TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「『成院』と『戒院』」4

2020年02月04日 | T.B.2010年

宗主の屋敷に呼ばれて
『成院』は出掛ける。

「こっちは夜勤明けだぞ」

敵対する砂一族と
ちょっとした小競り合いがあった。
戻ってきた者達の手当にあたる。

幸いにも酷い怪我の者は居ない。
連れてきた裕樹と共に
怪我をした者の毒抜きをする。

毒を使う砂一族は
僅かな傷でも
それに気をつけなくてはいけない。

「成院」

声を掛けられて、ああ、と手を上げる。

「俊樹」

今回指揮を取っていたのは彼だ。
一段落していたので
『成院』も手を止める。

「いつもの事だが」

『成院』は言う。

「大きな怪我人が居なくて何よりだ」
「夜勤明けは不機嫌な医師(せんせい)も居るからな」
「冗談を。
 俊樹の指揮が良かったんだろう」
「お前が前線に居たとき程じゃないよ」

歳の近い二人は
屋敷の廊下で立ち話をする。

「………ん?」

庭を挟んだ向こうの廊下を誰かが通っていく。
当代の戦術大師。

「………」
「………」

『成院』と一瞬目が合うが、
そのままどこかへと行ってしまう。

「佳院はまだ前線に出ているのか」
「ああ」

「仕方が無い。
 ここじゃあ、大将が一番の実力者だ」

本来であれば、
一番後ろで指示を出すべきの立ち位置。
彼が倒れては意味がない。

「早く後ろに引っ込めと言っておけ」
「俺が言えるかよ。
 お前が言えよ、親戚だろ」
「いや、俊樹が言えよ。
 部下だろ」

「もしも、があっては遅いぞ」

そうさなぁ、と
俊樹は答える。

「もう少し自分の立場を考えて欲しいんだが」
「まったくだ」

「先生」

裕樹が『成院』の元にやって来る。

「処置は終わりました」
「ああ」

『成院』も辺りを見回し、それを確認する。

「それなら俺達の仕事はおわりだ。
 戻るぞ」

荷物をまとめる『成院』に
俊樹は声を掛ける。

「それじゃあ、またな。
 今度は酒でも飲もうぜ」

ああ、と『成院』も答える。


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「『成院』と『戒院』」3

2020年01月28日 | T.B.2010年
「よーう裕樹、元気!!?」

どーん、と水樹が診察室に入ってくる。

「兄さん、声大きい!!」

病院なんだからさ、と
裕樹が慌てる。
実の兄弟ではなく、年上の者をそう呼ぶ習慣で
裕樹は水樹を兄さんと呼ぶ。

「大丈夫、ここまでの道のりは
 俺静かにしていた」

が、ハッと水樹は閃く。

「裕樹元気、って
 なんか響き良くない!!?」
「いや、それ言うと
 東一族の男ほとんど当てはまるし」

大体みんな名前に樹が入っている。

「成先生は残念だったな」

樹、付かないメンバー。

「いや、『院』付く方が
 残念って兄さん」

何言ってるのこの人、と
裕樹が呆れる。
『院』は宗主に連なる者しか名乗れない名。

『成院』の祖父は
先代の宗主の兄弟。
宗主ではないが、その血筋の家柄。

「先生」

ちらりと、裕樹は『成院』を見る。

「うん、水樹」

『成院』は笑顔で言う。

「とりあえず、怪我した腕を出せ!!」

「ああ、本当だ
 兄さん怪我してるんじゃんか」

言われて見てみると、
出血は少ないが、左腕が紫になっている。
打ち身と言うよりは、

「毒針、か」

『成院』は毒抜きの準備をする。

「兄さん毒を受けたら
 あまり動き回らないでよ」

その補佐をしながら裕樹が言う。

あと、もっと怪我したーって感じを
出しながら来て欲しい。

「最近、
 砂一族の様子はどうだ?」

『成院』が問いかける。

「うーん、いつも通りっちゃ
 いつも通りだな」

長く敵対している、
砂漠を挟んだ向こうの一族。

