● バレンタイン戦車の転輪(スローモーション・サスペンション)
バレンタイン歩兵戦車は第二次大戦中に製造されたイギリスの戦車です。
戦車としての出自が独特である上にそのサスペンションも特質すべき特長を持っています。
ドイツからの宣戦布告により急ぎ生産に間に合わせるため、巡航戦車A9とA10の走行系
をほぼそのまま流用し、搭載火器も低威力の砲に妥協していました。
装甲板こそ全周囲60mmと厚かったものの車体は極力小さく設計され、乗員も3名と
軽戦車並みの装備(車体銃なし)からスタートし、逐次改良を加えつつ終戦まで使われ続け
ます。この戦車の供与を受けたソビエトでは機械的信頼性の高さと走行性能の高さから
重宝されましたが、それはイギリスが高い工業製品の精度を持った先進国であった為です。
バレンタイン戦車は一見すると直径の違う二種類の転輪が組み合わされていて変わった
印象を受けますが、最前輪と最後輪がダメージを受けやすい戦車サスペンションに対する
ひとつの回答といえます。この大きな転輪は誘導輪にも使われていて、走行中の振動は
よくセーブされているようです。
● スローモーション・サスペンションの動き
実際には緩衝バネとダンパーがセットされていますが、分かりやすくする為にオミット
してあります。
中央の赤い円が車体への取り付け軸なります。黄色の円が前方の大きい転輪の軸、緑の円が
二輪ボギーの真ん中の取り付け軸です。
この三つの軸の取り付け位置の比率が2:1になっているところが、スローモーション・
サスペンションの特徴です。
まず前方の大きい転輪が起伏に差し掛かると、アームは緑の軸が支点となったテコの原理
によって車体を1/3aの高さだけ待ちあげます。
次に二輪ボギーのどちらかが起伏に差し掛かると、片輪の軸が支点、片方が力点になり
真ん中の軸は1/2aの高さ持ち上がります。この軸はアームの後端に接続していて、車体の
軸はその高さの2/3の高さだけ持ち上がります。つまり車体の軸は1/2aの2/3となった
1/3aの高さだけ上昇するのです。
スローモーション・サスペンションはテコとリンクでどの車輪も起伏の高さを1/3にして
車体に伝える働きがあるのです。
このサスペンションは戦車のサスペンションとしてはバレンタインだけのものですが、
最近になってNASAの火星探査車にリバイバルしました。これはプラットフォームの
傾きを機械式に抑制するためではないかと思うのですが、詳しい背景はわかりません。
● イギリスの戦車サスペンション開発について
いわゆるボギー式のサスペンションを最初に開発したのが、戦車先進国であるイギリス
ではないかと考えています。まだ資料によって裏づけを取ったわけではありませんが、
ホルストマン・サスペンションと呼ばれる方式がカーデンロイド・ガンキャリアーに搭載
され、以後多くの戦車に踏襲されたことを考えると、イギリスが発祥ではないかと思える
のです。
これを開発したのがサー・ジョン・カーデンという技師なのだそうです。兵器とは畑
違いの彼が如何にしてその開発に携わったかはまだわかりませんが、これらの戦車の
リンク式サスペンションの一つの到達点が、スローモーション・サスペンションだと言え
るでしょう。
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さて、今年も後一週間ほどとなり来年の予定などを考える時期となりました。
とりあえず今日はこの後ケーキを作ってクリスマスの晩餐といたします。
振り返ると今年一年は同人誌を作る事と仕事探しに明け暮れてしまった感じです。
同人漫画のネタは過去のストックからいくつかを使ったのですが、さすがに10年
20年前のネタだと古さはぬぐえず、他人とのバッティングも生じたようです。
しかし、別の考え方をすれば私の過去の情報をこっそり使って私に成りすましても、
このような形で露呈してしまうわけで、後々のことを考えれば割りの会わない破局に至る
と言う事が彼らにも分かったと思います。
おそらく私に成りすましている人は、それによって周囲の人も騙しているので不必要な
あつれきを常に抱えているはずです。自分で自分の道を開けず、受動的に真似をするネタ
を待っているのは気の毒には感じますが。
来年はそういう下らないおかしな因縁とは無縁に、自分の為の同人誌を作りたいです。
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