」

『成院』は構える。

「すまん、俺はあまり役に立たん」

大樹が謝りながらも
杖を握る。

皆、若い頃は砂漠の当番として
前線には出るが
大樹はその時から占術師を主としていて
戦いの経験は少ない。

「ああ。二人ぐらいならどうにか」

どうにか、なるだろうか。
『成院』は唾を飲み込む。

大丈夫だと思っているのだ大樹は。

もう最盛期では無いにしろ、
成院は大将候補と言われた戦術師だった。

戒院は医術師だが、
全く前線に出ていないと言うわけではない。
門番もしたことがある。

大丈夫。
周りのことはよく見えている方だ。

思い出せ、あの時も
やりこなせていたじゃないか。

『成院』は砂一族の攻撃を避けながら
懐に潜り込む。

「はっ!!」

腕を掴み、
突き飛ばす様に投げる。

「わわっ」

女の方は軽いため投げ飛ばせたが
男の方は強く体当たりした形になり
上手くいかない。

ば、とすぐに距離を取る。

「ほらほら!!」

相手の攻撃が
すぐに来る。

砂一族で怖いのは、
刀剣よりも、毒。
刃先がかするだけでもどうなるのか。

投げた砂一族もすぐに駆け寄り
応戦する。

2人で1人を相手にして
攻撃を避けつつ
常に走り回る形となる。

「足、つりそう!!」

「反応が鈍くなっているよ」
「………くっ!!」

「やっぱり、医者と占い師じゃあ
 こんなもんだろうな!!」

楽勝だと砂一族が笑う。

「成院!?」

どうしたんだ、と言わんばかりの
大樹の声が聞こえる。

あぁ、そうだな。
2人を押さえることも出来ただろう。
成院、だったのならば。

先ほどの戦い方だって
力と技がある。
成院だったら出来た事。

自分は、戒院は、
どうやって戦っていた?