「何か、大きな事を企んでいるって
 訳でも無いと思うけれど」
「けれど?」
「………うーん、何というか」
「言ってみろ」

「お前が砂一族だったら、どうする?」

「んー、
 そもそも根本的な考え方が違うから
 なんとも、だけど」

水樹は『成院』を見て答える。

「次代の大師は潰す」

医術大師の次代と言われている『成院』
占術大師、戦術大師、各々の次代。

「まず現大師より守りも薄いだろ、
 それに次代を潰しておけば
 今は大変でも、後が楽になる」
「そうだな」
「足元が崩れたら、
 残すは宗主だ」

「うん」

そうだ、と『成院』は頷く。

「そう簡単には崩させないけれどな」
「まあね」

「兄さん、それ、人前で言わない方が」
「やっぱり!?」
「ああ、だが佳院――っと
 大将には言っておけ」

分かってはいるだろうが、と
『成院』は言う。

水樹は直感的に動く所があるので
大勢に指揮を出すのは難しいだろうが、
何より勘が良い。

今は難しいかもしれないが
いずれはもしや、と
『成院』は思う。

「あ!!」

水樹が何か思い出した様に言う。

「他に何か思い当たることがあるのか?」
「いや」

水樹は言う。
凄いことを、閃いた、とばかりに。

「成院病院って響き良いなって!!!」

「「………」」

「兄さん、そんなんだから、
 いつまで経っても、さぁ」
「なんだよ、
 お前の所のちびっ子、
 大きくなったか?何歳だ?」

誕生日祝いの品を届けるぞ、と
声の大きな水樹に、
うーん、と『成院』はため息をつく。

いずれは
結構なかなか先かもしれない。

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「『成院』と『戒院』」2

2020年01月21日 | T.B.2010年
「成院」

『成院』は大樹に呼び止められる。

「なんだ、義兄さん」

「少し良いか?
 というか、その呼び方は止めてくれ」
「だが、大樹は晴子の兄だし」

妻の夫で、義兄さん。

「聞こえは同じなのだから、
 兄さんと呼ばれていると思えば」

村では実際の兄妹姉妹に関係無く
年上の者を『兄さん』『姉さん』と呼ぶ。

「お前の場合、
 それがしっくり来ないから言っているんだ」

「ははは、
 それならば、なんだ、大樹」

「病院の人では足りているか?」
「なんとか、な」
「裕樹はどうだ」
「裕樹?
 あぁ、飲み込みも早いし、やる気もある。
 よい医師になるんじゃないか」

医師見習いの青年。
教え甲斐がある、と
『成院』は答える。

それに、

「元々戦術師だから、
 現場で動けるタイプの医術師になるだろうな」
「………」
「心強いだろう」

「確かに」

大樹は言う。

「お前と同じだな、成院」

その言葉に、
二人は歩みを止める。

「何が言いたい。
 ………何を言いに来たんだ大樹」

「先日、
 次代大師の話が出た」

自分が先に退室したあの時か、と
『成院』はため息をつく。

「次代と言っても、
 明日明後日の話しではないのだろう」

焦るなよ、と。

「だが、急ごしらえで据える訳にはいかない。
 跡を継ぐべき者は、
 学ぶべき事、知るべき事が多くある」
「うん、俺もそのつもりで居るよ」

お互い大変だな、と
大樹の肩を叩く。

大樹は占術の腕が高い、
次代は彼で間違い無いだろう。

「まあ、大医師からはしてみれば
 俺はまだまだだ、
 代替わりの道は長いだろうが」
「戻る気は無いのか?」
「戻る?」

「次代の戦術大師は、
 お前と言われていたじゃないか」

ああ、そうだ、と
『成院』は頷く。

「でも、それは昔の話しだ」

「いつまでも佳院に
 大将をさせるわけにも行かない」
「次代宗主様だからな」

けれど、と『成院』は断る。

「体裁が付かないのは分かるが、
 こればかりは、すまない」