「……………!!」

ふ、と『成院』の周りに紋章が浮かび上がる。

「紋章術!?」

ええっと、と
『成院』は思考を巡らせる。

成院は紋章術を使いながら戦っていた。
本当に限られた時だったが。

だから大丈夫。
おかしな事では無い。

「ぐっ」

紋章術を受けた砂一族が倒れ込む。
と、その足元に別の術が浮かび
砂一族は動けなくなる。

これは、大樹の術。

「こちらは、任せろ」

ああ、と『成院』は頷く。

「次っ!!」


NEXT

「『成院』と『戒院』」8

2020年03月03日 | T.B.2010年

追い返されると思ったが
大樹はついてくる『成院』に何も言わない。

やはり何かあったら、と
思う所もあるのだろう。

大樹は村の端にある門を抜ける。
その日の門番が何事か、と
二人を見るが
すぐ戻る、と『成院』は声を掛ける。

「あまり遠くに行くなよ」
「分かっている」

「………」
「………」

「そう言えば」

突然立ち止まり、ぽつりと大樹は語る。

「お前の事を占ったことがあるんだが」
「俺!?」

いや、怖い事するな、と
そういう目線を大樹に向ける。

「お前、南一族の村に行ったことはあるか?」
「南一族の村?
 もう随分幼い時だな、それ以来は無い」

どちらかと言えば、
華やかな北一族の村、と言いかけて
それは戒院の事だったと
思わず口をつぐむ。

「穏やかな所だと言うが、
 そうだな、医師の仕事が一段落しないと」

なかなか、長く村を開けるわけにも行かない。

「特に用事が無いのなら
 行かない方が良い」
「そうなのか?」
「このまま、この暮らしを続けたいのなら
 そうしろ」
「なんだそれ、怖いな」

南一族の村で事故にでも遭うのだろうか。
占術師の占いは
どこまで見渡せているのか分からない。

「ただ、そう言う結果が出ただけだ。
 詳しくは分からん」

そう言って大樹は深いため息を付く。

「まあ、俺の占いが合っていれば、だが」

「面倒くさいぞ大樹」

というか、随分村境から離れて歩いて来てしまった。
そろそろ戻らないと次の予定もある。

「大樹戻ろう、随分歩いて来てしまった」
「そうだな。
 やはり、何も無かったか」

大樹は肩を落とす。

「ああうんそれは」
「いいんだ。
 何も無いなら何よりだからな」

「それにこのまま行くと
 成院が南一族の村に辿り着いてしまう」
「ああ、こっちの方角は
 俺にとっても良くないんだったな」

と、二人は元来た道を振り返る。

「はは」
「…………うん?」

人が立っている。
旅人らしいマントを深く被り、
どこの一族の者かは分からない。

「こんにちは」

その声や、僅かに見える口元から
何となく女性だろうか、と。

「ああ、こんにちは」

東一族式の礼をした大樹の後ろで
『成院』は考える。

先程までは何も無かった。
今まで歩いて来た道。
誰かが後ろを歩いてきた、と
そういう気配も無かった。

「放っておこうかとも
 思ったのだけれど」
「……何を?」

「大樹!!」

『成院』は大樹の首根っこを掴み
後ろに引きずる。

「成院、何」

今まで大樹が居た所を
刃先が掠めていく。

「な!!え!!?」

後ろから、また別の声。

「身なりからして、占術師と医師かな?
 そのまま見過ごしても良かったが」

今度は男の声。
もう一人居る。

「今、大樹と言ったか?
 成院と言ったか!?」

「聞き間違いじゃなければ
 占術大師と医術大師だな」
「違うわよ、次期」
「どちらだって良いさ。
 要するに重役って事だろう」

「砂一族」
「何でこんな所に」

ここは南一族の村へと続く道。
砂一族の砦から
砂漠を下り、あえて遠回りしなくては
来る事が出来ない。

「なんでと思うだろう?
 驚いてくれたなら甲斐があるってもんだ」

「いや、意表を突いてみようかとね」

「こんな砂漠の下を回り、
 遠回りしてこちら側から攻め込むなんて
 まぁ、そう考えないだろうと」

「考えても、守りは薄いだろうと」

「薄いと言っても」

舐めてくれるな、と『成院』は言う。

「二人ぐらいは
 どうにか出来るよう門番も鍛えてある」

そうでなけれは、番の意味がない。

「俺たちもそう簡単に
 攻め入れるとは思っていないさ」
「ちょっと混乱させられたら
 いいなぁぐらいの話だったんだけど」

「ああ、ついて居るわ私達。
 今、こんな所に
 2人ノコノコと出てきてくれるなんて」

「大樹」

『成院』は頭を抱える。

「良かったな。
 お前の占術は外れていなかったぞ」
「………ああ」
「俺の凶方ってのも、これか。
 南一族の村ではなく、
 南一族側の方向って事か」

「悪かったって!!本当すまん!!」


NEXT

「『成院』と『戒院』」7

2020年02月25日 | T.B.2010年
往診を終え、病院に戻っていた『成院』は
ふと佇んでいる大樹を見つける。

「大樹」

声を掛けるも、距離もあるからか
大樹は顔を上げない。

「「?」」

荷物を持つのを手伝ってくれていた
往診先の家の子と
ふと顔を見合わせる。

「どうしたんだろう?」
「うん」

『成院』はその子から荷物を受け取る。

「ここまでで大丈夫だ。
 もう戻って良いぞ」
「ありがとうございます」
「次は翌月に。
 もし調子が悪くなったらその時はすぐ呼んでくれ」
「はい」

じゃあ、と『成院』はその子に手を振る。

「お大事に」

彼の姿が見えなくなってから
やれやれ、と『成院』はため息を付く。

「大樹、
 どうしたんだこんな所で」

『成院』が、近くに行って話しかけて
やっと大樹は顔を上げる。

「成院か、驚かせないでくれ」
「何かあったのか?」
「……なんでもない」
「そうか?」

いや、と大樹の歯切れは悪い。

どうせ晴子を経由して
何か伝わるかも知れない、と
諦めたのか渋々語り始める。

彼ら占術師は
村の今後を占っていく。
村人の将来から砂一族の襲撃まで全て。

「先日から、俺の占術だけが
 違う結果を出す」
「違う、とは」
「こちらの方角が良くない、と
 そういう占術だ」

良くない物、とは
ほとんどが砂一族の事を示す。

それを元に
戦術大師が砂漠の見張りを配置する。

「何か別の事なんじゃないか?」
「最初はそう考えていたが」

「皆が左と結果を出す中
 俺の占術だけ右を示す」

そういう事が続く、と
大樹はため息を付く。

「占術の腕が落ちているのかも」
「いや、深く考えるな」
「考えるさ。
 新米の占術師ならば結果は捨て置けるが
 俺が出した結果となれば大将も考える」

人手をそちらにも割かなければならない。

「そして、もちろん
 俺の示した方角には何も起こらない」

「大樹、占術はあくまで指針だ。
 決めているのは大将だろう」
「そう言う日もあるで済めばよいさ。
 連日続いてみろ」

はー、と深くため息を付いて
大樹は胃の辺りを押さえる。

元々神経質な所がある彼だ。
考え込むほど
悪循環に陥っているのかも知れない。

「今日、俺は非番なんだが」

つ、と持っていた杖で
村の入り口を指し示す。

南一族へと続く道に繋がる
村の端。

「今日はこちらと結果が出た」

「非番にも占術をしているのか」

気に病むだけだぞ、と
『成院』は言うが大樹は首を振る。

「何か原因があるのかも知れない。
 それが分かればすっきりする」
「そうか?」

思い詰めた顔をしながら
進む大樹に『成院』は声を掛ける。

「そういう結果なら
 誰か人を付けた方が」
「無駄に人を動かすわけには
 いかないだろう」
「おいおい」

往診が早く終わったので
まだ次の予定には時間がある。

仕方無い、と
『成院』は大樹の後を追う。


NEXT

「『成院』と『戒院』」6

2020年02月18日 | T.B.2010年
夜勤明けの騒動から病院に戻り、
引き継ぎを終わらせて昼を少し回った頃。

やっと『成院』は家に辿り着く。

「おかえりなさい。
 今日は遅かったのね」

晴子が出迎える。

荷物を置いて、まずは座る。

「………ね、眠い」
「ご飯どうする?」
「あー、うん。
 何かスープだけ」

はあい、と晴子は鍋を温め始める。

「おとうさんおかえり」
「ただいま、未央子」

伏せていた顔を上げ、
『成院』は未央子を抱き上げる。

「ご飯は食べたのか」
「ううん。
 もうすぐ帰ってくるかなって
 お母さんと待ってた」

「そうか、
 それじゃあ一緒に食べようか」

それから
少し遅い昼食を三人で囲む。

「明日は?」
「公休だから、休めるはずだ」

今日のような急な呼び出しが無ければ。

「それじゃあ、ゆっくりする?」

「未央子、どこか出掛けるか」
「やった」

軽い昼食を終えて、
『成院』は寝室へと向かう。

夜勤で夜通し起きていて、
それは慣れて居るが、そのまま今の時間。

「もう、昔ほど保たないな」

以前は徹夜が数日続いても平気だったのに。
10代の頃とは違うな、と布団に潜り込む。

昼間なので扉を閉めても明るいこの部屋で
布団を頭まで被り横になっていると
疲れもあってか、次第に眠気が襲ってくる。

晴子が食器を洗う物音、
未央子が家の中をトコトコと駆ける音。

「未央子、
 お父さんが寝ているから
 静かにね」
「はぁい」

そうやって2人が静かに笑う声。

別に気にしなくても
良いのだけどと思いながら
意識は次第にまどろんで行く。

『成院』として晴子と付き合うようになり、
最初の頃は自分に、カイ、と呼びかけて、
成院と言い直す事もあった。

ごめんなさいと、謝る事を
『成院』は止めた。

混乱させているのは自分だ。
それに、
まだ戒院だった自分を忘れないでいてくれるのが少しだけ嬉しかった。

いや、本当はとても。

「俺の事はセイとは呼ばないのか?」

ふと晴子に問いかけた事があった。

戒院を、カイと呼んだ様に。

「うーん、なんだかね、
 それは違う様な気がして」

戒院として
ここに居る事が出来れば、と
思う事もあったけれど

今は、このまま、
この生活がずっと続く様に。

それとも、いつか、
晴子に全て明かす日がくるのだろうか、

その時は。

……………。

………………。

…………………院。

「成院!!」

晴子の声で目を覚ます。

「成院!!ねぇ、しっかり!!」

「え?」

心配そうに自分を覗き込む晴子。

「うなされていたわよ」
「………俺が?」
「ええ、汗もかいて」

拭く物持ってくるわね、と
晴子が席を外す。

「………」

は、と短く息を吐く。

まだ明るい時間。
ほんの僅かしか眠っていないだろう。
変な時間に眠ったからだろうか。

あんなに良い気分で眠りについたのに
今は胸を押しつぶされているような。

「なん、だっけ?」

何か夢を見たような。


NEXT

「『成院』と『戒院』」5

2020年02月11日 | T.B.2010年
「最近、多いですよね」

宗主の屋敷からの帰り道
裕樹が呟く。

砂一族の襲撃の事かと
『成院』は頷く。

「そうだな、
 大事には至っていないが」

「………俺は」

裕樹は言う。

「もっとこちらからも
 打って出るべきだと思う」
「東一族から襲撃を仕掛ける、と?」
「はい」

たまりかねたのか
裕樹が言う。

「無駄な犠牲を出すだけだと
 思っていますか?」

「どう動くかは大将が決める。
 すべて考えて進めている事だ」

「でも、やられっぱなしじゃないか」
「そうではないと思うが」
「こちらは犠牲が出てばかりだ。
 俺達の様に砂漠に出ているならともかく」

「裕樹」

「先生は自分の家族に手を出されても
 黙って見ていろと言うんですか」

「裕樹!」

『成院』は裕樹の肩を叩く。

「裕樹、それなら
 戦術師に戻るか?」

あ、と
裕樹は口ごもる。

頭に昇った熱が
少し冷めたのだろう。
彼は、他の東一族よりも強く
砂一族を嫌っている所がある。

「すみません、でした」

「家族の事だからな。
 裕樹の考えはそれで大事だと思う」

「はい」

『成院』と同じで
戦術師から医術師になった裕樹は
彼なりの事情がある。

「でも、先生も気をつけて」
「ああ」

「家族ぐらいは
 自分で守らないとな」

「あ、それもですけど」
「けど?」
「先生自身も気をつけて」
「………俺?」

「先日兄さん言ってたでしょう」

水樹の言葉では無いけれど、と
裕樹は言う。

「今、砂一族が狙ってくるのなら
 次期大師だって」


NEXT