成院、と大樹の声が大きくなる。

「戒院の意志を継ぎたいのは分かる。
 お前は充分やっている、けれど!!」

「………その話は止めてくれ」

『成院』は大樹の話しを遮る。

「なあ、大樹。
 お前の占術で俺が大将になると出ているのか」

違うだろう、と。

「………ああ」

大樹は頷く。
候補の者は居ない。
そう出ているから焦っている。

「気を害することを言ったな、
 悪かった」

「いや、大樹が村の将来を心配しているのは分かっている。
 ………俺達の代で居ないのならば
 次の代を早めに育てるしかないだろう」
「そうだな」
「急にどうしたんだ」
「いや、俺も焦ってしまったんだ」
「冷静な大樹が珍しい」

「………」

大樹はじっと、遠くを見る。

「ちょっと、案として、な」
「ああ」
「水樹はどうかって」

『成院』は大樹の弟を思い浮かべ、
あ~、と大樹と同じく遠くを見つめる。

「俺も、それはちょっとどうかな、って思う」
「だろ!!!!!」


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「『成院』と『戒院』」1

2020年01月14日 | T.B.2010年
「よし」

陸院は未央子を指差して言う。

「みおこ、俺のけらいな」

えー、と未央子は言う。

「なんで私が陸院のけらいなのよ」

言われた陸院は胸を張る。

「だって、俺。
 宗主の息子だぞ」
「だからなんだってのよ」
「えらいんだぞ」
「えらいのは陸院のお父さんでしょう」

分かってないな、と
陸院は言う。

「父さんがえらいってことは
 俺もえらいって事だよ」

なんたって、陸『院』だしな、と
胸を張る。

「それなら、
うちのお父さんも『院』だよ」

「ちがう、未央子の父さんは院だけど
 ギリギリ、院だからちがう」
「ちがわないわよ」
「いいから、けらいになれよ」

陸院はふんふん、と地団駄を踏む。

「いやよ。
 どうぜ言うこときけとか
 ムリばっかり言うんでしょう」

「うちのごはんはおいしいぞ」
「お母さんのごはんだって
 おいしいもん」

二人のやりとりを見ていた辰樹は
ピン、と来る。

「これ、ごはんにさそってるやつだな」

はいはーい、と
手を上げて言う。

「陸院、俺もいく」
「おまえはいいよ、こなくて!!」

「未央子」

ふ、と現れた大きな手が
未央子の腕を引く。

「待たせたな、帰るぞ」

未央子は『成院』を見上げて言う。

「お父さん、おかえりー」
「良い子に待っていたか?」
「うん!!」

よし、と『成院』は未央子を抱える。

「辰樹はどうする?」
「俺の父さんは?」
「お前の父親はまだ宗主様とお話し中だ」

えーっと、それじゃあ、と
辰樹は陸院を見る。

「ごはん?」
「やらん!!」

残念、と辰樹は首を振る。

「じゃあ、俺もかえる」
「よし、来い」

反対の空いた手で、
辰樹の手を引き、『成院』は屋敷を後にする。

「それじゃあ、陸院様」

去り際に頭を下げる『成院』に
ふん、と陸院はふてくされる。

「ねぇねぇ、お父さん」

未央子は『成院』に問いかける。

「宗主様と何のおはなししてたの?」
「村の事やみんなの事を決めたりしていたんだ」
「そうなのかー」

ふうん、と分かっていないだろうけど
分かったわ、と未央子は頷く。

「で、俺の父さんは
 いのこりなのか」

居残りって言葉よく知っていたな、と
『成院』は答える。

「お前の父さんは占術師だから、
 これからもっと込み入った話だ」
「こみいるのか」

「お父さんは、
 こみいった話しにはいなくて良いの」

まだ待てるよ、という未央子に
『成院』は首を振る。

「俺は、ただの医者だからな、
 戦術の話しはできないのさ」



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